ファイアーエムブレム 紺碧のコントレイルⅢ   作:宵星アキ

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ロイからデートに誘ってもらえた♪
二人っきりでオスティアなんて夢みたい……──って思ってたのに!!


許すまじ、しゃべる石ころ!!

 朝起きたら、やっぱり右肩がジンジンする。入念にストレッチをしたつもりだったが、足らなかったか。

 無理もない、あんなに投槍を放らされたのはベルン動乱以降で記憶にない。

 

「あ゙っ?! イテテテ……」

 

 いつも通り朝陽に向かって伸びをしたらビキッときて、堪らず身をよじり声が飛び出る。

 

「あう~、人気者はツライなぁ」

 

 自分で言っておいて、何だかガッカリきた。

 肩を擦りながら騎士団へ向かう。

 ずいぶんな目に遭ったが、おかげでアレンやランス以外の騎士とも仲良くなれたのでヨシとしよう。新参者へのシゴキはアレンの名物らしい。

 

「おはよーございまっす!」

 

 騎士団に顔を出すと、仲良くなった人たちが手を挙げている。

 それにつられて、つい元気に挨拶してしまったのが間違いだった。待っていたかのように、にこやかな赤髪の騎士が手を振ってやってくる。

 

(うはぁ……イヤーな予感!)

「よしっ、今日こそは見せてもらうぞ! 天馬騎士の剣、颯閃一刀流とやら!」

 

 朝っぱらからこれだ。

 昨日は城へ逃げこんだ後は、見回りと言ってそのまま窓から脱出したが、今日も朝から捕まってしまった。

 アレンは腰にさした太刀を指さして、気合の入った顔をしている。

 

(トホホ……ソルバーンさんみたいなのって、どこにでもいるの??)

 

 嫌でも、あの魔人の顔が脳裏をかすめる。

 どうして自分の周りには、こうも戦闘狂が集まってくるのだろう。

 あれだけ投槍を浴びせ、こっちは朝から肩が痛いのに、アレンはまるでなんとも無くツルっとした顔。

 剣を抜く前から、敗北感がもう顔までせりあがって沈みそう。彼の言うとおりで悔しいが、自身のスタミナ不足を思い知らされた。

 でも、元はと言えば仲間たちが煽るから悪いに決まっている。

 

「リーダー、よかったね。すぐ打ち解けられて」

 

 今日も同じ感じでルシャナがニコニコしてくる。火がつく前に慌てて口を塞ぐ。

 

「ルシャナ! 責任取ってよ、責任!」

 

 火の玉を浴びせても、ルシャナはニヤニヤを止めなかった。

 

「え? なにそれ。あんた、楽しそうでなによりじゃん」

「ぜんっぜん楽しくないし!」

「なに、稽古が楽しくないだと? それは良くないな。ちょっとメニューを変えるか」

 

 ルシャナに絡めとられていたら、アレンが妙な混ざり方をしてきて変な方向に行きかける。

 軌道修正しないとマズい。方向もなにも、アレンに付き合った時点でシゴキが待っている。

 

「シャニー、お客さんが来ている。早く行ってあげろ」

 

 今日は救世主の到着が早くて心の中できゃんと手を結ぶ。

 後ろから聞こえてきたのはランスの声だ。彼を見つけた戦闘狂が、勢いを止めている今がチャンス。

 

「はーい! というわけで、アレンさん、またね!」

 

 大げさにアレンへ手を振り、両手をぶんぶん振って走りだす。

 アレンの気配が遠くなり、後ろからついてくるランスを待つ間に、ふと疑問が湧いてきた。

 

(あたしに? あっ、もしかして連絡所関係かな?!)

 

 そう言えばすっかり連絡所のことを忘れていた。

 きっと皆もそうだ。ルシャナは絡んでくるし、向こうではミリアとレンがランスに視線を注ぎ、嬉しそうにひそひそしている。

 誰もきっと、頭にない。連絡所の登録はまだオスティアのまま。

 

「ねえねえランスさん、名前とか聞いてる?」

 

 行けば分かると思っても、どうしても聞いてみたくなる。

 連絡所を空けているからと言って、立ち寄った人がフェレまで来るとも思えない。誰にも、ここにいるとは知らせていないはず。

 

「天馬騎士団の者だと名乗っていたが」

 

 それでも、ランスが口にした言葉にぎょっと背筋が伸びる。

 もしかして、契約のことでイリアから誰か来たのだろうか。もしそうだとしたら、戦うことになるかもしれない。

 パンパンと顔を両手で叩き、部隊長の顔を作ると正門へと向かう。

 

 腰に手を当てて立っている人物を門の外に見つけ、思わず目をゴシゴシした。

 どうやら、イリアからの使者ではなさそう。何度も目をこすり、そのたび一層はっきりする輪郭は自分の目が正しいことを伝えてきて、無意識に駆け出していた。

 

「あ! やっぱりユキさん?!」

「ようっ」

 

 手を振ってくるユキのもとまで駆け寄って、そのまま手を取る。

 後ろにいる天馬を見ると荷物がいっぱいだ。任務が終わったから、イリアに帰るつもりなのだろうか。

 ユキはシャニーの顔を一目見てふっと笑い、嬉しそうに話しだした。

 

「家が決まったから、連絡をと思ってな」

 

 短い間だったが随分と世話になった……そう口にしかけたところに、ポンと紙を手渡された。

 いつイリアに帰っていたのだろうか。渡された紙を見下ろし、すぐに確かめるようにシャニーは困惑をユキへと向ける。

 

「ど、どうして?!」

 

 思わず飛びだす疑問。ユキが手渡してきた住所は、ここフェレのものだったからだ。もう国に帰れるはずなのに。

 ところが、ユキも首を傾げだした。

 

「どうしてって。オスティアにいたんじゃ、あんたに剣を教えるのに都合悪いだろ」

 

 口ぶりからするにイリアに帰るつもりは無さそうと聞いていたが、ユキが最後を結んだ移住の理由に、思わず口を噤んで息を呑んだ。

 ユキは怪訝な目を向けてくる。

 

「教えろと言ったのはあんただろ?」

 

 心構えを少し教えてもらうだけのつもりだったが、彼女の目からするに、全て伝授するつもりに違いない。

 また一つ、新しい信を背負っていたのだと気づく。

 

(そこまで……。本気で取り組まなきゃね、こりゃ)

 

 アレンのあの感じからして、フェレで天馬を降りて戦う機会はないと思っていた。

 ここまでユキが目をかけてくれるとは思ってもおらず、腰にさした太刀に添える手にぐっと力が入る。

 絶対にモノにしてやる……覚悟を決めた心がごうっと燃えてくる。

 

(あれ……ふふっ、なんだかアレンさんが移ったかな?)

 

 自分を笑っていると、ふと思い出した。ユキがここにいるということは──ここに来るまで抱いていた疑問が再燃する。

 

「で、でもさ? オスティアの連絡所は?」

 

 真剣に心配しているのに、ユキは腹を抱えて笑いだした。

 

「あんなのは週一で郵便関係を確認すりゃ済むよ。気にすんな」

 

 バンと肩を叩かれてよろける。初日に見せた、あの斬りかかって来そうな目が嘘のよう。

 それにしても、週一で済んでしまうような仕事量しか無かったとは。

 ユキと別れて踵を返した先にある城を見上げ、ふと考えてしまった。ここに辿り着けなかったら、今頃どうしていただろうか。そう思うと、アレンを相手するのもどこかワクワクしてきた。

 

「あっ、ここにいたか、シャニー」

 

 駆け足で中庭を抜け、騎士団へ戻ろうとする風を呼び止めたのは、彼女が一番聞きたい声だ。

 急ブレーキをかけたシャニーは、きょろきょろ辺りを見渡してロイを見つけると、顔を綻ばせて手を振りながら飛び出した。

 

「あ! おっはよー。どうしたの? あたしを探してたの?」

「元気かなって。打ち解けてるみたいで良かったよ」

 

 わざわざ探して、ここまで来てくれたのだろうか。ロイはとてもほっとしたように笑みを浮かべている。

 

「心配してくれたの? えへへ……、ありがと。みんな良くしてくれるよ。すっごい、居心地良くてびっくりしてる」

 

 もっと苦戦を覚悟していた。いきなり傭兵騎士が飛び込んでも、元から仕えている騎士達とは、きっと越えられない境界がある。そう思っていた。

 でも、傭兵だからと区別することもなく、彼らは優しく受け入れてくれる。

 なんとか力になりたい。その気持ちがどんどん膨らんでくる。もう少し、アレンには手加減してもらいたいところだが。

 

「そうか。気に入ったら、いつまでもいるといいよ」

 

 ドキッとする言葉。

 最初にこれをかけられたときは、とくに意識することもなかったが、今ではこの意味をはっきり分かる。

 その気持ちはとても嬉しい。

 

(このまま仕えられるなら……)

 

 何度もそう願ってきた。

 それでも、イリアには果たすべき誓いを残してきている。今回も心の中で静かに首を横に振る。

 

「そうできるように、がんばって勉強しなきゃなあ」

 

 心に決めている。イリアに軌跡を残したら、そのときは絶対にここへ帰ってきたいと。

 そのために……。頭へ浮かんだ光景に、どうしても口元がウッと歪んでしまった。

 ランスから本を借りてきたのは良いが、びっしり記された小さな文字を見ていると、体がぞわぞわしてくる。

 

(あー……、思い出したらおでこが痛くなってきちゃった)

 

 昨日だって、読んでいたらいつの間にか寝てしまい、窓の縁に額をぶつけて星を拝んだばかり。

 苦笑いしながら、歩き出したロイの横に並んで中庭へと向かう。しばらく雑談していると、思い出したように彼は言った。

 

「そうだ、週末にオスティアへ行かないか。いろいろ知りたいだろ?」

「えっ、案内してくれるの?! やったぁ! 探検したいって思ってたんだよね!」

 

 飛んで跳ねても足りない。あんな巨大な街、一人では到底攻略できないだろう。連絡所に向かったときも、もみくちゃにされて道を覚えるどころではなかった。

 なにより、ロイと二人っきりで遊びに行けると思うと、朝から心だけどこかへ飛んで行ってしまいそうだ。

 ロイと別れても、シャニーはルンルンと顔をくしゃくしゃに綻ばせて歓喜を漏らしていた。

 

(わあい、ロイとデートだー。うふふ~)

 

 フェレに来てから、なんだか毎日が楽しくて仕方ない。ふんふんと鼻歌をうたって小躍りしながら、デート先でなにをしようかとあれこれ膨らませる。

 

 ところが、その視界に映ってはいけない何かが入り込んだ気がして、体がびくっと警戒に固まる。おそるおそる……視線を下ろしていく。

 

「ふふっ、見てしまったッスよ……!」

 

 桃色と、銀色の目……。よく見たら、茂みの中からニンマリする瞳が、こちらをじろっと見上げている。

 

「げっ……」

 

 よりにもよって、ミリアとレンに見つかるとは。悪い汗が垂れてきた……。

 茂みの中から姿を現した悪魔のような笑みを前に、シャニーは引きつった笑いを返すしかできなかった。

 

 

 

◆◆◆

────週末

 

 淡い青色にわた雲が浮かぶ春霞の空。

 約束の時間に出発でき、心地よい天気で楽しいデートのはずがシャニーの顔は渋い。

 いつもの快活さが嘘のように、馬車に揺られながら彼女はちょこんと座っていた。

 ロイが12月にプレゼントしたワンピースを着る彼女のシルエットは別人のよう。

 

「皆も連れて来たんだね」

 

 服と一緒に性格まで変わったように、あまりに大人しい。ロイも心配になったのか声をかけている。

 彼が見上げる先を一緒に見て、シャニーは口をへの字に曲げた。

 今も馬車の上を、二体の天馬が飛んでいる。これではロイをがっかりさせたに違いない。

 

「あはは……みんなもオスティアを知りたいって言うから」

 

 別に連れて行きたいわけではなかった。

 こんな、ロイが乗るような馬車だって乗るつもりはなかったのに、遠慮していたらミリアたちに無理やり押し込まれてしまったのだ。

 いくらロイと友達とは言え、貴族が使うようなものに遊びで乗るなんてどうにも気が引ける。

 

「ウチらは二人の護衛ッスから! 石ころだと思ってくれればイイッスよ!」

 

 空から元気な声が降ってきた。

 護衛が聞いてあきれる。二人も私服で、遊びに行く気満々に決まっているクセに。

 

(こんな騒がしい石ころがあるもんか!)

 

 馬車から顔を出して恨めしくしていると、ミリアはウインクを返してきた。

 ルシャナならあの二人の首根っこを捕まえてくれそうだが、それを恐れてか、どうやら彼女に告げずに出てきたらしい。嫌な予感しかしない。

 

(くっそー! 二人っきりのはずだったのに!)

 

 本当はロイと天馬に乗ってオスティアまで行くつもりだったはずが、いろいろとぶち壊しになってしまった。こんな馬車の中で、真横にロイがいるのでは体がビリビリして堪らない。

 なにより、せっかくロイが自分だけを誘ってくれたのに……思わず侘びが漏れる。

 

「……ごめんね?」

「気にしなくていいよ。皆、不安なんだよね。街を案内するから、疲れたら言ってくれ」

 

 彼にそう言ってもらえるだけで、気持ちが軽くなってくるから不思議だ。

 やっぱり、ロイは優しい。申し訳ない気持ちでいっぱいだけれど、今はこの優しさに甘えてみたい。

 

 そこからは自然に笑顔が咲いて、馬車の中は途切れない会話で満たされていく。

 そのときだ。外に眩しい黄金が見えてくる……あれは、小麦畑だろうか。イリアでも小麦畑はあちこちに広がっており、よく村の人たちと踏んだもの。懐かしい……。

 

(あたし……こんな楽しい思いしてていいのかな)

 

 はっと我に返ってしまった。

 イリアは今も苦しんでいるのに、彼らを守ると誓って出てきた自分は何をしているんだ────そこまで考えたが、シャニーは心の中で静かに首を振る。たまには休息だって必要だ。

 

 

◆◆

 オスティアに着くと昼前だった。ふたたび足を踏み入れたオスティアは、週末だけあってさらに人でごった返している。もう、どこが道なのかすら分からない。

 

「お腹空いただろう? ランチにしよう。シャニー、パスタでいいかい?」

 

 きょろきょろしていると、ロイにつんつんされて慌てて隣にくっつく。今はぐれたら迷子確定だ。

 

「うん、さんせーい。ねえねえ、推しのお店とかあるの?」

 

 ロイの肩に顔を乗せるように近づけると、彼は任せろと言わんばかりに手を取って歩き出した。

 別にロイと一緒ならどこの店でもいい──そうシャニーは思っていたのだが、彼が向かったのは貴族街ではなかった。むしろ若者でごった返す裏通りへと進んでいき、彼女のきょろきょろはどんどん間隔が短くなっていく。

 

「えっ?! ねえロイ、あたしたちにそんな気を遣ってくれなくても」

 

 ロイが立ち止まって指さした店を見て、シャニーはとっさに前に出てストップをかけた。

 彼が見つめる先にあるのは、小汚い大衆食堂。シャニーたち傭兵にとっては、手ごろな店という見方になる。

 でも、とても貴族……英雄の入る店ではない。

 

「だって、ここおいしいよ?」

 

 当然のように返してきた。その顔は、どうしたんだ? とでも言いたげ。味を知っているということは、すでに来ているのか。

 

「でも……、ロイみたいな人がこんなところに」

 

 それを口にしたとたん、ロイが眉をひそめた。

 

「ランスたちと同じこと言わないでくれよ。シャニーと一緒にいるときくらい、羽を伸ばさせてくれ」

 

 ロイは悲しそうだ。

 彼は、立場を考えずに動きたいのもしれない。きっと、いつもみんなの上に立って、窮屈な思いをしているに違いない。

 

「えへへ、そっか。ごめんごめん。じゃ、そこで!」

 

 そういうことであれば、自分ならうってつけと言えるだろう。ふだんと違うロイを見られるなら、役得というモノ。

 

「うひゃー、ラブラブッスよ、眩しいッス」

 

 後ろから興奮するミリアの声が聞こえてくる。

 せっかく、ロイが背中に手を添えてエスコートしてくれているのに、こんな実況されたら台無しだ。

 

「ミリア、石ころ」

「あ、はい、すいません」

 

 一応、護身用に帯剣はしてきたけれど、今日は私服だ。ロイの温もりが、背中に直接伝わってくる。

 これだけでも頭がパンクしそうなのに、それを煽るヤツがいる。でも、今はこうしていたい……。

 シャニーは顔を真っ赤にしてガマンしながら歩く。本当によく喋る石ころで困る。

 

 

◆◆

「ふう~、おいしかったね!」

 

 ロイの言ったとおり、この店のパスタも絶品でいくらでも語れそう。リキアはなにを食べてもおいしく、天国とはまさにここと言ってしまってもいい。

 余韻に浸りながら大満足に浮かんでいると、ロイがむこうを指さした。

 

「だろ? あそこのメニューを制覇するのが目標なんだ」

 

 その先を追ってみる。店の壁一面に、これでもかとメニューを記した短冊が貼られていた。これだけを全てとなると、どれだけ通えばいいのだろう。

 

「じゃあ、あたしもチャレンジしよっかな! シェアすればイケそう!」

 

 今度は二人で来たい場所になった。

 店は小汚いし、繁盛していて騒がしい。だとしても、ロイがいいと言うなら、別にそれでいい気もする。

 

(やっぱり、ロイといると落ち着くなぁ……)

 

 頬杖してぼうっとロイの顔を見ていたら、騒がしい石ころも気にならなくなってきた。

 ベルン動乱から見てきた顔。一層にカッコよくなった気がして、じっと見上げていたら視線がぶつかった。ますます心にニコニコが広がる。

 

 イリアにいたときから、ずっと夢見てきた久々のデート。12月に一度味わったら、この顔が忘れられなくなってしまった。

 ずっとこの時が続くなら……そうぼんやり考えていた、そのときだった。

 

「シャニー、お替わりしなかった」

 

 レンがミリアとひそひそし始める。たまらず背筋が伸びた。

 そおっとロイの様子を見てみる……最悪だ。彼女たちに視線をやってしまっている。

 

「レンだって石ころしろよなー」

 

 ミリアはそう言いながらも、視線に気づいたかロイにニコニコしだした。

 もうダメだ。ギッとこれ以上できないくらい睨みつけてやったら、二人とも首に剣でも当てられたかのように、首を伸ばして静かになった。

 これで一安心……とはならなかった。

 

「君たちはシャニーとは長いのかい?」

 

 あろうことか、ロイの興味がそっちへ向いてしまう。

 ひやひやが止まらず、目線がロイとミリアの間を行ったり来たり。あの石ころが、今度はなにを口走るか分かったものではない。

 

「はい! ウチ、ミリアって言いますッス!」

「ミリア、質問違う。あ、私はレンです。よろしくお願いします」

 

 やはりと言うべきか、質問とはまるで違うアピールが始まる。なんともあざとい連中だ。

 それだけならまだ良かったが、嫌な予感ほど当たるもの。

 

「シャニーは入団から引っ張ってきてくれた、憧れの人ッス! シャニーをよろしくお願いしますッス!」

 

 ミリアが噛むこともなく、ツルツルと口にした言葉で時が止まる。なす術もなく、頭に血が上って倒れそうになった。

 

「ちょ、ちょっと!」

 

 気が気ではない。思わず席を立ってミリアの口を塞ぐ。

 

(もーう! とんだ石ころじゃん!)

 

 それでも、まだ言いたいらしくモガモガしている。

 ついてくるだけの大人しい石ころならともかく、後ろから飛んでくるのではまるで落ち着かない。

 

「うん、任せてくれよ。じゃあ、残りの場所も紹介しようかな」

 

 ところが、ロイはあっさりそう言うと、さっと立って店の外へと出ていった。

 ようやく大人しくなったミリアは、彼の後姿にぽかんとしている。

 

「……なんか、進まない理由が分かったような……」

 

 彼女の独りごとに、背中がビリッときた。どう考えてもミリアは故意犯だ。

 とりあえず、おかしな方向に行かなくてよかった。ほっとしながら、ミリアたちを連れて店を出る。

 でも、これ以上されてはデートどころでなくなる。今のうちに、お仕置きしておいがほうがよさそうだ。

 

「あ?! あたたた?!」

「こっち来る!」

 

 ミリアの耳をつまんで、店の横にある路地へと連れこむ。

 おろおろするミリアをそのまま壁に押し付け、太刀を突きだしただけで彼女は固まったが、のど元過ぎればなヤツだ。親指を柄にかけ、刀身を見せつける。

 

「ミリア~? 今度ヘンなコト言ったら……サビにするんだからね!」

「お、落ち着いて欲しいッス! ウチはシャニーのことを思って……」

「大きなお世話なの!」

 

 慌てて両手を突き出し、守りのポーズをとってくる。もちろん許してなんかやるものか。

 鼻をつまんで黙らせようとしたら、路地の外できょろきょろしていたロイと視線が合ってしまった。

 きょとんとする彼に手を振り、その場は収めることに。念押しに柄でミリアを小突き、ロイの後を追う。

 

(あたしだって……そうしたいんだよ)

 

 ロイとだって約束はした。だけど、どうしても怖かった。傭兵の自分が、それ以上先へ踏み込むことが。やっと、やっと傍まで来れたのだから。

 

「左手に行けば商業地域だ。化粧品や装身具をあつかう施設群があるよ」

 

 ロイの案内に、シャニーより先にミリアが歓喜をあげて手を結んでいる。もう、石ころの気持ちなど捨てたらしい。

 当のシャニーは、ロイがさす先を見ていたのはわずかな間だった。

 彼女はきょろきょろし始め、案内板を見つけて駆け寄る。

 

「ねえねえ、職人街ってどこにあるか知ってる?」

 

 新しい服やリキアの化粧品に興味はあるが、赴任して来たばかりでお金などない。なにより、石ころを連れてそんなところに行ったら、収拾がつかなくなるのは目に見えている。

 

 そっちは、今度ロイと二人で来たとき、ゆっくりまわればいい。今日は、ささやかでも石ころに仕返しせずには気が済まない。思惑どおり、ギクッとミリアの肩が跳ねている。

 

「え? 右手に行けばあるけど」

「じゃあそっちいこー! レッツゴー!」

 

 不思議そうに指さすロイの手をさっと取り、手を挙げながら繁華街へ背を向けて歩く。

 

 職人街に着き、一軒一軒見上げて場所を覚えていくことにした。

 やはりオスティアはすごい。武器屋だけでも何軒もある。これなら、合う職人を見つけるまでじっくり試せるというもの。

 

「ロイ様、シャニーはああいう女ッス」

「ん。武器工房、警戒レベル10」

 

 残された三人。あ然とするロイに、ミリアとレンはため息しながら声をかける。

 十八部隊なら知っている。シャニーと武器工房へ入ったら、二度と陽を拝めないと思うほど待たされる。

 ロイに情報だけ渡して、二人は離脱の準備を始めていた。

 

「武器工房だね。分かった、ありがとう」

「あっ、いや、ヤメたほうがいいスてば!」

「ひとりにはできないだろ? 二人とも、ありがとう!」

 

 ロイは彼女たちに手を振ると、シャニーを追いかけて走っていってしまった。

 わざわざ戦場へ向かう後姿にぽかんと口をあけ、ただ手を振る二人。

 

「勇者ッス……ロイ様は器が違うっスね」

「ん……英雄ってスゴイ」

 

 これ以上ここにいても、巻き込まれ事故を喰らうだけ。

 護衛はここまでにして、ミリアたちは商業区域へ駆け出していった。

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