すべてはリキアの平和のため。
グルメ日記更新のためとかじゃ絶対ないんだからね!
スピードをあげる銀翼が青空を突き破っていく。
眼下にもうもう立ちのぼる黒い煙に、シャニーの目はハヤブサのように鋭くなった。
あたりまえと言えばそこまでだろうけども、リキアにもやはり賊はいるらしい。
シャニーたちフェレ天馬隊は、大がかりに村を襲う一団を見つけて急行していた。
敵はたくさん見えるものの、イリアで毎日のように戦ってきて、多勢などすっかり慣れっこというもの。
うしろ目で仲間にサインを出したシャニーは、槍をかかげて始まりの号令をかける。
「第十八部隊、作戦を開始する!
「イエス、リーダー!」
スピード勝負をしかけないと、あの数はバラけられたら厄介になりそうだ。ターゲットへ急降下し、引き抜けてしまいそうなくらい草原をそよがせる。
この緊張感も久しぶり。実戦から、もうどれだけ離れているだろう。
(あたしたちの力を見せるときだ! がんばるからね、ロイ!)
拾ってくれたロイにようやく恩返しできると思うと、槍にも力がこもる。
フェレには、ひさしく天馬隊がいなかったという。ここでしっかり仕事をすれば、きっとロイに喜んでもらえる上に、周りにも話が広がるはず。
リキアの賊に、空からの目があると意識させられれば大きな牽制となるに違いない。初陣とはいえ大事な仕事と言えるだろう。
村から巻きあげた宝だろうか。見えてきたのは、木箱を肩へと乗せて運んでいる荒くれたち。先手必勝──シャニーは槍を握りなおして突っ込んだ。
「どわっ?!」
爆炎があがった直後、白い流星が巻き込んだものを跳ね飛ばし、景色までテーブルクロスを引き抜くように引き裂いていった。
悲鳴に気づいた者たちが振り返ったときには、もう仲間が壁に突っ込んでいて、ぐったり上をむいて動かない。
なにが起きたのかさえ、その場の者たちは分かっていないようで、あたりを見渡しぼう然としている。引き裂かれた景色や柱となって燃えあがる魔法と思しき炎が、ただ彼らの退路を塞いでいる。
「ルシャナ! あたしの投槍を合図に、一気に飛び込むよ!」
「あいよ! 腕が鳴るね!」
一年以上タッグを組んできたルシャナとは呼吸ばっちりだ。
風になったように天馬を自在にあやつり、第二波にむけ地上へねらいを定めるシャニーの目は、まさに獲物を狩るハヤブサのよう。
風を螺旋に切り裂く銀翼に、落ち葉のように巻きあげられた賊たちはなす術なく吹き飛ばされていく。
「天馬?! ちくしょう! なんだってこんなクソ田舎に!」
ようやくその正体を知って空を指さた大男が、ギリギリと怒りをむき出しにしている。
その間にも、また突っ込んできた流星が、錐でえぐるように風穴をあけていった。地表にいる時間が一秒もなくては、重い斧では反応できまい。
「レン! シャニーたちばっかにカッコイイとこ持っていかれちゃダメだぞ!」
シャニーが攻撃から戻ると、ミリアが自分で改造したクロスボウの弾倉へ、つぎつぎとボルトを仕込むのが見えた。
彼女は大きく腕をかかげながら、エルファイアを唱えるレンに声をかけている。
「ラジャ。混合攻撃、発動準備」
レンが
「避けられるなら避けてみろ! いっけえ! バレットストーム!」
ミリアの咆哮と共にとどろいた物理と魔法の混錬攻撃に、シャニーはあっけにとられて見下ろすばかり。
この距離のクロスボウでは、ふつうなら射程外のはずなのに。それどころか、風の魔法に乗ったボルトは、弾速を跳ねあげて大地を包むように広がって降り注いだではないか。
地表で吹き荒れた魔法で跳弾して、いつもの倍以上の範囲へブリザードのように突き刺さるボルトが、あっという間に賊たちを倒していく。
「すっごーい、やるー!」
思わず声がでた。やはり、ミリアたちがやっつける早さには勝てない。身のこなしに自信はあっても、あの弾丸の網にかかったら避けられそうにない。
「なに言ってるのさ。そんなのは許せないかな?」
そんなことを考えていたら、もうひとりの自分のスイッチを入れてしまったらしい。
普段は頭の中で物珍しそうにキョロキョロしているセチは、戦闘になると具現化して目を爛々とさせるのだ。
今も彼女は顔を押しつけるように、物言いたげな目でニヤっとしてきた。
「キミ、私の契約者なんだし。そろそろ、実
(ぜったい、セチが戦いたいだけじゃん……)
心の中でグチったはずなのに、セチはニカっと返してきた。
「そりゃそうさ。なんたって千年ぶりなんだし、腕がなるよ!」
「勝手に人の心読まないでよ!」
彼女と契約しているからか、考えていることが筒ぬけでどうにも困る。おまけに一方的で、セチの考えはサッパリ分からない。……たぶん、剣のことしか頭にないだろうけど。
「じゃ、教えたとおり、私への誓いのコトバ、よろしく!」
「え~っ! ……あれ、ホントにやるのぉ?!」
「私に力を貸して欲しいっていうなら、当然だと思うけどな?」
セチはノリノリ……正直、パスしたい。とは言え、そろそろこの力をものにしたいし、セチとうまくやっていくには仕方ないか。
観念して、しぶしぶ誓いを口にしておく。
「我は迅。我は風をまとい、黎を払う一陣の風刃なり!」
「シャニー? いきなりジンジンなに言ってるんスか??」
「突っ込まないでッ。あたしがおかしいときは、あたしのせいじゃないんだから!」
「戦場のシャニーはおかしいのがふつーだと思ってたんスけど……」
真顔でミリアに問われてしまい、今にも頭から血が吹き出てきそうに恥ずかしい。これから毎度こんなことを言えとは、いったいどんな罰ゲームだろう。
「んー、0点だなぁ。そんな棒読みじゃ、心に響かないよ」
おまけに、セチはそう言ってニヤニヤとイジワルな笑みを浮かべてくる。テイク2とかまっぴらごめんだ。聞こえないフリを決め込んでおいた。
「よしっ、上から援護をたのむよ!」
作戦は順調そのもの。第二フェーズに入るべく、いつものようにルシャナへ後衛を任せて高度を下げていく。
眼下には数人の男たち。どの顔を血に飢えているのか、にちゃちゃと今にも舌なめずりを始めそうに交戦的な自信に満ちている。
修羅の待ち構える地上へ、シャニーはついに飛び出した。
「斬ッ!!」
決着は風が吹き抜ける間もなく、一瞬でついた。
飛び降りながらの一閃。倍以上の体格差をしずめて構えをとる。十人以上の屈強な男たちが、斧を振りあげ色めきだって襲ってくるのが正面に見えた。
「やっとオトリが行ったっス」
スイッチが入りかけた頭にタライでも落とすように、上からミリアの嬉しそうな声が聞こえてきた。
見上げれば、弾倉にボルトを詰めながらにこにこしている。
「オトリ言うな!」
もはやお約束のようなものだが、言い返さないとシャクだ。そろそろ言い方を考えてほしいけど、今日はおとりなんて言わせない。
「(新しい力……ユキさん、見ててね!) セチ、いっくよー!」
「よしきた、相棒! あたたかい光を導く風……とくと見せつけてやるといいさ!」
正眼に構えた太刀の鋒に、賊を見据えセチを解き放つ。
ゆらぐ髪、ごうっと青焔を噴きあげて魔力が瞳を翠緑に輝かせる。
「颯閃一刀流……。リキアで見つけた力、見せてやる! 行くぞ!!」
この道と決めたとはいっても、まだ初伝の剣がどれだけ通用するか、やってみなければ分からない。
けれど、バラバラになっていた初代団長の剣技と力が一つになった。湧きあがる五感すべてが、今までとは違うと伝えてくる。
「体が軽っ?! これなら十分だ!」
まるで自分ではないみたいで、本当に妖精にでもなったよう。空を滑るような感覚で突きぬけ、賊にまたたきする間も与えず次を狙う。
彼女が駆け抜けた後はまわりがそよぎ、青焔の軌跡にそって賊が倒れている。
「死ね!!」
脇構えからの一閃を浴びせていたところに感じた〝流れ〟。怒声とともに矢がまっすぐ迫るのを感じ、とっさに身をひるがえした。
(えっ、矢が?!)
弓使いの動きで、見切って避けたつもりだった。その瞬間に走った違和感に一瞬、時が止まる。
まるで自分から避けるように矢が逸れていった。あんな軌道は初めてで、放った本人の表情を見ても、なにか起きたのは間違いない。
とはいえ、今はそんな分析に時間を使うのは惜しい。
風になりきり、駆け抜けざまに弓使いを斬り捨てて次へとむかう。
「ずらかるぞ! あんな魔人、相手にできるかよ?!」
頭領と思しき大男が、蒼ざめた顔をして叫んでいる。
数名を残し一目散に逃げだす光景は、嫌な記憶を呼び覚ました。
守ると約束した人たちの顔は、今でも脳裏に焼きついている。ちょうど一年くらい前、仕留めそこねた賊の報復によって全滅した村があった。苦い思い出が走る。
(あんな悲しいのは、もう絶対イヤだ!)
目じりを釣りあげたシャニーは、噴きあがる青焔をさらに激しく燃やして跳ねるように飛びだした。
「一の風! クロノ・イクシード!」
時を飛び越えるように加速する光芒が一瞬で距離を詰め、すれ違いざまに浴びせる一閃。切り裂いた空間から飛び出した風の刃が、はるか向こうまで斬りきざむ。
残るは……あの頭領たちだけ。ふたたび風に消える。
「四の嵐! フレンジー・フランメア!!」
「ま、待て! う、うわああ?!」
旋風のごとく立ちはだかり、天へと掲げると刃は風をまとい渦をまく。
風はすぐ烈風となって大男たちをどんどん引きずり込み、魔力ほとばしる回転斬りがその場の悪をすべてなぎ払った。