マリナスさんもいっしょなの? 望むところだよ!
今日という今日はラスボスをやっつけて……へ──ッ?!
「シャニー! どこだ! 返事をしろ!」
蒼穹にアレンの威勢のいい声が響きわたる。彼はシャニーの名前を叫んではあちこち探し回っていた。
それが聞こえてくるや、シャニーはネコのように髪を逆立てて肩を跳ねあげた。
彼が呼んでいる理由など一つしかない。
食べかけのパンを口にぜんぶ突っ込み、もごもごしながら足をばたつかせていると、遮るものを全てふっ飛ばしてきた声が、後頭部へスコーンとぶち当たった。
「シャニー! 今日という今日は見せてもらうぞ、颯閃一刀流!」
なんだかんだと理由をつけて、今までなんとかパスしてきた。
待っていても行くことはないとバレたのか、アレンはついに乗り込んできたらしい。
彼の目は朝から闘志に燃えていて、シャニーの顔はみるみる青くなる。
(ぎょえ~! 今日は断る理由がないや。どーしよ)
フェレに来てから毎日だ。下手すれば非番の日でも、暇なら付き合えと言いだす始末。
賞金首にでもなった気がして、生きた心地がしない。おまけに、もう諦めろと物言いたげな視線を、隣にいるルシャナが送ってくる。
(な、なんでえ?! う、裏切りものぉー!)
助けてくれるどころか、腰に手をやってポンとアレンのほうに突き出されてしまった。もう今日は逃げ場がない……やむなく刀を抜く。
「フェレ第一騎兵隊アレン! 推して参る!!」
まるで恋人でも追いかけて来たかのような熱意だ。
しかたがない……握った刀を脇に構えて迎撃態勢をとる。そのときだ、視界の端になにか映った。本能的に察して振りむく。
「あ、ちょっと待って!」
やはり間違いではなかった。ロイが中庭へと続く廊下を歩いてきた。ちょうど彼と話したかったところ。
ぱっと顔が明るくなった彼女は大きな声で呼ぶ。
「お~い! ロ~イ! ────?!」
太刀を下ろしてロイに手を振った瞬間だった。ロイの目がこれでもかと見開いたと思うと、雪崩かと間違うほどの轟音が背後を突っ切って髪がなびく。
アレンには待ってくれと頼んだはずだったが、馬は急には止まれない。槍こそ退いてくれたようだが、凄まじい火の玉をぶちかまされて魂が抜けかけた。
表情が抜けて口が逆三角になるシャニーに、さすがのロイも苦笑いしている。
「おはよっロイ! マリナスさんもおはようございます!」
気を取りなおしてロイのもとへと駆ける。今日もマリナスが装備の一部かのように彼にかじりついている。これは、むしろ好都合だ。
元気よく挨拶してみると、今日のマリナスは昨日のように顔を真っ赤にすることはなかった。
「朝から騒がしい娘じゃな。ロイ様はお忙しいのじゃ。仕事に戻れ」
相変わらず歓迎されているわけではなさそうだが、これくらいなら彼はふつうと言えるだろう。昨日に比べたら明らかに軟化している。
勇気をだして正解だった。そして、今日も勇気を握ってこの場に立っている。
ひとつ大きく息を吸い込むと、シャニーはニコッとしてロイの手をとった。
「その仕事のことで、ロイに相談があって」
「へえ、どんなのだい?」
時計とスケジュール帳の間で、視線を振り子のように行ったり来たりさせてジリジリするマリナスをよそに、ロイはシャニーのうれしそうな顔に釘づけ。
「前に話した企画の話。いろいろ報告したいから時間もらえないかなって」
天馬騎士団では、最初の企画はデカい花火を打ち上げた。
このリキアでも、同じように最初が肝心と気合を入れてきたつもりだ。まだ深く市民の声を掘り下げたわけではないけれど、彼らの声とリキアの状況と……部隊のみんなで暇な夜もぜんぶ使って、この一週間企画に明けくれてきた。
「もうかい? それは楽しみだ。マリナスも一緒にどうだい?」
マリナスに認めてもらうにはちょうど良い。ロイも同じことを考えたらしく、視線はスケジュール帳に目を下ろしているマリナスへ向く。
驚いて顔を上げたマリナスは、あらためてシャニーの顔をのぞき込みはじめた。あまりにじろじろされて、彼女は思わず口をへの字に曲げて後ろに退く。
「そうですな。イリアの国力向上活動。少し楽しみですわい」
マリナスはもう一度シャニーをちろっと一瞥した。
眼鏡にかなわなかったら、ロイへの態度を改めろとでも言いたげな眼差しだ。どこか、あまり期待していないような気持ちが滲んでいるようにさえ映る。
(望むところだよ。マリナスさんをぎゃふんと言わせてやるんだから!)
ニコッと返したが、内心ではゴッと火がついた。この人を抑えれば今後は大分やりやすいはず。
イリアでもそうだった。国力向上と聞いて眉間にしわを寄せる人が多かったし、会議で報告しても皆ぽかんとするばかり。そうした反応は慣れている。
ロイたちと別れたシャニーは、ぐっと拳を握って仲間のもとへと歩き出す。アレンが待っていることなど、すっかり忘れていた。
◆◆◆
あわただしい昼下がり。いつもならお腹いっぱいにランチを食べて、温かくていいにおいの青草ベッドでごろごろする時間だ。
でも、今日は皆でシャニーの部屋に集まっていた。がさがさと資料をあさって仕上げに余念がない。
「シャニー、計算根拠は頭にたたき込んだ?」
ルシャナが横目で突っついてくるが、シャニーは資料へ顔を突っこんで返事できずにいた。
最後のチェックで忙しい。穴が空くくらい読んだし、今日は朝からルシャナやレンに説明をなんども受けた。もう、資料を見なくたって全部言えるくらいだ。
「バッチリ! ……あ、でももう一回お願い」
これ以上は頑張れない。そう思って顔をあげたはずだったが、ルシャナを見たら急に不安になってきた。何度聞いても、どうにも頭がコンランする。
「ったく、しょうがないヤツ。数字に弱すぎて困ったもんだよ」
「そんな目で見ないでよお。人間には能力ってのがあるんだしさー」
「やかましい、自分で言わない。ほら、レン、もう一度」
愚痴をこぼしながらルシャナはレンを手まねきして、二人がかりで一から説明しはじめる。
「重要ポイントは線引いた。線とふせんの色、セットね」
レンのほそくて雪のように白い指が、企画書と参考資料を行き来する。
「ありがとレン! 仕事がこまやかで助かる!」
アイデアを考えるのは大好きだし得意だけれど、計算やこうした資料作りはひっぱられる側。小さな口で優しく微笑みかけてくれるレンが女神に映った。
「しっかりやってよ。あんたの説明にかかってんだから」
「いてて。もーう、分かってるってばー」
その横には、バンと肩をたたく鬼もいてギャップが激しい。
「戻ってきたッスね。この緊張感」
イリアではあたりまえだった日常にミリアもうれしそうだ。
シャニーとミリアで声を深く拾って、ルシャナとレンが裏づけを固める。これぞ十八部隊だ。
彼女にうなずいて時計を見下ろす。約束の十分前まで迫っていた。
「よし……第十八部隊長シャニー、推して参る! ……なんちゃってね」
部屋いっぱいに広がった緊張感を高らかに鼓舞して払って見せたものの、まわりは苦笑いしてノってこない。柄ではないと分かってはいるが、あからさまな反応は悲しい。
「んじゃ、いってきまーす! (うまくいきますように!)」
部屋の外まで出て見送ってくれる仲間たちの視線を一身に受け、祈りながらロイの待つ部屋を目指す。
(うわ~、部隊長会議よりキンチョーするかも……)
ついに約束の部屋の前までやってきてしまった。
どうやら会合で使われる部屋のようで、向こうにも出入り口があるほどの大きさだ。
思わず目をつぶって天井を仰ぐ。心臓が震えて足がガタガタし始めた。
ロイだけではない、マリナスもいる──やるしかないと勢いに任せてドアを開けた。
「天馬隊、シャニー。入ります」
ノックの返事を待つ余裕もなく飛び込んで、先手必勝に始めようと思った足がガチっと固まった。
(へっ……? ナニコレ──ッ)
目が点になったまま時が止まる。
なにか様子がおかしい。入る部屋を間違えたのかと思った。ロイの姿を探そうと部屋を見渡したら、一斉に視線が注がれたのだ。
(ぎょ、ぎょえー……?! ど、どういうこと!?)
その場でフリーズして動けなくなってしまった。
マリナスどころではない。ランスも、アレンも……何十人といるではないか。城の主要人物があらかた集結しているらしく、ずんと部屋の奥まで伸びる長机のあちこちから注目を浴びる。
天馬騎士を見たことがない者たちは興味津々の視線を注いで、なにが始まるのかと好奇に目を輝かせている。
「じゃあシャニー、ぜひ始めてくれよ」
期待している。そうロイの目は言ってくれている。まわりの反応も上々で掴みはバッチリといったところ。
でも、壇へむかう足どりは油が切れた蝶番のようにギシギシと固まりきっている。悪い汗がトバドバ出てくる気がして、今にも頭に穴が開いて意識が飛んで行きそうだ。
(ロイ~、聞いてないよお。とんだサプライズじゃん!)
サプライズはするのもされるのも好きだが、これはさすがにヒドい。彼はさらっと言ってくれたが、てっきりロイとマリナスだけが相手だと思っていたのに。
あらためて壇上から部屋を見渡す。……知らない顔もいっぱいだ。
最後にロイと視線が合って困惑を向けると、彼はウインクで返してきた。してやったりと言わんばかりだ。
(こうなったらやるだけだ! イリア騎士団の名誉にかけて、絶対成功させてやる!)
十八部隊のリーダーとして、いやイリアの代表として今ここに立っている。このリキアへ来たのも左遷なんかではない。国を背負って今ここにいるのだと、自らを奮い立たせて心の中で剣を抜く。抜いたら、もうここは戦場だ。
青焔を瞳に燃やして目つきの変わった彼女は、最初こそ舌を噛みかみで歯切れが悪かったが、次第に言葉に熱を帯び、気炎万丈と語りだした。
(よしっ、イイ感じ!)
まずはノウハウがあるものから。水路の建設、鉄路設置。リキアの地理も交えて説明していくとランスがうなずいているのが見えた。
「……以上です。報告を終わります」
開始して一時間半が経った会議室で、シャニーは掠れぎみの声で最後を締めくくりながら頭を下げた。
静まり返る部屋に、あのときが脳裏をよぎる。部隊長会議で初めて報告したときの、誰にも理解されなかったあの沈黙が。
でも、ふいに手を叩く音が聞こえてきて、頭を下げたまま、おそるおそる前髪の後ろから見てみる。
「……見事すぎて言葉が出ないよ、シャニー」
ロイの称賛は周りを巻きこんで、割れんばかりの拍手となって押し寄せてきた。
それに押し上げられるように頭を上げたシャニーの顔に、ようやくホッとした笑みが浮かぶ。
ロイは今も拍手を止めず、とても嬉しそうな顔をしている。これだけでも、やってよかったと思っていたら、彼は隣に目をやった。
「マリナス、どうだい? なにか意見は。ものの捉え方は新鮮だし、僕には思いつかない切り口だったように感じたけど」
造詣が深そうなマリナスは、顎に手を添えながらチラっと睨むような視線を浴びせてきた。視線が合ってドキッと背筋が伸びる。まるでイドゥヴァを相手にしているような緊張感は久しぶりだ。
でも、計算機を持ったマリナスの手はだらんとしたまま。
「ふむ……。まずまずリキアを勉強しておる感じですな。ちと、我々だけで動かすには規模が大きい気がしますが」
もう一度マリナスは視線を合わせてきた。
だけど、その眼差しは会議前とはまるで違うものに見える。もっと目を三角にしてあれこれ言われるかと思ったのに、なんだか拍子抜け。
(マリナスさんが小言しなかった! ヤッタね!)
でも、その意味が分かるとふわっと喜びが胸に広がった。彼に小言をされなかったのは人生で初めてかもしれない。
「アレンやランスはどう思う?」
ロイは、今度は後ろを振り向いた。直々に指名され、二人は顔を見合わせて頷いている。
いつもはあんなにも稽古、稽古と騒がしい熱血漢も、この場ではまるでキリッと別人のようだ。
「民のためになりそうですし、俺は賛成です。よくこんな話を拾ってきたな、凄いじゃないか!」
やっぱりアレンは部屋の中だろうがお構いなしか。大声を張り上げる彼は、まるで自分のことのように嬉しそうだ。
「えへへ……。ちょっとは貢献できたかな?」
稽古でも一本槍な彼だが、褒め方も本当にストレートだ。あまりに真っすぐすぎる言葉がズドンと心を揺さぶる。頭を掻いて照れていると、ランスが静かに口を開いた。
「リキアの地理、事情、そして民の想い、それをまとめて企画する。なるほど、さすがイリアの精鋭部隊だ」
一ヶ月前に貸してもらった全24巻の書。それを熟読した甲斐があった。あの本がなければ今日の発表はできなかった。
感謝をニコニコで返すとランスは視線だけ合わせて満足げにうなずき、ロイへ頭を下げた。
「彼女の貢献は大きく、私は異論ございません。ロイ様のご決断のままに」
(ランスさん……ありがとう)
最初は厳しい人だと思ったし、思ったとおり厳しい一面もある。だけど、騎士として憧れる人となった彼に認めてもらえたと思うと、もう喜びを隠さずにはいられなかった。
思わず手を結んで漏らさないように唇を噛んでいると、ロイが静かにうなずくのが見えてくる。
「マリナスの言うとおり、これはフェレだけの話じゃない。リキア同盟会議にかけたいと思う」
(あわわ……?! 何だか大事になっちゃったよ!)
それを聞いたシャニーは目を白黒させていた。
リキア同盟会議──それはこの広大なリキアを治める諸侯が集まる、リキアで一番重要な会議のはずだ。
そこまでのつもりではなかった。ロイのために頑張ろうと思っただけだったのに。
「シャニー、来週のオスティアでの会議に同行してくれ。君の力が必要だ」
指名されて固まった。リキアの政治に首を突っ込むつもりは無かったのに、大変なことになってきた。最初はデカい花火を打ち上げようと頑張ったが、あまりにデカくなりすぎてしまった気がする。
(あたしの力が必要……。ロイがそう言ってくれるなら)
いま、何のためにここにいるか考えたら、うろたえていてはダメだ。これこそが自分なりのロイの支え方。それを彼だけでなく、この場にいる多くに認めてもらえたなら、迷うことなんかない。
その決意を胸に、ばっと敬礼してありったけ明るく声を響かせた。
「はっ、はい! ロイ様の、リキアのためなら喜んで!」
◆◆
戦場を後にしたシャニーは、中庭へと続く道をロイと歩いていた。
会議の成功もあってその足どりは軽く、緊張から解放されてふんふんと風にうたう。
「えへへ! ロイ、あたし達の企画、どんなもんよ!」
褒めて欲しくてしかたない。あの場でもロイは十分褒めてくれたが、もっと素直な言葉が欲しい。
ところが、ロイは笑いながら信じられないことをさらっと口にした。
「うん、0点かな」
「そりゃそ──……へっ?」
100点を期待していたシャニーは、一瞬なにを言われたか分からずに眉を下げ、げっと口元を引きつらせた。
「えー?! そんな、ひどいよお! あんなに褒めてくれてたじゃん!」
0点なんか村の学問所でもとったことはない。小走りして彼の前に立ちはだかると、両手にグーをつくってブーブーやってみた。
「だって、最後に様、付けただろ? あれがマイナス1000点だよ」
彼の要求に目が点になる。
あんな中で呼び捨てなんか、なにが起こるか想像しただけでゾッとする。騎士団の中では顔を覚えてもらえたとは言え、まだまだ城の関係者のほとんどを知らないと言ってもいいのに。
「ムチャ言わないでよぉ! ってか、大事なのそこ?!」
「ああ、僕にとっては企画と同じくらい大事なことだ」
「ひどいよー、あんなにがんばったのにさ!」
ちゃんと企画を見て欲しかったのだが、ロイはあっさりと返してくる。
どうやらロイの口ぶりからして、本題がそこにあったとは思えない気がしてきた。前から言っているじゃないか──とでも言いたげな眼差しを向けられて、眉をひそめて上目遣いに口を尖らせる。
(めちゃくちゃ緊張したのに……)
なんだか、言われるばかりでは辛抱できなくなってきた。
「それにさー! びっくりだったよ、全員集合だったし! 心臓がボンっていくかと思ったじゃん!」
ぶーっと膨れたままロイの胸をぽんと突く。
言ってくれれば心の準備だってできたのに。部屋に入った時は倒れないようにするので精いっぱい。頭に入れてきたはずのルシャナたちの声は、すっかり吹き飛んでしまった。
なのに、それを言ったらロイは声をあげて笑いだした。
「皆に聞いてもらった方が良いかなって。シャニーもそのくらいのつもりで挑んだんだろ?」
「ハードル上げるね……」
思惑どおりになったからだろうか、ロイは満足そう。
もちろん、それを聞かされてげっそりして見せた。いきなり戦場に一人で放り込まれたようなものだ。しっかり準備してくれた部隊の皆に感謝するしかない。
「はは、企画は予想以上だったよ。100点……いや、1000点あげたい」
一転、ロイは笑いながら背を擦って褒めてくれた。どうにもおもちゃにされている。
「ホント?! やったぁ!!」
それでも、やっぱり声をあげてしまう。
一番聞きたかった言葉を聞けて、気づけば飛んで跳ねて喜んでいた。ロイに褒められたらそれだけで十分だった。
「同盟会議にかける前に父上にも報告したい。一緒に説明してくれるよね?」
驚きと喜びで目がはじけそう。
ロイの父といえば、リキア一の騎士と誉れ高い人のはずだ。ランスからの話でしか聞いたことはないけれど、どんな立派な人なのだろうとワクワクする。
そんな偉大な人にも喜んでもらえるだろうか……。
何か、傭兵の自分がそんな場に立てるなんて、やはり今も夢の中にいるみたいな不思議な気持ち。
「もちろんだよ。ロイのためなら何だってするよ!」
この前まで仕事が無いと言って、長い一日を引きずって歩いていたのが嘘のようだった。
◆◆◆
猛ダッシュで帰ってきた。扉を勢いのまま吹きとばして部屋に流れ込んだシャニーは、身構えていた仲間たちにバンザイしてみせた。
「大成功!」
ロイやランスたちの反応に、マリナスが黙りこんだ顔。身振り手振り、顔中の笑顔で伝え、声をあげてはしゃぐ。
「ひゃっほーい! がんばった甲斐があったッス! 1000点なんてすげー!」
ミリアが真っ先にシャニーの突きあげた手にハイタッチして、抱き合って喜びだした。
「ね、もっと苦戦すると思った」
外国だから完全なゼロ視点でみられる。厳しい意見を浴びるだろうと覚悟していた。うれしい反面、こんなにトントンと進んでシャニーは不思議な気持ちだった。
むしろ、故郷で身内のはずの天馬騎士団にいた時の方が戦っていた気さえする。
あまりにあっさりと認めてもらえて、なんだか違和感すら湧きあがる。
「お父さんに報告なんて順調じゃん。よかったね。ロイ様もやるなぁ」
白い歯を見せるルシャナにバンバンと背中を叩かれて、そんな複雑な気持ちがはじけ飛んでいく。目が真ん丸になったまま、その場に突き刺さって動けなくなった。
(え?! ほっ、報告ってそっち?!)
リキア同盟会議で頭がいっぱいになって、そこまで考えもしなかった。
何だか力が抜けて、ずるっと肩が落ちる。今にもショルダーガードが滑り落ちそうだ。
見上げたらニヤニヤするルシャナの顔とかち合った。どくどくと頭に血が突きあがってきて破裂しそう。
「ル、ルシャナ! そんなんじゃないよ。だいたい、あたしはっ──」
手を放した風船のように、勢いへ任せて叫ぼうとするのを、ルシャナの手が待っていましたと栓をしてきた。
「あんたさ、もっと自分の気持ちを大事にしなよ。あれこれ考えすぎだって」
「うん……そうだね」
なぜだ──ルシャナはそう言いたげにのぞき込んでくる。それでも、視線を逸らすしかできなかった。