ファイアーエムブレム 紺碧のコントレイルⅢ   作:宵星アキ

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いったいあたしは、何を悩んでいるのだろう。
どうしてここまで心の中で痞えて、壁になり鍵をかけているのだろう。
幼馴染(ルシャナ)なら、何でも話せる。
彼女にも影響が出るかもだし、軽く話を聞いてもらっておこうかな。


悪夢を突き破ったのは

 夕暮れ時、フェレに帰ってきたシャニーは休みもせず薬局に駆け込んだ。

 ドアベルが止まるより先に店からでると、手にした瓶をぐいっと傾る。

 

「ぷはーっ! あぁ~~ッ、マズっ!」

 

 苦くドロリとした液体を一気に飲み干した。なんだかオジサンにでもなった気分。

 

「うーん……。一本じゃ不安だなあ」

 

 あの魔人を相手するには、何本あったって足りない気がする。この前もまるで通用せずに潰された経験者が言うのだから間違いない。すっぽんぽん事件はもうゴメンだ。

 薬局へとんぼ返りして、さらにもう一本封を切った。

 

◆◆

「まぁまぁ、まずは呑もうよ」

 

 その足で向かったのは酒場。イリアのような落ち着いた雰囲気ではなく、ガレージ風のオープンな造りはバカ騒ぎにはうってつけ。

 先に来て乾杯を練習していたルシャナから、ジョッキになみなみビールを注がれる。とりあえず言われるままに口を付けてみたけれど、とても呑もうなんて気分ではなかった。すぐにジョッキを置いて別の酒を頼む。

 

「ルシャナ、ちょっと相談に乗って欲しくてさ」

 

 こんなことを相談しても、彼女も困るだけかもしれない。だからと言って、黙っているのも我慢の限界だった。ようやく鍵の一つを外せた今、あともう一個の鍵も、早く何とかしてしまいたい。

 

「うん、知ってる。あんたから酒に誘うとか珍しいしね」

 

 さすが幼馴染と言うべきか。ルシャナはいつも頼りになる。そんな間柄でも、どう切り出そうか踏み出せず、琥珀色の蒸留酒を含んで下を向く。

 それまで酒呑みの顔をしていたルシャナは、ジョッキを置いてじっと待ってくれている。

 もうひとつ口にし、突き抜けるアルコールの勢いのまま吐き出した。

 

「あたしさ……ロイに気持ちを伝えようと思って」

 

 もう、これ以上ロイの傍に行けないのを心が辛抱できなかった。あんなに近くにいるのに触れられない。一度心が重なりかけたのに、怖くて跳ね除けてしまったあの瞬間を、今でも後悔している。

 踏み出さないのは楽だ。だけど、逃げたままでは何も変わらない。一番大切なものを考えたら、踏み出さないと彼を裏切り、自分に嘘をつくことになる。

 

「おー! ようやく決心したの! だったら、こんなトコにいちゃダメじゃん!」

 

 ルシャナはさっそく手を取って立ち上がらせようとした。仰天したシャニーは体重をかけて椅子へ吸い付く。

 

「でもあたし、怖いんだ」

 

 まだ心に引っかかっている。この鍵を早く解いてしまいたかった。

 ずっと、ずっと抱いて来たもの。ロイのもとへ来ることを、最初に拒んだ理由の一つでもある。

 

「怖い?? あんたが?」

「あたしだって……と言うか、いつもどう見てるのよ」

「どうって、火炎魔人(ソルバーン)伝説の竜(マムクート)にケンカ売るセチの化身様が怖いとか言っちゃって、意外にしか聞こえないよ」

「酒豪魔人に言われたくないんだけど?!」

 

 ルシャナの言い草に眉をハの字にする。誤解されている気がするが、「……と、それは置いといて」今は脱線したくない。

 

「ロイの気持ちは嬉しいんだ。あたし、ロイのこと大好きだもん……」

 

 どれだけ茶化されても、今までは頑なに否定してきた。彼と一緒になるなんて、夢でしか叶えられないと思ってきたから。

 それでも最近は、こうして酒の席でルシャナに漏らすことが増えていた。

 

「だけど……あたしの気持ちも知って欲しくてさ。それを聞いたら、ロイがどんな顔するかと思うと……」

 

 ちゃんと伝えられる勇気が出なかった。言い方一つ間違えただけでどうなってしまうか。

 いずれイリアに帰らなくてはいけないし、傭兵が相手では要らぬ中傷を受けるのでは……そうした本当の気持ちを、全部ロイに伝えたい。

 彼に嫌われたくない。だからと言って、伝えなければ先へ進めない。

 

「ハッ、らしくないね」

 

 もう聞きたくないと言わんばかりに、ルシャナは話を途中で折ってジョッキを傾けだした。

 一気に飲み干し、ドンっと腹に響くくらいの音を立ててジョッキを置くと、口元を拭いながらジロっとしてきた。

 

「そんなの、あんたがどうしたいかだけじゃん。それでもロイ様は好きって言ってくれてるんだし」

 

 ストレートな言葉に目が飛び出しかけたが、すぐにしょんぼり俯いた。

 

「言われたこと……無いよ」

 

 そんな真っ直ぐな愛の言葉を言ってもらえたら、どんなに心が吹き抜けるだろう。姉が自然にその言葉を使っているのが羨ましく思えたほど。だから、余計に分からないのに。

 

「言われてるようなもんじゃん。去年から、ずっと。それなんか、極めつきだと思うけど?」

 

 ルシャナの指さす先を追っていくと、右腕に輝く時計があった。たしかに『時を刻もう』なんて、覚悟を決めていなければ時計に彫らないだろう。

 

(聞きたい……その言葉が欲しいよ)

 

 ティトもルシャナも言う。今の自分をロイは好いているのだから気にするなと。

 あの凛々しい声で純粋な言葉を掛けて欲しかった。とは言え、気持ちも伝えずに、自分だけしてもらおうだとか身勝手だと分かっている。それどころか、彼の気持ちへ壁を作っているのに。

 

 早くこの壁を突き破ってしまいたい。ぎゅっと口を閉じて蒸留酒の入ったグラスに顔を映していると、バンバン肩を叩かれた。

 

「ロイ様がどう思うかなんて、あんたが想像してるだけでしょ? それくらい、あんたが心配しなくたってロイ様なら自分で何とかするよ」

(やっぱりお姉ちゃんと同じこと言うな……)

 

 自分がどうしたいのか──それが一番だと分かっているし、自分にとっての一番が何で、何をしなければそれを掴めないのか。もう姉と話して答えは出せている。

 

(じゃあ……)

 

 残ったもう一つの鍵。それを解くためにシャニーは勇気を振り絞り、お替りを気持ちよさそうに傾けるルシャナの目へ不安をぶつけた。

 

「フェレに居場所がなくなったら、ルシャナたちだって困るんだよ」

 

 ロイとの関係が拗れたら、契約だって破棄されてしまうかもしれない。自分が仕事を失うのは仕方ないにしても、部下まで路頭に迷わせることになる。それがたまらなく不安で、不安は恐怖へと変わっていった。

 

「あんた……」

 

 ドンと置いたルシャナのジョッキからビールが飛び散る。ぎょっと肩が跳ねたが、彼女はお構いなく続けてきた。

 

「そんなこと心配して、ずっと今までモジモジしてたわけ?」

 

 こくこくと頷くと、浴びせられたのは腹からの笑い声だった。その声はどんどん大きくなってきて、嘲りさえ含んでいるように聞こえてくる。

 

「そんなことって……」

「なんで居場所がなくなると思うの?」

 

 この賑やかな中でも、周りがちらちらしている。堪らなくなって止めようとすると、被せるように鋭い目つきが振り向いてきた。

 

「ダメだったらダメで、ロイ様とは今までどおりじゃない。あんたの気持ちだって変わらないでしょ?」

 

 そう言われて、シャニーはまた下を向いて考え込んでしまった。

 ロイにとっての“友達”が本当に言葉どおりの意味なら、なにも彼の態度は変わらないはず。

 そんなことをする人ではないと信じてはいる。なら、何でこんなに不安が湧いたのか……自分の心が分からなくなりそうだ。

 そのときだった。降ってきた言葉で頭を殴りつけられたような感覚に陥る。

 

「シャニー、自分の意気地なしの理由に私たちを使わないでよ」

「そ、そんな言い方──」

「だってそうじゃん。ロイ様とあんたの間の話で、私たちが一番大事なわけ?!」

 

 ばっと顔を上げて反論しようとしたら、怒気を含んだ声でルシャナは突っぱねた。その目はさっきまでの酒を愉しんでいたものとはまるで違う。

 ────二人にとって一番大切なことだけだけ考えて

 姉の言葉が蘇る。

 

(あたしの一番……大切なもの……)

 

 それはいつも傍にいて、ロイを支えることに間違いない。いろいろな不安が恐怖を連れてきて、彼の傍にいることを拒んできた。それではいけないと姉に教えてもらえたのに、また同じことをしている。……いや、だからこそ、断ち切りたかったのではなかったか。もう一つの鍵を。

 それを向けたルシャナが、ここまで猛烈に怒るとは思ってもいなかった。

 

「ホント、あんた見てると腹立つよ。自分の気持ちに嘘ついて、ロイ様にも背を向けて。で、それが私たちのせいだって?」

「……ごめん」

 

 ルシャナの鋭い怒りを突き付けられてから、酷いことを言っていたと気づく。ロイにも、仲間にも、どれだけしてきたのか思い知って、うな垂れた首へのしかかってくる。

 ここまで怒鳴られて、胸の中の痞えが喉元までようやく出てきた。もう吐き出したくて堪らない。目をぎゅっと瞑り、腹に力をこめて言葉を絞り出した。

 

「……どうしても考えちゃって。あたしみたいな傭兵じゃ、ロイには釣り合わないんじゃって……」

 

 相手は世界の英雄。自分は片田舎の何も知らない村娘であり……──“死の臭いの中でうごめくハイエナ”。

 ずっと、ずっと心の中で痞えてきた。姉は乗り越えた。自分だって……そうしたい……。

 

「ああもう!! あんたらしくない!」

 

 怒声に驚く間もない耳をつんざく音。吹き飛んだ椅子が転がる音だと分かったときには、胸倉を掴み上げられ、力任せに立たされていた。

 

「ロイ様がもしッ、あんた以外の女と結ばれたらどう思うの?!」

 

 今にも殴りかかってきそうな目つき。ぎょっと固まる目の前から飛んできた、猛獣のような怒声に頭が揺さぶられて砕けてしまいそうになる。それでもルシャナはお構いなしだ。

 

「おめでとう! って言えちゃうわけ?? それが──イチバンだろ!!」

 

 ルシャナの怒声に吹き飛ばれ、どうなんだと胸倉を引き寄せられた。そんなこと、考えたこともなかった。ふとその光景をイメージし始める。

 

(ロイが……他の人と…………)

 

 ロイの隣に自分ではない人がいて、自分は輪の外からそれを見ている……────ッ!!

 

「いやぁ! そんなのヤダよ! 絶対に嫌だ!!!」

 

 頭が真っ白になった彼女は周りも気にせず叫ぶと崩れ、慟哭して動けなくなってしまった。

 そんなことになったら、もう立ち上がれないかもしれない。

 

「どうすれば……いいの」

 

 うずくまっていたら抱きかかえられた。立たせてくれたルシャナをじっと見つめて、無意識のうちに助けを求めていた。

 

「だったら、ぶつかっちゃえばいいじゃない。ぶつかりもせず後悔しようとするなんて、あんたらしくない!」

 

 自分の気持ちをハッキリと思い知ったシャニーは、しっかりしろと肩を叩かれ、目が覚めたように瞳に色を取り戻す。

 ふうっと大きく深呼吸しながら目を閉じてもう一度問う。一番大切なことは────

 

(ロイなら……きっと受け止めてくれる)

 

 そう心から信じられる憧れの人。だからこそ、好きになった。

 ロイへの想い、そして自分への気持ち。それだけを大事にしようと覚悟を決めて、悪夢の果てに醒めた新しい世界に目を開く。

 

「そうだね……ッ。よおし! ようやくスッキリしたぞ!」

「と言うわけで、ほら、しっかり呑んで。前祝いだよ! 呑んでバカなことは全部忘れろ、忘れろ!」

 

 ジョッキになみなみ注がれたビールを、二人で一気飲みして笑いあう。久しぶりに今日は酒がうまい。

 

「十八部隊はあんたを応援してんだからさ。ちゃんと戦って来い!」

 

 ルシャナはそう言って腕を小突いた。力は弱いはずなのに、鍵が外れて心を塞ぐ壁がガラスのように砕けた気がする。

 

「ありがとう、ルシャナ」

 

 どんな答えがロイから返ってきても、受け止める覚悟はできた。後悔するにしても、行動してからだ。

 取り戻した信条を胸に、彼の笑顔を浮かべながらお替りしたジョッキを傾けるのだった。

 

 

 

◆◆◆

 翌日、騎士団へ顔を出したシャニーはさっそくランスに呼び止められていた。

 

「……大丈夫か? 顔色が悪いぞ」

 

 やはりどう繕っても、違和感が出てしまっているのだろうか。自覚はある。なにせまともに背筋を伸ばせないし、気を張っていないとすぐ壁にもたれてしまう。

 

「だ、大丈夫でーす……。アハハ、死なないからへーき……」

「……そんな真っ青な顔で笑われると不気味だ」

 

 喋るのもつらい。なんとかやりすごそうとふらつく足元を踏ん張ったとたんだった。胃がグニュッと動いた気がして、たまらず口元を押さえた。

 

(うぅっ?! ……気持ちわるっ。リキアの酒は悪酔いするなぁ……)

 

 今天馬に乗ったら間違いなく惨事が起こる。そのうち壁に寄りかかって動けなくなってしまった。

 すぐに介抱され、見上げたらランスの渋い顔があった。彼と風通しの良いところまで行き、座り込むと一通の封書を渡された。

 

「これでも読んで、休んでいると良い」

 

 朝から申し訳なくて、手を合わせて封書を受けとる。それには天馬騎士団の刻印が記されていて、宛名までしっかり書いてある。どこかで見た字だ。封を切って出てきたものに首をかしげる。

 

「エレブ時報……? なんでこんなものが」

 

 それは大陸中で愛読される世界規模の新聞だった。エトルリア貴族にも愛読者が多いらしく、難しい話ばかりで読む気にならない代物だ。

 

「今朝、天馬騎士団から届いた。中を確認しておいてくれ」

 

 そう言うとランスはその場を後にした。彼はすぐに水を持って帰ってくるとその足でアレンのもとへと向かい、こちらを指さして何やら喋っている。

 彼がアレンを足止めしてくれている間に封書へ目を移すと、手紙が入っているのに気づいた。

 

 ────元気にしているか? 今度リキア地方に営業に行くとき、どこかで茶でも飲もう

 

「アルマが送ってくれたんだ。元気にしてるかなぁ、あいつ」

 

 ライバルに大分気を遣わせていると知って、北の空を見上げた。

 イリアは今どうなってるだろうか。イドゥヴァはちゃんと民を守ってくれているだろうか……。

 今はアルマに託すしかない。近況報告もかねて今度手紙を出すことにして、暇つぶしに新聞へ目を落とす。

 

「うわぁ! すっごーい!」

 

 これはサプライズだ。思わず声をあげると、さっそくミリアが小走りしてくる。

 

「どうしたんスか?」

 

 声につられてルシャナやレンも姿を見せている。早く見せてあげたい。座ったまま、お尻で跳ねて手招きした。

 

「見て見て、エンジェルヘイローが記事になってる!」

 

 イリア中をつなぐ環状鉄道は順調に整備され、延伸が進められていると新聞は報じていた。早く軌道に乗ることを願ってニコニコが止まらない。これで皆救われるはずだ。

 

「ウチたちのことが書いてあるッスよ!」

 

 ミリアの指さす先を皆でのぞき込むと、誰もが口を喜びでわっと広げる。企画が十八部隊であることがはっきり記載されているではないか。こんな世界新聞に載るとは何事だろう。

 

「はっ。私たちの左遷が、大々的に将来への投資にされてんじゃん」

 

 ルシャナは鼻で笑って両手を広げている。

 もう少し読み進めたら、十八部隊がリキアへ派遣されていることも書いてあった。将来のためと銘打って。

 

「ここ……ロイ様のコメントがある」

「えぇ?!」

 

 ばっと新聞を取りあげて、レンが指さしていた箇所をのぞき込む。

 てっきり、宣伝に使えるとでも考えたイドゥヴァの仕業かと思っていた。まさか、彼だったとは。

 立ちあがって駆け出そうとするが、二日酔いをすっかり忘れて口を押えるはめに。後ろからクスクスやられながら、壁伝いに歩きだす。

 

「ロイ! これ、ありがとう!」

 

 ロイを見つけ、手を挙げて呼びながら新聞を振って見せた。

 相変わらずの壁伝いで彼のもとまで向かおうとすると、彼は心配したのか駆けてきた。そのまま抱きかかえてくれ、一緒に新聞を見下ろして嬉しそうにうなずく。

 

「僕だって悔しいからね。こんなに頑張ってる君たちが、イリアで評価されないなんて」

 

 聞けば、他の取材に応じたとき、自ら話を出してくれたらしい。彼の優しさに、顔は真っ青でも心は喜びで満たされて、今にも飛んで行きそうだった。

 

「君のためなら、協力できることは何でもするよ」

 

 さらに、抱きしめるような優しい言葉で包んでくれる。このまま目を瞑ったら、天国まで飛んで行ってしまいたくなるくらい心が浮かんでいく。

 

(やっぱりロイは大切にしてくれてる。嬉しい……)

 

 彼の気持ちに応えてあげたい。介抱してくれるロイにためらいなくぎゅっと両腕を回した。

 

「ありがとう。これからもリキアのために、もっとがんばるからね!」

 

 今できるのは、これが精いっぱい。

 だけど、心に誓った。すべてをロイに捧げようと。もう、なにも恐れないと決めた。一番大切なもののためなら、あとは二人で何とか戦っていけばいい。もし、それを彼も望んでくれるなら。

 

(今度ごはんをご馳走するとき、絶対!)

 

 本当は今すぐ伝えたい。けれど、こんな慌ただしい時間で済ませたくなくて、ロイの腕の中に甘えておく。

 

 今はまだ、わずかな時間に許された幸せ。きっと、この温もりをずっと傍で支えられるようにしたい。どんな答えでも受け止めよう。一番大切なものを何度も心の中で唱え、夢から醒める覚悟を決めるのだった。

 

 

 

 

◆◆◆

 

──イリア天馬騎士団本拠地 カルラエ城

 

 一方、天馬騎士団では、団長室でアルマが頭を下げていた。

 彼女の前にはエレブ時報を手にしたイドゥヴァがいて、ワインレッドの口元を満足げに広げて静かに視線を動かしている。

 

「これは……ふふふ、ロイ様に天馬騎士団を宣伝していただけるとは……。本当に金の卵を産むようになってくれたものです」

 

 イドゥヴァのほくそ笑む姿を見下ろし、アルマはポーカーフェイスの裏で安堵していた。これで、親友の身も安泰だ。少なくとも、アサシンを仕向けたりはしないだろう。

 

「はい。十八部隊の現地での活躍も、リキアの地方紙ではすでにロイ様の談として載っているようです」

 

 シャニーたちが企画したすべての案件をロイが実行に移し、多くの民がロイを称えたと記事は伝えている。その中で、ロイは十八部隊についてコメントしていた。イリアから来た妖精たちが、民の声を届けてくれると。

 

(フン、さすがだよ。思った通りの奴だ)

 

 まさかリキアの地でも同じような仕事を始めるとは想定外だが、彼女らしいとアルマは思った。だからこそ、いずれ戻って来てもらわねばならない。

 その障害が……この古狐。

 

「……なかなか上手く行かないものですね」

 

 イドゥヴァは相好を崩しながらも、不安を零している。

 計画は順調だ。十八部隊は金の卵となり、ロイとのパイプにもなっている。しかし、それは同時に障害が大きくなることも意味しているのは間違いないのだろう。

 

「このままでは、あの部隊を勢いづかせてしまう。どうしたものでしょうかね……」

 

 なにやら、彼女はいくつも考えを浮かべているようだ。

 そこまで執着する理由がまるで分らず、アルマは部屋を出ると廊下の窓から南の空を見つめてひとつ零した。

 

「おまえ、本当に戻って来れるのか?」

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