ファイアーエムブレム 紺碧のコントレイルⅢ   作:宵星アキ

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リキアはグルメもスイーツもうますぎるッ。
ここはエレブに許された食の楽園と言えるだろう!
まだまだ成長期だし、たくさん食べなきゃね。
よく食べて、よく寝て、よく笑う!!


食べなきゃしょーがないよね!

 月末も近い昼どき。シャニーたちはフェレの街を雑談しながら、なじみと違う店へと入っていく。

 人々の話を聞きにあちこち飛びまわる日々が戻ってきて、いくら時間があっても足りない。おまけに最近は、ロイの依頼もあって少しずつリキア同盟を手伝うかたちで活動範囲を広げていて、こうして昼にフェレにいるのは珍しい。

 

「う~ん! リキアはやっぱ海鮮だよねー。はぁ~、しあわせ!」

 

 歓喜をぎゅっと絞ったような声をあげ、満面の笑みを浮かべるシャニーの食欲は今日も健在だ。

 漁港が近いリキアの南部だからこそ味わえる絶品。イリアにはない食文化に、毎日感動するばかりでスプーンが止まらない。

 そんな彼女を、仲間たちは見ないようにしていた。

 

「うえっぷ。シャニーを見ながら食べればダイエットになるかと思ったっスけど……気持ち悪くなるッス」

 

 音をあげるミリアに舌を出して笑ったかと思うと、シャニーはまたもぐもぐと丼をかきこみ始める。

 

「だってさあ、アレンさんと稽古すると、おなか空くんだもん」

 

 今日は少し足をのばしてオスティア方面の村々に顔を出しに行く予定だったのに、またあの赤い騎士に捕まってしまったのだ。

 

──君はスタミナが弱点だ! さぁ、俺と一緒に鍛えよう!

 

 彼はそう言って、今日も朝稽古と言いながら昼まで付き合わされるハメになった。

 

「また引き分けだったッスね」

 

 押せ押せで攻めまくったつもりだったのに、結局どちらも参ったと言わなかった。ミリアは残念そうだが、掛け金がパーになったせいに決まっている。

 

「アレンさん、タフ過ぎなんだよなぁ」

 

 颯閃一刀流を見せろと言われ止むなく剣で挑んだのだが、最後は完全にバテてただの鈍らだった。

 どれだけ浴びせても、まるで効いていないかのように突撃してきて、避けるだけで体力を削られる。スタミナが弱点……彼の言葉を覆せなくて、天井を見上げてため息をつく。

 

「でもカッコ良かったッスよ! セチの剣!」

 

 褒め言葉はすっと耳に入る。嬉しくなって首がシャキッとしたとたん、頭の中からセチの得意げな声がした。

 

「そりゃそうさ。私の剣技なんだし? ヘタなりに美しく魅せてもらわないと困るってもんさ」

「へ、ヘタって……」

「初伝に反論する資格はないかな。それとも、私が使って(・・・)あげようか?」

「ハッ、ハハ……。し、精進します」

 

 精霊とは思えない悪人面だ。ニヤリと顔を近づけて恐ろしいことをサラッと言ってくる。乗っ取られるなんてごめんだ。

 千年ぶりの復活だからか、ふだんは物珍しそうにあちこちきょろきょろして、相棒にまるで関心がなさそうなのに、剣のことになると急に絡んでくるし、稽古稽古と朝からうるさいくらい。

 

 セチにいびられていると、ミリアが顔の前で手を振りだしているのに気づいて意識を引き戻された。こんなヒドいことを言われているのに、セチの声はまわりには聞こえないからズルいものだ。

 

「もっともっと稽古積んで、はやく中伝まで行かなきゃ! と言うわけで店員さ~ん! 海鮮丼おかわり!」

 

 空っぽになった丼を見せつけ、手を振って呼ぶ。職人気質の気難しそうだった店主が、飛び出しそうな目をこちらに向けてきた。まわりに照れ笑いしようとしても、誰もが視線を外している。

 

「シャニーのおなかは底無しッスね……」

 

 驚きというより、もはや呆れに近い顔をミリアにされて首をかしげる。

 

「えー? ふつーだよ。みんなも稽古するとおなか空かない?」

 

 体重制限があるから、きっとみんな我慢しているだけだろう。食べても太らない体質でラッキーだった。

 まるで宝石箱のように、出てきたお替りはきらきらしていて思わず手を結ぶ。

 

「最近悩んでたことがあってね。ちょっと食欲落ちてたからさー」

 

 口紅のように鮮やかな赤身をぱくっと口にし、「んーっま!」と足をバタバタさせていたら、引いた六つの瞳が刺さった。

 

「いや、全然落ちてる感じじゃなかったけど」

「今まで以上に食べるんスか……?!」

 

 ミリアの顔から血の気が引いている。

 羨ましがるならともかく、なんでそんな反応になるのか分からないけれど、今日は一層おいしく思える昼ごはんにシャニーはニコニコが止まらない。

 

「どう考えても、やっぱりシャニーは魔人ッス」

「えー! 魔人は酒豪魔人のルシャナでしょ?」

「魔人が二人も……恐ろしいっス」

 

 両手を広げるミリアに肘鉄砲を食らわせておく。どう考えたって、ルシャナに勝てる人間はいない。

 

「ところでさ、そのお悩みごとはいつ解決すんのよ。もう告ったの?」

 

 それまで勢いよくモグついていたシャニーも、ルシャナが背に腕をまわしてきてぎょっと動きが止まる。

 さっそくこれだ。彼女は攻めこむように肩をバンバンするものだから目を白黒。咽ってもお構いなしに報告を要求してきた。

 

(どーしてそっちに持ってくのさー!)

 

 ミリアまでワクワクした視線を向けてきて、また逃がしてもらえない雰囲気だ。とは言え、もうルシャナにはすべて話してしまった以上、隠しておく必要もないかもしれない。

 

「今度ごはんを作ってあげようと思っててさ。そのときにしようって」

 

 とびきりおいしい料理で、いい雰囲気のまま一気に気持ちを伝えてしまいたい。

 ルシャナとミリアはその作戦に指笛ではやし立てる。

 

「おっ、二人っきりでご飯とは、やるねえ! どこまで行けるのかな~」

 

 またしても肩をバンバンされる。ルシャナの目は明らかに最後まで行けと言ってくるが、なにも返せるわけがない。

 

「頑張ってほしいッス! 応援するッスよ! ウチら、石ころになってるッスから!」

 

 なんとか話題を切り替えようとしたら、ミリアが恐ろしいことを口にした。

 待ち遠しいと言わんばかりに、肩を揺らして笑う彼女が悪魔に見える。この前のオスティアだって、石ころが聞いて呆れるほど騒がしかったくせに。当日の夜に起きるだろう事件が優に想像できて、今から悪い汗がダラダラ流れてくる。

 

(こっ、こいつら聞いてるつもりなの?!)

 

 ミリアが顔の前で手を振っているが、カチコチに固まって動けない。

 恥ずかしいどころではない。流石にこれは全力で阻止しないと、人生にかかわる気がしてきた。とにかく、この石ころをどこかに摘まみだしてくれる人……一人しかいなかった。

 

「ルシャナ、この二人さ、外に連れ出してくれない?」

 

 両手を合わせて頼みこむ。とたんだ、後ろから不満が飛んできた。

 

「えーっ?! 歴史的瞬間に立ち会わせてくれないんスかぁ??」

「見せものじゃないし!」

 

 この言い草だと、写真でも撮ってやろうくらい考えているに決まっている。真っ青になってルシャナにすがり付いたら、彼女はニヤリとした。

 

「ミリア、レン、よかったね。リーダーがオゴってくれるって」

「よっしゃあ!! じゃあ、ウチらもオスティアの高級レストランデビューッスね!」

「はあ?! なっ、なんでそうなるの?!」

 

 ミリアのガッツポーズが映り、まるで頭が追いつかない。それでも足りずに、ミリアはレンの手を取って一緒にバンザイしはじめている。

 戦慄が走り、救いをルシャナに求めても彼女は一転、嫌ならいいんだぞと不敵な笑みを投げつけてきた。

 

(トホホ……背に腹は代えられないかぁ……)

 

 また財布がすっからかんになる未来が確定して、がっかり肩を落とした。自分の一生を決めるかもしれない、大勝負の対価と言われてはなにも返せない。

 しょんぼり海鮮丼を口に運ぶ。しばらくこの味ともお別れということになる。

 

「どうしたんだ? レン、もっと喜べよ、高級ディナーだぞ!」

 

 ふと、視線に気づいた。レンがじっと見つめてくる。ルシャナと盛りあがるミリアがレンを小突いているが、彼女はピクリともしない。会話にも入らず、彼女の視線は糸でも張られているよう。海鮮丼が気になるのだろうか。

 

「シャニー。たくさん食べたい理由、分かった」

 

 石のように動かなかった彼女が急にボソッと喋りだした。おまけに妙なことを言っている。

 

「理由?」

 

 もぐもぐしながら一度は興味津々にしたが、飲み込むと目に火をともす。

 

「そんなの、海鮮丼があたしを呼んでるからだよ。オスティアの食堂もロイとコンプしないとだし!」

 

 リキアはどこに行っても、食べたことがないものだらけで楽園と言えよう。どこへでも飛んでいける天馬騎士は、まさに役得というもの。

 

「魔人がまたよく分からないことを言いだしたッス。リキアの食糧危機ッスね」

 

 ミリアは苦笑いしているが、レンの表情は変わらない。それどころか、ますます険しくなった。

 

「ずっとシャニーのエーギルを追ってた。もとから多かったけど、最近、特に消費量がすごい」

 

 真面目な答えが返ってきて、さすがに笑っていられなくなった。魔法使いの彼女には、他人のエーギルの流れが分かるらしい。

 エーギルはその人の命そのものだ。誰一人、同じ色や広がりを持たない命の“流れ”。

 

「シャニーはそれを食べて補ってるってこと?」

「ん。特にセチを開放したときの消費量、普通の人の10倍」

「ハッ、燃費が悪いヤツ」

 

 ルシャナは豪快に笑っているが、レンは真顔のまま。

 

「二人分のエーギルを一つの体で賄ってる。だから、おなか空く」

 ルシャナとミリアが、珍獣を見るような目を向けてくる。もうっとシャニーは口をへの字に曲げた。

 

「何だかよく分からないけど……食べてへーきってコトだよね!」

 

 病気だと言われたらどうしようかと思ったが、これならお墨付きをもらったと言えるだろう。丼に顔を埋めて続きを楽しむ。

 ところが、レンはずっと身を乗りだして、今にも泣きそうな声で警告してきた。

 

「シャニー、気をつけて。エーギル使い切ったら……死んじゃう」

「し、死ぬ?!」

「あんまり、こんな怖い言葉、使いたくない。お願い、分かって」

 

 それまでの儚げな口調から一転、レンは強い目つきで最悪を口にした。

 さすがにスプーンが止まる。たしかに身に覚えはある。ソルバーンと戦って意識が飛んだことを思い出した。

 

「なんだ? 相棒、また忘れて使ってんだ? 怖いもの知らずだなぁ」

 

 そのときだった。心の中から突然声をかけてきたセチに、仰天して米が喉に詰まりかけた。

 

「し、知るワケないじゃん! むしろなんで教えてくれないのさ!」

「いや、何回か言ったはずだけど?」

「てっきり、オーバードライブしなきゃ大丈夫なんだと思ってたよ」

「なに言ってんのさ。キミは私の化身なんだから、いつもその状態だよ」

 

 あらためてそう言われると、なにかゾクっとする。日頃から、他の人が見えないような“流れ”が分かったりするのも、そのおかげなのかもしれない。その代償に、知らないまま死と隣り合わせの生活を、のほほんと過ごしていたとは。

 なにより、精霊の化身──今でも、なんだか夢でも見ているようだ。

 

「早く調整できるようになってほしいかな。もちろん、加減せずに使えるのは当たり前ってことで。というわけで、稽古、稽古!」

「死ぬかもって言ってるそばからほんと、稽古しか言わないなぁ」

「頼むよ。キミが死んだらまた宿主探さないといけないんだから。こんなあちこち見物できる宿主は手放したくないしさ」

「は、はは……喜んでいいのかな、これ」

 

 言いたいことだけ言って、また気配を消してしまった。どうにも、自分と同じ声に説教されるのは慣れない。

 

(調整はともかく……加減せずは……うーん)

 

 パクッと虹色に光る白身魚を口に運び、スプーンを咥えたまま考えにふけってしまう。

 今でも完全に使いこなせているわけではない。全力を解放しようとすると襲ってくる、あの“飲まれる”感覚。精霊に意識を飲まれたら、もう二度と戻ってこられないとニイメに脅されている以上、簡単には踏み込めない。どうしたらうまく使いこなせるか……レンの警告はすっかり飛んでしまっていた。

 

 

 

◆◆◆

 夜、十八部隊はシャニーの部屋に集まってまったりした時間を過ごしていた。

 オスティアの特集記事を読み漁ってディナーへ備えるミリアの横で、シャニーはチェス盤を見下ろして難しい顔をしている。

 

「ほらほら、早くさしなって。もう詰んでるけど」

「そんなことないもん!」

 

 考え込んでいたらルシャナに額を突かれた。ニヤニヤされて反射的に口が尖る。

 

「これでも食らえ! ハッハッハ、さあどっちの駒を逃す──」

「ほい、チェックメイトっと」

「……ほえ?」

 

 目が点になった。まだ決めゼリフの途中なのに、我慢していたバネが跳ねるように、ぽんと打ってルシャナは席を立ってしまう。

 

「げっ! またあたしの負けえ?!」

 

 頭を抱えて髪をくしゃくしゃにしながら、思わずムキーっと声をあげる。悔しすぎる。かれこれもう十連敗だ。

 

「ルシャナぁ~、もう一回だけ! 勝ち逃げなんかダメだぞ!」

「はいはい。はやく勝ってよね」

 

 ルシャナの顔には、何度やっても同じと呆れがありあり浮かんでいる。

 

「やれやれ、これじゃロイ様と指せるのはいつになるやらね」

 

 冷笑の前に小さくなるばかり。まだチェスを楽しむレベルにすらなっていないのに、頭はパンク寸前でヤカンみたいに湯気が噴き出てきそう。

 今週はずっとロイがおらず、その時間を使ってルシャナに教えてもらっていた。

 

「ふ、ふん! ちょっと練習すれば! もうアレンさんには勝てたし!」

 

 アレンに勝てたから満を持して連敗を止めに挑んだのだが、10手ともたずヒドイありさま。

 それを言ったら、ルシャナは口をあんぐりさせた。

 

「あんたに負けるって……ある意味才能だと思うけど」

「なにをー! あたしだって上達してんだぞ! 負けてただ転がるシャニー様ではないわ!」

「このレベルに負けるチェスとか、逆に興味が湧くよ」

 

 ここまで挑発されて退くなんて、天馬騎士がすたる。今日は勝つまで諦めないつもりで、気を取りなおしてもう一戦と駒をならべ始めたときだった。

 

「シャニー、ちょっといい?」

 

 ずっと机に座って計算器を走らせていたレンの声が呼んだ。その顔は昼のときと同じで、シャニーはルシャナと顔を見合わせると机に向かう。

 

「去年、ヴァルプルギスと戦ったときのこと……」

 

 ヴァルプルギス……嫌な思い出を呼び起こす名前だ。イリアにある聖天騎士団の筆頭騎士で、まるで歯が立たなかった。自然に眉が下がりそうになるのを笑って払う。

 

「あたしが暴走しちゃったときだね。それがどーしたの?」

「身体、ヘンにならなかった?」

 

 時々、レンはエスパーなのかと驚くことがある。

 彼女にあの時をぴたりと言い当てられて、シャニーは目を真ん丸にすると手品を見たかのようにわっと口を驚かせた。

 

「なった! すっごく胸が痛くてさ、もう戦うどころじゃなくて」

 

 あのときの激痛は思い出したくなかった。直接胸に手をねじ込まれて引きずり出されるみたいな、心臓を握り潰されるかのような痛み。声もあげられずに硬直したところへ、ヴァルプルギスの魔法剣を容赦なく浴びて本気で死を覚悟した。

 

「それで負けたって?」

「きっとそう! 絶対そう! なにっ、その目!」

 

 負けず嫌いを言っているとしかルシャナは思ってくれていないらしい。必死にアピールしても、はいはいと手で払われた。

 

「たぶん、セチがあの宝輪の力で引き寄せられたんだと思う」

 

 ヴァルプルギスは魔力をおびた宝輪を駆使して、いろいろ魔法剣を放ってきた。

 レンに言われてようやくピンときた。彼女が風の魔法剣を使うたびに激痛が走ったのを思い出したのだ。

 でも、ひとつ納得したと思ったら、それは新しい疑問を呼んだ。

 

「でも、最後のほうはぜんっぜん痛くなかったよ?」

 

 セチの力が暴走している間は、ヴァルプルギスがどれだけ魔法剣を浴びせてきてもまるで痛みなど感じなかった。それどころか、むしろ……心地いいくらいで。「ん。仮説どおり」こくこくレンがうなずく。

 

「シャニーがセチを開放したから。上位のエーギルは下位を吸収する」

「ふうん……魔法ってムズかしいのね。魔法は使えないし、エーギルとか意識したことなかったよ」

 

 あごに手を添えながら、眉をもつれさせるようにしてシャニーは天井を見上げる。

 レンはまだなにか言いたそうにじっと見つめてくる。視線を彼女に戻そうとしたら、後ろから嬉しそうな声がした。

 

「風の精霊様相手に、生半可な風のエーギルは通用しないってか。良かったじゃん、次は勝てるよ」

 

 たしかに、業火の魔(ソルバーン)人に火炎魔法が通用するとは思えない。

 あの連中を、次はぎゃふんと言わせられる。そうとでも思ったか、ルシャナは背中をぽんぽん叩いてくるけれど、応は返せなかった。

 

「あたしは戦いたくないけどね」

 

 次なんか無いに越したことはない。聖天騎士団はイリアの騎士団だ。手を取り合えるなら、そちらのほうが良いに決まっている。

 

「聖天騎士団がみんなを大事にしてくれるのが一番だよ」

 

 分かってはいる。聖天騎士団にそれを求めるのは、望み薄だと。

 ──聖女は犠牲を否定はしていない

 ヴァルプルギスはあの場ではっきりそう言い切った。今も同じことが繰り返されていないか心配だった。

 自然に手が祈りに結ばれる。そこへそっと重ねられた手。追っていくとレンの不安そうな眼差しがあった。

 

「シャニー。お昼も言ったけど、エーギルの開放、本当に気をつけて」

 

 そういえば昼にも注意されたのだったか。言われて思い出し、あっと口を開ける。

 

「ごめんごめん、すっかり──」

「私、シャニーが石になっちゃうの、嫌だよ」

「……へ?」

 

 いきなりレンが怖いことを口にして、さすがのシャニーも目が飛び出しそうになった。

 

「石ぃ?!」

 

 レンが冗談を言うとは思えない。彼女の瞳は震えて今にも泣きだしそうだ。

 

(なによ、石って……。あたしが……??)

 

 言われていることに頭がまるでついていかない。ただ、とてつもなく危険な話だとは分かる。ふいに脳裏に浮かぶロイの顔。いても立ってもいられずに、気づけばレンの手を取っていた。

 

「石ってどういうことなの?!」

 

 せっかくこれから勇気を振り絞って、一生ロイの傍にいられるように頑張ろうというときに。

 レンは唇を噛むと視線を外してうつむき、涙に濡れながら祈りをこぼす。

 

「エーギルを使い果たしたら、石みたいになっちゃう。もう……元に戻らない」

 

 エーギルを失えば石となり死を迎える。魔法使いなら常識であり、自身で制御するものらしい。そんなこと、魔法使いではないし、まるで知らなかった。

 何も知らず、限界を超えていつも戦ってきたが、髪が真っ白になって倒れるだけで済んできた。今、さらにその先へ行こうとしている。

 

「……無茶しないで。約束だよ」

 

 涙に真っ赤になりながらも、鬼気迫る眼差しでじっと見つめられてシャニーは言葉を失った。初代団長の剣がそんなに恐ろしい道だったとは。

 ──力を手に入れることは、新たな悩みを背負いこむことになる

 いまさらながらに、あの紳士の言葉が蘇ってきた。

 

(石……どうなっちゃうんだろう……────ッ!)

 

 思わずぞわっとして瞳が震え、何度も拒絶に首を振る。

 

「あ、あたしだってヤダよ! 気をつけなきゃ」

 

 自分の限界点を早く見つけなければ。あの紳士は言った。制御の仕方を見つけるまで、使ってはならないと。使わなければ限界は分からない。でも、制御出来なければ限界を超えてしまう。

 ロイの顔を思い浮かべ、新たに直面した壁に心がばたついて落ち着かなかった。

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