ファイアーエムブレム 紺碧のコントレイルⅢ   作:宵星アキ

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ひょっとして、セチってソルバーンさんよりイカれてるんじゃ。
それにしても……まさかあの人の名前を聞くことになるなんてな。
嬉しいけれど会いには行けないよ。だって、会ったら……。


うちのセチがたいへん失礼しました?!

 のどかな空が続く、フェレ西部の境界付近。山の中を白い街道が一本だけ伸びる光景は、まさに田舎と言ったところ。

 その静かな空が一点輝くや、音速の銀翼が平穏を引き裂いた。天馬隊率いるシャニーの目つきは、すでに隼のごとき鋭さを放つ。

 

「ミリア! レン! エアリアルドライブ準備!」

「ラジャ!」

 

 火を放ち暴れる者たちが遠くに見える。今日も電撃戦で一気に終わらせる作戦に決まり。強襲に備えて槍を握る手に力を込める。

 治安の良いリキアとはいえ、警備が行き届かないことも多い領地の境界付近は賊の住処らしい。こうしたところこそ、天馬隊の出番というわけだ。

 

「いくぞ、セチ! 精霊開放(オーバードライブ)!」

 

 ついてくるミリアたちの先頭を飛び、魔力を放出して彼女たちを包む。四騎の天馬が空に一列となって地表へ突っ込んでいく姿は青き彗星のよう。

 

「リーダー、エアリアルドライブ準備完了」

「このまま突っ込む! 射程に入りしだい攻撃開始! あたしの軌道から外れないでよ!」

 

 今日は新しい戦闘スタイルを試すと決めていた。レンは心配してくれるが、この力をものにできればもっとロイの役に立てるに違いない。

 一段と高くなる風切り音が緊張感を煽る。暴れまわる賊たちのもとまで、みるみるうちに距離が詰まっていく。

 

「天馬が弓に向かってくるたぁ、バカなヤツらめ! 蜂の巣にしてやるぜ!!」

 

 空に燃える青焔にいち早く気づいたのは、賊の中にいた弓使いだった。標的の太ももくらいある腕で、ぎりぎりと鋼製の弓を引き絞っていく。

 

 シャニーにも弓を構えるのが見えていた。隙だらけだ。弓使いの動きを捉えて避ける構えをとる。

 賊の手先から伝わる〝流れ〟。とっさに体が動き、天馬が矢の軌道から外れる。

 

「なんだと?! そんなバカな!」

 

 目元をゆがめた弓使いが絶叫している。

 まっすぐ飛んできた矢が天馬に触れそうなその刹那、矢は弾かれてあらぬ方向へ飛んでいった。

 レンの計算通り……後ろに親指を立てて彼女を称えたシャニーはゴーサインを出した。

 

「避けてみろ!! バレットストーム、バージョン・スプラッデ・スクアーロ!」

 

 レンとの混成攻撃をミリアが地表へと打ちこみ、クロスボウから放たれた暗黒彗星のごとき黒色の魔法珠が大地へ吸いこまれていく。

 今回は闇魔法(ミィル)バージョンのお披露目と聞いていた。地面が真っ黒に染まったかと思うと、闇に賊たちが飲まれていく。

 

「う、動けねえ……。──?!」

 

 天馬たちが過ぎ去った直後、闇の中から噴騰泉(ふんとうせん)のごとく突きあげ飛び散るボルト。身動きのとれない賊たちには為すすべなく、立ちあがるものは誰もいなかった。

 

「へっへー、どんなもんスか!」

 

 ゴーグルをずりあげたミリアが、クロスボウを掲げながら意気揚々としている。

 

「つぎの準備して! ルシャナ、指揮お願い!」

 

 その気になるにはまだ早いというものだ。前方からは、まだ大勢の声がする。

 そのままケリをつけるべく、シャニーは剣を引きぬき天馬から飛び降りた。大地を青焔の軌跡が吹き抜ける。

 視界のはるか向こうに巨漢が見えてきた。あれが大将だろうか。スキンヘッドの彼はまるで神話に出てくるオークのよう。とにかく巨大で、腕だけでこっちの腰くらいの太さに見える。あんなものが振り下ろす斧に当たったらなんて、想像もしたくない。

 

二の颯(ツヴァイ)・改! 万華の翔星(ジリオン・ミーティア)!」

 

 セチと融合した剣技で一気に距離を詰め、旋風で賊たちを跳ね飛ばしていく。

 

「ふふっ、どいつも隙だらけだ。稽古台には実力不足かな」

 

 セチが嬉しそうなのは、今日は一段と人数が多いからに違いない。リキアに来て最大規模と言えるだろう。どいつも色あせたシャツ一枚で、太い腕は日に焼けて真っ黒だ。こっちの肩幅の二倍はあるだろう巨体で大地を揺らしながら、赤黒くなった斧を振りかざし獣のような雄たけびをあげて襲ってくる。

 

「セチ! ちょっと強めにいくぞ!」

 

 これだけの手合に、仲間の第二波まで一人でしのぐには分が悪い。あの感覚は怖いが、慣れていくしかない。今日はいつもより、もう少し先へ行ってみる。

 

「ふふっ、たのしみだよ。キミの成長を見せてよ」

 

 来るのを待っている──セチの声からそんな気持ちが滲んでいる。彼女を信じて少しずつ魔力を開放していく。……ふいに襲う、意識と視界が切り離されそうになる感覚にぐっと奥歯を噛みこんだ。

 

(くっ……この飲まれる感じ……でもっ)

 

 自分の体なのに外から眺めているような感覚は、ヴァルプルギスと戦ったときと同じだ。ここで退いては、今までと変わらない。

 さらにギアを上げ魔力で目を翠緑に輝かせたシャニーは、天馬を呼ぶと宙へ飛びあがった。

 

「セチ、一気に決めるからね! こんなの持たないよ!」

 

 合図といっしょに、シャニーは槍を地上に投げつけた。ただの槍なんかではない。魔力を込めたとびっきりの一発は、大地に突き刺さって賊にかすりもせず。

 ここからが本番と言うものだ。旋風うずまく槍はあたりを全て巻きあげ始め、猛風となって巨漢を木の葉のように中心へと飲み込んでいく。屈強な両腕で壁にしがみついていた者も壁ごと崩された。

 

「なっ、なんだこれは?!」

 

 ひときわ巨体の頭領でさえも、足が地面をえぐり踏ん張りきれない。少しずつ巻き込まれていく彼らへ急降下した白き流星が、身動きの取れない者たちを容赦なく槍で跳ね飛ばしていく。

 そろそろいいだろう。終いにするべく彼らの背後にふたたび飛び降りたシャニーは、抜刀して顔の前に掲げる。

 

「黎を払う風──白銀につどい道を切り拓け!」

 

 刀身へ青焔(エーギル)を滾らせる。セチの魔力で激しく揺らめく鋒を、天へと掲げて一気に飛びだした。

 

終の太刀!(イクシードアーツ) 旋牙天翔剣!!(リベリオン・シルフィード) はあああっ!」

 

 宙を滑りながらすり抜けざまに振りおろす渾身の一閃。青焔たぎる狂乱の風刃がその場を刻みあげ、巨槍のごときダウンバーストがうなり貫く。

 刃が切り裂いた衝撃波はかまいたちのよう。風の渦から辛うじて逃げ出していた賊までも飲み込んで、はるか彼方まで突き抜けていた。一網打尽とはまさにこのことだ。

 

「よしっ……、ミッションクリアー」

 

 消耗が大きいみたいで、肩で息をしないと追いつかない。膝を突き、それでも支えられなくて手も地に突いた。大技を一発くり出すだけで、まだ精いっぱいか。

 

「おつかれさま!」

 

 ようやく息を整え、降りてくる仲間へ手を振る。疲労感は大きい。それ以上に、今日も被害なく終えられて安堵が心に広がっていく。

 

「ひゃー、シャニーはどこまで登っていくんスかね。一騎当千ってヤツっスね!」

 

 相変わらず不安げなレンの視線が一瞬目に入ったが、はしゃぎながら駆け寄ってきたミリアに引っ張られた。褒められるのは嬉しい。それでも、彼女の肩を借りて立ちあがり首を振った。

 

「使わないに越したことはないんだけどね」

 

 平和が良いに決まっている。本当にしたい仕事は別にある。今日だって、この近辺の村々に顔を出して困りごとを聞くつもりだ。

 

 太刀を収め深呼吸して本来の任務に戻ろうとしたときだった。ふいに背後から聞こえてくる拍手。皆であたりを見渡す。

 

「その通りだな」

 

 隠れるつもりもなさげな巨漢が視界にめりこんだ。赫の怒髪。炭のように焼けた黒い肌は、緑が広がる光の地では異様に目立つ。サングラスをした長身の彼は、今も口元に自信あふれる笑みを浮かべながら柏手を打っている。

 

「ソルバーンさん?!」

「シルフィードダ(妖精の死舞踏)ンス……良いモン見せてもらったぜ」

 

 そこにいたのは業火の魔人だった。彼は親しげな口調で話しかけてゆっくりと距離を縮めてくる。興奮を隠せないらしい口元がニッと吊って、黒い肌のなかに白い歯が好戦的に光る。

 

(あたしを追ってきたのか……?! くっ、こんなところで暴れられるわけにはいかない)

 

 さっきの一戦で、魔力のほとんどを使ってしまった。目の前には、一度も勝てたことのない魔人がいる。

 

「相棒、疲れてるなら私が表に出ようか(・・・・・・)? 本場の手本も見せられるし?」

「あたしがやる!」

 

 セチがこれ見よがしなことを言ってくる。押し込んで、魔力を開放し剣を抜いた。そのとたん、ソルバーンの足が止まる。

 

「おいおい、なんのつもりだ? 血の気の多い奴だな」

 

 血の気で出来たような魔人に、そんなことは言われたくない。震える足元を踏み固め、霞に構えて魔人を見据える。

 

「どうせあたしを追ってきたんでしょ?」

 

 それを口にするや、あたりには豪胆な笑い声が響く。ソルバーンの野太い声は腹が震え、それだけで戦慄を覚えるほど。

 それでも、彼の足は止まったまま。なにより、いつもの熱気を感じなかった。

 

「……ま、周りの連中もそれなりになってきたようだし? 頭からかじれば、少しは味がするかもしれねえが……」

 

 舌なめずりを始める彼にぞわっと寒気が走った。ミリアたちもたまらず武器を構えだしている。

 あいかわらず、ソルバーンは腕を組んだまま、それ以上近付いてくる素振を見せてこない。

 

「俺は信用を大事にするクチでな。わりいが付き合わねえぜ」

 

 止めろと手で払い、まっすぐ見下ろしてくる。イリアの傭兵なら分かるだろう──サングラス越しでも彼の目がそう言っているのが伝わってきた。

 

「……信じて良いんだね」

「デートの誘いを断るのは男が廃るってもんだが……ここはイリアじゃねえ。手は出さねえよ」

 

 息をごくっと飲む。これほどの実力者が、だまし討ちなどするはずもないか。覚悟を決めて魔力を解き剣を収めた。背後に目配せして仲間たちの武器も降ろさせ、丸腰のままソルバーンを目で突く。

 警戒は解けない。彼の武器は拳闘だし、なにより魔導書がなくても烈火を飛ばしてくるような男相手に。

 

「じゃあ、なにしに来たのさ。こんなところに」

 

 強者と戦うことが己の価値などと言う彼が、こうして姿を見せる理由なんか一つしかないと言えるだろう。なのに、彼は不思議なことを聞かれたように、額にしわを寄せて首を傾げている。

 

「俺も傭兵だからな。仕事がありゃどこにでも行くさ。……仕事なら、どこでも喰えるからな」

 

 騎士道に縛られない彼ら銀狼の旅団は、依頼さえあればどこへでも飛んでいって暴れまわる殺戮集団だ。

 彼が発した最後のフレーズにゾワっと警戒心が逆立ち、剣に手がかかる。

 

(やっぱり?! 誰に雇われたんだ?!)

 

 もしかして……嫌でも団長の顔が浮かんでしまう。リキアに飛ばしてまだ足りないと言うのか。

 ソルバーンの腕は解かれないまま。それどころか、見透かされているのか、口元には嘲りが浮かびだしている。

 

「信用してねえ顔だな。能天気だった頭も、ずいぶん回るようになったじゃねえか」

「なんだと!」

「安心しろよ。今回の標的はお前じゃねえよ」

 

 こちらから抜くわけにはいかない今は、挑発されても彼を信じるしかない。剣から手を離して一歩退いたら、後ろから矢のような声で押し出された。

 

「何しに来たか、リーダーが聞いてるんスよ!」

「あぁ……? 誰だテメェは?」

 

 早くいなくなれと威嚇でもしたつもりみたいだが、相手が悪すぎる。

 ソルバーンに一瞥されたとたん、飛びあがったミリアがすごすごと後ろに隠れてしまった。

 代わりにじっと睨んで、シャニーは目で同じことを問う。

 

「元気か見に来ただけだ。せっかく気づいたのに腐ってもらったら困るしな」

 

 彼の言葉にシャニーはぎょっとした。やはりまだ、彼は獲物を見る眼を注いで舌なめずりしているのだ。

 

「このくらいで腐るもんか」

「ハッ、居場所を見つけたようだな?」

「おかげさまで。もちろん、必ずイリアに帰るけどね!」

「先代以上……か。フッ、イドゥヴァが焦るのもうなずけるぜ」

 

 母とイドゥヴァの名前が出て思わず心が引っ張られたが、なんとか抑えこんで背を向けた。

 

「おあいにく様だけど、あたし達も忙しいから失礼するよ」

 

 早くこの男から離れた方が良いと第六感が叫んでくる。仲間たちを後退させ、彼らが天馬のもとへと戻ったのを後ろ目に確認すると、ホイッスルを吹いて相棒を呼ぶ。

 

「……精々、剣を鍛えておくんだな」

「なによ、いきなり」

「それとも、賊を蹂躙して悦に入るような剣だったか? セチの剣ってのは」

 

 驕慢な言い草を続けられ、眉が吊りあがる。彼は説教を垂れにわざわざ来たというのか。

 言い返そうとしたときだ。ふっと意識が後ろに引っ張られた。

 

「フッ、見てるといい。相棒はキミなんか目をつぶっても倒すようになるさ」

 

 まわりがギョッとしているのが見える。意思とは関係なく視線はソルバーンを突き刺し、勝手に体が動いている。なのに自分の視界は自由に動く。なにより……この口調……。

 

「ほう? セチか。久しいな」

 

 答えにたどり着いたのと同じタイミングで、ソルバーンが正体を口にした。

 

(のっ、乗っ取られた?!)

 

 仰天して声も出せないうちに、セチは嬉しそうに話を進めていく。

 

「ひさびさで私もウォーミングアップしたいし、相手してくれないかな? キミだって、戦いたくてウズウズしてるんだろ? ウィン・ウィンじゃないか」

 

 恐ろしい。魔人にケンカを売っているではないか。

 戦闘狂が喜ばないわけがない。ソルバーンはニッと歯が見えるほど好戦的に笑っている。

 

「そんな爽やかスマイルされてもねえ。わりいが、舞姫様(・・・)のお誘いでもパスだ。信用第一なんでな?」

 

 それは束の間だった。初めて見た。ソルバーンが舞台に登らないなんて。

 

「なんだよ、つまんないな。キミくらいなら、いい具合に遊べると思ったのに」

「千年前の原始人じゃあるめえし。どこでも遊んでいいわけじゃねえ。相棒にあちこち観光させてもらって、社会勉強するこったな」

 

 感覚がおかしくなってくる。まるでソルバーンが常識人に聞こえるから不思議だ。恥ずかしいというより恐ろしくなってきて、セチを頭の中から引っ張った。

 セチがつまらなさそうにしたかと思うと、今度は逆に引っ張られて、気づいたら視界が元に戻っていた。

 

「相棒、強くなってくれなきゃ困るよ。あんなヤツにバカにされたままじゃシャクだよ」

 

 頭の中から声がする。言われても仕方ない気もするが、言われっぱなしもたしかにシャクだ。

 

「言われなくても! でも、ソルバーンさんを相手するつもりはないからね」

 

 こんな狂乱に付き合うために剣を鍛えているわけではない。

 怒りの咆哮も魔人の哄笑の前では微風か。あっという間に飲み込まれて、あたりには侮蔑に満ちた太い声だけが響く。

 

「わりいな。嬢ちゃん程度なんぞこっちから願い下げだ」

 

 買いかぶるんじゃねえ──サングラスごしの目が伝えてくる。

 彼ははっきり言った。嬢ちゃん〝程度〟と。まだセチの力を全開に出来ていないのは確かだ。とは言え、彼の言い草は焦りを嫌というほど連れてきた。

 

(まだ……全然届いていないって言うの?)

 

 颯閃一刀流も、セチの力も、少しでも早くものにしなければ、いつこの男が襲ってくるか分からない。

 

「ディークに鍛えてもらったどうだ」

 

 まるで焦りを読まれたかのようだった。ソルバーンが口にした名前に、気づけば唇を噛んでいた。

 

「どこにいるか分かったら苦労しないよ。あたしだって会いたいのに」

 

 動乱以降、もう二年間も会えていない。聞きたいことは山とあるし、成長した自分を見てもらいたいとずっと思ってきた。

 

──次会うときは……戦場だ。敵としてな

 

 別れ際、彼はそう言っていた。

 会いたい。けれど一歩間違えれば、斬り結ばなければならない。

 戦場で会えば、自分ではきっと勝てない。殺される……その恐怖より、ディークに刃を向けることそのものが恐怖だった。向けられる自信さえない。

 

「そりゃ残念だったな。昨日会ったぜ」

「え……」

 

 飛び出しそうになる目を抑えられないまま、声も出せずしばらく立ち尽くす。

 あっさりと口にしてくれた言葉を、にわかには信じられない。このリキアにいるというのか、彼は。胸に拳を打ちつけて、無理やり詰まった声を押しだす。

 

「ディークさん、元気だった?! まさか、ソルバーンさん!」

「会っただけで喰ってねえよ。安心しろ、いつも通りだったぜ」

 

 天馬の上に手を突いて胸を撫でおろした。本当は、この目で無事を確かめたい。だけど、大好きだからこそ会いには行けなかった。傭兵である以上、会ったらそれは、別れのとき。どうしてこうも、傭兵という立場はこんなにもどかしいのか。

 

(ディークさん……元気かな。色々聞きたいこと、いっぱいあるし。でも……)

 

 強くて、何を聞いても答えてくれて。本当にたくましくて頼りになる背中だった。あの人なら、全て預けてついて行っても大丈夫だと、心の底から思えた傭兵の大先輩。そして、自身の道の師匠。

 今頃どうしているだろう。何とか戦場以外で会えないものだろうか……想いを馳せていると、ソルバーンのまとわりつくような笑いが絡んできた。

 

「にしても……お前が本当にリキアにいるとはな。おまけに颯閃一刀流に出会うとは。へっ、面白くなってきやがったぜ」

 

 不敵な笑みで察した。望んでいるのは、あくまで戦いなのだ。

 

「あたし達はイリアに帰る! 邪魔するなら容赦しない!」

 

 まだ魔人に届かないのかもしれない。それでも退けなかった。イリアには待っている人達がいる。彼らの信に応えるために、避けて通れないのなら立ち向かうだけ。

 これだけ火を噴いても、あっさり笑い飛ばされた。

 

「俺は嬉しいんだよ。同類同士……互いが昇華するのは見ていて気持ちが良いもんだ」

(この人と同類……魔人……)

 

 強気を崩さずとも、心の中では震えていた。一歩間違えれば、この業火の魔人と同じ道を辿ってしまう。ふるふると首を振った。そんなものは求めた剣ではない。

 

「今のお前なら……イリアをどうにだってできる。……そうだろ」

 

 心を読むかのようにソルバーンは聞いてきた。そんなことはないと叫ぼうとしたら、彼は視線を切った。後を追って見えてきた戦場の跡に、ぐっと言葉を飲み込む。生半可な部隊なら一人で壊滅するレベル。

 

「あたしの剣は、そんなために手に入れたんじゃないよ! ── 一緒にしないで!」

 

 一度は飲み込んだ言葉が、さらに押し固められた拳のように飛びだした。

 どちらも同じ……ソルバーンのニッと吊った口元はそう言っている。

 

「そのお前が哀れなもんだ。宿敵にぺこぺこしないといけないとはな」

 

 まるで心当たりのないこと言いだした。

 

「宿敵?? どういう────」

「……ま、剣を鍛えておけ」

 

 おまけにそれを聞こうとしたら、知る必要もないと言わんばかりに背を向けて歩きだしたではないか。慌てて天馬から下りると、彼は立ち止まって後ろ目に睨みつけてきた。

 

「いや……早くセチになれ。風の妖精」

 

 構わず走りだしてソルバーンの腕を掴もうとした刹那、彼はごうっと吹きあがった業火の中でフランベのように爆ぜ、火影の中へと消えてしまった。

 一人残されたシャニーは自身の胸をぎゅっと握る。

 

「セチに〝なれ〟って……どういうこと??」

 

 空に向かって問うても、もうあの男は返してくれない。ただ、今までとはハッキリと言い方が変わった。

 彼の本心がどこにあるか分からず、妙な胸騒ぎに心が掻きむしられるばかりだった。

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