ファイアーエムブレム 紺碧のコントレイルⅢ   作:宵星アキ

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騎士様!コイツらストーカーです!


敵は身内にあり?!

 昼下がりのフェレ城。昼休憩の時間を使って、シャニーは日向で昼寝を決め込んでいた。城壁に寄り掛かって目を閉じていると、じわーっと体中の疲れが溶けだして風に飛んでいく気がする。

 ところが、そんな穏やかな夏の風がふいに怒気を含みだして、シャニーはぱちっと目を開いた。

 

「シャニー! ちょっと!」

 

 勘が騒いだ直後、奥の曲がり角から爆風にも似たルシャナの声が響いてきた。慌てて飛び起きてきょろきょろと辺りを見渡す。まだ彼女の姿はない。

 

(うわぁ、あの声、絶対角生えてるよ! にーげよっと!)

 

 持ち前の素早さが一番に活きるときと言える。バネのように飛びあがり、声が聞こえてきた反対へ駆けだすと廊下を勢いよく曲がる。

 そのとたんだった。ドシンと何かにぶち当たって跳ね返されてしまった。床へ思いきりお尻から着地してしまい、顔をしかめながら何事か見上げて目が真ん丸になる。

 

「シャニーか、丁度良い! 今日も手合わせを!」

 

 アレンだった。彼は白い歯を見せて嬉しそうにすると手を取ってきた。

 

(だーっ!? なんでこんなときに!!)

 

 アレンに捕まり、背後からは突き刺すような視線。ついにルシャナに見つかってしまったらしい。足取りをさらに早めているのか間隔が短く、大きくなってきた。

 万事休すと覚悟を決め、首根っこを掴まれて猫のように大人しくする。

 

「アレンさん、申し訳ないですけど、シャニーは別の仕事があるんです。ミリアー! アレンさんとデートしておいで!」

 

 ルシャナはシャニーの様子を笑って見ていたミリアに指さした。さされたほうは目をぎょっとさせて固まっている。

 

「いやあ……ウチあんな激しい攻めはちょっと……」

「狙撃手殿か! うむ! なかなか経験できぬ戦い、ぜひ再戦を頼もうか!」

「はうあ……。受け止められない愛ってこういうのを言うんスかね……」

 

 アレンにとっては稽古ができれば誰でも良いらしい。ミリアは諦めたのかアレンに引きずられていった。今だけはミリアが羨ましい。

 

「で、シャニー。あんたちゃんと計算しなよ」

「あっ、イテ!」

 

 アレンたちを呆然と見送っていると、頬を手先で叩かれ意識を引き寄せられる。

 ルシャナの方を振り向くと、今度は頭をポコっと小突かれてしまった。何事かと反射的に頭を擦っていたら、ずいっと突き出されたのは予算表。ようやくルシャナの角の原因を知ったものの、とっさにへんな声が出た。

 

「えー! またあたしのせいなのー?!」

「この期に及んで逃げ出そうとでも言うの?」

「ち、ちょっと待ってよお!」

 

 手をバタバタさせて抗議したら、お前以外に誰がいる──そんなジト目が飛んできてブンブンと首を振った。今回ばかりは濡れ衣なのだ。ルシャナはそれでも信用している顔ではない。

 

「違うの?」

「違うよう! あたし今回やってないし、字違うじゃん!」

 

 その場で数字を書いて、予算書の中の字を指さした。

 これ以上ない証拠を突きつけたのに、ルシャナの眉がぴくっと動いたではないか。間違いを認めるどころかさらに険しくなってしまい、頭にビリっと戦慄が走る。身の危険を覚えてぎょっと後ろに退くと、両手を広げた彼女に鼻であしらわれてしまった。

 

「日頃の行いってヤツだね」

 

 入団からずっと十八部隊の予算書を担当してきた。たしかに、合っていたためしがない自覚はある。イリアにいた頃は、ウッディが見てくれるおかげで問題にならなかった。

 しかしながら、ここはリキアだ。遠方から発送して間違っていると厄介ということで、最近はルシャナがチェックしていた。

 どちらが部隊長か分からない状態ではあるものの、今回の間違いは本当に自分でないから気楽なもの。ルシャナもわかってくれて雑談が始まった……と思ったのが間違いだった。

 

「あたしほど良い人なんて──」

「やってないってことは、誰かにさせたんだよね?」

「え゙っ……?!」

「仕事をサボるような奴が善人であるはずないでしょ」

 

 まさかそのコースで攻めてくるとは思ってもいなかった。ギクッと目が点になって口元もフリーズする。

 

(うげげ……今日のルシャナはキレが違うぞ)

 

 まあいいじゃん──なんていつものように言ったら、しばきあげられそうな空気だ。

 必死に弁解の言葉を探す。なんだか、推理ものの犯人役みたいに追い詰められた感じになってきた。でも、彼らのように頭がキレるわけでも、用意周到にしたわけでもないから、斬り返す言葉など思いつかない。

 

「ほ、ほら、人には得手不得手ってモンがさ」

 

 ほんの出来心……とは言えずにそれっぽいことを口にしてみるが、ぜんぶ見透かされている気がする。

 こちらの言い訳などもう聞いてもくれず、ルシャナは辺りを見渡している。嫌な予感がして一緒にきょろきょろすると、じっと見つめる“共犯”の視線とすぐにぶつかった。

 

「レン、何で手を打ったの」

 

 問われた本人より、シャニーの方がドキンとして髪を逆立てた。レンに視線を向けても、彼女は申し訳なさそうに眉をひそめている。

 

「……パンケーキ」

(ああああ! レンの裏切りものぉ……!)

 

 レンは素直に白状してしまった。体中をビリビリ悪寒が走って頭が真っ白になったところに、ギンとしたルシャナの視線が刺さる。

 もうダメだ。静かに俯いて、大人しくルシャナから説教を受けるべく身構えた。大丈夫だ、命までは取られない。いや……殺されるヤツか。味見のように、さっそくお尻を引っ叩かれる。

 

「まったく、あんたってヤツは。こんな不真面目でロイ様が幻滅したらどうするつもりなの」

「うー……ご説ごもっともですけどぉ……」

「ふらっといなくなったと思ったらデートに行ってるし、予算はサボるし、部屋で下着のままふらふらするし」

 

 もう一度頭を小突かれて、あれこれと前科の数々を浴びせられてウンザリだ。まるめた予算表で頭をパシパシされてもガマンしていたが、最後のフレーズを聞くや火山が爆発した。

 

「最後のはあたしだけじゃないじゃん!」

「シャニーとミリアだけだと思う」

 

 共犯だったレンに今度は背後からグサっとやられた。

 そこくらいは味方して欲しかったのだが、絶対に違うと侮蔑の眼差しが飛んでくる。ルシャナに視線を送っても、やっぱり返ってきたのはジト目だけ。追い詰められてカックリ首を折る。

 

「おっ、そう言えば明日だよね? 愛の告白」

 

 叱り終わって満足したのか、ルシャナが話題を変えた。

 よくぞ聞いてくれたと、それまで懺悔に沈んでいたシャニーがばっと顔を上げる。ロイにごはんをご馳走するそのときが、ついに明日と迫っていた。

 

「うん! ルシャナ、二人をお願いね」

「ああ、任せておいてよ。そんなことよりさ」

 

 ルシャナに任せておけば、ロイだけに集中できる。あらためて頼もしい言葉を聞けて安心した──はずだった。

 ずいっと顔を寄せてきた幼馴染の顔には、いつもの厳しい副将としての顔はない。もうこれだけで、ぞくっと嫌な予感がわっと広がった。

 

「また下着でお出迎えすんの? 何色で攻めるのさ? 赤? 黒? 金とかか!」

 

 酔っているときのノリをそのまま持ってきた感じにガンガン攻めてくる。壁に追い詰めて白状するまで離さないと言わんばかり。焦って視界を逸らせば、背後では何をメモするつもりか、レンがペンを握っているのが見えた。

 

「えへへ。それはねー、ヒミツ!」

 

 適当に返し、隙を見つけてルシャナの脇からするっと脱出する。すると、彼女はとんでもないことを口にした。

 

「おーッ! やっぱり? この前、お店に行ってたからそうだと思ったよ」

「え、あれはふつーに……って! なに後つけてんのさ!」

 

 目にボッと火が走り、また火山が爆発した。

 まるでストーカーだ。部隊ぐるみでやられていたと思うとぞっとする。今も隠すなと肘で突いてくる幼馴染は悪魔以外に映らない。彼女は諦めてくれないらしく、ポンと手を打ってきた。

 

「おっ、そうか、エプロンで襲うの? ねえねえ!」

 

 頬をぷにぷにと突いて迫ってくる。本当に応援してくれているのか分からなくなってきた。もしかしたら、連れ出すと言っておいて天井裏に潜んだりしないだろうか……悪い汗が垂れてきた。

 

「ヒミツったらヒミツなの! ふつーに応援してよ!」

 

 ルシャナのニヤニヤに、今さらになって不安になってきた。このままだと変な方向に行きかねない。

 脱出を図り、電光石火に厩舎へと飛び込んだ。今日は夕方からオスティアまでロイを連れて行く予定だ。そのときに作戦を変えた方が良いかも知れない。

 

「予算表なら帰ったらやるからぁ! もう許してー!」

 

 仲間たちの足音が聞こえてきて、シャニーは堪らず弾丸のごとく空へと飛び出していった。

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