ファイアーエムブレム 紺碧のコントレイルⅢ   作:宵星アキ

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山の向こうで爆発音がして煙が上がっている──村人からの情報で現地に急行したシャニー達の前には襲撃された村が広がっていた。
村人たちが倒れる中、彼女は信じられない人物と再会してしまう。


最悪の再会

「ありがとね。本当に助かるよ」

「へへっ、そう言ってもらえたら嬉しいよ!」

 

 シャニーは人懐っこい笑みを村人に見せた。

 彼女たちは晴天の下、今日もフェレ領の村々を巡っていた。見回りと困りごとの聞き込み。リキアでももうすっかり溶け込み、村人たちとの関係も良好だ。

 

「困ってることあったら教えてね。叶えられるように頑張るからさ!」

 

 空に輝く夏の太陽が傍にもいる様な笑み。ニカっとするシャニーに、村人は口元を柔らかくしながらも不思議そうに言った。

 

「あなた達みたいな部隊は初めて見たよ」

「えへへ、どーも!」

「なんて言うかね、傭兵さんらしくないと言うか」

 

 傭兵──その言葉を聞いてシャニーは一瞬目を伏した。

 自身の立場をその言葉一つで片付けるもの。彼は間違ったことを言っていないけれど、何か距離を感じてしまう。「まるでリキアの騎士みたいだ」村人が続けた言葉は、褒めてくれたと分かっていても辛かった。

 

「傭兵だけどさ……」

 

 ぽつりと独白のように漏らしたシャニーは、村人をまっすぐ見つめ、爽やかな声で続けた。

 

「気持ちは同じだよ。あたし達もリキアを良くしたいって思うもん。みんないい人だし、幸せになって欲しい」

 

 イリアを忘れた訳では無い。

 でも、シャニーにとって、愛する人が治めるリキアは第二の故郷。骨を埋めるつもりで慈しんでいるつもりだ。そこには、正騎士も傭兵も無い。期間が過ぎたら金を受け取って帰ってしまうよそ者──そう思われるのは悲しい。

 

「失礼な事を言ったようだ。申し訳ない」

 

 その気持ちに気づいてくれたのか、村人はハグしてくれた。

 

「ううん。傭兵なんて思わずにさ、何でも教えてくれたら嬉しいな。勉強したいし、あたしたちだから思いつく事もあるかもしれないし」

「ああ。そうさせてもらう。いつも来てくれて頼りにしてるよ」

 

 彼らの気持ちを疑うつもりはなかった。彼らが心を開き始めてくれているのは、よく相談してくれるから伝わってくる。

 もっともっと、頼られたい。傭兵さん──そんな言い方ではなく、もっとこのリキアに溶け込みたい。その一心だった。最初は早くイリアに帰る事ばかり考えていたはずが、今ではリキアについてロイと夜遅くまで話す事も少なくない。

 

「おーい、シャニー!」

 

 その時だ。遠くから弾む声がした。

 騎士様とか、キミだとかばかりで、村人から名前で呼んでもらえるなんて初めてかもしれない。嬉しさに振り返れば、農具を担ぎながら長靴でガポガポ走って来る男性が見えた。声の様子からしても、何か焦っている様子だ。

 

「あれ。そんなに慌ててどうしたの?」

「山の向こうから煙が見えたんだ! 見てきてくれないか?」

 

 聞けば農作業をしていたら爆発音と共に煙が上がったと言う。

 シャニーはトンと胸に拳を当て、爽やかな声で即答して見せた。

 

「そう言う事なら天馬隊の十八番ってね! 任せて、すぐ見てくるね!」

 

 この辺りはサカとの境界で大小の山々が続く。フェレ城付近に比べると険しく、徒歩や騎兵では行くだけでも苦労が大きい。

 空を駆る天馬には地形など敵ではない。広いフェレ領のどこでもすぐに駆け付けられる機動力が、守備範囲と様々な困り事の吸い上げに買って来た。今回も、自分たちにしか出来ない大事な任務だ。

 シャニーは仲間たちに目で合図を送ると駆け出し、天馬に飛び乗って颯爽と空へと飛び出した。

 

「シャニー、山の向こうって……」

 

 風を切り、山を駆け上る。

 その途中、レンが腹に落ちないような顔で確かめるように問うてきた。

 

「うん、村があったはず」

 

 一旦はそう答えたが、シャニーも引っかかっていた。顎に手を添え、記憶を辿ってみて続けた。

 

「だけど、廃墟だったよね?」

「ん、前回も前々回も生活してる様子はなかった」

 

 広大なイリアに比べればフェレ領は狭い。暇さえあれば飛び回っている彼女たちにとっては、もはや庭のようなものだ。

 山の向こうも幾度となく足を運んだ場所。最初に村を見つけた時は、山と山の隙間にある隠れ家を見つけた気分になってはしゃいだもの。

 だが、覚えていた理由はそれだけではない。レンも言うから間違いない。あの村には誰も住んでいないはずだった。そこで爆発が起きて煙が上がる……どうにも理由が分からない。

 

「なんかイヤな予感がする。急ごう」

 

 第六感がざわつき、シャニーはトップスピードで山を跳び越えていった。

 

 

 

◆◆◆

 村が見えてきた。やはり、情報通り煙が上がっており緊急度は高そうだ。天馬に降下を指示し、あっという間に地面が近づいてくる。

 

「! みんな、見て!」

「負傷者を複数確認」

 

 シャニーの指さす先には人が倒れている。それも、レンの言う通り一人では無さそうで、家々からも煙だけでなく真っ赤な火が見える。

 村に火を点けて住民を虐殺する──賊のやり口か。

 

「一体どこにいたんスかね?」

「それも気になるけど後だよ!」

 

 誰もが抱いた疑問をミリアが口にしたが、シャニーは指示を叫ぶ。「全員、フォーメーションBで旋回!」

 襲撃が現実だとすれば、どこから狙われているか知れない。矢が届かないギリギリの高度を保ち、戦況を確認してみる。

 見えるのは、倒れた者と火の手が上がる家々だけ……──動いている者がいない。

 

「襲撃した連中が見当たらないね」

「降りて探そう。潜伏してるかもしれない」

 

 ルシャナの疑問にシャニーは即答して高度を下げだした。天馬騎士が降りるなど本来自殺行為だが、彼らは型破りな十八部隊だ。リーダー筆頭に、誰もが地上戦も心得ている。

 躊躇いも無く村へ降り立ち、すぐ倒れた者の傍へ駆け寄ったシャニーは首筋に手を添えて首を振った。

 

「……ダメ。事切れてる」

 

 シャニーには確かめなくとも分かっていた。

 ほぼ回避行動すら許されなかったと思われる袈裟斬りはかなり深く、相当の技量と腕力を持ち合わせた者の一撃だった事を物語っていた。

 こんな……達人クラスの剣を扱う賊などいるだろうか? 再び顎に手を添え、一つずつ可能性を潰していた時だった。

 

「そこのお前! 止まるっス!」

 

 ミリアが何者かを見つけたらしい。

 振り向き、彼女がクロスボウを向ける先へ視線を移したシャニーは瞠目したまま固まった。

 

「ディ……」

 

 それ以上先が、口が震えて出て来ない。

 そんな事、あるはずがない。でも、見間違えるはずも無い。

 驚愕と、絶望と。震える口が言葉を絞り出そうとするより先に、心が叫んでいた。ずっと会いたかった人の名を。

 

「ディークさん?!」

 

 ミント色の短髪、長身で逞しく引き締まる焼けた躰。目元や体中のあちこちに残る戦いの傷跡。上半身は開け、しゃれっ気の欠片も無い疲れたズボンにトレードマークとも言える大剣……──元〝たいちょー〟だ。

 

「ディークって、シャニーの師匠の?! こんな山賊みたいなのが?」

「ああ? 誰が山賊だ? 初対面に随分な言い方じゃねえか」

 

 ミリアの言い草に眉間を寄せて威圧してくる男。その声を聞いてシャニーはますます確信した。

 この男性はディークだ。ベルン動乱の終りに免許皆伝と一方的に突きつけて、一人でどこかへ行ってしまった恩師。

 

 その彼が何故こんな所にいるのだろうか? 

 おまけに、彼は村人を縄で縛り、連れて行こうとしているではないか。色々話したいし、事情だって聞きたい。

 ところが、彼はシャニーに視線を合わせるや、不機嫌そうに吐き捨ててきた。

 

「あんたがこの隊のアタマか? 部下の教育がなってねえようだな?」

「え……」

 

 あんた──ミント髪の男はシャニーに向かってそう言い放った。

 きっと違う人を見て言ったのだ。シャニーは左右を見渡したが、男性の視線はまっすぐ突き刺してくるし、きょろきょろしていたら指までさされてしまった。

 

「ディークさん?! あたしだよ! シャニーだよ!」

 

 堪らず叫んだ。

 どうして彼がこんな言い方をするのか分からず、半ばパニックだった。あんなに可愛がってくれたはずなのに、たかだか一年半で忘れてしまう何てあんまりではないか。

 

「ハン? ディークだ?」

 

 だが、男は更に眉間へしわを寄せ、困惑をありあり訴えながら両手を広げて決定的な言葉を口にした。

 

「わりいが人違いだな。俺はディークじゃねえし、お前さんも知らねえ」

「……!」

 

 言葉にならない乾いた声が漏れ、口元が震えて首が無意識に振られる。

 嘘だと言って──そう目で訴えても、威圧するような眼差しは変わらない。いつも敵に向けていた目で見降ろされ、崖から転がり落ちる様な気持ちで今にも卒倒しそうだ。

 

「誤解も解けたようだし、そこ退いてくんねえか?」

 

 ようやく静かになったシャニーを払うように手でジェスチャーし、男は歩き出そうとした。

 だが、それはすぐ止まり目元が不機嫌そうに歪む。シャニーは退くどころか一歩踏み込んで彼の目をハッキリ睨んだのだ。

 

「ディークさん……村を襲ったの、ディークさんじゃ……無いよね?」

 

 こんな事、聞きたくなかった。あるはずが無い。彼に限って、流儀を貫いてきたはずの彼が、まさかそんな……でも、状況的にそれしか考えられない。

 

「だからディークじゃねえっつの。ったく、しつけえガキだな」

「この人数を一人で……。ディークさんなら、やれちゃうよね?」

 

 男は威圧するが、シャニーはお構いなしで睨んだ視線を離さない。

 答えるまで動くつもりの無さそうな構えに、男は頭の後ろに一度手をやってうんざりした表情を見せた。

 しかし、それは一瞬の事。鬼のように彫りの濃い眼光が稲妻の如く走り、シャニーを貫いた。

 

「……もし俺だと言ったら?」

「こうするだけだよ!」

 

 声が聞こえた時には、もうシャニーは風に弾けるように駆け寄り、引き抜きざまの一閃を浴びせていた。

 

「ちっ?! てめえ!!」

 

 引っ張っていた力から急に解放され、転げる村人。

 彼とミント髪の男の間に入るように立ち、シャニーは霞に太刀を構えて男を見据える。村人はこの機を逃すかとすぐ立ち上がり、脱兎の如く消えていった。

 それを後ろ目に確かめたシャニーは、太刀を握り直して怒りを叫ぶ。

 

「見損なったよ、ディークさん! 誰の依頼か知らないけど、流儀は通せって教えてくれたの、誰だったのさ!!」

 

 憧れの人の、まさかの凶行。腹からありったけ込めて焔の如き激情をぶつけても、男は舌打ちするだけ。それどころか、鼻で笑って見下ろしてきた。

 

「ハン? 毛も生え揃わねえガキが、何講釈垂れてんだ?」

「!! ディークさん! 目を覚まさせてあげるんだから!」

 

 口汚い罵りも、浴びせられたことはかつて無かった。その彼が今、敵を見る様な目で見下ろしてくる。

 許せなかった。その人柄も、仕事の仕方も、もちろんその剣も、強さも。その全てを憧れた人に、こんな裏切られ方をするなんて。

 目を血走らせ、シャニーは霞み構えの鋒をギンと突き向ける。その姿に、ミント髪の男は大きく息を吐き出すと再び頭の裏に手をやった。

 

「やれやれ……どうしてもってんなら相手してやるが」

 

 それは呆れだけでは無かった。

 そのまま背中へ手を伸ばし、担いでいた大剣をぐっと握って肩に乗せた。仁王立ちする姿から迸る威圧感は、まさに戦神だ。

 一体どこから攻め込めばいいか……攻め込むこと自体尻込みしそうな圧に押されながらも、シャニーは一歩にじり寄り叫んだ。

 

「みんな! 手を出さないで。あたしの師匠だ。あたしがケリをつける!」

「で、でも、めちゃんこ強そうっスよ?!」

 

 まさかの命令にミリアが飛び上がるが、シャニーは後ろ目で牽制して念押しした。

 

「うん、強いさ。めちゃめちゃ強いんだよ。あたしの師匠は。ホント……憧れの背中だった。ずっとずっと、ついて行きたかったくらい……」

 

 脳裏に浮かぶ憧れの背中。いつも彼の背中について戦った見習い時代。

 握る剣も、構えも変わった。それでも、彼の教えを忘れた事は一日とて無い。傭兵としての流儀も、戦士の気構えも、そして剣使いの心も。彼の背中から全てを学んできた。

 全ての礎を作ってくれた恩人。その人が、道を踏み外している。彼の流儀から外れた剣を握り、立ちはだかっている。

 

 震えてくる。

 見習い時代、あんなに大きく見えた人。シャニーだって強くなった自信はある。その自信を易々押さえ込む恐怖は、彼の強さだけ何かでは無い。

 こんな場面、決して来て欲しくなかった──その気持ちをぐっと押さえ込み、シャニーは自身に言い聞かせるように叫ぶ。

 

「だからこそ許せない! 行くぞ!」

「なんかすげえとばっちり食らった感じだが、しゃーねえ。それがてめえの流儀ってなら受けてやる」

 

 彼は左手をポケットに突っ込んでいて、まるで本気でないのをそれだけで伝えて来る。構えだけでも見透かされたか──未だ中伝にも届かない、半端なガキの剣だと。

 真っ向から勝負して勝てる相手ではない。シャニーはホイッスルで天馬を呼び、瞬く間に天空へと駆け上がる。その間、男は彼女の姿をじっと見上げたまま、剣を構える素振りも見せなかった。

 

(ディークさんなら……あたしのアレ(・・)を知ってるはず)

 

 相手は村を襲った賊だ──何度そう自身に言い聞かせても、まるで胸に落ちなかった。

 いまだに信じられず、シャニーはある策に出ることにした。人違いなら絶対に知らないはずの切り札で。もし、人違いで本当に賊ならそのまま倒してしまえばいい。ディークだと分かれば、その時は……。

 シャニーは左手に握る太刀を握り直し、高天から天馬へ急降下を命じた。

 

「でりゃああ!!」

 

 みるみる近づく男。彼は静かに構えを取り始めた。

 あれは燕返し──天馬やら飛竜やら、空から急襲する者を叩き落す対空技。稽古でディークから浴びてその威力は痛いほど心得ているし、その技を彼が得意としているのも知っている。あれを喰らえば、一撃で首を持っていかれる。

 未だに彼はその構えのままだ。完全に間合いを決めつけている(・・・・・・・)

 更に近づく距離。男が腰を捻り、一閃の準備を始めたその瞬間だった。

 シャニーは握る太刀そのままに、右手に槍を握りしめ、リーチに任せて突っ込んだ。

 

「────!! チィッ」

 

 男は面食らったようで舌打ちしている。左の太刀筋へとった構えに、突然右の槍が突き込んできたのだ。完全に槍の動線に入ってしまい、直撃を避けられない。彼は仰天を露にしながら防御態勢を取った。

 

(えっ……)

 

 驚いたのは男だけでは無かった。

 シャニーもまた瞳が震え、その震えは即、穂先の揺れに繋がった。見せた隙を男が見逃すはずも無い。

 

「鈍いぜ!」

 

 彼はコンマ秒の隙間に構えを解き、ポケットから引き抜いた左手で穂先を跳ね除けると、持っていた剣の柄を突っ込んできたシャニーのみぞおち目掛けて押し込んだ。

 

「しまっ……──かはっ……」

 

 天馬から叩き落され、態勢を整える前に後頭部へ手刀一発。糸が切れたようにシャニーはその場に転げて動かなくなった。

 

「あ、あわわわ……シャニーが一撃で?! よっ、よくも!」

 

 目を白黒させたミリアはシャニーの前に飛び出してクロスボウをミント髪の男へと向ける。その足はガチガチ震えて立っているだけで精いっぱいのようだ。

 シャニーを守るように集まって来て武器を構えだす女傭兵たちに、男は剣を背負い直して鬱陶しそうに両手を広げだした。

 

「おいおい、正当防衛って事にしてくれや。善良な一般人相手に、お前らの隊長が一方的に突っ込んできたんだからよ」

 

 男にそう言われても、ルシャナ達は困惑していた。結局、この男が村を襲撃したのか、シャニーの師匠なのか、何も分からないままだ。

 間違いないのは、あの状況でシャニーに浴びせたのは刃ではなく当身だったという事。今も剣は既に収めて戦意を感じさせない。

 

「それよか、あんた、コイツを引き取って退いてくんねーか? 今なら人の仕事を邪魔した件も含め、何も無かったことにしてやる」

 

 彼は戦意を見せるどころか、ルシャナを真っ直ぐ見下ろして交渉を持ちかけてきたではないか。

 それでも、リーダーをやられた手前、簡単には引き下がれずミリアがクロスボウを向けて威嚇する。

 

「さ、山賊が何を!」

「あん? 誰が山賊だ?」

 

 相手が悪かった。凄んだ顔に睨まれるとそれだけでぺしゃんこになりそうで、クロスボウを構えていたミリアの方が両手を挙げだした。

 

「ヒッ?! こっ、これが噂のバーサーカー?!」

「そうそう、それだ、それ。早く逃げねえと悪どくブッた斬んぞ?」

 

 男はさっさと話を切って場を離れたそうに、明らかに胡乱な事を言いだしている。もし、数日前の新聞で記事になっていた村の壊滅もこの男の仕業で、ここで逃がしてしまえば、また新たな被害が生まれてしまうかもしれない。

 とは言え、現有戦力では時間稼ぎすらままならない相手なのは明らか。

 

「分かりました。一旦我々は撤退します」

「ル、ルシャナ?!」

「シャニーを失うのは避けたい」

 

 ミリアが止めようと声を上げたが、ルシャナは彼女に言い聞かせるように続けた。

 

「それに、もうすぐ到着するはずだし」

「ハン……。そう言う事かよ」

 

 念の為、ランスたちにも連絡するように村長に伝え、早馬を出してもらっておいたのだ。

 男は納得したように一つ鼻で笑うと背を向け、独り言のように口にした。

 

「んじゃ、俺も騎士様が来る前にずらかるかね」

 

 未だ目を覚まさないシャニーを三人がかりで担いでいく天馬騎士達。男はしばらく後ろ目に眺めていたが、ふいに彼は「おい」と振り返って声を掛けた。

 彼は立ち止まった騎士たちのもとへ歩み寄り、呆れたような口調で忠告した。

 

「ったく、次は勘弁してくれよ? 良く確かめもせずに、無力な民間人に得物振るんじゃねえぞ」

 

 その視線は、明らかにシャニーを見下ろしている。

 とても無力な民間人とは思えない……誰もがそう思う威圧感を纏った男は背を向け、山の中へと消えていった。

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