ファイアーエムブレム 紺碧のコントレイルⅢ   作:宵星アキ

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シャニーたちは5ヶ月ぶりにイリアに帰還していた。
帰還辞令が出たわけではない。年に一度の実技試験だ。
騎士団の空気は少し変わったようにも感じだが、それだけでないような?どうにもお偉いさん方がソワソワしている。
下っ端には関係ないさと歩き出した彼女を、この場には無いはずの声が呼んだ。


雷轟のメガロマニア
英雄の帰還


 

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「まさかこんなに早く戻ってくるとは……」

 

 早朝の突き刺さるような冷気に包まれる団長室で、イドゥヴァは震えていた。

 その手に握られているのは一枚の紙。イリア連合会議への招集案内は、それ自体は驚くような話ではない。問題は、記されている署名だ。

 

「アルマ、何か聞いていますか?」

 

 見間違いを期待するように何度も署名を見下ろす。そのうち諦めたのか、まるで犯人探しでもしているような焦燥の眼差しが、ギッと右腕を睨み上げる。

 

「契約案件が早く片付いた故の前倒しと聞いていますが」

 

 あっさりとした口調で淡々と説明するアルマから視線を外したイドゥヴァは、ギリギリ歯ぎしりが聞こえそうなくらい口元を歪めて視線が左右する。

 

「くっ……タイミングが悪すぎる」

 

 会議の開始時刻は8時。いつも夕刻から始まり、そのまま会食の流れのはずが早朝開催だ。

 準備する時間すら与えない。──そんな意志を感じさせる異例の事態が待ち受けるのは、招集よりむしろ喚問を誰もが予感するだろう。

 

◆◆

「では、事前のアジェンダに関する議論はここまでとする」

 

 エデッサ城で開催された連合会議は、20を超える騎士団長達が円卓を囲むことになった。異様な緊張感に包んだまま、盟主ゼロットによって進行されていく。

 誰もが他の騎士団長に目をやり首を傾げる。仕事が早く済んだからとはいえ、内容自体は定例を崩してまで急ぐような事案とは言いがたい。

 ここまで来たら、「本日はこれで終了する」その言葉を待つばかり。

 

「ひとつ小耳に挟んだのだが、イドゥヴァ団長」

 

 ここまでは前座とでも言うのか、なかなかそうは行かなかった。さながら木管楽器のような深い声をさらに低くしたゼロットが厳しい眼差しを向ける。

 

「は、はい……」

 

 肩をギョッと跳ねあげ、名指しされたイドゥヴァは重く席を立った。どの騎士団長も視線逸らすばかり。他人事で良かったとでも言いたげにホッとする者、それみろと鼻で笑う者。反応はそれぞれだが、そうそう援護を期待できる空気ではない。

 

「第十八部隊をリキアに出向させているのは事実なのか?」

「え……ええ。四月末にリキアへ出発しています」

 

 普段の冷厳さが嘘のような歯切れの悪さが、大会議室の重い空気をさらに淀ませる。

 金縛りを受けたような空間の時を動かしたのは、ゼロットの深いため息だった。

 

「直截に言わせてもらうが、非常に失望している」

 

 落胆や怒りすら滲む口調と共に厳しい視線を浴びせるが、イドゥヴァはただ頭を下げるだけ。

 理由を語らない彼女に業を煮やしたか、槍のように鋭く切り込んだ。

 

「今後、イリア連合として礎を固める大事な時期に、民の声は何より重要だ。その聞き手をなぜ解任した? 納得のいく説明をしてもらいたい」

 

 十八部隊の活動を評価し、勲章を与えたその人が怒るのは必然だろう。それだけに留まらず、イリア連合として活動の強化を各騎士団長に指示した手前、顔に泥を塗るような真似をされたわけだ。

 答えるまで終わらない……ギンと突く眼光を浴びてイドゥヴァが唇を噛んでいたときだった。

 

「だからこそでございます」

 

 横に座っていたアルマが手を挙げるや立ち上がり、重い空気に流れを呼ぶ。

 一瞬で注目を奪った彼女は、ハキとした声で怒りの眼差しに真っ向勝負を仕掛けた。

 

「今後の加速的な変革に備え、リキアの先進性を取り入れる必要があると判断いたしました。熱意ある者への投資……そう、ご理解いただけたらと存じます」

 

 あちこちから感嘆や納得の声があがり、焼き石が蒸気を噴くように場の空気がたちまち熱を帯びる。

 若き一手に淀んだ時間が元を取り戻すかに思われた。

 

「……それだけか? にしては、期間が長いようだが?」

 

 相手はイリアの賢人ゼロットだ。耳触りの良い言葉をつらつら並べるだけで納得するような、底の浅い人物ではない。彼は的確に矛盾を突き、傍観者になりかけていたイドゥヴァの眉間がぴくりとした。

 それでも、アルマはポーカーフェイスを少しも崩さない。

 

「もちろん、リキアでの天馬騎士団の基盤拡大も担当させております。リキアでの活躍はお耳に入っていると思いますが」

 

 沈黙が広がる間もなく、まるで先を読んでいたかのようだった。自信に満ちた強い声が、しゃきっと活舌よく部屋に響く。

 それを聞くとゼロットは「ふうむ……」と漏らし、机の上で組んだ両手を見つめていたが、しばらくしてまたアルマを見上げた。

 

「そちらのほうは、期待通りと言うわけか?」

「はい。いえ、少々、出来すぎぐらいですね」

 

 以前もロイの発言として、世界的な新聞に十八部隊の活動が小さくない枠を使い掲載されていた。

 ロイとのパイプに天馬騎士団の宣伝。それだけで十分な成果であり、ここに来てリキア同盟から勲章を賜ったとなれば、ゼロットの耳に入るのは必然と言えるだろう。

 

「ならば、十八部隊には遠くないうちに帰還辞令を出すのだな?」

 

 それだけ動ける部隊を、変革期のイリアの外に置くなどあり得ないと言うわけだ。問いはむしろ命令に近い。騎士団間の運営不干渉の掟が、ストレートな言葉を封じているだけに他ならない。

 

「はい。検討しております」

 

 アルマも理解しているのか迷いはなく、まるで示し合わせていたかとさえ取れる流れるような返答。

 しばらくの沈黙は同意の証か。ゼロットが視線を外しかけた時だった。

 

「ですが、ロイ様が離してくださるかどうか。いまやリキア同盟の仕事にも、彼の命令で動いているとも聞きますし」

 

 言外の圧が包んだ部屋に、待ったをかける声をあけだのはイドゥヴァだった。

 ロイの名前が出たとたん、ゼロットの顔にじわり葛藤が滲む。

 

「ロイ殿は以前から欲しいと言っていたからな……」

 

 動ける人材を欲しているのはどこも同じ。平時以上に、戦後復興の変革期にある今はなおさらと言える。

 あまつさえ、十八部隊は少なくとも1年は縛られている身。契約の反故がイリア騎士最大のタブーだと、イリア筆頭の頭に無いはずあるまい。

 再び頭を下げたイドゥヴァの口元に薄笑いが浮かぶ。

 

「状況は分かった。この件はまた報告してくれ」

 

 グッと言葉を飲み込むようにして表情を戻したゼロットは、そう切り上げて閉会を宣言した。

 

◆◆

「アルマ、どういう事ですか。帰還辞令の検討など聞いていませんよ」

 

 会合の帰路での道すがら。天馬の風切り音を押し退けて、イドゥヴァの尖った口調がアルマに絡みついて突き刺す。シャニーの管理をアルマに一任している彼女にとって、寝耳に水だったようだ。

 

「もちろん、フェイクですよ」

 

 それでも、アルマは表情を変えないままそう言って続けた。「あの場であれ以上荒だてても無意味ですから」

 一見はその通りかもしれないが、イドゥヴァの表情から苛立ちは消えないまま。無理もないだろう。あの勢いで問い詰めてきたゼロットに対しての回答は、検討で済まないのは明らか。

 

「しかし……このままだと長くは持ちませんね。まさかリキア同盟から勲章が出るとは……」

「ええ。ロイ様だけでなく、完全にリキア同盟を味方につけた形です」

 

 イドゥヴァにとっては、リキア同盟の動きが完全な誤算だったようだ。いくら天馬騎士団団長の肩書を使おうと、同盟の動きに各領主が逆らうとは考えにくい。

 あまつさえ、副同(ロイ)主付の特命部隊なる肩書きがついた、リキア同盟の組織図が回ってきたのはつい最近。

 

「ここは……ひとつ利き駒を打ちますか」

 

 風雲急を告げ、まるでチェスのごとく状況は急転しつつある。好き勝手に動き回るのを、このままただ眺めていても悪化するばかりだろう。

 騎士団へ戻ったイドゥヴァは、ずんずんとエントランスを抜けかけたが、人だかりの前で一旦止まった。

──首席:シャニー(第十八部隊)

 

「……さすがあの人の娘ですよ」

 

 2階テラスから垂れ下がる順位表の最上位を見上げ、ギリっと噛み砕いた彼女はツカツカ歩き出した。人混みから外れたところにいた騎士に照準を合わせ、まっすぐ向かっていく。

 

「マリッサを呼びなさい!」

 

 いきなり肩を掴まれ浴びせられたヒステリカルな声に、その騎士は返事する余裕もない様子で何度も頷き飛び出していった。

 

◆◆

「ふうっ、終わった終わったー」

 

 オレンジを絞るように顔をギュッとさせながら、うんと気持ちよさそうに伸びしてシャニーが声を弾ませる。

 イドゥヴァが騎士団に帰還した同刻、シャニーたち十八部隊も天馬騎士団の本拠地カルラエ城にいた。帰還辞令ではなく、一時的な帰国だ。天馬騎士には毎年一回、乗馬の実技試験がある。それは出向者とて例外ではなくこうして招集される。

 一度叙任を受けている以上、実技で落ちるなど戦傷者以外に前例は無いらしい。去年は面倒だと思った試験も、今年はうずうず待ち侘びてきた。

 

「じゃあ、みんなに会いに行こうか」

 

 試験を終えたシャニーはさっそく仲間たちを引き連れて、さっさと城に背を向ける。

 待ち時間で他の部隊長とは挨拶できたし、4月まで使っていた詰所もすっかり物置になっていた。あらためて気持ちに整理がついた以上、留まる理由などない。

 むしろ本番はここからだと言うのに、ルシャナがさっそく突いてきた。

 

「お、あんたなら腹減ったって言うかと思ったけど」

「なによ。それしか言わない女とか思ってない?」

「まさか〜。そこまでじゃないから安心してよ」

 

 さすが幼馴染。10年以上の付き合いは伊達ではない……そう言いかけたときだった。

 

「食うことと剣のことと、ロイ様のことくらいかな」

「な、なに、その本能だけで生きてます! みたいなの!?」

「剣ってあんたにとっちゃ本能なのか……」

 

 まだまだ弄り足りないと言いたげなルシャナの後ろで、ミリアとレンが助けるどころかクスクスしている。

 

「キャハハ、言い得て妙だね〜。じゃ、これからも本能に忠実に稽古しよっか?」

 

 おまけに、頭の中からまでセチのケラケラが響いてきてとどめを刺してきた。いったい誰のせいで剣が本能だと勘違いされているのやら。

 このまま内から外からサンドバッグではぺしゃんこにされてしまう。すぐに咳払いして話を元に戻す。

 

「ごはんは夕飯にとっておけるけど、みんなにはお昼しか会えないもん。だから試験も朝イチにしてもらったんだし」

 

 旅立ちを笑顔で送り出してくれた村の人たちやユーノに、活躍や元気を伝えるチャンスはこの一日しかない。一時帰国は日時も決まっているし、リキアでの仕事もある中で長居はできないのだ。

 お腹はぐーぐーアピールしてくるが、急足で厩舎へと向かう。

 

「それにしても、シャニーは今回もぶっちぎりだったッスね」

「えへへー、それほどでも!」

 

 誉め言葉はすっと心に入ってくる。特に賞とかはないが、ミリアとハイタッチして2年連続の首席を祝う。

 試験二日目の十八部隊が最終で、騎士団内にすぐ順位が掲載された。姉二人にヘロヘロになりながら仕込まれ、ベルン動乱で揉まれて磨き上げた乗馬術は誰にも負けたくない、言わば天馬騎士たらしめるものだ。

 

「あんたさー。あんだけぶっちぎりって、やっぱり精霊の力とか使ってるの?」

「あーっ、それインチキじゃないっスか!」

 

 それなのに、ルシャナがあからさまに怪しむ目でニヤニヤしながら、わざとらしい口調で囁いてくるものだから口がへの字になった。

 それだけならまだしも、ミリアまでもが頭からカッカと湯気を出しているではないか。

 

「ホントに使ってないって! 試してみたけど、自分にしか纏えないみたいで天馬はダメっぽい」

「やっぱ試したんじゃないっスか!」

「あ゙っ、えっと、いや! 稽古のときだから!」

 

 誘導尋問でもされているかのようで、さながら推理小説の犯人役にでもなった気分だ。

 おまけに焚き付けた張本人のルシャナは、してやったりの表情で故意犯に違いない。その彼女はさも驚いたように笑って酷いことを言った。

 

「あんた、地上にいた方が強いんじゃ」

「そーかな。制圧力か突破力かの違いじゃん?」

 

 天馬に乗っていてもセチの恩恵はやはり大きい。矢から天馬を守ってあげられるし、魔力を込めた投げ槍は、とりわけ広範囲をカバーできる。天空の騎士と歩兵では、とにかく場の制圧力が違うのだ。

 

「使い分けってことっスね! 壁か囮か」

「そうそう──って、どうしてその二択なの!」

 

 どうやらミリアにとっては、セチの力があろうがなかろうが、クロスボウの掃射範囲に敵をぞろぞろ引きつれる役でしかないらしい。それどころか、セチのおかげで矢が弾かれる分、やりたい放題なのだろう。

 

「まったく、インチキだの囮だの。精霊をなんだと思ってるのやら。しっかり教育してくれないかな、相棒?」

「あたしのせいなのぉ?!」

「じゃあ、私が分からせるから、体貸してくれるかな?」

「ぐっ……」

 

 セチのご立腹はごもっともだが、こんな世間知らずの戦闘狂が野に放たれるのを想像するだけで、ゾクゾクとおぞましい。下手すれば世界ごとぶった斬ってケラケラしていそうな予感さえする。

 世界の平和を守るため何とかやり過ごそうと、いそいそ歩調を早めた時だった。

 

「シャニー、ここにいたのか」

 

 知っているはずの声に違和感を覚えて辺りをきょろきょろしてみる。たしかに知ってはいるが、この場で聞くことなどないはずの声だ。

 あちこち見渡していると頭を下げる騎士たちが目に入り、奥から白銀の鎧に身を包む黒髪の男性が、まっすぐこちらに歩いてくるのが見えた。

 

「え?! ゼロットお義兄ちゃん! どうしてここに」

「契約を終えて帰国したところだ」

 

 いくつも傭兵契約を渡り歩く予定で、年内は帰国できないと伝え聞いていた。

 それに、ここはカルラエだ。天馬ならエデッサから20分くらいだが、馬ではどれだけ飛ばしても3時間はかかる道のり。24時間働いていると噂されるほど多忙な義兄が、のんびり遊びに来るとは思えない。

 そんなことを巡らせているうちにゼロットが続けた。

 

「人伝に聞いたが、なかなか大変みたいだな」

 

 帰国したばかりなのに、さすがにイリア連合の盟主は耳が早い。さっきの言い方だと探していたようだし、わざわざ心配して声をかけに来てくれたのだろうか。

 

「リキアのことだね。うん、毎日大忙しだよ」

「ロイ殿のところに駐留しているのだったか?」

「うん。ロイ様に提案すると何でも任せてくれるんだ。すっごい、充実してる」

 

 一から信頼を築くのは大変だと思ったが、ある意味リキアの方がむしろやり易い。ロイと言う強い存在が全面に支援してくれるし、何よりどんどん任せてくれるから前だけ向いていればいい。

 内輪のためにぐずぐず時間と神経を費やさなくていい分、全力を注げて毎日朝が待ち遠しいと言うもの。

 

「そうか……。元気な声を聞けてなによりだ。ユーノも安心するだろう」

「お義兄ちゃんも無事に帰ってきてくれてありがとうだよ。それが一番お姉ちゃん喜ぶよ、きっと」

「ありがとう、一本取られたようだ。そうだな……ユーノを早く安心させてやらなければな」

 

 そうは言いながらもゼロットの目つきはどこか厳しい。何か思案しているように視線はちらりと外を向き、顎に手を添えだした。

 やはり、ただ騎士団に立ち寄ったような雰囲気ではない。何があったのか聞こうとすると先に「シャニー、ひとつだけ教えてくれ」ゼロットが口を開いて続けた。

 

「出向の理由や目的を団長から説明を受けて納得したのか?」

 

 これが、わざわざ探してまで聞きたかった本題というわけか。

 なぜそんなことを聞くのかまるで分からないが、怒っているのだろうか。自分がイリアを留守にした翌日に辞令が出たわけで、思うところがないはずもない。

 

「納得もなにも、総務の人から辞令を渡されただけだよ」

「なんだと?」

「だって、辞令渡された日は、イドゥヴァさん傭兵契約でイリアにいなかったし」

 

 想定した答えと違ったのか、ゼロットが驚きに目を見開いている。

 叙任騎士である以上従う他なかったにしても、ごちゃごちゃ言い訳しているようでなんだか嫌な気分だ。理由はなんであれ、彼との約束を果たせていないことに変わりない。

 

「でも、誓いは忘れてないよ。副団長とは話したし、目的を決めて、あたしたちなりの流儀で頑張ってるんだ」

 

 それでも言わずにはおれなかった。決して、イリアの民を裏切ったつもりはないと。

 

「活躍は聞いている。リキア同盟からスカウトされたりするのか?」

「へ? お仕事は手伝ってるけど、スカウト? とかはないよ?」

 

 今日のゼロットはなんだか妙なことばかり聞く。あまりに唐突で一瞬頭が凍りついて動かなくなった。

 リキアに来てからを思い出してみるものの、浮かんできたのはどこも門前払いだった最初の苦労ばかり。あれもイドゥヴァのせいだしゼロットに言ってやろうかと思ったが、火種を作って巡り巡ってまた干渉されるのはこりごりだ。

 リキア同盟との接点に焦点を当ててみても、勲章の授与式を飛び出してマリナスからたっぷり絞られた記憶だけ。とても言えるような話ではない。

 

「何言ってるの。ずっといてくれると助かるってロイ様言ってたじゃん」

 

 横から飛んできたルシャナの声が、頭に詰まって時が止まる。中で駆け回り続け、花火でも放り込まれたように目から星が出てバチンと突き抜けた。

 

「ル、ルシャナ?! あ、あれは違うじゃん!」

「……そうか。なら、心配は不要か」

 

 まだ言い足りない様子のルシャナを口封じしていると、横でゼロットが小さくこぼした。

 やはり心配をかけてしまっていたようだ。後ろ足で砂をかけたような状態のままなのは、どうにも流儀に反する。

 

「あのね、お義兄ちゃん。ごめんなさい。せっかく勲章や銀の武器をくれたのに」

 

 赴任前にユーノには挨拶できたがゼロットとは顔すら合わせられず、ずっと胸に引っかかり続けてきたことだった。

 

「謝る事などない。君たちは期待通り、いや、それ以上に活躍している。胸を張りなさい」

 

 ミントティでも口にしたように、胸のつかえがスッと晴れていく。

 それだけでも救われたところに、思わず口元に手が行った。ゼロットが手を差し出してきたのだ。信じてもらえている……それが何より生き生きと心に火をつけた。

 

「はい! 頑張りまっす!」

「うむ。今後も活躍を期待しているぞ」

 

 激励を残してゼロットはすぐさま立ち去り、間もなく天馬騎士に連れられて空へ飛び上がり出発する姿が小さくなっていく。どうやら、あらかじめここに来るために送迎を依頼していたらしい。

 手に残る、節くれだって無骨ながら優しい温もりをさすりながら眺めていると、後ろからニシニシする声に揺さぶられて我に帰る。

 

「ふひひ、将来の王様から直接期待されるなんて、ウチら実はエリートコースっスか?!」

「バカ言ってないで出発するよ! 実技ブービーコンビ!」

「……ミリアのせいで私まで叱られた」

 

 ルシャナに首根っこを掴まれたミリアを助けることもなく、レンが恨めしそうな視線で突き刺している。

 三人を一度は追いかけたシャニーだったが、立ち止まって振り返りゼロットが消えた先を見つめた。

 

「どーしたんだろ? お義兄ちゃん」

 

 せっかく胸のつかえが突き抜けたというのに、どことなく剣呑な〝流れ〟が絡みつくようでどうにも引っかかる。

 以前エデッサ城で会った時とはまるで別人の厳しい面持ちは、賢人の威厳……それだけでは飲み込めないものだった。




表紙は以下の方々のイラストをお借りしています。

{朝焼} © ぜろ1 『pixiv30572』
{六芒星魔方陣 雷電} © sclfa 『pixiv1970097』
{イナズママークLog} © かわち 『pixiv499096』
{イラストカット【王冠・紋章・翼】} © てんぱる1 『pixiv2513282』
{【シルエット】} © 狗鷲 『pixiv2862335』
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