ファイアーエムブレム 紺碧のコントレイルⅢ   作:宵星アキ

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雷撃の剣と共に現れたのは、略奪団のドンというよりどこか品格の漂う女性。
しかし、彼女の話は別世界の住人みたいにまるで噛み合わない。
その正体を知ったシャニーは唖然としながらもどこか納得し、単刀直入に切り出す。


メガロマニアⅠ

 宣戦布告の略奪団がついに孤児院本館まで迫っている。

 入り口を包囲するようにひしめく騎馬隊の真ん中に、リーダーと思しき魔術師が紅蓮のマントを夏風に揺らめかす。

 

(女性……? しかもこの顔、どっかで……)

 

 まさか略奪団のリーダーが女性だったとは。

 どうにもシャニーには見覚えがある気がしていた。略奪団のリーダーなど、面識があるはずないだろうに。あのダークブロンドの髪に、紫紺の瞳……どうにも頭のどこかに引っかかってもどかしい。

 

「アーヤダヤダ。どうしてこうも魔法使いってのは目のやり場に困るかね」

 

 ディークが挑発するようなことをさっそく口にしているが、今回ばかりは同意だ。

 ハイレグのレオタードのようにラインを強調した真っ赤な服と、これまた真っ赤なサイハイブーツ。そんな目立つ組み合わせが霞むくらい貴金属で着飾り、マントについているフカフカも、きっとかの有名な動物の毛に違いない。

 まさにいろいろな意味で煌めいており、略奪団のボスらしいと言えばそうかもしれないが、どこはかとなく違和感も湧く。

 

「魔法使いへの偏見。よくないと思う」

「いや、レン。お前のことを言ってるわけじゃ。つか、お前らの制服も大概だからな?」

「まーたオジサンくさいこと言ってるっス。ま、ウチのセクシーボディが近くにあれば仕方ないっスよね」

「だぁっ、それ以上じゃれるんじゃねえ!」

 

 身内から攻撃されて戦神も形無しだ。

 挑発されたうえに、余裕を見せられて激昂するかと思いきや、狼狽えたのはディークだけ。略奪団のボスは気に留める様子もない。

 

「あなた方ですの? わたくしの配下にちょっかいをかけたのは」

 

 彼女は馬を降りると、見下すような眼差しと高飛車な口調で指さしてきた。

 

「なに言ってるのさ! ちょっかいかけてきたのはそっちの部下でしょ!」

 

 太刀の鋒を女性へグッと突き出し、間髪入れず跳ね返す。孤児院から食料を奪ったり、施設を破壊して先に手を出したのは彼らではないか。

 ところが、女性は首を傾げて眉を下げている。まさか、この期におよんで身に覚えがないとでも言うのか。

 

「? 貢ぐべき者達から受け取って、何か問題でも?」

「……は?」

「むしろ足を運ばせたことを謝罪して欲しいくらいですわ」

 

 まさかどころの話ではなかった。

 意味不明で一瞬頭が真っ白になったが、すぐに振り払う。

 絡みつく侮蔑の眼差しを叩き斬るように太刀で払い、あらためて鋒を向ける。

 

「ふざけないで!」

「貴女たちのような庶民に、意見する資格などありませんわ。持たざる者の正義など、ただの無力。そうですわよね?」

「こっ、この……!」

「まともな答えを期待するだけ無駄だぜ」

 

 頭がチンチンになりかけたところで、スッと太い腕が肩口から伸びてきた。思わずハッとして太刀を下す。またしても、感情で戦場に立ってしまった。

 それを確かめるようにシャニーから視線を外したディークは、今なお高圧的に嘲笑う目と対峙した。

 

「なあ? テレーザ=シュヴァルツァー卿」

 

 当たり前のようにディークは相手の名前を呼んでいる。

 シャニーは頭上のルシャナたちと顔を見合わせてみたものの、誰もが眉を下げたり首を傾げたり。

 

「おほほ。わたくしをご存じとは、見かけによりませんのね?」

「裏の世界じゃ有名人だからな。前の動乱での従兄弟の失態と、自身の手癖の悪さ(・・・・・)で追放処分を受けたんだったか?」

 

 ディークが過去に切り込んだ途端、それまでの余裕が嘘のように女性……テレーザの顔が曇る。

 

「あなた、なぜそのようなことを」

「さあな? 情報の売買なんざキホンだろ?」

 

 どうやら裏の人間たちから仕入れてきた情報というのは、これのことらしい。

 それにしても、裏では有名でも表の人間としてはさっぱり聞かない名前だ。会話についていけなくてもどかしい。

 ところが、テレーザが口にした名前で、電撃が走るようにすべてが繋がった。

 

「フン。あれはナーシェンの責任であって、わたくしは被害者ですわ」

「あーっ、思い出したよ! 誰かに似てると思ってたんだ。あいつの関係者だったなんて!」

 

 ナーシェンとは、先の動乱時におけるベルン最高幹部の一人だ。狡猾にして智謀に長け、リキアに内乱が起きるよう教唆した張本人らしい。陰湿で許しがたい人物と言えるだろう。

 なにより、シャニーたち(・・)にとっては、その名を聞くだけで虫唾が走るものでもあった。

 

「おお? おまえがあいつ呼ばわりとは、なかなか穏やかじゃねえな」

「だって、『私のペットになれば毎日楽しませてやる』とか言ってきてさ! 失礼しちゃうよ!」

 

 あれはアクレイアの王都奪還戦だった。

 戦前は、相手を陥れてもなんとも思わない冷酷な将という噂しか知らなかったが、玉座へ攻め入って彼と剣を交えたとき、はっきり言われたのだ。

 相手を値踏みするような、舌なめずりしながらの絡みつく声は、今も脳裏にこびりついている。

 それを聞いたディークは、鼻で笑って空いた手を呆れ気味に広げながらからかいだした。

 

「ま、おまえも黙ってさえいればイイ線行ってるってことかもしれねえぜ?」

「だ、黙ってさえいればって……」

「シャニー、残念な美少女って意味っスよ。……美少女??」

「解説すな!! そのくらいは分かるもん! あと、そこで引っかからないでよ!」

 

 ディークもディークだが、ミリアも大概だ。絶対に分かっていてこんな言い方をしているに決まっている。

 だいいち、敵軍を前にしていったい何の話をしているのやら。

 

「彼は女の形をしていれば誰でもいいだけですわよ。貴女のような庶民的な顔でもね」

(庶民的……ガーン…………)

 

 思いもよらないところから攻撃が飛んできた。もはや先ほどの雷撃の剣なんかよりはるかに殺傷力が高い。

 すでに士気を折られたような顔をしているシャニーに、ディークが物言いたげな視線を浴びせている。

 それは束の間のことで、彼はすぐに話を戻した。

 

「そんな高貴なお方が略奪団に堕ちるとはな」

 

 国外追放を受けたとなれば、こうした末路に流れ着くのもありえるのだろう。いまだに富への執着が尋常でないのは、痴女……もとい、煌びやかな着飾りからもうかがえる。

 

「? 何がおかしい?」

 

 小馬鹿にするようなテレーザの含み笑いに、ディークの眉間にしわが寄る。

 小動物を哀れ見るような目がクスクス揺れる彼女は、「物事は正確に表現すべきですわ」と嘲るようなトーンで続けた。

 

「略奪団なんてとんでもない。庶民はむしろ守るべきでしょう。わたくしは、ゴールドを救済しているのですもの」

「……は?」

「ゴールドはその価値が分かり、正しく使える者のもとに集まるべきですから」

 

 ついつい変な声が出た。

 このわずかな時間でも十分察してはいたが、頭のネジが数本ぶっ飛んだ人物のようだ。セチで慣れていたものの、それともまるで違う方向性でくらくらする。

 話せば話すほど、どんどん疑問から遠のいていく気がしてならない。

 

「じゃあ孤児院を襲ったのはなぜ?!」

 

 孤児院から彼らが奪っていくのは食料と聞いていた。テレーザの口ぶりからするに、金以外に興味はなさそうなのに。

 

「知りませんわ」

 

 まるで息を吐くように、テレーザは悪びれる様子もなくあっさり突き返してきたではないか。辻褄の合う答えではあるものの、心にカチンと着いた炎が煽られる限り。

 

「知らないって……! リーダーのくせによくもそんな!」

「烏合の衆がすることを、いちいちわたくしが知る必要はありませんし」

 

 鋒をずいと突き出してシャニーが火を吐いても、まるでのれんに腕押し。眉を下げるテレーザは、呆れさえ含んだ笑みを浮かべ、何を言っているか分からないくらいの顔をしている。

 

(濡れ衣とでも言いたいわけ……?!)

 

 知ろうが知るまいが、この態度ではっきりしたと言えるだろう。筋を通さない相手なら、容赦しないまで。

 シャニーは単刀直入に核心へ迫った。

 

「そうやって、このあたり一帯、あちこちで部下が殺しをやってても知らないって言うわけ?」

「……なんのことかしら?」

 

 やはり、心当たりがあるらしい。

 口では白々しいことを言っているが、その目があきらかに歪んだのだ。

 突き崩すなら、まさに今しかない。

 

「いや、部下じゃないね。その雷魔法! それでウラの人間が何人もやられてるんだ! なんであんなこと!」

 

 神の怒りを突き刺すかのごとき天雷の剣。やられた者たちの傷跡や深い火傷具合とも合致する。これほどに確固たる証拠があれば、逃れられるはずなどないに決まっている。

 シャニーがあらためて鋒を突き向け啖呵を切った途端だった。

 

「ハ……ハハハハハ──ッ!!」

 

 まるで火炎瓶を突き破ったように、あたりに狂喜が燃え広がった。

 テレーザの目は、それまでの哀れ見る歪んだ笑みがすっかり焼け切れ、赤い憎しみが突き刺すような憤怒をまとう。

 

「奇遇ね。わたくしも、今からとっておきをプレゼントしようと思っていたのに」

 

 次第に狂喜を収めつつ自身を律するように目を閉じた彼女は、それでも肩を揺らしている。

 赤い灼熱は見えなくなっても、黒く重い鉛のような怒りがむくむく脈打ち、いつ炸裂してもおかしくない。

 得も言われぬ緊張感は、誰もを身構えさせるに十分すぎた。

 

「どう言う……」

「受け取りなさいな……」

 

 のどが張りつきそうな中、なんとシャニーが絞り出すものの、もはやそれさえ聞いていないかのようだ。テレーザはおもむろに背後へ手を伸ばす。

 

「このウェントリヒ・ドンナーの烈光を!」

 

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