ファイアーエムブレム 紺碧のコントレイルⅢ   作:宵星アキ

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リキア赴任まであと数日。
みんなに伝えなきゃいけない。絶対に帰ってくるって。


どこにいたって

 ふんふんとシャニーの小気味よい鼻歌が厩舎から聞こえてくる。

 窓から差し込んだ朝陽が顔を照らし始めると、相棒のブラッシングをしていた彼女は眩しさに空を見上げ、その目元は嬉しそうに緩む。

 

「今日も良い天気だねー。どこでも飛んでいけそうだね!」

 

 相棒へ話しかけながら鼻歌をうたい、青のショートレイヤーをリズムよく左右に揺らしてニコニコとご機嫌。

 天気が良いだけで気持ちが明るくなるというもの。思い切り伸びしながら黄金色の光を見つめていると、目がハキっと冴えて体の隅々まで力が漲ってくるよう。がぜん相棒の手入れにも気合が入るというもの。

 

 しばらくブラッシングを続けていると、外で天馬の羽音が聞こえてきた。

 

「おっ、おっはよー!」

 

 扉が開く音に振り向き、入ってくる親友へ大きく手を振る。やっぱり今日も二番はルシャナだ。今日の彼女は昨日みたいに角が生えておらず、嬉しそうなトーンで返ってきた。

 

「もう完全復活みたいだね。やっぱり、こうじゃないと調子が狂っちゃうよ」

 

 心配させてしまったようだ。朝日のように湧きあがる活力に、踊るように小気味よく全身を揺らして見せる。

 

「だって、もう決まったことだし。リキアになにがあるかも分かんないし、行ってから考えよーって」

「極端なヤツだなー……」

「えへへ、ごめんね。部隊長なのにさ」

 

 心配して損したとでも言いたげな顔で、ルシャナが苦笑いし始めた。

 期待に応えられたようでなによりだ。悩んでどうにかなるならいくらでも悩むが、今しか出来ないことはたくさんある。そう思い出させてもらった。

 

 ブラッシングにキリがつくのを待ってもらい、二人で詰所へと歩いていく。

 詰所にはミリアやレンがいて、彼女達も机の整理に追われている。ただでさえ汚い詰所のあちこちに、バリケードのように見通せないほど積まれていて足の踏み場に困る。

 

「辞令って、たしか昨日付けだよね?」

「そーだよ。おかげで昨日も帰ってから大忙しでさー」

 

 心配になったのか、ルシャナの確認が飛んできた。

 結局、出国の手続きやら資料の作成やらで、なにも出来ないまま昨日が終わってしまったから無理もない。

 

 半身になったシャニーは横目でルシャナに答えながら、荷物の間へするすると細い体を差しこむようにして机まで辿り着く。

 念のため、机の中にしまい込んだ辞令を取り出してみるが、やっぱり昨日付けの辞令だった。色々やらないといけないことが頭を駆け巡る。荷造りをしないとなにも整理できていないし、家の管理だって誰かに頼まないといけない。

 

「じゃあ、明日出発! ……なんて言わないよね」

 

 考えに耽っていたらルシャナの声に突っつかれた。どうにも怪しむような口調。振り向けばミリア達もこちらを見て、どこか心配そう。

 

「え? なに言ってるのさ! 叙任騎士たるもの、辞令が出てる以上は今日にでも────」

「あー……。そういう言い方するなら大丈夫そうだね」

 

 ちょっとイタズラしてやろうと思ったのに、ルシャナはノリが悪い。ミリアたちなんか本気でホッとしたような顔をしているし。一体どう思われているのか、複雑だ。

 

「ちぇ。ホントはね、準備期間を数日もらったから、まだへーき」

 

 思わず誰もがほっと胸を撫で下ろしている中、シャニーは相変わらず鼻で歌いながら机の引き出しを引っ張り出す。

 

「うへっ、なにそれ。ゴミ箱?」

 

 中を覗いたルシャナが、害虫でも見つけたような悲鳴にも似た声を上げた。

 

「しつれーだな!」

「いやだって……資料が泳いでるじゃん」

 

 確認するようにもう一度見下ろしてルシャナの目元が歪む。

 

「別にいーじゃん。どこになにがあるか分かればへーきじゃん?」

「ホント、片付けできないヤツだよねえ。なんでそれで分かるのか不思議だよ」

 

 ルシャナが毒づく前で、手際よく荷造りして見せてやる。別に片付いていないワケではない。自分が使いやすいようにしているだけ。むしろカチッとしてあると、むずむずしてやりにくい。

 それなのに、「あんたさ……」そうルシャナが呼んで続けてきた。

 

「自室だからって下着一枚とかやめてよ。リキアは都会だからね」

「わっ、分かってるもん! あたしだってリキアは詳しいんだから!」

 

 なんだか今日のルシャナはやたら説教臭い。即反論したら、彼女はこれでもかと横目で見下ろして物言いたげ。いくらなんでも、そんな騎士団の評判を落とすようなことをするはずないじゃないか。郷に入っては郷に従えというヤツだ。

 

「出発まで時間あるしさ、今日はみんなのとこに、ちょっとお留守にするねって挨拶しに行こうよ」

 

 ある程度机の整理を終えて、パンパンと手を叩きながらシャニーは仲間たちに呼びかけた。

 本当なら明日にでもリキアへ飛んで行きたいところだけれど、今までたくさんお世話になった人達に、なにも言わずに去るなんて出来るわけがない。皆とこんな形で顔を合わせるのは辛いが、信に対しての礼儀と言えるだろう。それが通すべき筋──流儀だ。

 

「今日一日で周るんスか? 大変だ」

 

 自分で言っておきながら、ミリアに問われ、顎に手を置いてあれこれ計算を巡らせてみた。

 いくら天馬がスピードに優れていたって、広大なイリアのあちこちを回るだけでも時間はかなり要る。ゆっくり皆と話をしている時間はきっと無い。

 こうしている時間も惜しい。机へ前のめりになって手を天井に突き上げる。

 

「よぉし、レン、イリア一周旅行だよ! できるだけ、たっくさん周ろう」

「イエス、リーダー」

 

 再び整理に慌ただしくなる詰所。シャニーも再び荷物整理に戻りかけたが、その手はすぐに止まった。

 

(みんな、なんて言うだろうな。がっかりさせちゃうだろうな……)

 

 窓辺に身を移して空を見上げる。失望する顔が思い浮かんで、崩れそうになる顔を両手できゅっと整えた。今日行けない分を明日に回すとしても、もらえた準備期間はたった2、3日。

 

(みんなにちゃんと説明しないとね。あたしたちは大きくなってちゃんと帰って来るって)

 

 もう、決まったことだ。くよくよしていても仕方ない。

 ぐっと握る拳で自身を鼓舞すると、整理に苦戦する仲間たちのもとへと戻っていった。

 

 

◆◆

 青髪や空色のマントを風になびかせながら、シャニーはレンから飛んでくる指示どおりに先頭を飛んでいた。

 春らしく空は高く澄んで、天馬で切る風が頬をなぞって心地よい。目の前には広大な山々と淡い空が果てしなく続き、眼下には白と緑のじゅうたんが陽に輝いて眩しい。

 

「イリアの空をこうして飛べるのも最後かぁ」

 

 思わずぽろっと零してしまった。まさか、当たり前にあった故郷の空と山を見れなくなる日が来るなんて夢にも思っていなかった。口にすると余計に寂しくて、焼き付けるように高い空を見つめる。

 

(みんなを守ってあげられないなんて……天馬騎士じゃなくなるみたい)

 

 独りで風の声を聞いていると、どくどく悲しい気持ちが湧きあがってくる。

 これはイリアに必要なことだと何度自身に言い聞かせても、やっぱり今が大事だ。大切な人たちになにもしてあげられなくなると思うと心配で仕方なく、いつの間にか唇を噛み、握りしめる手綱がぎりっと音を立てた。

 

(守ってくれなかったら……容赦しないんだから!)

 

 自分たちをイリアから放り出した張本人……イドゥヴァの顔が思い浮かんだ。空の果てを見つめて紛らわそうとしても、激情が燃えあがってくる。

 いけないとは分かっている。だけど、もう我慢の限界なんてとっくに超えていた。どうしても顔が険しくなるが、何度も首を振ってその気持ちを払う。今から会いに行く人たちに、こんな顔は見せたくなかった。

 

 

 村に着いてさっそく村長の家を目指す。彼は家の前で雪かきをしていた。

 

「おお、今日も朝早いね。お疲れさん」

 

 シャニーたちの姿を見つけてすぐ、笑みと共に優しい口調で労ってくれた村長だが、顔は少し驚いているように見えた。無理もないかもしれない。こんな朝一にフルスピードを飛ばして来たことなど今までなかった。

 

(この顔を見られるのも最後か……)

 

 そう思うと、腹から出る声も自然に大きくなった。

 

「おはようございまーす! お変わりありませんか?」

 

 一年前は天馬騎士団と聞いただけで、売国奴に用は無いと青筋を立てて怒鳴ってきた人だ。

 怒鳴られても、怒鳴られても悩みに寄り添い、夢を語り続けてようやく掴んだ信頼。こんな優しい顔をしてくれるようになったというのに、どんな反応が返ってくるかと思うと辛い。

 

「ああ。君たちが来てくれると元気が出るよ。いい笑顔だ」

「そう言ってもらえると嬉しいなぁ。えへへっ、ありがとう」

 

 村長は目袋を綻ばせている。元気が出ると言ってくれる。それだけで部隊の存在価値を教えてくれた。

 あれだけ厳しかった村長からもらえる言葉は、暖炉のように温かい。自分たちがしてきたことは、やっぱり間違いなんかではなく、あんな辞令を受ける理由なんてないと勇気づけられ心が救われた。

 

(喜んでくれるなら、ずっとこうしていたいよ……)

 

 彼らが喜ぶなら、いくらでも傍で笑ってあげていたい。そのささやかな望みさえも今は奪われている。だからこそ、許される内はしっかり前だけ向いて、笑顔で感謝を伝えるのが使命と言える。

 

「この前の嘆願書、ありがとうございました」

 

 感謝したいことは山ほどある。出向以前に、この人たちが動いてくれなかったら、十八部隊は冬の終わりと共に露と消えていた。彼らを守りたいとずっと戦ってきたつもりだが、なんだかずっと、それ以上に守られてきた気がする。

 

「なんの、当然のことだよ。いつも守ってもらっているのだからね」

 

 希望を守るためなら共に戦う。そう村長は約束し、本当に動いてくれた。

 皆に支えてもらって、十八部隊はここまで来た。せっかく彼らは自分たちを信じて、動いてくれたと言うのに。その顔が目の前にあると、膨れ上がってくるのは申し訳ない気持ちばかり。

 

(あんなに支えてもらったのに……ホントにごめんなさい)

 

 心の中で侘びの言葉を繰り返すが、いつまでもそればかりではいけない。切り出すのは辛いが、このために来た。時間も押している……。

 ぎゅっと握った胸元のロケットで自身を律すると、一度振り向いて仲間たちに合図し、ついに踏み出す。どうやって伝えようか……もうそんなことを考えるのは止めた。

 

「実はね、あたしたち、リキアでお仕事することになっちゃったの」

 

 清々しい朝を包んだ、凍り付くような時間。色も、音も、なにもかもが止まったかのよう。風の吹き抜ける声だけが時を刻んでいき、嫌でも顔が引きつって固まっていく。

 こんな反応をされるのは分かっていた。彼らの信を、裏切るような話をすれば。

 

「な、なんだと……」

 

 ようやくに止まった時を突き破ったのは村長の驚愕だった。

 ふらついて顔を手で覆い、そのまま卒倒しかける村長に慌てて飛び出して皆で支える。

 

「なんでまた?!」

「リキアは復興が進んでるから、それを見て勉強して来いって」

 

 こう言うしかなかった。たとえ左遷であったとしても、そんなことを言えば騎士団への不信感が広がってしまう。せっかく一年かけて築き上げてきたものを、団長にぶち壊されたくない。

 しばらく村長は下を向いていたが、ふいに背を向けた。

 

「ちょっと待っていてくれ。みんなを集めてくる」

 

 家の中で暖を取るように言って、彼は小走りに村の中へと消えていく。

 あんな顔をさせたくなかったのに、申し訳ない気持ちでいっぱいになる。村長一人でもこんな気持ちになるのに、村中の顔を見たらシャキッとしていられるだろうか。

 

「へへっ……。みんな、泣いちゃダメだからね」

 

 振り返って、仲間たちに笑いかける。

 出発する前に決めてきた。最後は笑って別れようと。これは永遠の別れじゃない。絶対に帰って来ると伝えるための遠い約束だから、泣くときじゃないと皆で約束してきた。皆の瞳をぐるっと見つめて確かめ合う。

 

「シャニーが一番泣くと思う」

 

 見渡した最後にぶつかったレンの視線が、小さく笑ってそう返してきた。

 

「そんなこと……ないし。泣いたら昼ごはんオゴリだからね」

 

 再び背を向けて涙を啜りながら、シャニーは村長が帰って来るのを待った。

 

 

◆◆

 村人たちが続々集まってくる。

 朝の忙しい時間だと言うのに、知っている顔が全部あって心が震え続けている。もっと静かに村を回るつもりだった。いつの間にか囲まれて、一人ひとりと握手をしながら別れの言葉をかけあう。

 

「そんな……いつ帰ってきてくれるんだ?」

 

 すぐ戻ってくるよな? ──そんな声が顔に浮かんでいて、思わず唇を噛んで息を止める。こうでもしないと、すぐにでも崩れてしまいそうだった。

 こんなにも求めてくれているのに、なにもしてあげられない、やり場のない悔しさ。いつ……その答えを一番に知りたいのは、自分たちだった。こんな辞令、引き裂けるものなら引き裂いて、飛んで行ってしまいたいくらいなのに。

 

「ごめんね。あたしたちにも分からないんだ。でも、絶対帰って来るから」

 

 彼らを安心させてあげたい。その一心でも、良い言葉が浮かんでこない。そのとき、横からハキとした声が寒空に響く。

 

「騎士団全体で今までの十八部隊の活動を継続していくから、安心してください」

 

 ルシャナが力強く声を張り上げるが、村人たちの顔に広がるのは不安ばかり。

 仕方ないかもしれない。その状態が長く続いた結果、村々は放置されてきた。専門部隊として十八部隊が出来るまで。

 

 ただ責任区をあいまいにするだけでは、以前に戻るだけ……どうして分かってくれないのだろう。無意識に団長を罵る。これがイリア民の気持ちなのだと、連れて来て見せてやりたいくらいだった。

 

(みんな不安そうな顔してる……あたしだってみんなと離れたくないよ)

 

 一気に周りの雰囲気が沈んできて、あたりを見渡してぎゅっと胸元のロケットを握る。安心させてあげなくては……その気持ちにすうっと大きく息を吸い込む。

 

「あたしたち、きっと成長して帰ってくるから! 待ってて!」

 

 腹から大きく決意を放ち、にこっと笑って村人たちを励ました。

 どれだけ言葉で言っても、きっと不安に違いない。他の部隊はこぞって、外征至上主義の下で外国に稼ぎに出て行く。いったい誰が彼らを守ってくれるのか不安なのは同じだ。

 それなのに、こんなことしか言えないのが悔しい。今はただ、目に力を込めて泣かないでいるので精いっぱい。

 

 そこへ、村人の一人がシャニーに歩み寄り、手を取った。

 

「シャニーちゃん、辛いだろうけれど、いつでも笑ってね」

(どうしよう……涙……出ちゃいそう)

 

 春と言ってもまだ肌寒いイリアの早朝。冷えた手先へ伝わる温もりに全身が包まれて、震える心を直に抱き締められたかのように力が抜けていく。

 ずっと、ずっとこの温もりと共にありたい……。心からそう思わせてくれる、目を閉じて身を預けたくなるような温もりだった。

 

「あなたの笑顔は、それだけで私たちの希望なのよ」

 

 そこに添えられた、混じり気のない気持ち。村人は揺れる心を抱きしめてくれた。

 ティトにも認めてもらえた。そして今、守りたいと思ってきた人たちにも言ってもらえた。どんな称号よりも尊く思える、明るく、温かい言葉。あらためて、守りたいと思う以上に、守られているのだと心に響き、包んでくれる。

 

(そんなに言ってもらえるなんて……嬉しい……嬉しいなぁ……)

 

 今まで、数え切れないほどの痛みや苦しみに耐え、血と涙を流しながら戦ってきた。膝を突いても立ち上がって、前を向き続けてきて良かったと思える瞬間だった。

 一枚、一枚、人々が託してくれる希望の羽が、飛び出す翼となって勇気をくれる。

 

「希望かぁ。へへっ、ありがとうおばちゃん」

 

 もっともっと、頑張ろう。そう思わせてくれる温もり。その温もりを取り上げられ、これから遠ざかっていく一方の道へ進まねばならないと思うと、声が震えてくる。

 

「もう守ってあげられなくなるのは……悔しいよ……」

 

 必死に凛と立とうとしても、泣き虫な自分は腹の中でもう震えていた。目に力を入れて唇をぎゅっと噛んでも、涙を堪える息遣いと揺れる瞳は、もう隠せる自信がない。

 ついに崩れた瞳からはぽろぽろと悔しさが溢れて口も歪み、声を殺す腹の震えが全身に広がっていく。

 

「シャニー……泣かないって……約束したッスよ……」

 

 ミリアにそう言われても、止められなかった。リーダーが泣いたらダメだと、ずっと心の中で言い続けていたのに。そのまま村人の胸に顔を埋めて、震える肩を抱きしめてもらっていた。

 

「どこにいても繋がっているから、みんなのために、リキアでもたくさん笑ってきてね」

 

 絶望さえ奪われたと思っていた。だけど、村人たちが口々にかけてくれた言葉は教えてくれた。どこにいたって、信じる気持ちまで奪われることはないのだと。

 信を託された者として、泥だらけになろうが、血まみれになろうとも、やり切ろうとする姿を見せ続けなければと、あらためて気づかされる。

 

(みんなこんなに励ましてくれる。希望か……そうならなきゃね!)

 

 左遷に打ちひしがれていた心は、守るべき者たちの気持ちをしっかりと受け取って再び前を向く。

 皆が希望と言ってくれるなら、帰ってこられるまで、刃に信を掲げて戦い続けるだけ。

 まず、今できることは────

 

「ありがとう! たっくさん、笑ってきます!」

 

 村人の胸からそっと身を起こし、涙を袖で拭ってぱっと笑って見せる。

 笑って周りを見渡したら、スッと体に力が湧き上がってくる気がした。手先にも足先にも広がる喜びは、きっと繋がっていると信じられるから。

 

「無茶だけはしないでね。元気で帰ってきて。それだけで、十分よ」

 

 もう一度、シャニーの手を取った村人も優しく微笑む。

 温もりを手に、耳に、瞳に、すべてで受け取ったシャニーの瞳には、普段の青が戻っていた。

 

「うん、任せて! 離れてても、あたしたちは家族。きっと成長して恩返しするからね!」

 

 彼らの信に応えるために、この左遷を意味あるものにしなければならない。

 どうすれば良いかはまだ分からない。けれど、前を向き続ける姿勢だけは、絶対に崩さない。その決意をはっきりと口にする。

 

「みんな、いっぱい頑張って希望を繋ごう! ゴー、ゴー、ゴー!」

 

 掲げた声と共に、拳へ決意を乗せて青空へと突き上げる。

 この手が握る剣には、すべてを薙ぐ絶対的な強さはない。でも、どれだけ折れても、膝を突いても、前を向いて掲げ続けることはできる。

 

(この剣を希望だって言ってくれる人たちがいるなら、それが、あたしたちの使命なんだ)

 

 シャニーは仲間たちを見つめた。その瞳は朗らかながらも、決意を宿して青く澄む。

 

「イエス、リーダー!」

 

 力強い声。志を仲間たちもきっと受け取ってくれた。

 希望になる──その決意へ手を振ってくれる人たちに笑顔を返し、次の村に向け蒼天へと飛び出した。

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