ファイアーエムブレム 紺碧のコントレイルⅢ   作:宵星アキ

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ハーブサウナで整ったシャニーたちは、夜の酒場でバカ騒ぎに身を委ねて戦いの疲れを飛ばしていた。
それを見かねたディークに真顔で振られた問いかけは、シャニーだけでなく十八部隊全員を黙らせることになる。


一番が、二つあったら?

 真っ赤に燃える太陽が、大聖堂の鐘の隙間から溢れ出すように、オスティアの街を赤と黒に染めている。

 群青とオレンジが滲む空の下、あちこちで明かりが灯り始め、夕暮れの路地に新しい始まりを告げる。

 そんな明かりたちに彩られた湯煙が上がる建物から、のんびりした足取りでシャニー達が出てきた。

 

「はーっ! リキアのサウナはやみつきになるね。イリアの温泉も捨てがたいけどさ」

 

 ルシャナたちと合流したシャニーは、略奪団退治のお疲れ会も兼ねて、オスティアの夜で遊ぶことにしていた。

 さっそくリキア名物のハーブサウナで整えた彼女は、うんと身を弓のように伸ばしてきゃいきゃい歓喜をあげている。

 

「ああ。あの大自然の中で入る温泉も別格だな」

 

 ディークが懐かしそうに言うくらい、温泉はイリア唯一と言って良いほどの観光資源であり、世界的に有名だ。

 

「今日も長居しちゃったよ。あのハーブ、癒されるんだよね〜」

 

 整えると言えば、イリア温泉を置いて他にないとシャニーも思って生きて来たが、リキアのハーブテントやロウリュもなかなかのもの。それこそ、人生のバイブルに新たな歴史が刻まれたような衝撃だった。

 暑いリキアの夏を乗り切るには、欠かせないものと言えるだろう。

 

「汗いっぱいかいちゃうけど、それがいいんだよね」

「そうそう!」

 

 最初もルシャナはそう言って誘ってくれた。

 あのときは、暑いのにわざわざ汗をかくとか信じられなかったが、今では彼女以上にすっかりトリコ。

 

「サウナ上がりのジェラートを引き立てる最高の布陣だね!」

 

 何と言っても、サ活あがりには人生の至高が待っているのだから。

 熱った体に素朴な甘さがじんわり沁み渡り、内から爽やかな風が吹き抜ける、整うための最後にして最高のピース。

 サウナは至宝を極限まで輝かせる、最強のステージと言えるだろう。

 

 ところが、まわりに苦笑いが広がったと思ったら、ディークの白い眼差しが降ってきた。

 

「おまえにとっては全部そこに収束するのな」

「あったりまえだよ! あの10分のために世界は存在するのさ!」

「……温泉マニアを敵に回す発言だな」

 

 彼はますます呆れたように鼻から笑いを抜きながら、引きつった口元を歪めはじめた。

 ディークだって風呂上がりにはビールを一気飲みして、オジサン臭くやっているのだから同類だろうに。おまけに、彼の場合は腰に手をやるお約束付きだ。

 

「そう言えば、今日は至福のひと時なかったね?」

 

 ルシャナが思い出したようにぽんと手を合わせ、そうでしょ? と言わんばかりに指さしてきた。

 

「だって、ディークさんがさっさと出てこいって言うんだもん。水刺されたら台無しじゃん」

 

 長い修行を終えて、至宝めがけてようやく氷室へ手を突っ込もうとしたときだった。まるで見ていたかのように、男側の更衣室から「シャニー! さっさと出ろよ!」と、デカい声が聞こえてきたのだ。

 

 あのときの恥ずかしさと、スイーツを奪われた絶望感と言ったらない。思い出しただけで頭がカアっとなってきて、シャニーは頬を膨らせて見せてやった。

 

「ったく、おまえが夕飯に付き合えっつったんだろ」

「えへへ、ごめんね。ディークさん」

 

 頭をボサボサやったディークは、面倒臭そうに吐き捨てて視線を逸らしてしまった。

 たしかに、約束をした時間が過ぎていたのは認める。早めに店に行かないと席が無くなるかもと、女子勢で時間を決めた手前、ペロッと舌を出して誤魔化しておく。

 

「ま、いっか。そっちでアイスマウンテンに挑もっと」

 

 この後は、屋外バーで日頃の鬱憤を晴らす予定だ。サ活を美しく締められなかった分も含めて、ばっちり堪能することにした。

 頭の裏で手を組みながら、どんなフレーバーの組み合わせにしようか考えるだけで、鼻唄がふんふん漏れてくる。

 

「もうデザートの話かよ……」

 

 またディークは呆れたように言っているが、完全な誤解だ。

 

「え? 主食だよ?」

 

 それをシャニーが口にした途端、ディークは目を見張り、顔から色が消えた。

 彼は無表情のままルシャナたちに視線を送るものの、誰もが苦笑いを返すだけだった。

 

 

◆◆

 とっぷり陽が黒の中に沈んでも、あちこちから上がる熱気でバーはまるで夜を知らない。

 ガスランプの灯りの中、大小のテーブルを多くが囲み、酒も入って土砂降りのように騒がしい。

 

「てんいんさぁ〜ん! ビールじゃんじゃん来て〜」

 

 その中でも高い声はよく通る。

 腑抜けた声が手を振りながら、空のジョッキを虚空に突き上げ良い気分になっていた。

 

「おい、シャニー。呂律まわってねえじゃねえか。もう止めとけ」

「うるさい、うるさぁい! あたしの寂しさが男に分かってたまるかぁ〜!」

 

 ディークが止めても、シャニーはその手を跳ね飛ばし、彼のジョッキを躊躇うことなくぶんどって傾け始めた。

 それでもディークは止めようとしているが、もう早くもお手上げか、まるで猫がおっかなびっくり突くようにやっている。

 結局長くは続かず、ついに彼も諦めたようで、困り果てた顔をルシャナへ向けた。

 

「ルシャナ、コイツいつもこうなのか?」

「いやあ……初めてかな。たいていウィスキー飲んですぐ寝ちゃうから」

「あー……そっち(・・・)はいつもなのかよ」

 

 ルシャナたちは慣れているからか、構わず飲み食いして黄色い声をあげている。

 シャニーの隣に座ってしまったのが運の尽きか。ディークはルシャナたちのトークに耳を傾けながら、つまみをかじって夜風に任せようとするものの、隣の酔っぱらいが放っておかない。

 

「うふふ〜、でもね〜、ディークさんのことは好き〜」

「だぁっ、くっつくんじゃねえ! 暑苦しい!」

 

 プリンのように今にも崩れそうな顔で、ふにゃふにゃ言いながらシャニーがディークの腕にしがみついている。

 堪らず腕を上げてシャニーを振り払おうとした彼だが、ますますその顔が焦りに歪む。

 

「ったく、整いたいっつうから付き合ってみれば、ヤケ酒ヤケスイーツかよ」

 

 そのまま膝の上に寝転ぼうとするシャニーを、猫を追い払うようやったディークは、席に戻した彼女にボヤきながらも水を飲ませ始めた。

 彼にとっては、また潰れられておんぶはゴメンと言ったところだろう。

 

「らしくねえことは止めとけ。いつも飲んでねえし、本当は飲めねえんだろ?」

 

 空きっ腹で飲んで酔いが回るのが早かったのだろうか。

 しばらく顎をテーブルに乗せ、眠るように目を閉じて酔いを覚ましていたシャニーだったが、ディークの小言に腕だけ上げて夜空を突いた。

 

「違うよぉ! 無駄な支出は控えたいってだけだもん!」

 

 給金の大半をイリアに仕送りしていることもあるが、決して懐事情に余裕があるわけではない。

 ロイの好意で生活費は助かっていても、削れる部分は知れている。その中でいかに節約を考えるかは、もはや負けられない戦いと言えよう。決して譲れない〝聖域〟を守るためにも。

 

「先月だって太刀の修理がなきゃ、もう1回スイーツ食べれたのにぃ」

 

 太刀は造りが繊細だからか、修理費が結構バカにならない。修理費を少しでも減らすためにも、もっともっと稽古に励んで実力を高めなければならないだろう。

 新たな決意に体を起こしたシャニーは、両手をグッと握って鼻息荒く気合いを入れた。

 それなのに、その炎を吹き消すようなディークの深いため息が吹いてきた。

 

「甘いもんは無駄な支出には入らねえのな」

「当ッたり前だよ! あたしからスイーツを取るのは、ディークさんから剣を取り上げるのと同じだぞ!」

 

 ディークがそこに踏み入るや、シャニーの目がギンと釣りあがる。

 後ろに立てかけたディークの大剣を、シャニーはバンバン叩いて火を吹き始めた。

 

「いや、ますます言ってる意味が分かんねえんだが」

 

 もう付き合いきれないと言いたげに、ディークは頭をボサボサやると席を立ってしまった。

 彼はジョッキを片手にL字の椅子の端まで行くと、端に座っていたミリアをお尻で押して無理やり場所を空けた。

 ディークが逃げてしまい、しばらくシャニーは頬を膨らせていた。

 

 けれど、隣に寄りかかれなくなると、ふいにしゅんと来て腹がイガイガしてくる。だいぶ酔いが覚めてきてしまったらしい。

 

「あたしだってさ、ロイと一緒にいられたらお酒なんか飲まないけどさ」

 

 シャニーはグラスを回しながら、中で流れていく氷を見下ろしてポツリと漏らした。

 ディークの言うとおり、普段お酒はめったに飲まない。すぐに眠くなってしまうのでは、せっかくの楽しい時間が消えてしまうではないか。

 まして、ロイと一緒の時なら、なおさら。

 

「あんたがそんな風に言うなんて珍しいね」

 

 まだ1杯目くらいの勢いでジョッキを傾けるルシャナが、横目に不思議そうな声をあげた。

 彼女の前には山積みの空ジョッキ。

 それを見ただけで腹が重くなったシャニーは、自分のグラスをルシャナに差し出しながら、重い気持ちを吐きだした。

 

「だって、声聞きたいじゃん。そりゃ、ロイの立場は受け止めてる。それでもさ、なんだか……何て言うんだろ。……──寂しくって」

 

 寂しい……こんな言葉、初めて口にした気がする。

 確かに以前からあった気持ちだが、ロイの活躍が嬉しくて飲み込めてきたはずだった。

 

「はぁ。イリアにいた時は手紙で我慢できてたのにな」

 

 いや、そもそも、寂しいなんてどこから湧いてきたのだろう。

 イリアにいた頃はそんなものは無かった。ただ、手紙をもらえるだけで飛び上がっていたはずなのに。

 今では深いため息が、吐いたそばからまた腹に溜まってくる。

 

「ハン。おまえ、そんなんで大丈夫なのかよ?」

 

 見かねて声をかけてくれたのだろうか。それにしては、ディークの言葉は妙に乾いている。

 突き放されたような気持ちになって、特に考えることもなく……と言うより、考えられずに答えを求めた。

 

「なにが?」

「いつかはイリアに帰るっつってたよな? 帰ったら、会うどころか、声を聞くなんざできねえんだぜ?」

 

 会えなくなる──それを突き付けられた途端、喉を両手で締めあげられたように息が出来なくなった。

 分かっていたはずだ。そんなことは、ロイと契約を結んだあの時から。それでも、無意識に考えないようにしていた。気づくことさえも、避けてきた。

 

「そ、それは。……。でも、みんなと約束してるし」

 

 何とか言葉を搾り出してはみたものの、読まれていたのか被せ気味にディークは冷たく言い放った。

 

「そんな心持ちで帰って来られちゃ、そいつらも迷惑な気がするがな」

 

 胸を魔法か何かで撃ち抜かれたような衝撃で、無音の中に閉じ込められた。

 嘘などつけない性格なのは、シャニーにも自覚はある。きっと村人たちにはすぐ悟られてしまうだろう。それが、信じてくれた者たちへの裏切りなのは疑いようもない。

 

 でも、断ち切ると言うことは……。

 喧騒の中に戻ってきても、シャニーの顔は蒼いまま。

 

「ディークさん……。諦めろって……言いたいの?」

 

 聞きたくない現実のはずだった。それでも聞かずにおれないのは、相手が師だから。下手に慰めてくれるような人ではないから、聞きたかった。

 

「ま、少なくともどっちもは、虫がいいんじゃねえのか?」

 

 明言せずとも、彼はドライな口調でさも当然と言った感じだ。

 頭では分かっている。シャニーとて、そのつもりでリキアに降り立ったし、ロイとの契約もした。

 だけど、一度縮まった距離を離すのは、胸を引き裂かれるようだった。糸で繋いだ程度では無い。すっかり心の中に溶け込んでいるのだ。どうやったって、もう取り出すなんか無理だ。

 

「シャニーさ、前も私言ったと思うけど、あんたにとって何が一番かだと思うよ」

 

 察したのか、ジョッキを置いたルシャナが、肩に手を添えながら諭すようなトーンで囁いてくる。

 幼馴染には何でも話してきた。6月の時も怒鳴ってまで目を醒させてくれた彼女の言うことにブレはない。

 とは言え、あの時ともまた、事情が違うのだ。

 

「……一番が、二つあったら?」

 

 そう聞いてみたら、いつも酒場では豪快なルシャナも、まだ飲みが足りないのか黙り込んでしまった。

 彼女の視線はテーブルに突き刺さり、何か言おうと必死に絞っているようだった。

 

「それでも、何かしら筋を通して選んでいかなくちゃなんねえのが、人生ってもんだ」

 

 騒がしいはずのバーに広がった沈黙を払うように、ディークはさっぱりと言い切った。

 それはどこか、他人事にそれっぽい事を口にしていると言うより、内から滲み出すような重みがある。

 

「今日のディークさんはやたら厳しいね。オトナっぽい」

 

 それをルシャナも感じ取ったのか、彼にツッコミを入れた途端だった。

 

「あん? お前らも同じだぜ? やたらこっちの生活を気に入ってるようだがな」

 

 いつもなら和やかに返すディークの鋭い視線が、テーブルを焼き切るようにぐるりと巡る。

 誰もが顔を見合わせ、下を向いてしまった。

 みんな一番がたくさんあるに違いない。イリアにも、リキアにも。たった1ヶ月ぐらいで、ディークはそれを見透かしたというのか。

 

 ふと、顔を上げたシャニーはディークと目線が合ってしまい、ごくりとする。

 どうするつもりだ──そう言われている気がして、視線を外したら、今度はルシャナの顔が見えた。

 

「でさ、今のとこはどっちなの?」

 

 彼女にはっきり聞かれて逃げ場が無くなった。

 今まで、正直な気持ちと使命感がぶつかりあい、腹が熔けそうに熱かったがもう吐き出すしかない。

 大きく息を吸い込んだシャニーは、押さえ込んできたものを、意を決して解放した。

 

「そりゃ、ロイの傍から離れたくないよ。ずっと一緒にいたい」

「じゃあ、それでいいじゃねえか」

 

 ディークの答えは、あまりにもあっさりしていた。そんな簡単に割り切れたら苦労しないと言うのに。

 それでも、シャニーが「でも──」と切り返そうとしたのを、ディークは被せ気味に遮った。

 

「辛いことを言うが、イリアに帰れそうだと思ってるのか?」

「……」

 

 いくら前置きがあったとしても、あんまりな言い方ではないか。

 即答したいはずなのに、何も言い返すことが出来なかった。ルシャナも、口が達者なミリアも、みんな押し黙ってしまっている。

 まるでディークは代弁するように。いや、目を背けようとした現実を突きつけるようだ。

 

「リキアから勲章までもらってんのに、国から声が掛からないたあ、それが答えだと思うがな」

 

 いつもストイックなディークだが、今日はいつにも増して鋭く斬り込んでくる。もしかしたら、酒を飲むと逆に頭が冴えるタイプなのだろうか。

 彼から突きつけられた話は、ルシャナ達とも話したことがあった。

 でも、シャニーだけではなく、皆一様の反応だったのだ。帰れない不安と、故郷に残してきた人々への心配、それに気づくことを避けて奥にしまってきた気持ちと。

 

 そして、心のどこかで喜ぶ気持ち。この地で、これからも生きていける事を望んでいるように。

 誰も何も言わなかったからか、ついにディークは、核心を鷲掴みするように引っ張り出した。

 

「どのみち、イリアに帰るとなりゃ、ロイたちやリキアの民を捨てることになる訳だ」

「──ッ」

「どちらを選ぼうが、選ばないほうは捨てることになる。そこにどう筋を通すかだろ」

 

 選ばない。それは、どちらともに真正面で向き合わないことになる。

 そんな無責任で、どちらにも進まず何も変えられない選択など、出来るはずがない。最初から、ランスにも言われていたのだ。

 

──君が覚悟を決めぬ態度では、ロイ様を危険に晒しかねない

 

 分かっていたはずなのに、避けてきた。

 それは許されないのだと改めて思い知ったシャニーは、ディークの顔を見て静かに頷いた。

 

「……分かったよ。自分の中でちゃんと整理しないとね」

 

 いずれ、答えを出さなければならない。いや、いずれではなく、遠くないうちに。とにかく、ちゃんと考えようと思った。

 ディークは、それでいいと言いたげに「ハッ……」と笑うと、ソーセージをかじっている。

 ジョッキを一気に飲み干し、気持ちよさそうにオジサンクサい声をあげると、彼は撫でるような優しい目を向けてきた。

 

「少し大人になったじゃねえか」

「えへへ」

 

 ガキ呼ばわりはあまり認めたくないけれど、こうして褒められるのはやっぱり嬉しい。

 オトナ──その言葉は、とてもカッコいい響きに聞こえる。

 

「順調に歳を重ねてるだけあるな」

「サラッと歳をディスるのやめて?!」

「いや、おまえまだ16だろ」

「いいもんいいもん。どーせあたしはもうオバさんだし!」

 

 でも、それを言い換えただけで無性に拒否反応が全身に走る。

 ディークは褒めたつもりかもしれないが、歳……その言葉は悪魔の呪文とさえ言ってもいいだろう。

 ただでさえ、姉ユーノには娘がいるのだ。いつか、あの子に叔母さんと呼ばれる日が来ると思うと、蕁麻疹(じんましん)のようにゾワゾワと震えがきた。

 

 なのに周りはケラケラ笑いはじめ、ルシャナが届いた新しいジョッキをディークに渡しながらニヨニヨしている。

 

「シャニーがおばさんなら、ディークさんはもうじーさんだね」

「いちいち引き合いに出すんじゃねえ! つか、まだオッサンすら足突っ込んでねえよ」

「まだ言ってるよ。この弟子にしてこの師匠ありだね」

 

 酔っぱらい同士でガチャガチャやる横で、シャニーはちびちびと水を飲みながら手首に目をやる。

 腕時計を側面に向け、刻まれている言葉をじっと見つめた。

──共に時を刻もう

 

(あたしのなかで、きちんと答えを出さなきゃ)

 

 そのためにも、もっとロイと話がしたい。

 近づいたはずが、どこか遠くなってしまった彼の顔を思い浮かべながらも、彼女はバカ騒ぎへと戻っていった。

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