歴史は繰り返す──地でそれを行く者たちが足掻く様が。
しかし、次は付き合うつもりなどない男は、確信を持って言った。
やはり、〝人〟にこの世界を任せるのは間違いであった──と。
人には、表と裏の顔があるという。
表は周りが作った顔、裏は周りに対して抗うように出来上がった顔。
本当の顔がどちらなのか、答えを出せる者は案外少ないだろう。いや、むしろどちらでもないのも、一つの答えか。
それは、酒場にも当てはめられよう。
同じ酒場でも、昼……いわば表の世界は、荒々しくも一定の秩序が包み、静かな時間を提供してくれる。
しかし、今日はあまりにも静かすぎる。
騒がしさもあるのだが、夜の帳にも似た漆黒のインバネスコートに身を包む男の周りだけは、まるで空間が切り離されて凍りついているかのように別世界が広がる。
男が座るカウンターの一番奥は、あまりにも近寄りがたいだろうに、その場所へ、黒のスーツで細身を引き立てる長身の男が近づき、隣に座った。
「ウェスカー、ただいま帰還いたしました」
細身の男──ウェスカーは彼の主に声をかけると黒のソフト帽を外した。
顔の上半分を蝋で固めたような白のペルソナで覆う彼は、目元からは感情が読み取れない。
それでも、声のトーンや上向く口角からするに、悪い情報を持ってきたわけではなさそうだ。
「ふっ、お前にしては珍しい。彼女に花を持たせるとは」
バルボ髭に整えた口元は、燻銀と呼ぶに相応しい余裕がある。
今も黒のソフト帽に目元を隠すウェスカーの主──レリウスは、木管楽器のような深い声で短く笑うと、ウェスカーへ手元の新聞を滑らせた。
目元は見えずとも、その鋭い視線は、ひとつの記事を見下ろしているのが伝わってくる。
それは、件の略奪団シュヴァルツァー・ブリッツ逮捕の記事だった。
「そう驚かれることもないかと。私と彼女の仲ですし」
ウェスカーは冷静に返しているが、とても柔らかで嬉しそうな口調までは隠せていない。
それとは対照的に、レリウスの口元は一層に厳しく固くなってしまった。
「とは言え、少々前準備が大袈裟ではないか?」
「いえいえ。彼女のためですから。貴方も許可されたではありませんか?」
レリウスの問いに、さも心外と言いたげに驚いた様子でウェスカーは答えた。
果てまでも利己的なこの男の前では、常識などという誰かの都合に合わせただけの曖昧模糊を持ち出してはならない。
とりわけ、異常なまでの執着を見せる、〝あの女〟に関する話は。
「やれやれ……。私は〝C〟まで持ち出して良いとは言っていないぞ」
レリウスは深いため息混じりに叱責を浴びせている。それはおそらく、ウェスカーに対してのものだけではなく、自身に対してでもあるだろう。付き合いはじめて1000年。とっくに彼の異常性は把握していたはずだ。
とはいえ、ウェスカーの心を理解するのは、
「実に有意義な実験となりました。こちらの人間にも、同様の効果が見込めそうです」
彼は前座が上手くいき、最高に気分が高まっているのだろうか。恐ろしい内容ながら語り口は冷静で、まるで楽器を奏でるようにテンポよい。
しかしながら、彼の美学からすれば、そのようなやり方では到底満足できないはずだ。
得意の
レリウスも違和感を覚えたらしく、帽子の下から視線が光る。
「お前なら得物で狙うかと思ったが、そちらで攻めるのか」
「誤解ですよ」
ウェスカーは秒で否定すると、口元を興奮にわっと開けながら両手を広げ、来たるショーを宣伝するかのよう。
「引き出すためのスパイス、ショーを盛り上げる小道具と言ったところです。苦しめば苦しむほど、抗うために羽ばたく……それが〝人〟というものでしょう。ならば──」
ウェスカーの中では、すでに完全犯罪に向けた計画が、エンディングまで完璧に描かれているというのか。
迎えるべき最高の瞬間のイメージを膨らませるかのように、彼は淡々と殺戮シーンを語りだしている。
「彼女を永遠のものにするなら、最高に輝く姿に飾ってあげたいではありませんか?」
仮面であるはずが、真白の中で黒く見つめる無機質な目は、どことなく三日月になったかのようだった。
決して皮肉るではなく、訴えかけるようなウェスカーの愛に、レリウスは帽子を被り直してぼやくように呟く。
「……もはや狂気を超えているな」
ウェスカーにとってそれは褒め言葉だったに違いない。静かに頭を傾けるだけで、その口元は相変わらず笑っている。
それどころか、ウェスカーは「そうでしょうか?」と、さも不思議そうに言って声を弾ませた。
「あなたもそうしたいと仰っていたではありませんか」
「……ハッ」
レリウスは乾いた笑いを短く漏らす。
彼は瓶ビールをグイッと一飲みし、ふと、どこを見ているかわからない遠い眼差しをカウンターの先へと向けた。
「たしかにな。あいつは、飾らずとも美しかった……」
遥か遠い場所を回想するように、その声は恍惚としてもの悲しい。深々と降る雪にも似た口調は、ウェスカーの狂気さえ霜で包み静寂で覆った。
だが、その沈黙は長く続かなかった。
「〝C〟を使えば、朽ちも腐りもせず、その美しさを保つことができるぞ?」
まるで万華鏡を踏み砕くよう。
霧散した憧憬から現実へと引き戻す、遠慮もない気配。
自信に満ちた深く伸びのある声が、戸を蹴破るように突っ込んできたのだ。
「へえ? アナタ様は……」
「……」
2人が振り向いた先にいたのは大柄の男。
ウェスカーは少々反応したものの、彼らは冷静を保っている。並の人間なら腰を抜かしていただろう。
金髪を長くおろし先を結ぶ精悍。紫紺の目をした彼は、金の刺繍を贅沢に施した純白のスカプラリオを纏う。
かなりの高僧のようだが、そうとは思えないほどの肩幅と長躯で、法衣越しでも盛りあがる体は筋骨隆々そのもの。純白を引き裂くように肩から走る漆黒と深碧のエピタラヒリが、男の威圧感に邪悪なオーラを膨らませている。
畏怖……否。この聖職者の前で抱くのは、誰もが等しく〝恐怖〟であろう。
「またお前たちと会うとは奇遇だな。いや、必然か。ここの酒は、なかなかどうして悪くない」
男は手にした木樽のジョッキを、目の前でわざとらしく傾けはじめた。
その全てを飲み干すのを待つこともなく、レリウスは帽子の下から鋭く眼光で斬り上げた。
「何をしにきた、≪A≫」
≪A≫──それは白を纏う悪辣なる黒き男の通称。
ことのほか、レリウス達が属する組織にとっては宿敵でもあった。
それが目の前に現れたのだ。ウェスカーに至っては手先に紫電を迸らせ、いつ酒場が吹き飛んでもおかしくない。
「そう身構えるな、ちょっとした散歩だ。自分で言うのも何だが、俺もお前たちと同じで働き者でな?」
全てを見下ろすような、彼らの反応を楽しむ彫りの濃い目が、どこかせせら笑うようにぴくりと動く。
その口調は聖職者らしいと言うより、海千山千の余裕からか、深く、そして落ち着いている。
彼の言葉など、表面通りに受け取る者は居るまい。この男が闊歩し、こうして姿を現すこと自体が凶兆に他ならない。
「私を邪魔するなら容赦しませんよ?」
「はっ、サイコパスの人生相談なぞ、さすがの俺にも荷が重い」
相変わらず仁王立ちしながら、余裕たっぷりに構える眼差しは、どれだけウェスカーに爆ぜる雷撃を見せられても見下ろすだけ。もはや、眼中に無いとでも言いたげに、彼はまた酒を傾けている。
それでも構えを解かない連中にため息した男は、空の木樽をカウンターに滑らせるとそのままそこに腰掛け、腕を組み始めたではないか。
横顔に光る紫電の眼差しが、蛇のようにギロリと動く。
「安心しろ。お前たちの作戦に関与するつもりは一切ない」
「何度も言わせるな。何をしに来た」
挑発とも取れる冷笑を、レリウスは一刀両断にしてみせた。
追う側と、追われる側。本来接触などあり得ない2つの勢力がこうしてのうのうと近寄ってくるなど、本来は用があろうともありえないはずだ。
もっとも、法衣の男はレリウスたちを縛る掟を知るが故に、気分に任せて動いている部分もあるだろうが。
「そうだな。強いて言えば、洗礼と言ったところか」
だが、明確な目的を持っていることだけは伝えてきた。
彼はウェスカーの手元にある新聞を見下ろす。その紫紺の目が、値踏みするように不敵に笑う。
「お前たちの足掻きのおかげで、いくつかの実験を省くことが出来る。感謝しているぞ。むろん、今回の〝C〟についてもな。ついでに〝B〟も見識を広げたいと考えている」
法衣の男にとっては、特段行動を起こさずとも勝手にせっせと動いてくれるのだから、笑いたくもなるだろう。皮肉なものだ。〝鍵〟を起こすために、最悪へと突き進む設計図の部品をどんどん拵えているわけだ。
まるで出前の注文のように要望まで出す男に、ウェスカーが舌打ちしている。
「実験……7月に起こした件の襲撃も、実験とでも言うのか」
それでも、レリウスは冷淡な口調のまま男を横目に睥睨していた。
盗賊団によるオスティア襲撃事件──ラウス候の指示によるクーデターだとCIDから公表されていたが、彼らの地下書庫には、明るみに出されなかった未解決の事実があった。
それは、ラウス候が仄めかした共犯が誰か、と言うことだった。
「あぁ……。ふふふ……知れたことを。あれも、まあまあ役に立った」
≪A≫と呼ばれる男は、悪びれることも、隠し通そうとするわけでもなくあっさりと答えた。忘れていたのを思い出したような口調は、彼にとってはほんの些細な遊びに過ぎなかったと言わんばかり。
およそ一切の感情を捨てたかのように、人などただの道具としか見えていないようだ。
いや、〝人〟ゆえに……とも言える。
「あれも〝C〟を使ったのか?」
「いやいや。お前たちも知っているだろう。俺たち一派の力を。その
レリウスの問いに、男は鼻で笑いながら答えた。
二人組が所属する組織だけでなく、彼が向こうの世界中から狙われるのには理由がある。
彼の一族は、弱き者を思いのままに感化あるいは扇動する力を有している。
ことのほか、この≪A≫なる男は、そのカリスマ性を持って多くの若者を従えており、世界を二分するほどの勢力と化して跋扈していたのだ。
しかしそれは、彼が異端と宣言され世界から追放された1000年前の話。
「おのれ、よくもしゃあしゃあと」
だからこそ、こうして突然現れた最凶の異端者を誰もが狙うのだが、
ウェスカーのような手段を選ばない人間でさえ、どれだけ紫電を迸らせようとそれ以上の線は越えられない。
ギリギリと怒りを噛み砕く彼の口元を、法衣の男は鼻で笑っている。
「なぜだ」
それを止めたのは、レリウスの短い問いかけだった。
「ん?」
「それは些細なことのはずだ。お前にとっても、目醒めは無視できない話ではないのか」
それは、単純に違和感といえよう。
いくらこの男が胆力と知謀、何より絶大な力を持っていたとしても、対抗する力が揃ってしまうのは避けたいはずだ。
にもかかわらず、男は阻止するどころか高みの見物を決め込んでいる。
こうして現れたのも、進捗を確認しに来たのは疑いようもない。
「フフッ。あいつとはなかなか長い……それこそ恋人のように因縁深い付き合いとなったな」
男はレリウスの問いに即答することなく、ふっと目を閉じて独白するように溢した。
無理もなかろう。1000年も付き合う仲など、そうそうあるまい。
「たしかに、〝鍵〟の目覚めは大いに興味がある」
静かに今へと戻ってきた男は、落ち着きながらも力強く深い声でそう答えた。
しかしそれは、脅威に対しての焦りなどはまるで混じっていない。むしろ歓迎するかのように、次第に饒舌はトーンを高くしていく。
「神から祝福を受けたと錯覚し、正義などと言う己のエゴに都合の良い言葉で秩序を歪める数だけの無能。それがこの、裏の大陸に蔓延っている」
人に覇権を譲らざるを得なかった種の限界を、向こうの世界の者達は甘んじて受け入れた。結果、人竜戦役は終結し、二つの世界は分たれた。
この男は違った。当時から、その骨子は変わらなかった。
そして今も、まるで昨日から来たように。いや、より深みを得たそれは、渇望するようにかつての敵を語る。
「奴らに真の歴史を知らしめ、刻み、歩ませることが神として為すべきことだろう。その〝鍵〟として、俺は大いに期待している」
理想を語る恐怖の聖職者は、新たな世界を眺めるかのように両手を広げ、その声はどんどん大きくなり引き込むようだ。
これが、聖職者の話術というものなのか。
それがただ描いた夢で無いのは、具体的に名指しするだけでも伝わってくる。
それでも、「勘違いするな」とレリウスは見果てぬ夢を一閃してみせた。
「神はナーガ神ただ御一柱のみ。貴様は、天主様の教えを正しく広げる使徒のはずであろう」
エレブと異界の扉によって繋がれた、いわば光の世界。
光の神竜ナーガによって祝福された世界は、竜が趨勢を握り繁栄を極めていた。そう、かつては。
種の限界を迎えつつある竜族は、それまでの覇権を人と分かち、共存を選んだ。
それを良しとせず、覇権争いに敗れながらも竜の誇りを捨てきれなかった者達が、新天地──エレブを目指して人竜戦役が起きたのだ。
本来、その争いを止めるべき立場であった法衣の男を、レリウスは静かながら厳しい口調で諌める。
だが、男は涼しい顔で「だからこそ、だ」と跳ね除けた。
「力に慄き、異を畏れ、保身のために劣悪種どもは何をした? 欺瞞と謀略に明け暮れ、手を取り合うはずだった架け橋を血に染めた──違うか?」
男の自信に溢れ抑揚豊かな声は、頭を揺さぶるように力強い。
レリウスは帽子の下から一度男を睨みあげたが、すぐに視線を逸らした。
「……あれが手を取り合うと言うなら、私の知らない間に、ずいぶん汚れた言葉に成り下がったものだ」
法衣の男は、たしかに竜と人との間に立ち、戦に一つの楔を差し込んだ。
結果それは和解の道筋とはならず、むしろ新たな戦端を押し開ける旗印となってしまったのだった。
なにせ、彼らが人に提示した条件は、実質の隷属だったのだから。
「何を言っている? 神の下には平等だろう。ただしそれは、能力に応じてに過ぎない。それを考慮しない横並びなど、平等という名の地獄だ。俺は神の代弁者として、それを示すまでだ」
「それを多くが望まなかったことを、理の外から1000年見て未だ気付けぬとは。狂気の教皇……思想家アゼリクス。世界宗教の長だったお前が、何故そこまで共存を拒む?」
アゼリクス──そう呼ばれた男は、かつて世界宗教の教皇の座に君臨した権力者だった。
ナーガを神と崇める宗教において、その代弁者として世界をあるべきへと導くカリスマは、教会を牛耳り多くの信者を従えていた。それこそ、それ自体が一つの国にも似た絶大な力を持っていたのだ。
それが、人竜戦役での敗北で野心は遠い狭間に封じられ、1000年の歳月の中で忘れ去られていた……──はずだった。
「むしろ確固としたと言えよう」
封印から這い出てきた男の〝人〟への憎悪は鎮まるどころか、まるでバックドラフトのごとく膨れ上がっている。
彼はやや早口に、それでいて言葉で押し潰すかのように力強く〝人〟の原罪を語りはじめた。
「20余年前の、そして今回の我ら同族への許しがたき奸計……やはり、〝人〟にこの世界を任せるのは間違いであった──俺の主張は間違っていなかったのだと、な」
「確かに、知性、膂力、さまざま〝人〟が劣るところはあろう。しかし、過ちを犯すのは何も彼らだけではない。だからこそ、不干渉の掟がある。違うか、アゼリクス」
レリウスも負けじと反論に出るが、狂気的な自信に満ちて見開く紫紺の眼が揺らぐことは無い。
虫けらが何かほざいている……そのくらいの感覚であることは、鼻から冷笑を抜く様子からもうかがえる。
それどころか、彼は笑止千万な説教と高笑いを始めたではないか。
「まあ、当時連中側にいた貴様には理解できまい。いや……
肩を揺らしたまま彼はレリウスをなじり、挑発的な笑みでこれでもかと顔を歪ませながら、その節くれだった指を突き向けた。
「それだけ神を信じ、人を信じ、愛を信じた貴様が、あの女に何をした?」
「──ッ」
過去に下した決断──逃れられない事実。それを突きつけられた途端、呪縛に締め上げられるようにレリウスは言葉を失った。
言えまい……顔がこれ以上ないほど皮肉に吊るアゼリクスは、それを憐れむような嘲笑混じりに続けた。
「あの女も哀れなものだ。亡霊のように彷徨うことになろうとは」
「……。彼女への侮辱は許さん」
レリウスの親指が太刀の柄に掛かる。
今にも死合を始めそうな極限の緊張感に場が揺れ、グラスがカタカタと震えはじめている。
そこまでされても、アゼリクスは身を引くそぶりもなく、ただカウンターに腰を引っ掛け横目にほくそ笑むだけ。
「これは失礼した。告解の場を設けてやろうと思ったが、俺が言ったところで栓無きことか」
彼はようやくカウンターから身を離すと、カウンターにあった酒瓶を取り、ひとつ呷って静かに置いた。
「ふふ、精々物見させてもらうぞ? 貴様が同じ過ちを繰り返し、最愛を葬る茶番をな」
確信を持つように自信に満ちたアゼリクスの周りを、赤黒いエーギルが螺旋に渦巻きはじめるや、そのおぞましい魔力と共に、侮蔑と酒気に塗れた快哉を浴びせてその場から消えた。
なにも無かったように平和な酒場が戻ってくる。
「安心しろ、あるべきだった正しき歴史にこの世界を塗り潰す。そうすれば、そんな罪も丸ごと消えよう。ハ、ハハハハハ!」
しかし、確かに存在することを示すように、どこからともなく呵呵大笑が響き伝えてくる。
今もなお、回り続けている運命の歯車。二度と、止める術はないことを。
「マスター……如何しますか?」
ウェスカーは静かに主に問うが、その口調は策を求めるより、確信を持った冷徹なものだった。
イエスか、ノーか。答えは二択でしかない。
レリウスはすぐには答えなかった。手にしていた太刀を顔の前に掲げ、静かにその刃を鞘から解放して眺める。
今も妖艶な青白い輝きを放つ刀身をじっと見つめた彼は、しばらくして目元を帽子に隠した。
「……作戦続行だ。我々には、守るべきものがある。守り切ることこそが、未来を見せてやれなかったものたちへ示すべき筋だろう」
主の命に静かに頭を下げたウェスカーは、何も言わず転移魔法で消えていった。
ひとり残ったレリウスもまた、太刀を握り直すと酒場を出て、繁栄極まるオスティアの街へと消えていく。
空にひとつ光る、天馬の軌跡を見上げながら。