懐いていた幼女をさらわれて助けに行かないわけがない   作:みそすうぷ

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3話

 サンタの宿舎に帰り着いた頃には、もう夜だった。

 椅子に座って一息つく。

 必要なものを買いそろえていたら、丸一日かかってしまった。いくつかの袋を机に置いたら、もう場所がなかった。

 セーターを脱ぎ、白いシャツ一枚になる。

 個室の俺の部屋には、ベッドと机に椅子、あとは小さいクローゼットがあるくらいだ。カーテンを寄せ集め、窓を大きく開く。眼下には夜の港町が広がっている。

 街灯や露店の明かりが、煌々と街を照らし活気づける。カモメの鳴き声が海の方から連なって聞こえる。宿舎は中心街に近く、酔っぱらった漁師や海兵たちの笑い声がこだましていた。

 すると、すぐ近くの店で楽器が鳴り始めた。華やかな弦楽器の音色に、酔っ払いたちは盛り上がる。

 俺も夕飯にするかと思い、窓を開けたまま棚を漁る。昨日買ったライ麦パンがあった。共同のキッチンまで行って焼くのも面倒だ。俺はそのまま、エミリーのマーマレードを塗った。

 甘いオレンジの香りが広がる。まるでこの部屋の空気がすべてオレンジのにおいで染まっているかのようだ。それだけ、オレンジの風味は強かった。

 しわのついたパンを勢いよく頬張る。

 ライ麦パンをあっという間に食べ終えると、俺は人差し指にマーマレードをつけてひとなめした。

 そして、ぼうっと街を眺める。思わず涙がこぼれた。この街にもう、エミリーはいない。

 エミリーはイブの夜、悪魔にナイフで刺されていた。悪魔が人さらうとき、はじめに軽めの傷をつけるのは、これは自分の獲物だと示す意味がある。つまり、その傷が致命傷になることはない。目的は悪魔の街に連れ去ることだからだ。

 悪魔の街に連れ去られた子供の多くは、演者にされる。悪魔は人間のふりをする。その練習のため、あるいは趣味として子供に演劇をさせるのだ。

 しかし気まぐれで食べられてしまうことも多い。最も、悪魔の街から子供が帰ってきた実例が少ないので、統計としては不十分なのだが。

 大人は連れ去られることは滅多にない。悪魔は大人を醜い生き物として見ているため、二十歳を超えた大人たちは殺しの対象にされる。食用の子供を守っている邪魔者でしかないのだ。そして子供たちの中でも気に入られた者は、エミリーのように連れ去られて悪魔の街で演者にされるというわけだ。

 俺はサンタとして、この街を守る義務がある。エミリーを連れ去られておきながら。助けにいけないことがもどかしくて仕方ない。しかし、この街にいるのもあと半年だ。

 運がよければ、夏に行われる悪魔の街の焦土作戦に同行できるかもしれない。

 

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