懐いていた幼女をさらわれて助けに行かないわけがない 作:みそすうぷ
今朝は街灯消しの当番なので、朝が早い。
まだ暗いうちから街を回らなくてはならない。
俺の担当は三つにわけられた地区のうちの最南だ。
身支度を済ませると、コートについた大きなポケットにベーグルとオレンジを突っ込んで、部屋を出た。
俺の部屋がある二階には個室が三部屋。一つは物置になっていて、もう一つは二つ歳上のハンスが使っていたもので今は空室だ。
坂に造られた縦長の建物なので、三階建だが大きくはない。階段を降りて外に出ると、一階に入るためのドアを通り過ぎて坂を下っていく。一階にはキッチンやトイレ、風呂など必要最低限のものが備えられている。
冬の早朝なので肌寒い。俺は黒いコートのボタンを上まで閉めた。
眼下に広がるのは主に石造りの家屋で、市場の露店や船着場の建物は木で作られているものが多い。
そこでは市場の用意をする人や、港に漁に向かう漁師がちらほら見えた。
まず一つ目。宿舎から歩いて数分もしないところにある街灯だ。俺は立てかけられていた長い鉄製の棒の先を火に当てる。
棒の先には白い鉱石がはめ込んであり、火を吸収する。水をかけたときとは違い、パキキと音を立てて火は消えた。
あとは同じ作業だ。一時間半くらいかけて、街を回る。これには街の警備をする目的もある。
悪魔が訪れた形跡はないか、人が襲われた形跡はないか、街の隅々まで目を凝らす。
最後の街灯を消し終えたとき、俺は憂鬱だった。その街灯は、エミリーがさらわれた場所の真ん前にあるからだ。
他の建物と大して違いもない石造りの民家。しかし、よく見るとドアにはエミリーの血が飛び散った跡がある。
後から聞いた話だが、この家にはもう何年も誰も住んでいないらしい。俺はドアを撫でる。
クリスマスのあと何回か俺はここを訪れていた。しかし、他のサンタが調べた以上のことはわからなかった。
悪魔は時折り、扉酔わせという力を使う。空間的に離れた場所にある扉と、自分の目の前にある扉を繋ぎ突然現れる。エミリーのときもそうだった。
わからないことがある。
俺は悪魔がナイフを扱うところを見ていないのだ。
いつのまにかエミリーは刺されていたし、俺は刺される前に気を失っている。
そもそもサンタとはいえ俺はまだ十八になっていないので、悪魔に食われていてもおかしくはないのだ。しかし食べられることもさらわれることもなく、俺は生き延びた。
俺には一つの考えがあった。
ひょっとしたら、ナイフを刺したのは悪魔ではないのではないか。確かにあのとき悪魔は現場にいたが、別の何かが俺たちを狙ったということだ。
宿に帰ると、次の街に向かったはずのハンスがいた。
「何かあったのか?」
俺がそう尋ねると、ハンスは首を振った。
「何もないよ。ただ戻りたくなったのさ」
俺は首を傾げた。
「ますます意味がわからない。どういうことだ?」
「それが俺の人生だからさ。これ以上危険な任務に行って死ぬ前に、嫁を見つけておこうと思ってな」
俺はピンときた。
「そういうことなら、良い相手がいる。紹介するよ」
「ありがたいね」
「早速行こう。善は急げだ」
そう言って俺たちは宿を出た。俺はある理由で涙を堪えていた。
俺たちは鍛冶屋にきていた。鉄の扉をノックすると、顔見知りの親父が顔を出した。
「おお、ロディ。あれ、ハンスは街を出たんじゃなかったのか?」
「親父さん、娘さんを紹介してくれますか? どうも今年はオレンジの出来が悪いらしくてね」
それが合図だった。
親父は青ざめて、部屋の中に案内した。
俺は鍛冶屋の大きな炉の前にハンスを連れてくる。
「あれ、娘さんは?」
「この中だよ、ハンス」
「そうか、なら挨拶しないとな」
俺はハンスが炉の中に入ると、すぐさま扉と鍵を閉めた。
「親父さん!油蛙を!」
それを聞いた親父が真っ赤な生きた油蛙を、炉の屋根の上から放り込む。
「ロディ?!」
俺はハンスの声を無視して、扉についた覗き穴から杖で火を放つ。
油蛙は火に飛びつき、口に入れる。
すると、炉の中は大きな音を立てて爆発し、燃え始めた。
「下手な演技だったな」
親父さんが俺に残念そうな顔で言う。
「全くです」
俺は炉の中で絶叫するやつに言う。
「ハンスは女だよ。彼女は男になりたがっていたが、恋愛対象は男だ」
ハンスは悪魔に取り憑かれていた。