懐いていた幼女をさらわれて助けに行かないわけがない   作:みそすうぷ

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5話

 

 ハンスの一件によって、街の周辺地区の痕跡調査が行われた。無論、ハンスにとりついた悪魔の侵入経路だ。

 悪魔は冬にかけてこちらの世界で活動を増やし、一方、夏の間は力を失い、やつらの世界から外に出ることは少ない。

 今はまだ冬とはいえ、気候の温かい傾向にあるこの街ではクリスマス以外に悪魔が現れることは少ない。だから新米サンタの俺が配属されているというわけでもある。

 クリスマスにさらわれた人間の数が例年より多かったこともあり、街の守備に異常がないか一度調べておこうということになったのだ。

 

 街の集会場にある会議室で、俺は他のサンタたちと顔をあわせていた。老若男女、二十名のサンタがこの部屋に入る。あと他に二人のサンタがいるが、万が一に備えて最小限の人数で街の警備をしている。

 この街のサンタを統括している、中年の男のサンタが報告を始める。名はヨセフ、頭髪は無く、筋肉がある。

「今回の調査の結果、二百近くあるうちの罠の一つが破損しているのが見つかった。おそらく衰弱していたと思われる。やつは何らかの方法で罠から抜け出し、ハンスを殺して死体にとりついた。ハンスが火を放った形跡もあったが、火消し歌で打ち消されていた。杖はおられ、朽ちていた」

「火消し歌が歌えるなら、そもそも罠にかかるようなへまはしねえんじゃねえか?」

 今年でに二十になるアルベルが言う。彼はまだ若いがこの街で結婚をしていて、もうすぐ娘が産まれる。昔は女癖がひどかったらしいが、今は気の強い嫁をもらって大人しくしている。

「それにロディの報告じゃ演技はかなり下手だったとのことだ。演技が下手なら、罠にかかるのは納得がいくし、火消し歌の痕跡は再調査が必要だと思うぜ。なあ、ロディ?」

 俺はアルベルに話を振られると、少し思案して答える。

「確かに演技は下手だった。あれならサンタでなくても簡単に見抜けるとは思う」

「まあ、そう結論を急ぐな、アルベル」

 ヨセフがリーダーらしく、アルベルをなだめる。

「それくらいわかってるさ。だからこそ会議を開いてるんだ。今回のハンスの件、どうも一筋縄ではいかなそうなんだ」

 アルベルはふん、と言って紅茶を一口飲む。

「だが、わかっていることはすべてもう共有した。皆の意見を聞きたい? この事件どう思う?」

 全員が頭を悩ませ、沈黙で答える。お茶をすする音だけが続いた。

 そのとき、最年少のリリイが手をあげた。九歳の少女で、さらわれたエミリーとも仲が良かった。新人だが優秀なサンタクロースだ。

「いっそ、時読み反射を使ってみては?」

「そんな金はうちの支部にはないぞ」

 他のサンタからヤジが飛ぶと、リリイはしゅんとして縮こまった。

「ハンスの体は燃やしたから必要な材料の血もないしな」

 さらに他の言葉が投げられると、気弱なリリイは涙をこらえようと顔をこわばらせる。彼女はいつも会議ではこうだ。

「幸い、今年は予算には余裕がある。だが血はないからな……」

 ヨセフが慰めるように言うと、再び沈黙が部屋を満たした。過去の視覚情報を見ることができる時読み反射には大量の真水に加えて、多くの動物の肉が必要だ。これがかなりの金額を必要とするため、時読み反射は滅多に使われない。数千人が殺されるような大虐殺事件でもない限りあり得ないのだ。だから、リリイが批判されるのにも訳がある。

「でも俺は昔、骨で時読み反射をしてるのを見たこたがあるぜ」

 そう言ったのはアルベルだ。

「骨は別に捨てちゃいないんだろ?」

 俺はそう尋ねられ、うなずく。焼いたハンスの遺体は、埋葬のために集めてある。

「でも、そもそも本当に骨が材料になるの?」

「ああ、細かく削って、一度乾燥させて水で戻したウサギの血を混ぜるんだ。反射の解像度は下がるが、何が写ってるかわからないほどじゃない」

 ヨセフをはじめ、皆が顔の色を変えた。

「真水なら、東の森に大きな湖がある! 今の季節は凍っているけど、それを溶かして使えば、湖全部をダメにしてしまうこともない!」

 俺は強い賛成を示した。

「決まりだな」

 アルベルがニヤリと笑い、ヨセフの反応を見る。

「悪くない案だ。それでいこう」

 

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