遊戯王Wings英雄伝「オーシャンズ」   作:shou9029

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ep2「七海の覇王」

 

 

 

さざなみ村を出て5日。

 

 

 

「遊和、また御餌様がなくなりました。」

「なくなったんじゃなくて食われたんだよ。これで何回目かな、エサだけ食われるの。」

 

 

 

ひょんな事から、記憶喪失だという謎の少女、『ノア』を船に乗せることになった旅の少年、遊和は…

 

大海原のど真ん中でエンジンを止めた船の上にて、もうこれで何度目かになる小言をノアへと零していた。

 

 

 

「…とても奥深いのですね、御釣りとは…」

「いや全然奥深くないから。合わせも巻きも遅いって何回も言ってるよね俺。もっと手早く合わせてどんどん巻かないと意味ないんだけどなぁ。」

「安心してください、もう少しで掴めそうなのです。」

「1時間前も同じ事言ってたけど…ってボウズの俺が言えたことじゃないか。」

「そうです。遊和も御魚様を釣れていないのです。偉そうにしないでください。非常に不愉快です。」

「…」

 

 

 

…それは波に揺られた船の上で、2人で釣りをしている光景での一幕。

 

そう、記憶喪失のせいか、魚釣りという日常的行為すら満足に行えないノアに対し…

 

遊和も、こんな日常生活における基本的なことを教える羽目になっているのだから、全然と言っていい程上達しないノアに段々と苛立ちを覚えているのだろう。

 

…しかし、遊和の苛立ちも当然か。

 

何しろ、彼らが行っているのは特殊な技能のいる鮫釣りや鯨釣りなどでは断じてないのだ。遊和とノアが行っているのは、この海だけが広がる『水世界』においては小さな子どもですらもDNAに本能的にやり方を刻まれているはずのただの小魚釣り。

 

…エサもしくはルアーを付け、釣り竿を垂らし。アタリに合わせてリールを巻けば、誰だって魚など簡単に連れるであろう、水世界に生きる者にとっては誰に教えられずともそのやり方もコツも身についていて当たり前の常識中の常識の一つであるはずなのだ。

 

そうだと言うのに、ノアと来たら釣り竿の持ち方一つ知らないと言う始末だし…

 

挙句の果てに、ノアはエサを針に付けることすら抵抗を示すものだから、数分置きにエサだけを食われ、その度にエサを付け替えさせられている遊和に苛立ちばかりが募っていくのは当然と言えば当然のことなのか。

 

そう、自分の釣りも満足に出来ないばかりか、丸一日何も食べることが出来ていない遊和の苛立ちは相当なモノとなっているはず。

 

だからこそ、小言に続いて遊和の口から苛立ちの言葉が零れてしまったとして、それもまた当然の事と言えるはずであり…

 

 

 

「不愉快ってなんなのさ。こっちは君の世話もしてあげてるって言うのに。少しは申し訳ないとか感謝とかしないわけ?」

「致しません。私はまだ昨日の事を許したわけではないのですから。」

「…まだ根に持ってるの?」

「当たり前です。御魚様に引っ張られ海に落ちた私を放っておいた挙句、船上から嘲笑っていた遊和を誰が許せましょう。」

「…だからソレは悪かったって言ってるじゃないか。嘲笑ったんじゃなくて、本当にはしゃいでいるように見えたんだよ。それに釣りするのが初めてとか、流石に冗談だと思うだろ?いくら記憶がなくたって、釣りくらい体が覚えてるモノだし普通…」

「普通とはなんですか普通とは。遊和のそういう所も私は怒っているのです。遊和に見捨てられて傷心しているのです。ですから責任を持ってしっかり私の御釣りを見ていてもらわないと。また海に落ちたら、遊和はまた船の上から笑って私を見捨てるかもしれないですし。」

「…君も結構頑固だよね。こっちはもう謝ったってのにさ。」

「謝られていません。あんな謝罪で私の気が済むと本気で思っているのですか?」

「はぁ…」

 

 

 

…けれども、そんな棘のある言葉を漏らした遊和に対し。

 

それ以上の棘のある言葉で返事をしたノアもまた、何やら遊和に少なからず怒っているかのような声を遊和へと返すのみではないか。

 

…一体、彼らは何に対しイライラしていると言うのだろう。

 

そんな、昨日の昼から何も食べていない空腹も相まってか。お互いに棘のある言葉を交わしあう彼らの間には、少々ギスギスした空気が流れている様子。

 

 

 

 

 

…遊和がノアを連れ立って旅に出てから、5日が経った。

 

 

 

 

 

しかし、初対面だった頃と違い…広い海の上でたった2人でいるということもあり、お互いの言動にどこか遠慮がなくなっていることから、彼らもたった5日間生活を共にしただけでも多少なりともお互いに気を許し始めているのだろう。

 

…まぁ、ソレも当然か。何しろ人間など簡単に命を奪われるこの広大なる海の上では、彼らもまたいつまでも他人行儀でいるわけには断じていかないのだ。

 

海を子ども2人だけで旅するというのは、何をするにもお互いへの理解が必要不可欠。いぶかしんだり、よそよそしかったりしたままでは…ふとしたことで簡単に海に命を還すことになってしまうのだから、遊和もまた記憶喪失だという少女、ノアに対しても、下手に気遣うことを早々に止め、彼女を共に旅する者として対等に扱っている様子。

 

…また、この3日間、生活を共にしたことで遊和はノアの事が多少わかってきた。

 

 

 

「って言うかさ、こんなとこで釣りする事になったのもさぁ…ノアが一人で食べすぎたせいだよね?次のコロニーまで充分持つはずだったのに、食料全部食べちゃって。」

「うっ…それを言われると困ります…で、ですが遊和もいけないんですよ?あんなにも美味しい物をお出しするからです。」

「いや、ただの干物とか缶詰だし。初めて見たよね、缶詰あんなに美味しそうに食べる人。…まぁ、ついつい勧めすぎた俺も悪いんだけど。」

「そうです、私だけが悪いのではありません。遊和も同罪です、えぇ、そうに決まっています。」

「はいはい。」

 

 

 

ひとつ、ノアはその華奢な体に似合わずかなりの大食家であるということ。

 

さざなみ村で貰った、遊和一人ならば1~2週間はゆうに持つ量の食料がたった3日で底をついたこともそう。

 

まぁ、ノアがあまりにも美味そうに喜んで食べるモノだから、遊和もついつい勧めすぎてしまったというのも原因の一つではあるのだが…

 

しかし、その細い体のどこにそんなに入るのか疑問に思えるくらいに、ノアの食欲は遊和も驚くほどの代物であったのだ。

 

そう、記憶を失っていることが原因なのか、ごくありふれた保存食から釣り上げたどの魚までも、初めて食べる物のように驚きと共に食すノア。

 

…刺身に、焼きに、煮に、干しに、その他諸々までも。

普通、この水世界の住人ならば、その辺を泳いでいるごくありふれた魚の塩焼きや刺身、干物や缶詰の味なんて、記憶が無くとも本能的に生まれた時から舌が覚えているはずの代物のはずなのだが…

 

そんな、生まれた時から食しているはずの、いや生まれる前から知っているはずのごくありふれた魚の味に感動を覚るなんて、普通であればありえないはずにも関わらず。遊和の船にあった保存食や非常食、食料という食料をノアはたった3日で全て平らげてしまったのだから、遊和はノアの食欲に驚きを禁じえなかったに違いなく。

 

 

 

…また、それだけではない。

 

 

 

「大体、泳げないって何なのさ。泳げない人間なんて初めて見たんだけど。」

「それは良かったですね、知見が広がったではないですか。」

「…いつまでヘソ曲げるつもり?」

「遊和が謝るまでです。」

「だから謝ったって言ってるよ。」

「謝られていません。こっちは本気で死を感じたと言うのに、笑いを堪えながら謝られても許せるわけがありません。」

「…」

 

 

 

この5日間の生活で遊和が驚いたのは、ノアが全く『泳げない』ということであった。

 

…そう、海に生まれ、海で育ち、海に生き海で死ぬこの水世界の住人が。

 

あろうことか『泳げない』だなんて、天地が…いや、天海がひっくり返ってもありえない事。

 

何しろ生まれたての赤ん坊だって、その本能に泳ぎ方・浮かび方を刻んで生まれてくるのだ。何なら誕生直後の赤子を海で泳がせ健康を祈願するという風習が残っているコロニーだって数多く散見されるくらいに、人間と言うのは海に浮かぶ・泳げると言うのが水世界の人間にとっては普通のことでもあり…

それ故、逆にどうやったら『泳げない』という事になるのかが、遊和からすれば分からない。そうだと言うのに、ノアは昨日など魚釣りの最中に魚に引っ張られ、そのまま海に落ちてしまっただけではなく…水に落ちたことにパニックを起こし、危うく溺死しかけてしまったのだ。

 

…まぁノアが溺死しかけたのは、海に落ちたノアを『はしゃいでいる』と勘違いした遊和が、笑いながらその様子を眺めていた所為で救助が遅れたのも原因なのだが。

 

ともかく…

 

 

 

「でも本当ならこの辺の海域に長居したくないんだよね。いくらこの辺りが『誰の物でもない海(デュマーレ)』って言っても、確かここら辺って大海王の縄張りに結構近かったはずだから。…七海王に関わると碌なことにならないからね。特に大海王のとこの奴らは、話しが全然通じない奴らも多いし。」

「遊和…そう言えばずっと気になっていたのですが、『ななかいおう』とは…なんですか?」

「そんな事も忘れちゃったの?…『七海王』っていうのは、この海で最も力を持ってる7人のデュエリストのことだよ。常識だよ?」

「…仕方ないではないですか。知らな…覚えていないものは覚えていないのです。」

 

 

 

釣り糸を垂らし、波に揺られながら。

 

遊和へと向かって、そんな当たり前のコトを問いかけたノア。

 

そんなノアからの問いを聞いた遊和もまた、喧嘩中であるが故に少しキツめの返答にてノアへと言葉を返すのみであり…

 

それは、この海においては常識であるコトを改めて遊和へとノアが問いかけたが故なのだろう。

 

そう、この海に生きる者であれば誰だって知っている。この海には、7人の王がいる…と言う事を。

 

 

 

「…蒼海王、海洋王、深海王、海嘯王、海嶺王、大海王、………それと、絶海王。」

 

 

 

遊和が零すのは、この水世界に生きる者ならば誰でも知っている7人の海の王達の名。

 

…水世界は広大だ。

 

この海の大半が『誰の物でもない海(デュマーレ)』であるとは言え、それでも個人で広い海域を支配している者達が、この水世界には確かに存在していて。

 

そう、七海王とは、誰もがこの水世界に広く知られた存在。それぞれが恐るべき実力の持ち主であり、強大なデュエルエネルギーを生み出す事が出来る規格外の存在であることから…

 

彼らが直接治める海域および本拠地のコロニーは、他の小規模コロニーとはまるで違う発展を遂げているとも言われているのだ。

 

…それは昔の言葉や概念で言うなれば、一人の王様に治められたいわゆる『国』のようなモノであろうか。

 

『○○村』と呼ばれる小規模コロニーや、『○○街』と呼ばれる大規模コロニーと違い。周囲の『海域』までも領地としている、七海王の治める一つの『国』コロニー。

 

それはおよそ常人では治めきることなど出来ない規模の領コロニーと領海を手中に収めている、規格外のデュエリストであるからこそ実現できるまさに『王』と呼ぶに相応しい力の持ち主たちの事であるのだ。

 

だからこそ、そんな規格外の7人のデュエリスト達を…水世界の住人たちは畏敬の念を込めて、こう呼んでいる。

 

 

 

7人の海の覇王たち…

 

 

…『七海王』、と。

 

 

 

「彼らと関わりの無い者は、決して彼らの領海に近づいてはならない。彼らの縄張りで騒ぎを起こしてはならない…命が惜しければ、彼らの海域を侵してはならない。水世界の常識だよ。暗黙のルールってやつだね。」

 

 

 

どこか苦々しく、それでいて畏敬の念を持ってそう言葉を漏らす遊和の言葉には何やら深みと言うか、重みがある。

 

そう、それぞれが絶妙なパワーバランスによって均衡を保ちながら、この海の一種の秩序ともなっている七海王たち。その他に明確な『国』や『法』が存在しないこの水世界においては、それぞれの縄張りで騒ぎを起こさない事が一種の治安となっているのは最早語るまでもない事だろう。

 

…平穏無事に生きていたいなら、七海王の領海の外で彼らに関わらずに静かに暮らすことが必要不可欠。

 

ソレが例え領海外である、『誰の物でもない海(デュマーレ)』での出来事であったとしても…もし大きな騒ぎを起こし、七海王に目をつけられでもしたら。

 

そのような者は、すぐにでもその命を海に還す事になってしまうのだから。

 

 

 

しかし…

 

 

 

「遊和は絶海王様がお嫌いなのですか?」

「…え?」

 

 

 

この海の常識を知らないノアに、神妙な面持ちでソレを教えていた遊和に対し。

 

ノアが発したのは、遊和が思ってもみなかった角度からの更なる問いかけであった。

 

 

 

「…え、なんで?」

「いえ…最初の蒼海王様と、最後の絶海王様のお名前を出すときの声の様子が違いましたから。」

「…そんなに違った?」

「はい。蒼海王様を呼ぶ時は親しみのある声でしたが、絶海王様の名を呼ぶときは心から嫌っているような声をしていました。もしや、遊和は七海王様たちとお知り合いなのではありませんか?」

「あー…」

 

 

 

けれども、そんなノアからの問いかけに遊和が思わず言葉を詰まらせてしまったのも…ノアの問いが、あまりに的を射ていたが故なのか。

 

…ノアの言葉は、よほど遊和の感情の揺らぎを見抜いていたのだろう。

 

そう、ノアからそう言われた事で、遊和も思わず自分の心の内が言葉に表れてしまっていたことを自覚した様子を見せ始め…

 

 

 

「変なとこで鋭いんだね、ノアって。でもまぁ…うん、そうかもね。ブルー兄さ…蒼海王は前に会った事があって、ちょっとした知り合いって感じなんだけど………絶海王は………ん、特に理由なんて無いよ。『絶海王』ってのはシーギャングのドンの称号、この海の誰からも嫌われている、最低最悪の男のことだ。だから俺だけじゃなくって、世界中の誰からも嫌われるってことだね。だから俺に限ったことじゃないと思うよ。さざなみ村の人たちも『そう』だったろ?」

「………そうですか。」

 

 

 

言葉では淡々と、何でもないことのようにそう言う遊和ではあったものの。しかし、その言葉の裏には隠しきれない嫌悪の感情が隠されている事に…ノアは気が付いてしまった。

 

…『七海王』の名すら知らなかったというノアからすれば、遊和がどうして絶海王に対しここまでの憎悪を抱いているのかが全くもって分からない。

 

けれども、初めから絶海王に対する話題をシャットアウトしているかのような遊和の雰囲気から…ノアもまた、これ以上は遊和に絶海王の事を尋ねるべきではないと静かに察しでもしたのだろう。

 

 

 

…再び、波の音以外に何も聞こえない釣りの静寂が遊和とノアの間に流れ始める。

 

 

 

 

 

そうして…

 

 

 

 

 

「あっ、つ、釣れました!遊和!御魚様釣れましたよ!」

「そうそうそのタイミングだよ!やっとコツ掴んでくれたのか…。」

「完全に理解しました。糸が出て行ってからでなく、それよりもかなり早く巻き始めるのがコツなのですね。」

「…ライン駄々漏れだったもんね、さっきまで。でも良い型だ。これなら晩御飯には充分過ぎるね。」

「それにしても…なんとも奇妙な爽快感があるのですね、御釣りと言うのは。」

「だから『御』はいらないって。それにこれくらい普通だよ。あ、でも釣りをそこまで楽しめるなんて記憶喪失もちょっと便利かもね。ほら、釣りなんてみんな赤ん坊の頃からやってるから今更新鮮味なんて感じられないしさ。じゃ、そろそろノアも慣れてきたみたいだし…俺、今からこの魚捌くから。何かあったら言ってね。」

「…海に落ちたらすぐに助けてくださいよ?」

「わかったわかった。音で気付くから大丈夫。もう笑ったりしないよ。」

「…頼みましたよ、遊和。」

「はいはい。」

 

 

 

ほんの少しの静寂の後…

 

ようやくノアが魚を一匹釣り上げたことで、彼らもまた先ほどまでの棘々した苛立ちを他所にその雰囲気に落ち着くを取り戻していく。

 

そう、ノアは魚を釣り上げた爽快感、遊和はようやく飯にありつける安堵から、彼らもようやく波立っていた心を落ち着ける事が出来たのだろう。

 

そのまま、ノアが釣り上げたいいサイズの魚を持って…遊和は意気揚々と、船の中から包丁とまな板を取り出すと慣れた手付きで甲板にて魚を捌き始めて。

 

 

 

「でも良かったよ、この近くは海賊の縄張りがあるし、ずっと釣りしてるわけにもいかなかったからね。食べたらすぐに出発しよう。刺身と焼きにして…これだけのサイズなら干物も作れそうだ。」

「…あの、遊和…」

「はいはい、今度は何?またエサ取られた?それとも根がかり?」

「あ、いえ…その…海賊様とは、どのような人なのでしょう…」

「ははっ、海賊に『様』なんて必要ないよ。そうだなぁ…地域によって色々あるけど、この辺りだと『大海王』とこの派閥が一番人数も多いかもね。青いバンダナを頭とか腕に巻いてる奴らが多いかな。」

「青いバンダナ…それと、で船を漕いでいるらっしゃったりするのでしょうか…」

「うん、大海王のとこはエンジン式じゃなくて、昔ながらの人力と風力で船を動かすのがルールなんだってさ。奴らはそれが『海賊の流儀』って言ってたけど…ま、随分と非効率的だよね。…あ、でもそんな事よく知ってるね。もしかして記憶戻ってきた?」

「いいえ…その…あのですね…」

 

 

 

しかし…

 

集中して魚を捌いている遊和へと向かって、ノアが何やら歯切れ悪くそう声をかけてきたではないか。

 

…それは先ほどまでの棘々した感情の篭った声ではない。

 

戸惑いが混ざったような、何と言葉を選んでいいのか迷っている様な…

 

どこか、混乱に塗れた詰まった声であり…

 

 

 

「あの…そのような方たちが近づいてくるのですが…」

「えっ!?」

 

 

 

だからこそ、ポツリと呟かれたノアの言葉に。遊和が驚きを禁じえなかったのも、当然と言えば当然で。

 

そして、ノアの言葉を聞いて反射的に―

 

遊和が振り向いたソコには、あろうことか遊和がこの海域で最も会いたくなかった人種が…

 

そう、音もなく、2人の『海賊』たちが遊和の船のすぐ後ろへと着いているではないか。

 

 

 

「おいおいぃ!無断で俺達のシマに入って来た馬鹿はどこのどいつだぁ!?」

「ここいらが大海王のシマだってぇのを知らねぇわけじゃねぇよなぁ!」

「ッ…」

 

 

 

青いバンダナを頭に巻いて、デュエルディスクを装着し。

 

突然、音も無く木の小船から遊和の船へと乗り移り…威嚇するかのような声で捲くし立ててきた、上半身裸の2人の男。

 

それは海賊…

 

紛れもなく、どこからどう見ても海賊の人種。

 

そんな、シーギャングと並びこの法無き海の中でも特に『無法者』扱いされている最低な者達が、あろうことか音も無く遊和とノアの乗るこの船に乗り移ってきたのだ。

 

しかも、この二人はただの野良の末端海賊などでは断じてない…

 

時代遅れの手漕ぎであっても、駆動系の音がしない分だけ得物に気付かれずに接近できる利点をここまで活かせると言うのは得てして派閥の大きい熟練の海賊団の船員の特徴。

 

そう、この周辺の海域と、その頭に巻いた青いバンダナに入った髑髏のマークからして…

 

この二人の海賊たちもまた、七海王の一人である海賊たちを統べる『大海王』の一味であると言うことが、その『経験』から遊和は即座に理解できてしまう。

 

 

 

油断した…

 

 

 

例えこの二人の海賊が『大海王』の派閥の者達であったとしても、それでも普段の遊和ならば『経験』によってすぐに海賊たちの接近に気付けたはず。

 

けれども、ここ数日の空腹のせいか、いつもならばすぐに気付けるはずの海賊の接近に遊和は気付く事が出来なかった。

 

遊和に浮かんでいるのはそんな焦り。そう、ノアとのやり取りの所為にしてはいけないのだろうが、それでも自分しか信用できないこの厳しい『水世界』での一人旅で油断してしまったのは偏に遊和の責任、失態。

 

それ故、普段の一人旅とは勝手が違った船の雰囲気に飲まれ、船に乗り移られるまで海賊の接近に気付く事が出来なかった事を…遊和は、心から悔やみ、焦っている様子。

 

だからこそ、遊和は咄嗟的に―

 

乗り移ってきた2人の海賊たちへと向かって、デュエルディスクを装着する時間を稼ぐべく反射的にその口から言葉を解き放って。

 

 

 

「何で海賊がこの海域にいる!この辺りは『誰の物でもない海(デュマーレ)』だろ、大海王の縄張りじゃないはずだ。」

「ひゃはは!何年前までの話をしてんだこのガキはよぉ!」

「もうこの辺りはとっくの昔にウチのオヤジのシマになってんだ!ガキがノコノコ入ってきやがって!テメェは身包み剥がして魚のエサにして、女は連れ帰って楽しませてもらうぜ!」

「くっ…ノア、下がってて!今すぐコイツらを倒して、ここから離れる!」

「え?あ、あの、ゆっくり話し合うと言うのは…」

「海賊相手にそんなこと出来るわけないだろ!…いくぞ!」

 

 

 

ソレ故…

 

最初から話し合いの通じる相手などでは断じてない事を、遊和もまたその『経験』から知っているからこそ。

 

今の一瞬の会話の隙をついて、その腕にデュエルディスクを装着した遊和はノアの前に立ち塞がるかのようにして…

 

未だ状況を飲み込めていないノアの事を庇うように、二人の海賊たちへと立ち向かわんと向かい合いながら―

 

 

 

 

 

―デュエル!!!

 

 

 

 

 

それは、突如始まる。

 

 

 

先攻は、海賊たち。

 

 

 

「オレのターン、【魚ギョ戦士】を召喚!」

「オレも【魚ギョ戦士】を召喚してターンエンドだ!」

 

 

 

海賊A LP:3000

手札:4→3枚

場:【魚ギョ戦士】

伏せ:なし

 

海賊B LP:3000

手札:4→3枚

場:【魚ギョ戦士】

伏せ:なし

 

 

 

…デュエルが始まってすぐ。

 

2人がかりの為か、初期LP3000、初期手札4枚からスタートした2人の海賊たちが呼び出したのは…

 

およそこの周辺の一般コロニーの住人たちでは太刀打ち出来ないであろう、レベル4かつ攻撃力が1000を超えている恐るべき半漁人のモンスターであった。

 

…さすがは海賊。下っ端とは言え、それでも大海王の一味に所属する死線を知った戦闘兵。

 

水世界に住む一般的なコロニーの住人であったならば、通常召喚可能で攻撃力が1000を超えるモンスターなどそうそう扱えるようなモノではない。しかし、ソレを末端とは言えただの海賊の男達が当たり前のように召喚してくるあたり…

 

大海王の海賊たちの戦力が、それだけ高いモノだと言う事を誰しもに教えているようではないか。

 

 

 

「行くぞ!俺のターン、ドロー!魔法カード、【予想GUY】発動!デッキから【ガガギゴ】を特殊召喚!」

 

 

 

―!

 

 

 

【ガガギゴ】レベル4

ATK/1850 DEF/1000

 

 

 

けれども、それでも遊和は慄かない。

 

早々に呼び出したのは、彼のデュエルにおける要とも呼べるエースモンスター。それは人型なるもどこか和邇にも似た雰囲気を感じさせる、レベル4というラインに置いても破格の攻撃力を持っていると言っていい程の存在感を放つ鋭き水の者であり…

 

その攻撃力は、2人の海賊たちが召喚した通常モンスターとは一線を画す力の差。

 

そのまま、遊和は止まる事無く…

 

2人の海賊たちへと向かって、更に強く動き始める。

 

 

 

「おぉっ!?レベル4なのに攻撃力1850だと!?」

「ひゃはっ!中々イイモンスター持ってんじゃねーか!こりゃいい戦利品になりそうだぜ!」

「そう簡単にやられるか!更に【グレート・ホワイト】を通常召喚!そしてバトルだ!【ガガギゴ】と【グレート・ホワイト】で【魚ギョ戦士】2体に攻撃!」

 

 

 

―!!

 

 

 

「ぐっ!」

「…チッ、やりやがったなこのガキぃ!」

 

 

 

海賊A LP:3000→2400

海賊B LP:3000→2650

 

 

 

弾ける剛力、噛み砕く衝撃。

 

和邇の戦士と白き鮫の攻撃による衝撃が、リアル・ダメージルールによって実体化し穏やかな海面を揺らす波を起こす。

 

…デュエルのエネルギーがあらゆる燃料となっているこの水世界におけるデュエルと言うのは、エネルギー発生効率が最も高いリアル・ダメージルールで行うのが基本の基。

 

ソレ故、2人がかりと言う事もあり初期LPが少ない2人の海賊たちへと…

 

決して少なくない、そして決して軽くない確かなダメージが衝撃と電流となりて、今確かに襲い掛かって。

 

 

 

「よし、俺はカードを1枚伏せてターンエンド!」

 

 

 

遊和 LP:4000

手札:6→3枚

場:【ガガギゴ】

【グレート・ホワイト】

伏せ:1枚

 

 

…そうして。

 

2対1だと言う事に切羽詰る様子もなく、海賊を前にしても落ち着きを見せながら。

 

多対一のセオリー通り、複数のモンスターを展開し場を簡単には空けないように細心の注意を払いつつ。目の前の2人の海賊たちに、一歩も引かない構えを堂々と構えながら…

 

遊和は、眷属たる和邇と鮫に守られそのターンを終え…

 

 

 

「オレのターンだ、ドロー!【思い出のブランコ】を発動し、墓地から【魚ギョ戦士】を特殊召喚!そのまま【魚ギョ戦士】をリリースしてレベル5、【カクタス】をアドバンス召喚だぜ!」

 

 

 

【カクタス】レベル5

ATK/1700 DEF/1400

 

 

 

しかし、海賊たちもまたこの程度の衝撃で怯む事なく。

 

…即座に、そして迅速に。

 

先ほど破壊された魚の先兵を呼び戻したかと思うと、そのまま自身のデッキの最強モンスターを息つく間もなく呼び出し始めるのか。

 

…海賊Aの場に現れたのは、一つ目を持った大きなばけもの。

 

水の中から静かに現れ、その不気味な目で遊和の場の和邇と鮫を睨んでいて。

 

 

 

「くっ、大型モンスターか!」

「まだだぜ!装備魔法、【ポセイドンの力】を【カクタス】に装備!攻撃力を300ポイントアップさせる!そんでバトルだ、【ガガギゴ】に攻撃!グレートスプラッシュ!」

 

 

 

―!

 

 

 

「くっ…」

 

 

 

遊和 LP:4000→3850

 

 

 

そうして…

 

先ほどの遊和の攻撃同様、実体化したダメージが衝撃となりて遊和を襲う。

 

そのダメージは小さいものの、しかしコロニーよりも遥かに揺れ動く船上でのデュエルの為か…その揺れは次第に大きくなりて、遊和を小さくふらつかせてしまったではないか。

 

…しかし、それだけでは終わらない。

 

そう、この攻撃だけではない。海賊は、もう一人存在しているのだから。

 

 

 

「まだ終わりじゃないぜ!オレのターン、ドロー!【黙する死者】発動し、俺も墓地から【魚ギョ戦士】を特殊召喚しそのままリリース!レベル5、【スパイクシードラ】をアドバンス召喚!」

 

 

 

【スパイクシードラ】レベル5

ATK/1600 DEF/1300

 

 

 

続けて現れたのは巨大な海蛇。

 

先の水辺の悪魔と同じく、唸りながら遊和へと向かい…

 

 

 

「装備魔法、【はがねの甲羅】を【スパイクシードラ】に装備!攻撃力を400ポイントアップさせるぜ!バトルだ、【グレート・ホワイト】に攻撃!ニードルバスター!」

 

 

 

―!

 

 

 

遊和 LP:3850→3450

 

 

 

 

浴びせられるは2度目の衝撃。海賊たちが呼び出した上級モンスターが、装備魔法によって更に力を増し…

 

次々と遊和のモンスターへと襲い掛かるその光景は、まさしく非道な海賊たちによる蹂躙か略奪か。

 

 

 

「くっ…」

「遊和!だ、大丈夫ですか…?」

「…ん、大丈夫だよ、このくらい…」

 

 

 

そして、2度の鋭い衝撃を受けて…小さく呻いた遊和へと、背中越しに心配そうな声を掛けたノア。

 

そんなノアを気遣ってか、それとも本当に平気なのかは定かではないものの…気丈な言葉を返した遊和の額に浮かぶ汗は、間違いなくこの状況に対する少なくない焦りが見て取れるに違いない事だろう。

 

…それは先の遊和のターンとは真逆。

 

海賊Bの場に現れた棘の海蛇が、一つ目の悪魔と同じく装備魔法によってその力を増し。その攻撃力を2000にまで高めながら、容赦なく遊和へと襲い掛かっているという状況。

 

流石は海賊と言った所か。一度押してもなおすぐに建て直し強力なモンスターを揃えてくる辺り、彼らもまた日々の荒っぽい生活において野生的にその力を磨いているのだろう。

 

海賊たちの場には海神の槍を装備した一つ目の悪魔と、鋼鉄の棘甲羅を背負った深い青色の巨大海蛇。ソレが、攻撃力2000という破格の力となりて鎮座しているのだ。

 

攻撃力2000と言うのは、生半可なデュエリストでは到達することすら困難な攻撃力…ソレが2体も目の前に居ると言う恐ろしい光景など、およそ一般コロニーに住む人々からすれば何よりも恐れおののく恐怖になっているに違いなく…

 

 

 

「ひゃはははは!これで勝負あったなぁガキンチョ!」

「ガキが!海賊に逆らうなんざ100年早ぇんだよ!」

「攻撃力2000のモンスターが2体…」

 

 

 

そして、そのまま勝ち誇り始めた海賊は…

 

その下品な笑みを収めることもなく、ニヤニヤと遊和へと向かってそのターンを終えるのだった。

 

 

 

海賊A LP:2400

手札:4→1枚

場:【カクタス】

魔法・罠:【ポセイドンの力】

 

海賊B LP:2650

手札:4→1枚

場:【スパイクシードラ】

魔法・罠:【はがねの甲羅】

 

 

 

「俺のターン、ドロー…」

 

 

 

すると、ターンを迎えた遊和が。

 

何かを考えるようにして、一瞬だけその手を止め思考を巡らし始める。

 

それは2対1と言う事もあり、そして目の前に鎮座している攻撃力2000という強敵を2体も前にしているという怖れからなのか。

 

…いや、そうとは限らないだろう。何しろ遊和は先の『さざなみ村』のスーバーグレートさざなみ団のボスとの戦いで、攻撃力2450の『ギガ・ガガギゴ』を召喚し勝利を収めている。

 

だからこそ、この場をどうにか切り抜ける事事態は遊和にだって可能な事。しかし、それでもなおその手を止めて遊和が考えているのは…

 

 

 

(くっ、もたもたしていられないって言うのに…手を間違えたら時間がかかりすぎる…もしそうなったら…)

 

 

 

偏に、ここから先の展開を間違えないように素早く思考を張り巡らせているが故の静止なのだろう。

 

…そう、別に、遊和は海賊たちに追い込まれ絶望していると言うわけでは断じてない。

 

何しろ2対1とは言え、遊和の表情は絶望に塗れた切羽詰ったモノではないのだ。それは、いくら遊和がまだ幼さの残る少年だとは言え、それでもこの険しい水世界を一人で旅している事から、遊和もまたそれなりに場数を踏んでいる一人前の男である証明とも言えるだろうか。

 

だからこそ、遊和が考えているのは勝利を前提とした、その上でどうやってこの場を早く、迅速に切り抜けるかの算段と英断。

 

勝ち誇って油断している2人の海賊たちを他所に、一刻も早く彼らを蹴散らし今すぐにでもこの海域から立ち去りたいかの様にして…

 

 

 

(けどドローは【孤毒の剣】…よし、これならいける!)

 

 

 

遊和は再び、その思考を手早く纏め動き出す。

 

 

 

「俺は【召喚師のスキル】を発動!デッキから【ギガ・ガガギゴ】を手札に加えるよ!更に【テラ・フォーミング】を発動し、デッキから【伝説の都アトランティス】も手札に加えてそのまま発動する!その効果で、【ギガ・ガガギゴ】をリリースなしで通常召喚!」

 

 

 

―!

 

 

 

 

【ギガ・ガガギゴ】レベル5→4

ATK/2450→2650 DEF/1500→1700

 

 

 

現れたのは機鉄の水人、鎧を纏ったエースの進化。

 

遊和の発動したフィールド魔法によって、周囲の海の風景を海の底のような光景へと変わりつつ…

 

海底に沈んだ伝説の都より、先ほど倒された『ガガギゴ』が機械の力によってパワーアップを果たした姿を伴い、再び遊和の場へと現れて。

 

 

 

「上級モンスターをリリースなしで召喚だと!?」

「このガキ、生意気にオヤジみてぇな事しやがって…」

「まだだ!装備魔法、【孤毒の剣】を【ギガ・ガガギゴ】に装備!そのままバトルだ!【スパイクシードラ】に攻撃ぃ!」

 

 

 

…そして、飛びあがる。

 

海賊たちに負けじと、その手に毒々しい一本の剣を装備した遊和の【ギガ・ガガギゴ】が。

 

今ここに、その機会の鎧をオーバーヒートさせる勢いにて。毒を持って毒を制す。その言葉を体現しているかのような、毒々しくも禍々しい剣のオーラを一身に浴びながら…

 

 

 

【ギガ・ガガギゴ】レベル5→4

ATK/2650→5100

 

 

 

凄まじき勢いを持ってして、その攻撃力を倍にして。その手に持った剣ではなく、毒を転じさせて力を増した己の『拳』を、棘の海蛇へと今、振り降ろし―

 

 

 

 

 

「こ、攻撃力5100ぅ!?」

「喰らえ!ネオ・パワー・スマッシュ!」

 

 

 

―!

 

 

 

「ぐ、ぐへぇぇぇぇぇぇぇぇえっ!」

 

 

 

 

海賊B LP:2650→0

 

 

 

一撃…

 

和邇の放った一撃が、凄まじき衝撃となりて海賊の一人を吹き飛ばす。

 

それはまさしく一撃必殺。文字通り、言葉の通りに…その攻撃の衝撃がリアル・ダメージルールによって実体化し、デュエルディスクから漏れ出したモノが海賊Bの意識をその汚い悲鳴と共にいとも簡単に奪い去りながら。

 

海に落ちた海賊Bが、波に揺られながらプカプカと浮かび漂い。そのまま、指先一つ動かせる事無く気を失いそのLPを0にしてしまって。

 

 

 

「ぐっ…や、やりやがったなこのガキァ!」

「まだだ!リバースカードオープン、罠カード、【アームズ・コール】を発動!」

「なっ!?ト、トラップだとぉ!?」

 

 

 

しかし、まだ…

 

それだけでは、終わらない。

 

攻撃が終わったその瞬間に、即座に伏せてあった罠カードの発動を宣言し始めた遊和の場に、妖しく一枚のカードが光り輝く。

 

…それは先のターンに伏せた罠カード。

 

デッキから装備魔法を直接呼び出し、そのままモンスターへと装備できるそのカードは、先の海賊たちの攻撃の時に発動していれば遊和もダメージをもっと少なくすることが出来ていたのかもしれないものの…

 

…しかし、『それ』を承知で。

 

そう、下手な反撃を食らうことを避けるため、先のターンにも呼び出せたはずの【ギガ・ガガギゴ】もトドメをさせるこのターンに呼び出し、一撃にてトドメを刺すという遊和の戦術眼が物語っている。

 

全ては、海賊たちの『油断』を誘うため。延いてはこれ以上時間をかけられないという、この戦い以外にも及んでいる危機感の元に。あえて先のターンに2度の攻撃を喰らうという選択を取ったと思われる遊和の度胸が、今この場にて完全に海賊たちの覇気を上回りながら更なる怒涛となりて遊和の戦意を増していくのか。

 

 

 

「デッキから【閃光の双剣-トライス】を【ギガ・ガガギゴ】に装備!攻撃力が500下がる代わりに2回攻撃出来るようになる!」

「な!?に、2回攻撃!?う、うそだろぉっ、こんなガキに…」

 

 

 

口に【孤毒の剣】を、両手に【閃光の双剣-トライス】を携え、再び飛びあがる遊和のエース、【ギガ・ガガギゴ】。

 

…普通に装備するには手札コストを要求する【閃光の双剣-トライス】も、【アームズ・コール】のカード効果によっての装備のためにコストを回避するという、ある種の搦め手のようなタクティクスを魅せながら。

 

まさに、ただ力押しで攻めてくる下っ端の海賊たちとは格が違うと、そう言わんばかりのデュエルの腕前を前面に遊和は押し出しつつ…

 

再び飛びあがったギガ・ガガギゴが、三刀を振り回し水辺の悪魔を切り裂かんと―

 

 

 

 

「連撃だ、【ギガ・ガガギゴ】!【カクタス】に攻撃ぃ!ネオ・パワー・スラッシュ!」

 

 

 

―!

 

 

 

「ぶぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁあ!?」

 

 

 

海賊A LP:2400→0

 

 

 

一蹴…

 

先の海賊Bと同様、遊和の放った凄まじき一撃によって…圧倒的な実力差をまざまざと見せ付けられながら、汚い悲鳴を撒き散らし海へと吹き飛ばされていった海賊A。

 

散り際の海賊の表情、そして予想外だったと言わんばかりの最後の悲鳴が物語っている…

 

そう、およそ、彼らも思っても見なかったのだろう。単なるガキだと思って襲ったら、圧倒的な実力差を見せ付けられながら返り討ちになるだなんて。

 

 

 

―ピー…

 

 

 

そうして穏やかな海に鳴り響くは、デュエル終了を告げる無機質な機械音。

 

2vs.1だったと言う事もあって、今のデュエルによって発生したデュエルエネルギーによって遊和の船の燃料が30%ほど回復しつつ…

 

自らの失態は自らのデュエルで取り戻す。この広大で厳しい『水世界』のルールに乗っ取り、堂々と二人の海賊たちを速攻で蹴散らした遊和が、デュエルの余韻に浸る間もなく即座にデュエルディスクを片付け動き出す。

 

 

 

「よし、すぐにここから逃げるよノア!」

「え?で、でも遊和…海賊様たちが海に落ち…」

「海賊なんかに構ってる場合じゃないんだ!」

 

 

 

また、未だ状況が飲み込めておらず、呑気な言葉を漏らしているノアを他所に。

 

遊和は船の操縦席…エンジンを切ってるクルーザーを駆動させんと、やや乱暴に座席へと飛び乗ると、戦いが終わったばかりだと言うのにも関わらずその焦りを切る事無く更に焦りを募らせるのか。

 

 

 

「ほら!早く座って!」

「は、はい…」

「くそっ、時間をかけすぎた!早く逃げないと…」

 

 

 

そうして…

 

何が何だかわかっていないノアを意に介さず。今の海賊たちとの戦いなど、『この後』に訪れる恐れのある最大の危機のほんの序章に過ぎないということを、その『経験』から知っている遊和が急ぎ自船を発進させようとエンジンをかけた…

 

 

 

―その時だった。

 

 

 

「ガハハハハ!いってぇどこに逃げるつもりだぁ?」

「ッ!?」

 

 

 

突如…

 

そう、今まさに、全速力にてクルーザーを発進させようとしたその刹那―

 

遊和たちの背後から…今の今まで、その気配も微塵も感じさせなかったはずのその背後から、突如として巨大な海の嵐風のような大声がビリビリと鳴り響き始めたではないか。

 

そして、遊和たちの背後から近づいてきたのは紛れもなく巨大なる帆船…

 

 

いや、どこからどうみても『海賊船』―

 

 

木製の巨大なる船、しかして風の力を巨大なる帆にて受け海を走るその強さは計り知れず。近代的な装備を施すシーギャングの戦艦にも引けを取らぬ、時代に鍛えられし歴戦の船。

 

燃料やエンジンを積んではいない、古き良き木造建築の巨大帆船。そんな時代遅れなるも由緒正しい、それでいてこれぞ『海賊』であるという文字通り歴戦の『船』が、どうやってかは分からないほどに熟練された航海術によって、音もなく遊和たちの背後へと近づいてきたのだ。

 

…荒縄の先端に取り付けた鋼鉄の鉤爪を、何本も遊和の小型クルーザーへと投げて引っ掛け。

 

決して遊和たちを逃さないようにし、そしてその船首に堂々と立ちって居たのは紛れもなく―

 

 

 

 

「ガハハハハ!俺様の縄張りで随分と元気良いじゃねぇか!」

 

 

 

遊和の船を見下ろしながら、嵐のような笑い声が響き渡る。

 

それは世紀末を生きているかのような、あまりに隆々とした鋼の肉体。

 

…丸太のように太い腕、鉄板のように厚い胸板。

 

その体付きは周囲の子分たちと比べても、横にも縦にも倍ほどの差があり…日焼けした全身は海の男の証。頭に被った帽子(トリコーン)はキャプテンシンボル。

 

そして全身に走る傷跡からは、死地を幾度も潜り抜けてきたことが分かるほどに…

 

それほどまでに、その存在感は他の追随を許さぬまでに圧倒的な代物となりて、遥か高みから遊和たちを見下ろしているのか。

 

 

 

そう…

 

 

 

遊和たちの前に現れたのは他でもない―

 

 

 

 

近海を統べる大海賊。七海を統べる覇王の一人。

 

略奪の主、大海原を翔ける者、巨大なる海の怒れる龍…

 

 

 

 

 

誰が呼んだか、『大海王(たいかいおう)』―

 

 

 

 

「お?どっかで見たことあるガキじゃあねぇか!ウチの若ぇのを随分とかわいがってくれたみてぇだぁあ!えぇおい!」

「ッ…大海王…」

 

 

 

 

 

―『大海王(たいかいおう)』シジマ

 

 

 

 

 

海賊たちの王が…

 

 

遊和たちの前に、現れたのだ―

 

 

 

 

 

―…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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