ぷるぷる、ぼく悪いメモリだよ   作:裏風都の浮浪者

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概ね好評なので続きました。


第1話 悪魔のS/妖精パフォーマー

風の街、風都。一年中、一日中、どこでも風が途絶えることのない街。

ここではすべてを風が運んでくる。喜びも、悲しみも。幸せも不幸も……

 

そこかしこに備え付けられた小さな風車が回り続ける中を颯爽と突き進む一人の男。

スーツに包まれた細身の――華奢というのではなく、鋼のように引き締まった――体に、どんな些細な異変も見逃さない鋭い眼光と、それを隠すように目深にかぶった帽子。

ひと際強い風が吹けば帽子が飛ばされないよう片手でそっと押さえ、もう片方の手はポケットに。歩を進めるたび柔らかく揺れるネクタイとジャケットの裾は、逆に男の纏う硬質な雰囲気をいっそう引き立てている。

その姿は小説の世界から抜け出してきたハードボイルドな名探偵……そんな印象を、見る者に与える。

 

「ぶぇっくしょい!」

 

ただし、その男が道のド真ん中で盛大なくしゃみをかまし、せっかくの雰囲気を粉々にぶちこわしていなければ、という注釈がつくが。

名を左 翔太郎(ひだり しょうたろう)。小説の世界から抜け出してきたハードボイルドな……という表現に頷く者が彼の周囲にどれだけいるか定かではないが、まごう事なき探偵である。

 

「翔ちゃんまた風邪?」

「ネギならあるよん」

「……そいつはもう勘弁してくれ。二度と御免だ」

 

翔太郎の向かう先で待ち構えていた、季節の過ぎた赤い服の男(サンタちゃん)妙に髪のボリュームがある髭の男(ウォッチャマン)が差し出そうとするY字の物体――後で鍋でも囲む予定だったらしい――を手のひらを向けて押しとどめると早速本題に入る。

二人と翔太郎は気の置けない友人関係ではあるが、今回は情報屋としての彼らに会いに来たのである。

 

「この()を知ってるか? 髪の長い方だ」

 

聞きながら一枚の写真を取り出す。写っているのは二人の少女。

友達だろう、同じ制服を着た同年代の少女と並んで微笑むロングヘアの少女、名前は星原 風鈴(ほしはら かりん)。その捜索が翔太郎の所属する鳴海探偵事務所に持ち込まれた依頼であった。

 

「娘を探してほしいんです」

 

開口一番にそう語った依頼人は少女の母親だという、星原 数枝(ほしはら かずえ)。風都在住ではないが、仕事の関係で時折訪れることがあるらしい。中学生の娘が居るにしてはずいぶん若く見えたが、早婚の親などさほど珍しくもなくなって久しい。彼女が何故地元ではなく、時折来る程度の風都の探偵事務所をわざわざ選び訪れたのか、その理由はある奇妙な事件にある。

風都へ向かう観光バスが道中で忽然と姿を消し、乗客も乗員も例外なく行方不明になるという事件が起こり、一時はその話題がニュース番組の枠を大幅に占拠していた。報道された行方不明者の中に星原 風鈴の名もあった。

 

行方不明者の家族や友人、そして警察の懸命な捜索もむなしく乗客はおろかバスの残骸すら見つからず。時間だけが無為に過ぎていき、やがて誰もが生存は絶望的だと肩を落とした。

今でもバスの捜索は続いている。ただし救助を待つ人々へ手を伸ばすためではなく、物言わぬ骸となった人々をせめて弔うために。

つい最近まではそのように締めくくられる話だった。

 

だが一週間ほど前、バスの乗客が風都で見つかったのだという。しかも複数人が、生きた状態で。即座に保護された乗客は、しかし一人として話を聞ける状態ではなかった。

全員が自分の名前すら思い出せない有様で、発見された時は見る影もないほど痩せ細り、自分がどこからきて、何故そんな場所をさまよっていたのか分かっていない様子で、他の乗客や乗員についての手掛かりは一切出てこない。

それでも生存者がいたという事実に、家族たちは希望を取り戻した。依頼人もその一人だ。無論風都の警察だって残りの乗客を捜索してくれてはいるが、保護された数人の状態を聞き、娘も生きていてそんな状態になっているのであれば……最早居ても立ってもいられない、と鳴海探偵事務所の扉を叩いたのだった。

 

 

 

「あれ? このコ、あれじゃない? 妖精のシズ!」

「あ、ホントだ! 髪が長いから気づかなかったなぁ」

「……妖精?」

 

写真を見た二人の口から飛び出した聞きなれない単語に、紙幣をポケットにねじ込んでやると共に詳細を促すと、ウォッチャマンは端末を操作してネット内の書き込みの一つを表示、翔太郎の方へ向ける。

 

「何日か前から風都で活動してる路上パフォーマーだよ。ほらコレ」

 

画面を見れば写真と同じ顔の少女――ただし写真と違い、髪は短く切りそろえられ、驚くほど無表情で口を固く結んでいる――が、手のひらに人形のようなものを()()()()躍らせている様が映し出されていた。

 

『やあやあ、ぼくは妖精のシズ! 道行くみんな! ちょっとお話ししていかないかい?』

「……すっげー。腹話術か? 口が全く動いてねえし、それに人形のこの動きはどうやってんだ?」

「お客と会話が成立してるから録音じゃないみたいだし、糸みたいなのも全然見えないし。それに見てよぉコレ、お客の肩に乗っけちゃってるの。ホントどうやってるんだろうね」

 

興味を持って立ち止まった通行人の肩の上で、まるで生きているかのように滑らかに動く人形のデザインはかなり硬質なロボットじみたもので、見た目通りモーターか何かがその動きに関与しているのではないかと思わせられる。無論、自在に動く手のひらサイズの人型ロボットなんて一般人がおいそれと用意できるものではない。

翔太郎の相棒であればこの人形を動かしている方法について散々調べ倒しただろうが、いまの彼にとって一番重要なのはそこではない。

 

「どこで活動しているか分かるか?」

 

風都は彼の庭であったが、流石に背景一面がただの壁であっては場所の特定は難しい。しかしネット投稿されているという事は少なくとも撮影した者がその場に居たという事になる。

 

「それが、何回かは目撃されてるけど全部違う場所みたいなんだよねぇ。見た目中学生くらいだし、家出少女なんじゃないかって噂もあったけど……」

「補導されるかもしれないから場所ズラしてるのかな? まあ、出会えるかどうかは運しだいって訳よ」

「そうか……つまり足で探すしかないって事だ」

「翔ちゃんの得意分野だね」

「だな」

 

二人に礼を言ってその場を後にした翔太郎は早速街のあちこちを探し回り始める。

 

(しかしあの人形、なんだかヤな感じがするぜ)

 

映像越しにあの人形を見たときに感じた一種の既視感のような物。あんな風に自分で動く手のひらサイズの機械(ガジェット)に何度も助けられているからか。それともあの二人からネギを差し出されたことでその時の事件に関わっていた、あるモノを思い出したからだろうか。どうにもそういう非日常的な存在と同じものを感じずにはいられなかった。アレを手のひらに乗せた彼女の技術が飛びぬけているだけの可能性もゼロではない――むしろその方が可能性は高いと思われる――のだが。

少女が依頼の星原 風鈴であるならば他の帰還者と同じく記憶を失っている可能性がある。ならば帰る家も分からないのでひとまず生きるために路上パフォーマンスで小銭を稼いでいるのかもしれない。それができる程の思考力があるなら何故警察に行かないのか、その理由が分からないが、何か事情があるのか。

 

「まずは会ってみねえと何もわからないな」

 

あれこれ考えてみても答えは出ない。思わず呟いた通り、まず会ってみなければこの路上パフォーマーが依頼人の捜す娘であるのかどうかすら分からないのだ。

翔太郎は頭を振って考えを一旦追い出すと、路上パフォーマンスに向いていそうな道を頭の中の風都地図からいくつか再ピックアップし、停めておいたバイクに跨り走り出した。




妖精のシズ、一体何ズンメモリなのか……
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