ぷるぷる、ぼく悪いメモリだよ   作:裏風都の浮浪者

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唐突なものすごい伸び方に困惑しております


第3話 悪魔のS/足元をすくわれる

「溺れろだと? 海でもないのにどうやって……」

「こうやって、だ」

「!?」

 

サマー・ドーパントとなったシズの台詞を嘲笑しようとしたゼブラを始め、周囲のドーパント達は突如として()()()()()()()転倒した。慌てて起き上がろうとすればすかさず再び襲い掛かってきた波に全身を横向きのまま押し流され、無様にひっくり返ってもがく羽目になる。必死で辺りを見渡せば周囲は腰のあたりの高さまで水で満たされており、それが激しく波打ち立っているのも難しい有様になっていた。

 

「そらっ!」

 

鋭い蹴りがゼブラを襲う。唯一、サマーだけは水面を滑るように自由に移動し一方的な攻撃を浴びせかけていた。何とか体勢を立て直そうとすればタイミングを見計らったように波が襲ってきて再び倒され、無防備になったところへサマーの蹴りや、レーザーのように収束した強烈な日光が襲い掛かる。有象無象のドーパント達は手も足も出ずひっくり返され、痛めつけられていた。

 

「これがサマーメモリの能力……? 非常に強力だな。ウェザーが複数の天候を操っていたように、夏という概念にまつわる現象を自由に操れるのか。体に配置された球体からして、あの姿はおそらく夏の星座として知られる白鳥座が元になっている。体色がオレンジな点は気になるが……」

「言ってる場合か! ……おい! フィリップ! 流されてんだぞ!」

 

サマーの作り出した波は黒と緑の超人、ダブルとなった翔太郎たちにも平等に襲い掛かり、水面に浮かぶ緑の右半身が顎に手を当てて考察を始めようとするのを、水中に沈んだ黒い左半身がバシバシと叩いて抗議する。

 

「む……すまない。まずはこの状況に対処しよう」

『ルナ』

 

いつの間にか黄色い小箱(メモリ)を手に持っていた右半身がそれを一度閉じたバックルに収まる緑のそれと入れ替えると、開き直す。

 

『ルナ ジョーカー』

 

音声と共にダブルの右半身が黄色に染まり、その腕が蛇のようにうねりながら本人の身長をゆうに超す長さに伸びて近くの街灯を掴んだ。次の瞬間には元の長さに戻った右腕がダブルの体を街灯の上まで引っ張り上げる。

 

「このままトリガーで行くか?」

「いや、それは危険だろう、上を見たまえ」

「あ? ……げぇっ」

 

言われて見上げればそこには巨大な積乱雲。ゲリラ豪雨、という言葉を思い出した彼らはすぐさま街灯から飛び退いて雲の真下を抜け出す。

次の瞬間、滝を思わせる大量の水が降り注ぎ、街灯があった辺りを蹂躙する。近くに居たマグマ――おそらくこちらが標的だったのだろう――はもろにそれを受け、大量の蒸気を噴き上げながら押し流されていく。

 

「まさか地上でこれを呼ぶことになるとは」

 

空中で手に持った携帯電話を操作すると、何かがダブルの着地点めがけて()()()()()してきた。黒と黄色の潜水可能な水上バイク、ハードスプラッシャーである。

 

「翔太郎、メタルで行こう」

「ああ!」

『メタル』

『ルナ メタル』

 

今度は左手に持った銀のメモリを黒と入れ替える。ダブルの左半身が銀に染まり、背中には長い棒状の武器(メタルシャフト)が出現する。それを左手で構えながらハードスプラッシャーに着地したダブルはそのままそれを全速力で疾走させる。行く先には流され、蹴られ、焼かれてダメージを負ったドーパント達。

 

「メモリブレイクだ」

『メタル マキシマムドライブ』

 

ベルトから銀のメモリを引き抜いて武器の持ち手部分のスロットに装填すると、棒状のそれは先程の右腕のように伸びてしなり、光の輪のようなものを形成すると、すれ違いざまに一振りで複数のドーパントに向けて射出する。

 

「「メタルイリュージョン!」」

 

一つに重なった声と共に打ち出される光の輪を受けたドーパント達は爆発し、砕けたガイアメモリを吐き出しながら人間の姿に戻る。そのまま波に飲み込まれそうになるが、鋼鉄の鞭が巻き付いて阻止するとハードスプラッシャーの後部に積み上げていく。

必殺技の効果時間が続いているうちにハンドルを切り返し往復するようにもう一度襲撃と回収を行うと、この場に現れた五体のドーパントは全て人間に戻り、揺れる水上バイクの荷物と化した。過積載でバランスが悪くなってしまったが、まさかダメージで動けない状態でこの荒れ狂う水場に放りだすわけにもいかない。

少し乗る位置を調整してバランスを取り直すと、標的が居なくなり、水面に立ってこちらをうかがうサマーの方へ向き直る。

 

「さて、片付いたな。この水、もう元に戻していいんじゃないか? 妖精」

「そうだね。ありがとう、助かったよ」

「よく言うぜ」

 

一方的な蹂躙を間近で見た翔太郎は思わずぼやくように言うが、内部データによればシーズンメモリの攻撃は膨大な毒素が相手のメモリにも悪影響を与えるらしく、ドライバーを使っていないドーパントを倒せば高確率で死に至ることが予想された。これ以上すずのトラウマを抉りたくないシズとしては、代わりに殺さず倒してくれたことに本気で感謝を述べていた。殺さない程度の暴力については変身した時点で諦めていたが。

 

言われるまま素直に能力を解除すると周辺の水は映像か何かであったかのように一瞬で消え失せ、それに伴って腰の高さで浮かんでいたハードスプラッシャーは派手な音を立てて地面にたたきつけられた。当然、積み上げられた白服たちは地面に投げ出される。

 

「うおっ!?」

「あっ」

 

数秒の間、誰一人声を発することも音を立てることもない完全なる沈黙が場を支配する。サマーが自分だけゆっくりと降下し、着地したところでダブルは天を仰ぐ。

 

「確かに戻せって言ったけどよぉ」

「……ごめんね?」

 

手を合わせて軽く頭を下げる威圧感も何もない姿に溜息をつき、頭痛を堪えるように額を抑えた翔太郎(左半身)に代わり黙っていたフィリップ(右半身)が口を開く。

 

「ぼくは変身前の事情を知らないが、今話している君はメモリの意思(AI)という事でいいのかな?」

「そうだよ。君も?」

「人間だが、意思がこの体に同化しているという点では似ていると言える」

「へえ」

 

納得したように何度か頷いて見せる。

 

(まあ、知ってるけどな)

 

とは口に出さなかった。何故知っているのか追及されれば答えられない。

 

「君の目的を聞いても?」

「この()を無事、家に帰す事だよ。相棒の方にも言ったけど、君たちの依頼人が信用できるのかどうか分からないから、とりあえず逃げようとしてた所だ。君たちにしてみれば、ぼくの方が信用できないだろうけど」

「……なるほど。では、こうしよう」

 

そう言うとダブルは黒い携帯電話に赤いメモリを装填する。

 

『スタッグ』

 

携帯電話はすぐさま黒いクワガタのメカに変形し、サマーの周囲を旋回し始める。

 

「それを預けておく。君の監視役兼、連絡手段だ。こちらは一旦引き下がって君の懸念に対処する。呼び出しに応じるかどうかはそちらで相談して決めてくれ」

「いいね、それ。分かったよ」

 

変身を解除してドライバーから抜け出したシズがすずの肩の上に座ると、反対の肩にクワガタメカ(スタッグフォン)がそっと着地する。

 

(……相棒。どういうつもりだ?)

(彼女を依頼人と引き合わせる前に、君に話しておかなければならないことがある。白服を警察に引き渡したら事務所に戻ってきてくれ)

「? ああ、分かった……おい妖精! これ以上その娘に使()()()んじゃねぇぞ!」

 

翔太郎は釈然としないながらも頷き、立ち去るシズたちの背中にそう叫ぶと、騒ぎを聞きつけて近づいて来るサイレン――おそらく、超常犯罪捜査課(メモリ犯罪の専門家)だろう――の方へ向き直った。




出番はガイアウィスパーだけで後は何も言及されずにメモリブレイクされたかわいそうなバイオレンス君とフラワー君……(他の三体の扱いがマシとは言ってない)

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