ぷるぷる、ぼく悪いメモリだよ   作:裏風都の浮浪者

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第4話 悪魔のS/検索を始めよう

ダブルの元から去り、適当な路地裏に身を潜めた――スタッグフォンを連れているので位置情報は彼らに丸わかりなのだが――シズたちだったが、すずが体調を崩したため、一息つくという雰囲気にはなれずにいた。ウィンターになって白衣の連中を殺した時ほど酷くはないが、地べたに座り込んだすずは明らかに呼吸の回数が増え、視線は焦点が合っているのかどうか定かではない様子で彷徨っている。

 

(最初に吐いた時は精神的なショックが原因だと思ってた……半分はそれもあったんだろうけど、もう半分は毒素のせいだな、コレ……)

 

白衣の一人が被験体であるすず本人の目の前で堂々と言い放ってくれた、常人なら即死する量の毒素がドライバーを突き抜けて流れ込んでいるという情報。その後元気に暴れまわれたので、すずに施されたという毒素耐性の強化とやらを高く評価してしまっていたが、悪影響はしっかり受ける程度のものだったらしい。それでも変身解除と同時に倒れ込んだりせずここまで歩いて来られたのは驚異的な耐性と言えるのだろうが。

 

「大丈夫? って、ぼくが原因っぽいから言い辛いけど」

「だいじょうぶだよ……疲れただけ……シズのせいじゃ……ない……」

 

そうは言いながらもすずの視線はどんどん下を向いていき、ついには横向きに倒れ込んでしまう。どう見ても大丈夫ではない。

 

「ちょっ!? 別れたの失敗だったか? 今からでもフィリップに……」

 

肩から投げ出されて大人しくこちらを伺っているスタッグフォンに飛びつき連絡を取るべきかと構えるが、すぐに規則的な寝息が聞こえてきたことで一旦踏みとどまる。

 

(……とりあえず大丈夫……なのか?)

 

様子を観察する。寝顔に苦しんでいる様子はなく、最悪に近かった顔色が徐々に改善し始めているのを確認したため、無理に何かしようとして起こすよりこのまま寝かせておいた方が良いと判断したシズは、そばに置いたカバンから毛布を取り出して掛けてやり、スタッグフォンへ静かに、というジェスチャーを送ってから周囲の警戒を始める。

 

(回復力も凄いって事か。そこだけはあいつらもいい仕事を……いやそもそもあいつらに捕まらなけりゃそんな能力要らなかったもんな。クソどもが……っと、やめだ。イラつくとろくなことにならない)

 

すずの受けた扱いについて考えるのは控えようと決めたばかりであることを思い出し、軽く頭を振って思考をいったん打ち切る。頭を振った後、機械になってもこういう動作は思わずやってしまうものらしいと気づき、心の中で苦笑する。当然顔には出ない。

研究所の事を頭から追い出すと、次に出て来るのは先程の行動の振り返り。

 

(奴らはクソだが、俺も俺だ。なーにが多分これしか手はないだよ。すぐそばの奴だけ弾いてダブルのところに行くとか、出来ただろ……ハードスプラッシャー呼んでたってことはリボルギャリーも近くにいただろうし……いや、ドーパント相手じゃ追いつかれるか……ダメだ。俺の頭じゃ、あそこで変身しない手が思いつかない)

 

変身できる隙があるなら逃げられたのでは? と一瞬考えたが、変身中は何故か敵が硬直してくれる現象があったがゆえに成功したのだろう。白服の5人組はアポロガイストやインベス(変身中に攻撃する連中)より大人しかったようだ。

 

(……これもやめよう。行動の改善案なんて出て来やしない。自分のダメさ加減を深く実感するだけだ。自爆したくなる)

 

もう一度頭を振って思考を中断する。こうして別の事を考えながらでも警戒が緩まないのは機械の良いところだと実感しながら思考を次へと移す。

 

(内部データでも見るか)

 

シーズンメモリとしての記憶領域に白衣の連中が放り込んだデータの数々。自分の頭の中にあるとはいえ、しっかり閲覧しなければその情報をうまく認識できないらしい。その情報が必要な状況になれば一瞬で検索できるが、事前に知っておいて悪い事などありはしないはずだ。

 

(俺はガイアメモリを始めとする複数の技術を合わせた自律型ガジェットの実験機……その複数の技術とかいうのについて詳しく……どこだ? ああ、あった……おい、コズミックエナジーってなんだ。いや、それが何かは知ってるが、なんでそんなものを動力にした!?)

 

出てきた名前は、人間では容易に制御できず、ガイアメモリの毒素と同様の精神への影響や、最悪の場合は周辺一帯を巻き込んだ大爆発を起こす危険なエネルギーのもの。

何故こんな重要なことを認識できなかったのか。理由は簡単で、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()だ。機械の悪いところが出た。ようやく時間が取れたことでデータを片っ端から見たお蔭でたまたま見つけられたのである。

 

(まて、まて、まて! だったら()()()!?)

 

この時点ですずを想定の数倍危険な目に遭わせていたことになる。これ以上の物はでてこないでくれと願いつつ、思いつく限りの単語を検索していく。

 

コアメダル・セルメダルetc.……該当なし

魔法石・ウィザードリングetc.……該当なし

ヘルヘイムの果実・ロックシードetc.……該当なし

重加速粒子・シフトカーetc.……該当なし

眼魂(アイコン)etc.……該当なし

ネビュラガス・フルボトルetc.……該当なし

ライドウォッチetc.……該当なし

プログライズキー・アークetc.……該当なし

ワンダーライドブック……バイスタンプ……

 

多少時間がかかろうと問題はない。その他にも多数の単語を検索し続ける。

幸いというべきか、どれも該当する物は無い。

 

一つだけ、検索することを躊躇い、順番を飛ばしたソレを除いては。

 

(これだけは、出るなよ……頼む)

 

 

バグスターウイルス……該当()()

本体の制御チップに搭載することで人間と同等の判断力を持ち、命令に忠実な思考パターンを形成するとともに変身時には使用者に感染、一体化し肉体の操作権を奪い取ることであらゆる人間を強力かつ制御の容易な生体兵器に作り変える。

感染症の影響で使用者の生命維持が極めて困難であること、現状ではロボット兵の方が安価かつ容易に量産可能なこと等が課題となっており――

 

「嘘だ」

 

肉体が無いことをこれほど(さいわ)いと思ったことは無い。そうでなければ、おそらくシズは卒倒していた。バグスターウイルス……ゲーム機などの電子媒体から人に感染し、対処出来なければやがてその肉体を消滅させる新生物。それが自身の正体だと知り、それを踏まえた上で自身の行動を顧みて絶望に近い感情を抱く。

 

「ふざけるな」

 

危険な目に遭わせるどころではない。出会ったあの時、ボロボロの少女へとその手でトドメを刺してしまっていたことを自覚してまともな状態でいられるほど、図太い精神は持ち合わせていなかった。

ゆっくりと振り返れば、静かに眠る少女の顔色は先程よりも良くなっている。しかしもう、それを見て安心することは出来なくなっていた。

 

「……シズ?」

「あ、ああ……起こしちゃったみたいだね」

 

思わず発した声が聞こえてしまったのか、眠っていたすずが目を開いてゆっくりと起き上がる。先ほどまで毒素――あるいはウイルスのせい――で苦しんでいたにもかかわらずその表情はどこか穏やかで、口元には笑みすら浮かんでいた。

 

「良い夢でも見てたのかな?」

 

ゲーム病……バグスターウイルスによる被害はストレスによって急速に進行する。少しでもそれを抑えられそうな要素が目に入れば迷わず飛びつくしかない。

 

「うん。いろいろ思い出してきたみたい」

「そうなんだ。聞いてもいい?」

「うん。えっとね……」

 

嬉しそうに語り始めるすずの肩に座る。そこが定位置になりつつあったというのも理由の一つだが、今は彼女の視界に入りたくなかった、というのが最大の理由だった。




クロスオーバータグが飛び起きて仕事をし始めました
宝生シズゥ!

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