ぷるぷる、ぼく悪いメモリだよ   作:裏風都の浮浪者

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皆バグスターウイルス大好きだな! 私も大好き! バグスターも私が好き!(支離滅裂な思考・言動)


第5話 悪魔のS/それぞれの決心

鳴海探偵事務所へとって返した翔太郎を迎えたのは当然、呼び戻した張本人の相棒たる少年、フィリップであった。

 

「戻ったね翔太郎」

「フィリップ、なんだよ。話しとく事ってのは?」

 

白紙の本を片手に、ホワイトボードに何かを書き込み続けるフィリップの元へ階段を下りながら問いかければ、既に書き込みの終わったホワイトボードを指し示すことによって返答される。

 

星原 風鈴(ほしはら かりん)の巻き込まれた観光バス失踪事件をぼくの方でも追っていたところ、いくつか気になる情報がヒットしてね」

「気になる情報?」

 

一度頷いて見せると書き込まれた内容について説明を始める。

 

「まず、バスおよび乗客が消えた際の行方だが……検索しても見つけることはできなかった」

「検索ワードが足りなかったってことか?」

「いや、違う。バスの消失から生存者の帰還まで、その間のありとあらゆる情報が”存在していない”ことが分かったんだ」

 

翔太郎の顔が険しくなる。フィリップの頭の中に詰まった膨大な情報、通称地球(ほし)の本棚には地球上のあらゆる情報が記載され続けている。

それに記載されていないのであれば、通常ならありえないことだが、バスとその乗客たちはこの世界からいなくなっていたということになる。一応、異空間を生成して人を閉じ込めてしまうメモリも存在はしているはずであるし、そのほかでは本棚そのものに干渉され、閲覧を封じられたこともある。

いずれの場合であっても、この件が何か特異な力の関わる異常事態であることに疑いの余地はなくなった。何より帰還者である星原 風鈴が自立型のガイアメモリを連れており、さらには追っ手としてドーパントまで差し向けられているのだ。

 

「……あの白服。やっぱり財団Xか」

「どうだろうね。酷似していたことは確かだが、財団の制服とはやや意匠が違った。下部組織のひとつという線もあるが……彼らについて、今は情報が少なすぎる」

「だな。襲ってきた5人は照井(てるい)のところで取り調べ中だ……まず目覚めてくれないと何も聞けねえけど、そのうち何かわかるはずだ」

 

名前が挙がったことで、鳴海探偵事務所所長の旦那である刑事の顔が浮かんでくる。彼に捕まった以上、並大抵の精神では秘密を隠し通すことはできないだろう。一度火が付けば容赦のない面のある彼だが、悪人の相手となればこの上なく頼もしい。じきに翔太郎の言う通りになるはずだ。

 

「そうだね……では、そろそろ本題に入ろう」

「ん? 今のが本題じゃねえのか?」

「ああ。星原 風鈴にわざわざ追っ手を差し向けている辺り、世界から消えるような特殊な攫い方は、今は出来ない可能性が高い。警戒は必要だろうけどね」

「じゃあ、本題ってのは?」

 

首をかしげる翔太郎に、フィリップは分かりやすいようにホワイトボードの一部を大きく丸で囲んだ。そこには星原 風鈴の家族構成――本人と両親のみというシンプルなものだった――が記されていた。

母親の名前が×印で消し込まれ、すぐ隣に()()と記されていることに気づいた翔太郎が目を見張るのを確認してからフィリップは続ける。

 

「これがもう一つヒットした、気になる情報だ。彼女は5年前、交通事故によって母親を亡くしている」

「……なんだって?」

「つまり依頼人、星原 数枝(ほしはら かずえ)と捜索対象、星原 風鈴に血縁関係は無い。死人は蘇らないからね。父親の再婚相手か、はたまた……」

 

死んだ母が動き出して行方不明の娘の捜索依頼を出すなどありえない。例外中の例外たる不死身の兵士たちが一瞬頭をよぎるが、彼らに一般的な生活など望むべくもない。言及はしなかった。

 

「妖精くんの言っていたことは記録を聴いた。彼の懸念ももっともだ」

「……」

「依頼人については、まだ検索していない……というより、出来なかった。いつかのように”星原 数枝”という本に鍵がかかっているんだ。これも怪しい点だね」

「あいつらの手先だって、言いてえのか?」

「勿論、そうとは限らない。情報が閲覧できない以上は……君から見て依頼人はどうだった?」

 

帽子をいつもよりも数段目深に被り、絞り出すように言う翔太郎へ、諭すように語り掛ける。常に依頼人を信じようとする彼にとって、こうして疑うような話はすぐには受け入れがたいだろう。

言われて目を閉じ考える翔太郎。しばらく沈黙を貫いたのち、ゆっくりと開かれた目に迷いはなく、まっすぐにフィリップの方を見据える。

 

「悪いな相棒、嫌な役押し付けちまって。お前や妖精の言う通り、おかしな点があるのは分かってる。でも俺にはどうしても、あの娘が心配だって語るあの人の目が、嘘をついてるようには見えなかった。実の親じゃないかもしれないが、少なくとも愛情があった。これだけは確信できる」

 

そのまっすぐな目をしばらく見つめ返したフィリップはやがて小さく頷く。

 

「再婚相手の方だと判断したわけか……今は君の直感と観察眼を信じよう。ソレには何度も助けられたからね。では彼らを依頼人の元へ呼び出すという事でいいかな?」

「ああ、頼む」

「承知した」

 

彼らに預けたスタッグフォンへ通信を送り始める相棒の姿を横目に、翔太郎はもう一度深く帽子を被り直した。

 

 

 

 

「へえ、すずちゃんって呼び方はお母さんが」

 

すずの肩の上で、彼女が戻ってきた記憶について語るのをゆっくりと聞いて過ごす。バグスターウイルス感染症、通称ゲーム病にかかった人間との会話には非常に神経が磨り減る思いであった。何せどこにあるか分からない地雷を踏めば相手が消滅するかもしれない中を、手探りで進まなければならないのだ。しかも見つけた地雷は絶対に起爆しないよう撤去しなければならないが、シズにはその手段が無いに等しい。せめて位置だけでも把握し、決して触れないように決心する程度が彼の限界だった。

 

「そうなの。本当の名前はかりんって言って……あ」

「どうしたの?」

「探偵の人に、違うって言っちゃった。わたし、かりんだよ」

「記憶が消えてたんだから仕方ないよ。きっとわかってくれる」

 

ほんの僅かに残っていた、人違いの可能性が消えたことに安堵すべきか、依頼人とやらへの警戒を続けるべきか判断に困っていると、不意に肩の上から持ち上げられたことに気づいて顔を上げると、すずに覗き込まれており少々慌てる。

 

「どうしたのかな?」

「シズ、なんか変だよ」

 

心臓は無いはずだが、確かにドキリとした感覚を覚えたシズはぎこちない動きですずの方を見つめ返す。

 

「そう、かな?」

「もしかして、電池切れ?」

「へっ? ああ、ちょっと減って来たみたいでね。大丈夫だよ、日に当たってれば充電できるから」

「そうなの? 便利だね」

 

シズが機械であるという認識をしっかり持っていたようで、都合のいい勘違いをしてくれたのでそのまま便乗する。太陽の光と一緒にコズミックエナジーも降ってきてはいるハズなので嘘ではない。回収機構がどうなっているのかはデータにもなかったが。

 

「探偵の人にわたしを探してって言ったの、お母さんなのかな……?」

「そうだといいね。素直に聞けば教えてくれたかな? ぼくはともかくすずちゃんが聞けば……流石に”誰かは教えないけど会ってくれ”なんて言わないだろうし……」

 

その時、すぐ近くで待機していたスタッグフォンがすずの手元まで飛んできて携帯電話に変形する。どうやら翔太郎達からの連絡が来たようだ。周囲や時間を見れば、あれから一晩経過しており、すずが寝ている間にずいぶん検索に熱中していたことを自覚した。その結果は絶望だったが。

 

「シズ……わたし、会ってみたい、もしお母さんなら……会いたい」

「うん、そうしようか」

 

すずが電話に出るのを眺めながら、最悪の事態になった場合に備えて内部データ、特に自身の仕様についてのより詳細な閲覧をシズは始めた。

依頼人がニセモノならどんな手段を使ってでもすずを守るために。

もし本物の親なら……

 

(その時は、俺が消えればいい)

 

独自のクリア条件を持ったゲームのキャラとして成立していない野良バグスターである以上、倒す以外の方法では、すずのゲーム病を治療できない。

今の自分は所詮、悪の組織が開発した非人道兵器(悪いメモリ)に過ぎず、少女の幸せには邪魔な存在であることをはっきりと再認識した彼は、すずにダメージを与えずに倒されるために役立つデータの検索を始めた。

 

 

 

 

「この本によれば、シーズンメモリに搭載された名もなきバグスター……彼には使用者を消滅させ完全体に到り、人類の敵となる未来が待っていた」

 

誰もいない真っ黒な空間にて、それでも誰かに語り掛けるようにその手の中の本を読み上げる青年。

 

「すべてに絶望した彼は世界そのものを憎み、その溢れ出す悪意をもって自身の復活(コンティニュー)能力と、4種のガイアメモリを無尽蔵に生成し、人に撃ち込んで怪人(ドーパント)に変えてしまう能力とを併せ持つ最悪の怪人”アーク・バグスター”へと進化を遂げる」

 

一切の光源が無いその空間においてもどういう訳かその姿は手に持った本の文字も含めてハッキリと浮かび上がっている。

 

「その最期は仮面ライダーダブル・サイクロンジョーカーエクストリームの手で二度とコンティニューできないよう、データごと完全に消滅させられ……おっと」

 

そこまで読み上げたところで青年は唐突にその本をパタリと閉じて肩を竦め、()()()()()を向いて笑いかける。

 

「先まで読み過ぎました。皆様にとって、これは未来の話。でしたね」

 


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