ホシヒナ小説集   作:1D100面相

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ホシノとヒナが一緒にお昼寝している二次創作を見たくて堪らなくなったので、衝動的に書いて投稿。
おまけはホシヒナ関係無しで、ヒナ夏の若干のネタバレを含みます。

2023/02/04追記
最初の先生とホシノのモモトークを、モモトーク風トークジェネレーター「YuzuTalk」を利用して作成した挿し絵から、単なるテキストへと変更いたしました。


ヒナとホシノが一緒にお昼寝をする話+おまけ

 

 ——ポロン。

 

>>先生:

『最近ホシノはヒナと仲が良いって聞いたけど』

 

>>ホシノ:

『まぁ、ちょっと縁があってね』

『仲良くさせてもらってるよ』

『それがどうしたの、先生?』

 

>>先生:

『いや、ここ十数日、ヒナが働き詰めになってるらしくてね』

『是非ホシノからヒナに、直接休みを取るよう言って欲しいんだ』

 

>>ホシノ:

『あー、なんか厄介な犯罪組織がゲヘナに潜伏中なんだってね』

 

>>先生:

『うん』

『私からも、モモトークを通して話をしているんだけど⋯⋯』

『やっぱり実際に会って話をしないと、効果は薄いみたいで』

 

>>ホシノ:

『でも先生自身も仕事が忙しいから、中々会えずにいる、と』

 

>>先生:

『⋯⋯おっしゃる通りです』

 

>>ホシノ:

『他の風紀委員から休みを進言させる⋯⋯』

『⋯⋯とかも意味は無さそうだね』

『ヒナちゃんだし』

 

>>先生:

『お願いできるかな?』

『こちらからも根回しはしておくから』

 

>>ホシノ:

『勿論、休息の百戦錬磨たるおじさんに任せておきたまえよ』

 

>>先生:

『ありがとう、ホシノ!』

 

>>ホシノ:

『でも、そういう先生もちゃんと休みは取るんだよ?』

『基本的に人の事言えないんだから』

 

>>先生:

『善処します』

 

>>ホシノ:

『それじゃ、いっちょかましますかー』

 

 


 

 

 ばぁーんっ!

 

「たのもーっ!」

 

 突如として勢い良く開かれた執務室の扉と溌溂と発せられた声に、思わずビクッと身を竦めるゲヘナの風紀委員長——空崎ヒナ。

 すわ何事かと、書類の上を走っていた手を止めて、視線を扉の方へ向けてみると⋯⋯。

 

「⋯⋯ホシノ?」

「やー、どーもどーもヒナちゃん。おじさんがお昼寝を誘いにやってきましたよー」

 

 そこには、悪戯っ子のような笑みを浮かべた桃色の侵入者——小鳥遊ホシノがいた。

 

 

—ヒナとホシノが一緒にお昼寝をする話—

 

 

「⋯⋯お昼寝? 一体何を⋯⋯いや、そもそもここまでどうやって⋯⋯他の風紀委員は一体何をやってるの」

「うへー、まぁまぁ、そんな細かい事はどうでもいいじゃない」

 

 すすす、とヒナが仕事をしている机に平行移動をキメるホシノ。そのまま肘をついて机にもたれかかり、ややキメ顔でこう言い放つ。

 

「大事な事は、今日のヒナちゃんのお仕事はもうお終いだっていう事」

「⋯⋯本当に、何を言ってるの?」

「今日は、ヒナちゃんのお休みの日。これからヒナちゃんはおじさんと一緒に、夢の中の鯨を探しに行くんだよ」

「⋯⋯」

 

 ヒナからしてみれば、全く以て意味不明である。何故自分の仕事をするや否やを、部外者の人間に断じられねばならないのか。ただでさえ、忙しい身の上であるというのに。

 特に今は大規模犯罪組織摘発の為に、風紀委員一同、寝食を削っての捜査活動を実施中である。おかげで疲れやストレスが溜まって、やや苛立ち気味のヒナは、眉を顰めて、つっけんどんな態度でホシノに応対する。

 

「悪いけど、今は忙しいから、貴女の相手をしている暇は無いの。出てって」

「うん、厄介な犯罪組織がゲヘナ自治区内に潜伏してるって話は聞いてるよ。その捜査活動がうまく身を結んでいないのも」

「⋯⋯だったら、今の私の現状が分かるでしょう?」

「勿論。だからこそ、ここにおじさんが来たんだよねー」

「⋯⋯」

 

 話が通じない。仕方がない。ここはもう実力行使で。

 そう判断して、ヒナが側に立てかけてある愛銃に手を伸ばそうと——。

 

「それにしても隈とか前より結構酷い顔してるよヒナちゃん。先生が見たらどんな顔をするだろうね」

 

 先生。その一言で、ヒナの身体はぴたりと停止する。

 

「⋯⋯先生。そう、なるほど、裏で差し金を引いてるのは、先生ね」

「差し金って、ひどいなぁヒナちゃん。けれども察しはいいね」

「私に休みを勧めてくる人なんて、大抵アコか先生。それでホシノが繋がっている相手といったら、先生ぐらいしかいないもの」

「うへー、ヒナちゃん名推理だよ。そうだね、確かにおじさんは先生に頼まれてここに来た。でもね」

 

 ふと、今までとは違う、真剣味の増した顔でヒナへと向き合うホシノ。

 

「ヒナちゃんに休んでほしいっていうのは、私としても同じ気持ちかなー」

「⋯⋯」

「私だって一人の人間。いくら先生に頼まれたからといっても、そうそう安請け合いはしない。友達として、ヒナちゃんには無理し過ぎて欲しくないんだよ」

「⋯⋯」

「一人で気張って、頑張って、それで倒れてしまったら元も子もないんだからね?」

 

 思わず、心が揺らぐヒナ。

 先生やホシノがここまで自分の身を案じてくれている。ともすれば、このまま流れに任せて、この魅力的な誘いに乗ってしまいたくもなるけれど。

 そこまで考えて、頭に手を添えて、ヒナは諦観した表情でかぶりを振る。

 

「⋯⋯やっぱり、駄目よ。この大事な局面で私が休んだりしたら、風紀委員会が立ち行かなくなるもの」

 

 そう、自分は風紀委員会の委員長。その立場と付随する責任を放棄する訳にはいかないのだ。少なくとも今、現時点に関して言えば。

 と、そこへ新たに執務室へと入室する人物が一人。風紀委員会の行政官、天雨アコであった。

 

「⋯⋯アコ。見ての通り、今ちょっと予想外の訪問者が来てて。悪いのだけれど、私と一緒に彼女を追い出すのを手伝ってくれないかしら」

「⋯⋯」

「アコ?」

 

 彼女は何も言わぬまま、顔を伏せた状態で机に近づく。そして、次の瞬間には書類等、机の上に置かれた仕事関係の物一式を、目にも止まらぬ早業で、ヒナの目の前から取り去ってしまった。

 これにはヒナも、困惑の色を隠せない。

 

「えっと、アコ?」

「私は、ホシノさん⋯⋯ひいては、先生の意見⋯⋯に賛成です」

 

 しかし、その一言で、ようやくヒナは全てを理解した。

 何故、ホシノがここまで何の騒ぎも起こさず辿り着く事が出来たのか。

 先ほど自分でも口にしていたではないか。私に休みを勧めてくれる人物など、()()か先生ぐらいしかいないと。

 ホシノが先生と繋がっているというのなら、またアコも同様にそうである、というのは状況から必然的に導き出せる事実に相違なかった。

 

「委員長はここの所、少し⋯⋯いや、普通に働き過ぎです。今日は、ホシノさんと一緒に是非とも存分に、身体をお休めになってきてください」

「でもアコ、この後には件の組織に武器を横流ししたと考えられる、非合法の武器商人の摘発とかが控えてて⋯⋯」

「この後のご予定でしたら、ヒナ委員長抜きでも仕事が進められるよう、私が計画を変更しておきました」

 

 いつの間に、やら、何を勝手に、などと言い出す暇も無く。

 

「委員長の不在に際して、考えられうるアクシデントに関しては、既に()()()()を講じています。ですので、委員長。今日は委員長が何を憂う必要も無い、完璧な()()です」

「だってさヒナちゃん。せっかく行政官ちゃんがここまでしてくれたっていうのに、それを無下にする訳にはいかないよねぇ?」

 

 つまるところ、既に盤面は()()の様相を呈していたという事で。

 

「委員長?」

「ヒナちゃん?」

 

 迫り来る二人の笑顔を前にして。

 

「⋯⋯分かった」

 

 ヒナは首を縦に振らざるを得ないのであった。

 


 

「さて、お昼寝スポットにとうちゃ〜く!」

「ここが⋯⋯」

 

 渋々ながらこっそりと、ゲヘナを後にしてきたヒナと、ヒナを連れ出した事で一仕事を終えて、気が緩みまくってるホシノ。今、その二人の目の前にあるのはそこそこに大きな川の姿。

 穏やかに流れる水面は、太陽の光を反射してきらきらと宝石のような輝きを放っており、そこから時折ばしゃっ、と魚が飛び跳ねては流れの中に消えていく。川を中心に、左右には広めの川原が広がっていて、それを超えた先には、草はらを纏った、緩やかな傾斜の坂が続いている。二人はこの坂の上の道路より、川を俯瞰していた。

 

「D.U.にも、こんな長閑な場所があったのね」

「私も百鬼夜行の子に、最近教えてもらったんだけどねー。うんうん、今日は天気も良くて、良い感じにぽかぽかだ」

 

 と、ホシノが緑の絨毯の上へと足を踏み入れる。諸々の荷物をそこら辺に放って、不意にそのままゆっくりと倒れ込むと——。

 ぽすっ。ごろごろ。

 さながら猫のように坂を横に転げ回り始めた。

 

「うへへー、ふかふかでさいこー!」

「⋯⋯気持ち良さそうね」

 

 続いてヒナも坂へと降りてきて、ホシノがごろごろしているのを横目に、適当な場所で腰を下ろす。

 ぽすん。なるほど確かに良い座り心地。ここの整備を担当している作業員は優秀なのね、とどこかズレた感想を残すヒナ。

 そこへ転がってきたホシノが、ヒナへと軽い体当たりをかまして、その場に静止する。

 

「あうっ」

「ほら、転がってないで。お腹も減ってきたし、まずはさっき買ってきたお昼ごはんを食べましょう?」

「うへ〜、そうだねー」

 

 放った荷物の内の一つ、コンビニのレジ袋をガサガサと物色したホシノは、そこから飲み物と一切れが三つでワンセットになったサンドイッチを、それぞれ二つずつ取り出す。

 サンドイッチは両方ともハムやレタス、ツナやタマゴといった、一般的な具材が挟まれている物であり、飲み物はボトルの水とパックのオレンジジュース。その内、水の方をサンドイッチと共にヒナに渡しながら、ホシノもヒナの隣へと座った。

 二人はサンドイッチの包装を取り外す。

 

「それじゃあ」

「「いただきます」」

 

 口に含めば、それはありきたりの味。特段不味いわけでもなければ、美味いわけでもない。言ってしまえば、普通と形容するのが最も適切なのであろう。

 しかし、ここ最近味の良し悪しなど気にする暇も無かったヒナにとっては、充分に美味であるように感じられた。友人と一緒に、太陽の日差しの下で、心地の良い風に吹かれながら、というこの状況もプラスに働いている。つまり”海辺で食べるトウモロコシはおいしい”理論であった。

 気づけばサンドイッチの一切れを食べ尽くしていたヒナ。二切れ目へと手を伸ばしつつ、こんな事を呟く。

 

「⋯⋯こんなのんびりと過ごせてるのも久しぶりね」

「十数日ずっと働き詰めだったんでしょ? そりゃあ久しぶりに感じるだろうねー」

「まぁ十数日間⋯⋯それ以前からのんびり、なんて感じる暇は中々無かったから。それだけに正直、何もなくて逆に落ち着かない感じもするのだけれど」

「いやー、ワーカーホリックだねー、ちゅー」

 

 のほほんとした顔で、パックに挿したストローよりジュースを吸い上げるホシノ。彼女もまた、二切れ目へと突入していた。

 

「人生、ゆとりが大事だよー? おじさんを見習って、ヒナちゃんももっとゆとりを持った生活を心がけていった方が良いと思うなー、あむっ」

「貴女はちょっとゆとりを持ち過ぎているような気もするけど」

「もぐもぐ⋯⋯ごくっ、いやいや持ち過ぎてるくらいがちょうどいいんだよ」

「そういうものなのかしら⋯⋯はむ」

 

 ふとヒナはホシノ並みに緩くなった自分の姿を空想した。めんどくさいと言って執務室のソファで欠伸をしながら寝転んでいる自分。そこへ、怒涛の勢いで流れ込んでくる仕事、仕事、仕事。大半を部下に処理を任せてみた。結果、倍の量で仕事は返ってくる。美食研究会は給食部を攫い、温泉開発部は源泉の地確保の為の爆破を敢行。万魔殿はうるさいし、他勢力もここぞとばかりに侵攻を開始。そして最後には終幕:デストロイヤー(マシンガン)をぶっ放している自分。ヒナはなんだか悲しくなった。

 

「いや、無理ね。ゆとりだなんだと言っていたら風紀委員長は務まらない」

「結局は、そこだよね」

「?」

 

 ふと、ホシノの声から緩さが抜けていったのを感じたヒナは、顔を彼女の方へと向けた。

 ホシノは晴れ渡った空を見上げていた。その瞳はどこか、遠くを見ているような。

 

「ヒナちゃんは、組織に、立場に縛られすぎてるんだ」

「⋯⋯」

「確かにそれらには相応の義務が付いてくる。ノブレスオブリージュ⋯⋯って言うのかな。それは仕方ない事だし、実際やらなきゃいけない事ではある。けど、自分を捨ててまで取り組むべき事ではないよ」

「⋯⋯」

「アビドスとゲヘナじゃ、状況がまるで違うから、あまり下手な事は言えないけど⋯⋯もう少し、その肩に背負った責任、減らそうとしてみてもいいんじゃないかな?」

「⋯⋯そうね」

 

 そこで一区切りとばかりに、小さくなったサンドイッチの欠片を口の中に放り込むホシノ。

 

「もぐもぐ、ヒナちゃんはちっちゃいんだし、ちっちゃい子はちっちゃいなりのモノを背負えばいいんだよー」

 

 そんな事を言いながら、ホシノはヒナの肩にぽんぽんと手を置いた。その声にはすっかりこれまでの緩さが戻っている。

 その事にヒナはどこか少し安心しつつも、ちっちゃい子呼ばわりにややムッとしたので、自身の頬を膨らませながら、ホシノの頬をつんつんと突っつく。

 

「ぐえっ」

「貴女だって、そう身長は変わらないじゃない」

「私の方が少し大きいもーん」

「言うわね。こんなもちもちほっぺをしてる癖に」

「ぐえ、うへっ、ほっぺは関係ないじゃんほっぺは」

 

 存外激しいつんつん攻撃をしてくるヒナに、こりゃ参ったとばかりに倒れ込むホシノ。

 そんなホシノを見て、ふふっと鈴の転がすような声でヒナは笑う。

 

「でも、ありがとう。そうね、貴女の言う通り。中々、難しい話ではあるけどね」

「個人的に一番は、やっぱり後進の育成に力を入れるっていうのが良いんじゃないかなーなんて思ってるんだけど」

「それは私も本腰は入れてるつもり。でも思うようには行ってないわ⋯⋯はむっ」

「うーん⋯⋯そもそもゲヘナ学園の”自由と混沌”という校風と”風紀”っていうのは真逆で相性最悪な気がするし、そこら辺で何かうまくいってないのかも?」

「痛いとこ突いてくるわね⋯⋯」

「だから、ピシッとした規律とか、厳しさで部下を統制するんじゃなくて、ある程度は本人たちの自由にさせてあげてみたり、とかが良いのかもね。勿論組織として成り立つ程度に抑える必要はあるけど⋯⋯あむ」

「考えてみる」

 

 そうして二人は残りのサンドイッチをもぐもぐ食べ進め、遂には完食。

 ごちそうさま、の挨拶と共に、んーっとこれまた猫のように身体を伸ばしたホシノは、そのまま草はらの上に大の字となった。もう瞼が瞳の半分まで降りてきていて、相当に眠そうである。

 

「いやー、柄にもなく真剣な話しちゃったね。さて、本題のお昼寝タイムだ。ほら、ヒナちゃんも」

「うん」

 

 ヒナもボトルの中の水をひとしきり飲んだ後、ホシノにならって大の字に。

 

「⋯⋯」

「⋯⋯」

 

 互いに無言。けれど、それは決して気まずいものではなく。

 聞こえてくるのは、川のせせらぎと、空飛ぶ鳥の鳴き声、そしてどこからか聞こえる発砲音のみ。

 

「⋯⋯」

「⋯⋯」

 

 ヒナも、段々と眠たくなってきたのか、こちらもゆっくりと瞼を降ろしていく。ホシノは既に目を閉じて、意識が眠りの海の中へと沈みかけの状態。

 そんな中。

 

「⋯⋯くじら」

「⋯⋯?」

 

 不意にヒナが囁く。

 

「くじら⋯⋯みつかるといいね⋯⋯」

「⋯⋯」

 

 数拍の間を置いて。

 

「⋯⋯うん」

 

 ホシノはただ一言の肯定を返した。

 

「⋯⋯」

「⋯⋯」

 

 再びの無言を経て、やがて。

 

「おや⋯⋯すみ⋯⋯ヒナちゃ⋯⋯」

「⋯⋯おやすみなさい、ホシノ⋯⋯」

 

 二人は深い眠りの中へと落ちていった。

 

 


 

 

「⋯⋯?」

 

 キキーッ。

 一人の自転車に乗った少女が、黄昏時の帰り道、川沿いの坂の上の道路を走っていた最中、気になるものを見つけてブレーキをかけた。

 ピッチリとした透明感のある白と紺、そして水色のライディングスーツを着こなした彼女——砂狼シロコは自転車を降りつつ、目の前の光景に疑問符を浮かべる。

 

「ホシノ先輩に⋯⋯あれは、ゲヘナの⋯⋯?」

 

 彼女の目に映っているものは、自らの学校の先輩がゲヘナの風紀委員長と一緒に、草の中で熟睡している様子。

 これはどういう事だろうか。状況があまり理解できないが⋯⋯そこでふと、シロコはこの前学校で話題になったことを思い出す。

 

『ホシノ先輩、誰かからモモトーク来てますよ』

『うん?⋯⋯あー、ヒナちゃんからだね』

『ヒナちゃん? それってもしかしてゲヘナの風紀委員長の空崎ヒナ?』

『そうだよー、色々あって仲良くなったんだー』

『ふーん、あの風紀委員長様と。なんだかお堅いイメージがあるけど』

『うへ〜、いやー、話してみればヒナちゃんもごく普通の女の子だよ? 普段ツンケンしてるセリカちゃんとも案外気が合うんじゃないかなー?』

『べっ、別にツンケンなんてしてないし!』

『してるじゃん』

『してますね♧』

『ん、してる』

『あーっ、もうっ!』

『あはは⋯⋯』

 

「ふむ⋯⋯」

 

 人の交友関係にどうこう言うつもりはない。だが、話を聞いた時には何らかの思惑があるのではないかと、実のところ少し警戒していたシロコであったが。

 

「⋯⋯うへーっ⋯⋯すやーっ⋯⋯」

「すーっ⋯⋯すーっ⋯⋯」

 

 こうも無警戒に、仲良く二人で寝ている所を見ると、そんな考えは恐らく杞憂であったのだろうと、一人納得したように頷いて、シロコは沈む夕日を望んだ。

 実に気持ちよく眠っている所悪いが、時は既にもういい時間帯。帰りの時間も考慮するとそろそろ起こさねばならない。シロコは心を鬼にして、まずはホシノを起こしにかかる事にした。

 

「ホシノ先輩、ホシノ先輩」

「ん⋯⋯」

「起きて、ホシノ先輩」

「んー⋯⋯んー?」

 

 目を擦りながら、ホシノはゆっくりとその身を起こす。寝ぼけ眼で捉えるは、己の愛すべき後輩の姿。

 

「あー⋯⋯シロコちゃん? ええと、ここは⋯⋯」

「D.U.居住区の第十一区域。日も沈んできたしそろそろ帰らなきゃ」

「あー⋯⋯そうか⋯⋯ヒナちゃんと⋯⋯」

 

 徐々に意識が覚醒していくホシノ。そうして次に、隣で未だ眠っているヒナへと向き合う。

 

「ヒナちゃん、ヒナちゃん。起きて。そろそろ帰りの時間だよ」

「⋯⋯ん」

 

 ヒナも同様に眠りから目を覚ます。こちらはホシノと比べると幾分か、目覚めがすっきりとしている様子。

 

「⋯⋯今、何時?」

「んー、17時過ぎて18時近いって所かな」

「結構、寝ちゃったわね」

「みたいだねぇ」

 

 そんな会話を交わす二人

 ややあって、帰りの支度を整えたヒナとホシノ+シロコは、坂の上にて互いに別れの挨拶を交わす事にした。

 

「ホシノ、今日はありがとう。おかげで、心も体も十分な休息をとる事が出来た」

「うへ〜、おじさんは単に誘いに来て、一緒にお昼寝しただけだからなぁ。礼を言うなら場を整えてくれた行政官ちゃんに」

「うん、アコにも感謝してるから、ちゃんと礼は言う。それと⋯⋯先生にも」

「先生⋯⋯ね」

 

 その場の空気が、何やら少し微妙なものへと変化する。

 

「本当は一番休息をとるべき人はあの人だと思うのだけれど」

「私もモモトークで忠告はしたんだけどね。それで返ってきた返事が『善処します』」

「ん、口だけは達者」

 

 はぁ、と三人は一斉に溜息を吐く。

 

「⋯⋯ねぇ。今度は先生を()()()ない? あの人も一度、思い知らせた方が良いと思うわ」

「お、そうだねー。いくら先生といえども、所詮はただの人。私たちが銃を片手に迫りくれば、否が応でも休まざるを得ないだろうねー」

「その計画にはぜひ私も混ぜて欲しい。何人たりとも、先生の休息の邪魔をするモノは許さない」

「ふふ」

「うへへ」

「ふふふふ」

 

 そんな事を言いながら、怪しげな笑みを浮かべて向かい合ってる様はさながら凶悪犯罪者どうしの会合のよう。当の先生がこの様子を目撃したとすれば、「もしや銀行強盗の計画を練っている⋯⋯!?」などと勘違いしてもおかしくはないであろう。事実は正反対も良い所なのだが。

 

「おっと、もう本当に暗くなってきたね。その計画の話は次の機会にしようか」

「そうね。それじゃ二人とも、また今度。さようなら」

「さよーならー、ヒナちゃん」

「ん、さよなら」

 

 手を振りつつ別れる双方。

 こうして、ヒナはホシノとのお昼寝を通して英気を養う事に成功し、翌日、獅子奮迅の働きで目標としていた犯罪組織の摘発をも同時に成功させるのであった。

 

 ⋯⋯そのまた後日、覆面を被った謎の三人組にシャーレの先生が詰め寄られている姿が目撃されるのはまた別の話。

 

 


 

 

おまけ

 

 ゲヘナ学園内。風紀委員会本部の会議室にて。

 

「というわけで、ヒナ委員長には急遽お休みを取っていただきました!」

「というわけでって⋯⋯」

 

 ふんす、と前に立って満足げに語る風紀委員会の行政官、天雨アコに対して、同委員会切り込み隊長である銀鏡イオリは、頭痛のタネが増したとばかりに頭を抱えた。

 

「いやいやいや⋯⋯アコちゃん、正気? ただでさえ今はいっぱいいっぱいの現状だっていうのに、その上ヒナ委員長まで抜けるとか⋯⋯」

 

 そのまま、椅子の背にもたれかかって、何もない天井を仰ぐイオリ。彼女は今、全てを投げ出したい気分に駆られていた。

 

()()()()を講じたとお話しされてましたよね? その対策とは?」

 

 対して救護担当の火宮チナツ。彼女もイオリと同じく、厳しい顔で頭を抱えて座っているものの、幾らかは建設的に話を進めようとしているようだ。妙に自信たっぷりな行政官の姿に縋っている、という面も多分に含まれてはいるが。

 

「そうですね、そのお話はまだでした。この絶体絶命の境地を脱するために私が用意した乾坤一擲の策。ソレが私の隣に控えているコレです!」

「いやまぁうん気になってはいたけど⋯⋯というか絶体絶命になったのは半ばアコちゃんのせい⋯⋯」

「乾坤一擲⋯⋯大丈夫でしょうか⋯⋯」

 

 アコの隣には、彼女の首元程まである大きめの”何か”が布を被さって配置されており、二人はそれをどこか微妙な表情で眺めていた。

 しかしアコはそんな二人の様子を見てもなお、未だ余裕を崩さない。

 

「ふふん、コレを見ればきっと驚きますよ。それでは満を持して、ご開帳!」

 

 アコは一気に、”何か”に被さっていた布を取り払った。

 果たして、そこにあったものとは。

 

「これは⋯⋯っ!?」

「えっ⋯⋯!?」

 

「「ヒナ委員長っ!?」」

 

 ウェーブの白髪に、全てを射殺すかのようなアメジストの眼、禍々しき威容を放つ角。濃紫の制服一式を着用して、破壊者の名を冠するマシンガンを携えた()()は紛れもなく、空崎ヒナ本人——。

 

「——のロボットです!」

「「ロボットォ!?」」

 

 想像以上に斜め上な代物の登場に、二人は思わず席を立ってしまう。

 

「はい! 前回の夏季合宿から私は反省を重ねました。ヒナ委員長に気兼ねなく休んでいただくためには、やはりちゃんとご本人が休日と認識した上でその日を過ごしていただくのが最も重要なのです」

「まぁ、前回のアレは明らかに無理があったものな⋯⋯」

「とはいえ、委員長は真面目なお方⋯⋯私たちが何を言おうとも、自らの職務を全うなさろうとするでしょう。ではどうすれば良いのか⋯⋯私は思考に思考を重ねて⋯⋯ついに辿り着いたのです。『ヒナ委員長が二人いらっしゃれば良いのではないか』と⋯⋯」

「えぇ⋯⋯」

「そうして長い時間をかけて、開発したのがこの風紀取り締まりロボット、”H.I.N.A. ver1.5.9”です!」

「地味にバージョン更新されてる⋯⋯」

「姿形はヒナ委員長のお姿を完全再現! 委員長の行動データを学習した高性能自動行動AIにより、普段の学生生活はおろか、なんと戦闘行動まで可能となっております! 流石に本物の委員長並の能力は持っておりませんが⋯⋯」

「今、なにかゲヘナでも屈指の機密情報が物凄い雑に扱われた気がします⋯⋯」

「そして、この”H.I.N.A. ver1.5.9”の特筆すべき点に、他人とのコミュニケーションすら可能であるという部分が挙げられます! これにより普段からヒナ委員長と近しい私たち以外の方が、”H.I.N.A. ver1.5.9”をロボットであると見破るのは正しく困難の極み! ”H.I.N.A. ver1.5.9”は完璧にヒナ委員長の影武者の役割を果たしてくれる事でしょう!」

「お、おぉ⋯⋯」

「更に更に注目してほしいのは——」

「いやもういいもういい。分かった、分かったから」

 

 ぜはーぜはーと何故か興奮気味のアコを、どうどうと落ち着かせるイオリ。

 他方、チナツは”H.I.N.A. ver1.5.9”を様々な方向より細かく注視し、その出来栄えに感嘆の言を漏らす。

 

「でも、実際外見だけでも凄い完成度ですよ、これ。何も知らずに出会ってたら、確かに勘違いしてしまうかも」

「うーん⋯⋯ちなみに、作るのにかかった費用とかは⋯⋯」

「勿論、自費です」

「うわぁ⋯⋯」

 

 マジだ。この行政官。大マジなんだ。

 イオリがアコに向ける視線がどことなく先生に向けるソレへと近づいていくが、そんな事には気づく様子もないアコは、そのまま話を続ける。

 

「本来ならもう少しの調整の後、ヒナ委員長にお見せする予定だったのですが⋯⋯」

「え、見せるんですか? これを?」

「はい、でないと大手を振って委員長にお休みになってもらうという至上最大の目的が達成できなくなってしまいますので」

「それはそうかもしれないけど⋯⋯やばい、委員長がどんな反応するか予想もつかない⋯⋯」

「ともかく、小鳥遊ホシノさんの介入という、望外の好機を得ることに成功いたしましたので、試運転という形で今回、早めに現場へとお披露目することになりました」

 

 ふぅ、とやや疲れの篭った息を吐いて、手近な椅子に腰を落ち着けるアコ。

 

「お二人にはこの”H.I.N.A. ver1.5.9”が、ちゃと影武者として機能してくれるかどうか、今日一日の仕事の中で、私と一緒に観察して欲しいのです」

「観察するのかぁ⋯⋯これを⋯⋯」

「はい。問題ないようであれば、後日今回の試運転の結果と共に、委員長に”H.I.N.A. ver1.5.9”使用の正式な打診を受けに行きます」

「そっかぁ⋯⋯まぁ、頑張れ、アコちゃん⋯⋯」

「⋯⋯あれ? でも⋯⋯」

 

 チナツがある事に気づく。

 

「このロボット⋯⋯ヘイローがついていませんよ?」

「「あ」」

 

 


 

 

 それから。

 結局試運転自体は実行に移され、意外に思われるかもしれないが、その成果はアコにとって十分に満足できるモノであったようである。

 ヘイローが無い事については三人でうまく誤魔化した。がんばった。

 

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