ホシヒナ小説集   作:1D100面相

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ホシノとヒナが魔女と吸血鬼に仮装している二次創作を見たくて堪らなくなったので、衝動的に書いて投稿。
長くなったので前後編に分けました。

もうハロウィン終了間近も良い所だけど、何とか間に合った


ヒナとホシノと先生がハロウィンを楽しむ話(前編)

「これでひと段落かなぁ⋯⋯っと」

 

 たーんっ、と強めに押したエンターキーの音。それが今日のシャーレの業務終了の合図となった。

 疲れに凝り固まった体を伸ばして、どっかりと深く椅子の背にもたれかかるのはこのオフィスの長たる人物——先生。

 

「お疲れ様、先生」

 

 そして、その背後から労わりの言葉と共に、ココアの満ちた2つのマグカップの内の1つを先生に差し出すのは、ゲヘナの風紀委員長——空崎ヒナ。仕事が終わった事もあってか、彼女の頬は普段よりやや緩んで、柔らかな顔つき。

 

「ああ、ありがとう、ヒナ。ヒナも今日の当番お疲れ様」

 

 先生がマグカップを受け取った後、ヒナも手近な椅子へと腰を下ろし、2人でココアを堪能する。ほぅ、と思わず温かな息を吐き出したのは一体どちらの方であったか。

 現在時刻、午後7時。夜の帷が下りたのもとうの昔。されどもシャーレオフィス高層から見える外の景色は、闇の中、種々の建築物から漏れ出る光が爛然と輝いていて、依然として華やかな街の様子をありありと映し出している。

 そんな外界の様相を窺い見て、再びココアを口へと含んだ先生は「なんとか深夜までには仕事を持ち越さずに間に合わせたぞ」と1人、ほくそ笑んだ。

 シャーレでの先生としての勤務は、まさしく多忙ここに極まれり、である。支援の為の部隊出動要請、環境改善、問題組織の鎮圧、連邦生徒会始め各関係機関への書類提出、エトセトラエトセトラ⋯⋯。仕事の量がとにかく多い。当番となる生徒の助けを借りても、徹夜の作業となるのが珍しくないほどに。こんな環境の中では、定時退社の概念など、半ば忘れ去られて当然である。

 しかし、そんな中でも、緊急性の高い低いを選り分けて、低いものを後日へと後回しにしつつ高いものを前日から死ぬ気で処理するなどして、確実な準備を積み重ねていけば、1日くらいは余裕ある退勤を捻出する事が可能なのである。

 かくして此度のゴールデンタイムの自由を勝ち取るのに成功した先生。彼がそこまでして今日という日を空けたのは、勿論理由があっての事だった。

 

「今日は早めに仕事が終わったね」

「ええ。シャーレにしては珍しく」

「だからさ、ヒナ」

 

「今日のハロウィンに参加してみない?」

 

 それは死者の帰郷を起源とする祭り。

 南瓜に支配された街を、仮初の異形が跋扈する日。

 

——ヒナとホシノと先生がハロウィンを楽しむ話——

 

「ハロウィン⋯⋯そういえば、今日はそうだったわね。私はあまりよく知らないのだけれど」

 

 ヒナが窓の外の方に目を向けて、続ける。

 

「確か⋯⋯仮装をするお祭り、なんだっけ?」

「そうそう。仮装をして、お菓子をもらうお祭り。トリックオアトリート、なんて言ったりしながらね。今じゃあ、単にコスプレしてお祭り騒ぎするイベントみたいになってはいるけど」

「でも私、仮装する為の衣装なんて持っていないけど⋯⋯」

「まぁ、別に必ずしも仮装をする必要は無いけど⋯⋯ちょっと待ってねっ」

 

 そんな言葉を残すと、先生はオフィスの奥の方へとどたどたと消えていく。何やらやけに楽しそうな雰囲気だ。

 ヒナは、先生はこういうお祭りとかが好きなのかな、などと考えつつ、ココアを飲んで待つ事数十秒。

 

「じゃじゃーんっ」

 

 そう言いながら、先生がオフィスへと舞い戻ってくると、手に持つ何か大きな物をヒナへと見せつけた。

 それは洒落に洒落たドレスの1着だった。黒と赤の妖しげで禁断的な、ゴスロリ風味の存在感を放つ一品。しかも細部まで施されている意匠や、艶を放つ布地などから、知識が無くともそれと見て分かる程度には出来が良い物だ。

 

「え、これは、先生」

「ヒナには吸血鬼スタイルの仮装が似合うかなと思って、買ってきちゃいました!」

「え、えぇ⋯⋯?」

 

 ヒナ、困惑。

 時々発揮される先生の妙な積極性を前にして、彼女はいつもたじたじである。

 

「これ、何処で買ってきたの⋯⋯?」

「オーダーメイドで、こういうのを作ってくれる所があるんだよ。いやー、ハロウィン前という事で、予約を取るのには苦労した⋯⋯」

「オーダーメイド? 私の身長とかウエストとか、そういう採寸関係の情報はどうしたの?」

「⋯⋯」

「先生?」

 

 明後日の方向へと目を逸らす先生。ジト目で睨むヒナ。

 嫌な汗を流しつつ、先生は話題を逸らし逸らし。

 

「ともかく! これの他にもカラコンとか、付け八重歯とかも買ってきたからね! ヒナの仮装としてはもうバッチリだよ!」

「⋯⋯はぁ。随分と色々買ってきたのね⋯⋯」

「それはもう! キュート&セクシーなヒナのヴァンパイアコスをこの目に焼き付けたかったからね!」

「なっ、恥ずかしい事言わないで! 全く先生はっ⋯⋯」

 

 赤ら顔でごにょごにょと何事かを呟くヒナの姿に、これだけでもう買ってきただけの元は取れたな、と奇妙な満足感に支配される先生。

 

「⋯⋯それで、全部で一体いくら?」

「えっ、もしかしてお金払うつもり?」

「それは私の仮装なんでしょ。だったら私がお金を払うのは当然の成り行き」

「いやいやいやいや、これは私が勝手に用意したものなんだし、ヒナへのプレゼントって事でお金なんて払わなくていいよ」

「でも先生、明らかにこれは安くない買い物。先生にとって必需品にあたる物でもないし、例のミレニアムの子にバレたら、きっと大目玉を食らうわよ」

「ぅえっ、なんでユウカにこの事を隠してるって、というかなんで財布握られてる事を⋯⋯」

「先生なら何となくそうするって分かってたし、これでも私は元情報部の人間だからそれくらいは当然知ってる」

「おぉ⋯⋯情報部ってすごい⋯⋯」

「とにかく、それは私が払い受けるから」

「待って待って、私に大人としての甲斐性を示させて——」

「うへ〜、盛り上がってるみたいだねー」

 

 と。

 突如として乱入してきた、蕩けるような気怠さを内包する声。

 2人はオフィス入口へと目を向ける。

 

「なんだか楽しそうだし、おじさんも混ぜてほしいなー、なんて」

「ホシノ」

「おぉっ、ホシノ⋯⋯」

 

 視界に入ってきたその姿は、いつものアビドス対策委員長の姿ではなかった。

 漆黒のローブを身に纏い、手に持つのは渦巻き状に湾曲した木製然の杖で、頭に乗せられているのは萎れた大きなとんがり帽子。その唾により陰がかったオッドアイの双眸は、普段の彼女には無いミステリアスな雰囲気をここぞとばかりに引き出している。

 そう、正しく童話の中の世界からそのまま飛び出してきたかのような、小さき桃色の魔女の姿がそこにはあった。

 

「うへ〜、トリックオアトリートだよー先生ー、お菓子よこせー」

「あ、ああ! ちょっと待ってねホシノ! 今少し取ってくるから!」

 

 ばたばたと、慌てたように再びオフィスの奥の方へと引っ込む先生。

 体よく逃げられた感じがしたヒナはやや頬を膨らませながらも、それはそうとしてホシノの仮装の方へと目を向ける。

 

「ホシノ、その姿は⋯⋯」

「これ? やっぱハロウィンだから、仮装ぐらいはしないと駄目かなーって、対策委員会の皆で話し合ってたら、体育館裏の倉庫の奥から色々な仮装グッズが出てきてさー。多分、昔のアビドスのイベントで使われたものなんだろうけど」

 

 軽くローブを摘んで、左右に揺らすホシノ。

 

「丁度いいかなと思ってその中から選んで着てきた。どう? 似合うかな?」

「ええ、とても似合ってるわ」

「うへ〜、そっか、良かったー」

 

 にへらと破顔するホシノをヒナは微笑ましく迎えつつ、入り口へともう一度視線を移す。どうやら話に出た他の対策委員は来ていないようだ。

 

「対策委員会で話し合ったと言っていたけど⋯⋯他のメンバーはどうしたの?」

「んんー、まずセリカちゃんは吸血鬼衣装で『これは客寄せに使えるっ!』って言ってアルバイト。あとシロコちゃんが覆面水着団の仮装でハロウィンに繰り出そうとしてる所をアヤネちゃんが止めるのに奮闘してて、ノノミちゃんはそれの道連れ。私は上手くそこから抜け出して今ここって感じかな」

「⋯⋯大丈夫なの?」

「大丈夫大丈夫。一線までは超えないだろうから」

 

 全然大丈夫じゃないような気がしているヒナに対して、今度は逆にホシノの方から質問を投げかける。

 

「ヒナちゃんは仮装とかは? 後ろにあるヤツがそうなのかな?」

「⋯⋯ええ。元々私はする予定無かったのだけれど、先生がわざわざ用意してくれて」

「うへ〜、よく見ると高そうなドレスだねー。セリカちゃんと同じ吸血鬼の衣装かな?」

「そうなの。だから、私が衣装のお金を払うって言ってるのに、聞き分けてくれなくて⋯⋯」

「さっきの言い争いはそれが原因かー。まぁ貰っちゃえばいいんじゃない、先生がいいって言ってるんだし」

「でも、流石にこんな高価なもの⋯⋯」

「おじさんも先生の気持ちは分かっちゃうんだよねー」

 

 うんうん、とホシノは両目を閉じて首を振る。

 

「ヒナちゃんみたいな可愛い子は、ついおめかしして着飾らせたくなっちゃうの。そう、娘みたいな感じ」

「っ⋯⋯! 私は別に可愛くなんかっ」

「いやー、ヒナちゃんはすごい可愛い子なんだよー、潔く認めなー?」

「あ⋯⋯うぅ⋯⋯」

 

 赤面して、恥ずかしさのあまりどこまでも小さくなるヒナを目の当たりにして、誘われたのは庇護欲かそれとも嗜虐欲か。ぞくぞくとした感覚に見舞われたホシノは、思わずヒナへと抱きついて頭をなでなでしてしまう。

 

「ひぃあっ」

「ヒナちゃんは本当に可愛いなー、可愛い可愛い」

「や、やめてっ、抱きつかないで撫でないでっ」

 

 ヒナは口ではそう言いながらも、決して強くは振り払おうとしない。それをいいことに、ホシノは更になでなでを加速させていく。

 

「⋯⋯」

 

 そんな2人の様子を、扉の影より菓子を片手に、生暖かい目で見守る先生。傍目から見れば、幼気な仲良し少女2人を菓子を使って誘拐しようと画策している完璧な不審者である。

 

(うーん、仲良きことは美しきかな。そうだ、この光景を永久保存版として映像に収めておこう)

 

 懐よりスマホを取り出し、片手で撮影まで始めようとする先生。更に罪状に盗撮まで加わった。もう言い逃れはできない。

 その時。

 

 かさっ。

 

「あっ」

「うん?」

「えっ?」

 

 手に持っていた菓子の1つが床へと転げ落ち、つい上げてしまった声もあわさって、2人の視線が自分たちを覗き見撮影している先生の方へ。バレた。

 するとヒナのそれまでの紅潮が一転。みるみるうちに表情は鉄仮面を被っていき、その眼差しは元来の氷の如き冷たさを取り戻して行く。

 

「⋯⋯何してるの」

「あっ、違うんだヒナっ、これはその、青春の1ページを切り取りたかっただけで、けして邪な気持ちで撮影していた訳ではっ」

「⋯⋯先生」

「あーっ! やめて! デストロイヤーを構えないで! イシュ・ボシェテは勘弁して! あーっ!」

 

 


 

 

 外に出てみると、既に街はハロウィン一色。あちらこちらに仮装をした生徒の姿を見受ける事が出来る。定番の魔女や吸血鬼から、ゾンビにミイラ、ジャック・オー・ランタンにゴーストなど。

 そして、やはりというべきか、ハロウィンの大筋とはあまり関係の無い仮装をしている生徒も多く見受けられた。その中でも特に仮装をしている生徒が多かったのが、ペロロ様始めとしたモモフレンズのキャラクター。そして⋯⋯。

 

「シャーレの、というか私の制服で仮装? なんで?」

 

 そう、シャーレ指定の特別制服を着用して、仮装している生徒がかなりの数に上っているのだ。他に着る人がいない為に、実質先生専用の制服となってるのはさておき。どこを見渡しても、最低でも2、3人は着用している様を目にする事が出来る。勿論それらは全て公式のものではない。どこかの店で各々が勝手に仕立てて、用意してきたものなのであろう。

 

「そりゃー、先生の着任とシャーレの立ち上げっていうのはキヴォトスのここ数年のニュースの中で、1番センセーショナルな事件だからね。方々での活躍もあるし、先生にあやかって仮装をするってのはごく自然な流れなんじゃない?」

「いや、それにしても多いっていうか。というか、仮装とはいえ、うちの制服がこんなに市井に広まっていて大丈夫なのか⋯⋯?」

 

 やや不安な気持ちにもなるが、ここまで広がってしまっていては、最早詮方ない。先生はいっそ割り切ってしまうことに決めた。

 一方でホシノと先生、2人の背後に控えている、お祭り初心者たるヒナは。

 

「⋯⋯あまりじっくり、お祭りに参加する機会というのが今まで無かったのだけれど、なるほど、こういう雰囲気の場になっているのね」

 

 そう言うと、その場で腕と羽を邪魔にならない程度に広げて深呼吸。五感でこの場の空気を満遍なく感じ取る。

 

「⋯⋯うん。中々、悪くない」

「それは良かったよ。私が用意した衣装も、気に入ってくれたみたいだし」

「⋯⋯」

 

 ヒナの頬にもう、何度目かの朱が差した。

 先生の言う通り、ヒナの今の姿は先程のゴスロリ風ドレスを身につけた吸血鬼コスチュームだ。カラコンを装着して、眼は血のように真っ赤な色へと変貌しており、口を開けばチャーミングな八重歯が顔を覗かせる。

 

「ヒナちゃんの方もやっぱり似合ってるねー、眼福だよー。おじさんの血を吸い取ってもらいたいぐらいだ」

「っ⋯⋯、馬鹿な事言ってないで、早く行くわよ」

 

 またこのペースに乗らされるのはマズイ。即刻離脱しなければ、とヒナは足速に人混みの中へ。残されたおじさん2人はにやにや笑顔のままに、ヒナへと追従していった。

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