男の子になってしまった 作:理性
早朝、いつものようにトイレへ赴いてズボンを下げると、股の間に
十五分ほど思考が停止し虚無った後、頬をつねり顔を洗い朝ごはんを胃の中へ詰め込んでから、改めて自室の全身鏡の前に立ち、制服のスカートを持ち上げてみる。
──なんか、膨らんどる。
パンツのサイズを間違えたのだろうか。いつもより明らかに履き心地が良くなく、異物感が拭えない。
「……? ……???」
自分でスカートをたくし上げたまま、状況が理解できず鏡の前で固まっていると、扉からノックの音が聞こえてきた。
「イブ、準備できた? お父さんのところ行くわよ」
「あ、うん……」
母親の声に導かれるようにして家を出ていき、車に乗って数十分後には厳格な雰囲気の屋敷の前に立っていた。
現在は実家に帰省しており、とある財閥のえらーい人である祖父に挨拶を終えたらそのままトレセンの寮へ戻り、翌日から中央での学園生活が再開する。
そんな、毎年やっているいつものルーティンを済ませるだけ──のはずだった。
昨日まであの厳しい祖父に会うことに対してガチガチに緊張していたのが嘘かと思う程、私の頭の中は別の思考で埋め尽くされてしまっている。
下半身に、何かがあった。
細かく見る時間は無かったが、今もなおパンツの中に
「久しいな、エターナルドライブ。お前も今年からデビューするようだが、くれぐれも我が家名に泥を塗る事の無いよう──」
毎回びくびくしながら聞いていたはずの祖父の言葉が、右から左へと流れていく。正直何も聞こえていない。
訳が分からないのだ。
夢を見ているわけではないという事は朝に行った確認行動で十分に判明しているが、これが現実となるとあまりにも説明が追い付かない。
「うっ、わ……えっ」
頑是ない幼年期に、風呂場で目撃した父親のソレとほとんど見た目が同じ物体が、私の股間に付いている。
信じられないが、出発前にトイレへ寄ってもう一度下着の中を確認したところ、やはり彼はそこに存在していた。
「…………ぉ、男の子になっちゃった……?」
洗面台の前で改めて冷水で顔を洗い、これが疑いようのない現実であることを再確認してから、鏡の前で呆然とそう呟くのであった。
◆
私はセクハラしがちなウマ娘だった。
これまでとても近い距離感──ともすれば馴れ馴れしい態度で中央のウマ娘たちと接し、ほぼ日常的に抱きついたり手を繋いだり、許してくれる相手に対しては浴場で胸の大きさを手で測らせてもらったりと、とにかく節操なく女子たちとイチャつこうと努力していた。
あぁいった行いの罰が下ったのだろうか。
好感度さえ足りていればむやみやたらと考え無しに少女たちと触れ合える女子の身体から、それが許されない男子の肉体へと変貌を遂げていた。
幸いにも特徴的な部分は下半身のソレだけであり、胸はもともと無かったようなものだし、顔つきや肩幅など一瞬で見て分かる箇所には大きな変化は見受けられなかった──が、これからどうなるかは正直分からない。
相談できる相手もいないのが困りどころだ。
両親や祖父だけでなく、家の人間には今年からデビューして結果を残していくことを強く期待されているため、突然男性の象徴が生えたなどと喚いて出場停止だか病院通いだかになってしまったら目も当てられない。
自然に治ってくれるのか、それとも何らかの処置が必要なのか──調べたが該当する病気やウイルスの情報などは出てこなかった。
朝、起きたら男の子になっていた。
私に言えることは、たった一つそれだけだ。
「イブーっ!!」
「ん?──きゃっ」
誰にも話さず、しかし生来の何とかなるだろ精神で特に身構えることもシリアスな心境に陥ることも無く普通にトレセンへ登校すると、後ろから聞き覚えのある声が飛び込んでくると同時に、誰かが私の腰に抱き着いてきた。
「……やや、ターボさんは朝から元気だね。休み明けなのに」
「お休み中も毎日走ってた! まいったか!」
「は? 偉すぎるだろ……」
わしゃわしゃと頭を撫でるとまるで猫の如く嬉しそうに喉を鳴らすこの少女の名はツインターボ。
何を隠そう、私がこの学園内で最もボディタッチした回数の多いウマ娘だ。ふわふわで良い匂いがします。
このかわいい少女を前にして、今の私が取るべき行動はただ一つ。
「ゴメン、ちょっとトイレ行ってくるね」
「お腹痛いのか? ターボが撫でようか?」
腹部を押さえて離れようとすると、ひょこひょこと彼女が付いてきてしまった。
「だ、だいじょうぶ。ホント、平気だから……」
心配してくれるのは非常に嬉しいのだが、今の私にそんな魅力的な提案をすると身の危険に晒されてしまう事を理解してほしい。
そう。
今の私はどこにでもいる一般的なウマ娘ではなく、美少女勢ぞろいの楽園にたった一人生徒と言う立場で在籍することを許された”男”なのだ。
油断するとすぐに下半身のアレがソレしてしまうくらいコントロール出来ていないため、女に戻れるまでは友人のウマ娘たちに対していつもの距離感で接することはできない。
今やってはいけないことランキング堂々の第一位は、間違いなく
「またお昼ね」
「うん! ターボ、券売機の近くの席にいるから!」
早々に別れ、トイレに駆け込んでパンツの中を確認した。
……特に変化はないようだ。よかった。
元の性別は普通に女子なのでコレの扱い方とか状態確認なども手探り状態だ。心配になったらいちいち個室で確認するようにしている。
仲良くなりたいが為にターボと触れ合いまくった結果、私から何もしなくても彼女の方からボディタッチしてくれるようになったのは素直に嬉しいが、今の私では『心のちん●んが勃つ』だなんて冗談すら冗談にならない状態なのだ。親密度の高さにかまけて油断してはいけない。
現在の私は女の子ではないので、さりげない触れ合いでもそれはスキンシップではなくセクハラになってしまうのだ。
気をつけよう、気をつけよう──
「んんっ
今度はデカ乳元気っ娘が抱きついてきた。
お、落ち着け、冷静に。円周率でも思い出しながら現実逃避すれば何とかなるはずだ。
「なんか顔色悪いけどへーき? 保健室まで付いてこうか?」
おぁ°、ネイチャさん良い匂いする……距離感が近いぞこの女……。
「だっ、大丈夫ですかぁ……? そんなにお腹を押さえて……ほ、保健室まで一緒にぃ──」
とある一部分が非常に目を引くドトっとしたウマ娘に声をかけられた辺りで遂に我慢が出来なくなり、私はすぐに保健室へ駆けつけると仮病を訴えてベッドへ潜り込み、今日一日はとりあえず惰眠で浪費することに決めたのであった。