男の子になってしまった 作:理性
一日が終了し逃げるようにして自室のベッドで布団を被り、瞼を閉じて眠気の到来を心待ちにしていると、ある事に気がついた。
これまでは可愛くてフワフワな女の子たちとイチャコラする為にセクハラを試みていたわけだが、決してそこに性的興奮という要素は備わっていなかった。
しかし、今は違う。
あまりにも中身の変貌が自然過ぎて気がつかなかったが、男の子になってしまった現在の私は、女の子たちに対してこれまで抱いた事の無い感情が生まれてしまっているのだ。
長らく女子高で似たような毎日を過ごしていたせいで忘却してしまっていたが、この興奮の仕方には確か覚えがあった。
小学校の卒業式の前日、同学年全員でやったあの校舎をすべて使った隠れ鬼で、逃げ遅れた私はとある男子に助けてもらい、緊急避難と言う形で一緒に清掃用具入れノッカーへ身を潜めたことがある。
互いに向かい合い、この上なく密着した状態で、数十分ほどそのままでいた。
最初は鬼に見つかるかどうかなど、年相応の緊迫感で楽しんでいた──が、気がつけば私と彼の思考は全く別の方向に舵を切ってしまっていた。
興奮していたのだ。
男女の云々については保健体育でそこそこ耳にしていたが、子供が興味の沸かない話題をいつまでも覚えているはずなど無く、私と少年はどうしてそこまでドキドキして興奮してしまうのか分からないまま、鬼に見つかるまでロッカーの中で密着したまま隠れ続けていた。
あの時と一緒だ。
ツインターボに抱き着かれた時や、ナイスネイチャに心配されて近づかれた瞬間も、余裕が無くなってお腹の下辺りが少しだけ疼いてしまった。
小学生の頃に同級生の少年に対して向けかけた欲を、今になって私は同性の友人たちに感じているのだ。本当にマズい。
気がつけば感性が男の子になってしまっている。同性の友人だからこそ何も感じずセクハラして楽しむことが出来ていたのに、今となってはほんの少し触れ合うだけで精神的な余裕が消え失せてしまうため、今までの様なスキンシップなど未来永劫不可能だ。
「え、エタっち……」
これからどうすればいいのか悶々と唸っていると、同室のウマ娘から声をかけられた。うるさくし過ぎてしまったかもしれない。
「ゴメンね、デジ。もう寝るから」
「そっ、そうではなく……あの、具合が悪いんじゃ……?」
同じ部屋──というか小学校の頃からの幼馴染であるウマ娘ことアグネスデジタルが気を遣ってくれているものの、これは精神的な問題なので全て私の責任だ。他人の手を煩わせるわけにはいかない。
「熱とかは無いから大丈夫だぜ」
「じゃ、じゃあ……病み? なんかあった?」
「……あー、いや。どうかな」
ちなみにこの女は結構鋭いというか、ウマ娘ちゃん大好きオタクで普段は一定の距離を作る振る舞いをしてはいるものの、私に対してだけは割とグイグイ来る。これも幼馴染であるが故なのだろうか。
デジタルが私を推しにする事は無く、また私が他のウマ娘たちにやっているようなベタベタした陽キャムーブを彼女に対して発揮することも無いのが、私たちの関係性だ。
もちろん彼女の普段の姿も、私の普段の振る舞いも、別に演技だとか仮面を被っているだとか、そういうわけではないのだ。お互いにアレが本性だし、自分に忠実な姿だし、自然体である事は間違いない。
「ぁ、あれか、お腹でも冷えたんか。デジたんが温めてやろっか」
「ちょーいちょい、布団ん中に勝手に入ってくんなぁ」
だが、二人でいるときはこれまたどうして
遠慮しているわけではなく、互いに緊張しているということも無いのだが、私たちだけの空間になると途端に怠惰でグダグダな距離感が発生してしまう。
幼馴染だけが持つ独特な空気感と言うか──とにかく安心する雰囲気だ。
私の布団の中にデジタルが潜り込んできたわけだが、他のウマ娘たちに近づかれた時と違って、不思議と緊張はしなかった。
「……エタっち、なんか少しカッコよくなった?」
「何じゃそりゃ」
「いつもよりちょっと目元が凛々しいっていうか……」
「なに、惚れた?」
「冗談。ライブ中のファル子さんに名指しで呼ばれるくらいありえないよ」
「それは確かにありえん状況だな……」
子供の頃はよくこうして一緒に寝ていたが、最近になってからは互いに優先順位が変わって、こうして触れ合うことも少なくなっていた。
だからこそ思い出した。デジとくっつきながら寝床に入ると、不思議なことに翌日の朝までグッスリ眠ることができるんだった。
くさいセリフを吐くと恥ずかしくなるから言わないけれど、アグネスデジタルは私がこの世で最も信頼を置いている相手なのだ。
彼女と共に就寝すると、気がつけば男の子になった時から脳内で滞留していたモヤモヤも霧散し、静かに夢の世界へと沈みこむことが出来たのであった。
『──朝だよっ☆ 朝だよっ☆ 朝だよっ☆』
そして目覚めは騒がしかった。
「ん゛んっ……デジ、このアラーム音なんとかならんの……」
「むぅり……」
「朝っぱらからもう……てかなに、このファル子の音声。何かの特典?」
「二ヵ月前に録音したラジオからセリフの部分だけブッこ抜いた」
「きも……」
「当方キモ・オタクであるが故w」
辟易しながら枕元のスマホを確認すると、時刻はいつも起きる時間よりも三十分遅れていた。どうやら本当に熟睡できていたらしい。
遅刻しないうちに早く準備してしまおう。
「……? エタっち、寝間着のポッケに何か入れたまま寝た?」
「えっ?」
「何か固い感触が──」
「あそれ気のせいだよッ!!!!」
早朝はまず何よりも先にお手洗いへ直行しなければならないことを忘れていた。やっぱり朝から忙しい。
◆
──お風呂に入るの忘れてた。
そう言えば昨日は何もしなかったので特に気にすることも無く着替えてベッドに突っ込んだのだ。
今朝になってようやく自分が少し汗臭いことに気がついた。デジは寝てる間よく平気だったな。
私たちの部屋のシャワーはぶっ壊れているので治るまで大浴場を使うことになっているのだが、果たして今の私があそこに足を運んでも問題は無いのだろうか──いや、ある。
ダメだろう、多分。
風呂場で常に下半身を隠し続けられる自信など無い。それに感性が変化した今、少女たちの肢体を目の当たりにしたとき自分のアレがどうなってしまうか分からない。そもそも浸かるときはタオル外さないといけないし。
困った。
お風呂、どうしよう。