ソードアート・オンライン リング・オブ・ハート   作:木野下ねっこ

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4:少女達の決意

 

「――アスナさん、あたし思ったんですけど……」

 

 隣のシリカがわたしに言う。

 わたし達は今、「村に居るプレイヤー達の偵察に行ってくるからこの場で待っててくれ」というキリトの指示に素直に頷いて、村の入り口でそのまま待機し続けている最中だ。その際にキリトから羊皮紙のロールを受け取り、みんなでミストユニコーンの数々の情報を頭を揃えておさらいをしていた。

 わたしが紙を持って胸の前にロールを広げ、左にはリズベットが、後ろからわたしの肩に顎を乗せる形でどれどれと覗き込み、右ではシリカが少し背伸びをして紙の内容をせっせと確認し、なぜかピナも長い首を伸ばして悠々とクラインのあまり上手いとは言えない筆致を不思議そうに眺めている。

 わたしは改めてこの三人と一匹が密集した、おかしな状況にクスリと笑いを漏らしてから尋ね返す。

 

「ん、なにかな? シリカちゃん」

「ユニコーンはどこへでもワープで逃げられるんですよね? なら、もうこの階層には居ない可能性もあるのでは……?」

「んー、えっとね」

 

 わたしは記憶のインデックスに刻んだばかりの、ついさっき読み流した欄を探す為に目を遡らせた。

 

「その可能性は無いと思うよ。……ユニコーンが能力を使った際に出る霧のエフェクトは特殊らしいんだ。それは空高くにまで昇って、それから広く拡散して、とても目立つものなんだって。その場所と同じ階層、付近の村々に居る人ならそれが見える程らしいから、もし今頃ユニコーンが誰かから既に逃げちゃってたら、この村にはもう誰一人も居ないんじゃないかな」

「なるほど……」

 

 額に手を当てて言うシリカの言葉に、ピナが難しそうな顔をしてうー、と唸った。

 

「死神が最初にギルドの人達を襲った時もそうだよ。死神がパーティを襲っている間に、ユニコーンは自分の足だけで死神達から逃走できたんだと思う。……ホラ、馬型のモンスターだから足の速さはトップクラスみたいだし。記録によると……霧の能力で逃げるのは、自分の足で逃げ切れない状況に陥った時に使われる傾向にあるみたいだよ。襲われない間は、その階層に長期間滞在し続けるアルゴリズム……ってあるね」

「ふむふむ」

 

 納得するシリカにあわせて、ピナも今度は、分かってやっているのか、首を上下に動かしていた。それにまた少し笑ってしまう。

 

「それにしても……」

 

 その笑いを一旦潜ませ、溜息を一つ。

 

「――わたし達、半ば強引にキリト君に付いて来ちゃったね……。二人とも、巻き込んじゃって、ごめんね」

 

 わたしは今朝の、リズベットのお店でのクラインとの一件を思い出していた。

 

「なーに言ってんのよ」

 

 肩に顎を乗せていたリズが、そのまま首を傾げてコツン、と側頭部を軽くぶつけてくる。

 

「あいつが土下座してまでキリトの助力を頼み込んできたのは、KoB副団長の《閃光》である、アスナだけだったでしょ。アスナを巻き込んじゃったのは、あたし達の方よ。それに……アスナ達ほど強くないあたし達こそ、危険を承知でこの場へ来てるんだから、あんたが気にすることなんてないわよ」

 

 シリカも伸ばしていたブーツの踵を地に降ろして、ピナを撫でながら続いた。

 

「それに……クラインさん、でしたっけ……。あの剣士さんは、その話を聞いて一緒に行くと言ったあたし達を必死に説得して引き止めていました。それでも、あたし達は居ても立っても居られずにその忠告を断わって、そのままあたし達も飛び出ちゃいましたから……全部が終わったら、後で謝らないとですね……」

 

 リズベットがそっと頭を離して、わたしの横に並んだ。

 

「そうね……。もしかしたらこの中で、一番キリトを心配してんのは、アイツなのかも知れないわね……」

 

 その言葉に、少しの沈黙が流れる。

 

「……だけど、わたし達はもう、付いていくと決めたんだから」

 

 わたしは羊皮紙をクルッと巻いて言った。

 

「クラインさんの分まで、しっかりとキリト君を守ってあげよう、ね?」

 

 二人はわたしを数瞬だけ呆けた表情で見ていたが、同時に顔を引き締め、頷いてくれた。

 

「はい。……そうです、レベルの数字の差なんて関係ありません。あたしは、あたしがキリトさんへ恩返しがしたくて……」

「ま、正直あたしも……素材の調達云々は建前。なんだかんだであたしも、あいつが大事なヤツになっちゃってるからなー……あははっ」

「ふふっ……みんな、一緒ってことだね」

 

 わたしがそう眉を顰めて苦笑しながら、そう纏めた。

 

「わたし達、それぞれはたとえ微力でも、それでも……」

 

 ふと、前方の村の続く路地の先を眺める。

 そこには、一人でトボトボと此方へと向かって歩いて来るキリトの小さな姿があった。

 

「――キミを、守る為に」

 

 そしてわたし達は微笑を以ってして、彼――キリトの帰りを迎えたのだった。

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