海賊王のやり直し   作:血ロスト

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第1章 逆行と再会
1話 海賊王、戻る


 

 フーシャ村のあるドーン島。

 海を一望できるとある崖の上。

 そこには一つの墓が置かれていた。

 

 その墓に眠る主は

 

世界の歌姫

ウタ

ここに眠る

XXX年~XXX年

 

 今から五年前、世界中の人々をその卓越した歌声で魅了し、世界の歌姫、新時代の歌姫、プリンセス・ウタと称された少女である。

 

 かつて、この世の全てを手に入れた海賊『ゴール・D・ロジャー』の死に際の一言により始まった大海賊時代。

 

 数多の海賊が跋扈し、日々、苦しめられる力を持たない人々を救う為に、ウタは住んでいた『エレジア』という島である計画をたて、世界の七割の人を巻き込む大事件を引き起こしたが、最愛の父と幼馴染の一人の少年をはじめとした海賊、海軍の手により、その計画は阻止された。

 

 その後、計画の一部であるネズキノコという毒キノコにより、ウタは父シャンクスが率いる赤髪海賊団という最愛の家族に看取られながら、二十一という若さで命を落とした。

 

 その亡骸は、シャンクス達の手により棺に入れられ、ここフーシャ村の崖の上......かつて幼馴染の少年と互いの夢を誓い合った思い出の場所に埋められた。

 

 

 

 そんな、時代に呑まれた少女の墓の前に一人の青年がひっそりと訪れ、ドカッと腰を下ろした。

 

「昨日ぶりだなぁ、ウタ。にししっ、あっちでも元気に歌ってんのか?」

 

 青年の名は『モンキー・D・ルフィ』。

 先程の話に出たウタの幼馴染の少年にして最後の島『ラフテル』へと到達し、ロジャーに次ぐ新たな海賊王となった大海賊である。

 

 ルフィが海賊王となってから五年。

 各々の夢を叶えたルフィ率いる麦わらの一味は解散し、それぞれ故郷へと帰っていった。

 

 ルフィも故郷であるフーシャ村へと帰り、五年の間、一人で暮らしている。

 たまにかつての仲間や、世界を旅する中で出会った数々の友人と集まり宴を開いたりする事もある。

 

 その中には、かつてルフィに想いを寄せていた女性も数多く集まってくるが、誰一人としてルフィは娶ろうとはしないし、女性の方も誰一人アプローチする事なくルフィを見守り続けていた。

 

 ルフィに恋愛感情が無い、という訳では無い。

 

 たしかに、海賊として航海している最中はルフィはそういった事に全く無頓着であり、異性に対して分け隔てなく接していたが、彼に想いを寄せていた多くの女性の猛アプローチ、血の滲むような猛勉強の末、ようやくルフィにもそういった感情が芽生えた。

 

 誰かを『愛する』という気持ちに、ルフィはその時ようやく気づいた。

 

 それと同時に……

 

「(私にとっても大事な帽子……いつかきっと、これがもっと似合う男になるんだぞ!)」

「……ウタ……!」

 

 亡くなる直前、ルフィに新時代を託し消えていった少女。

 たった一言、その少女の名前を呟き、ズキズキと痛み締め付けられた胸を抑え、涙が頬を濡らした瞬間。

 

 ルフィに好意を寄せていた女性は皆一人残らず手を引いた。

 

 後に、ルフィに想いを寄せていた女性の一人であり、麦わらの一味の一員である航海士『ナミ』はこう語った。

 

「付き合って、結婚して、子供も産まれて、家庭を築く。色々あると思うけどみんなアイツに幸せを与える事はできる。だけどね……決して彼の一番にはなれないのよ。私含めてね。アイツの一番大切な存在は、あの子だけだったの」

 

 泣きながら笑う航海士のその言葉は、彼を諦めた全女性の言葉を代弁しているかのようだった。

 ちなみに、ナミはその後、同じ麦わらの一味のコックである『サンジ』と結婚し、家庭を築き、幸せに暮らしている。

 

 

 

 

「…………でさぁ、ナミもビビもハンコックもみんなして泣くんだよ、ほんと。気付けなかったおれも悪ぃんだけどさ。にししっ……ゲホッゴホッ……」

 

 ウタの墓参りを毎日欠かさず行い、その度に面白おかしく色んな話題を話すルフィ。

 

 その体は一年程前から病に侵されていた。

 

 三年程前までは治療法のない難病とされてきたが、麦わらの一味の船医である『チョッパー』がついに治療薬を完成させ、この病気に苦しむ数多くの人々を救った。

 

 そして、チョッパーはルフィにも同じように薬を渡そうとしたが……

 

「チョッパー、ありがとう。でも、いいんだ。おれはこのままアイツのとこに行かせてくれ。これ船長命令な! あ、でも、もう解散したから、船長も何もねぇか!」

 

 にししっ、と、いつものように笑い、ルフィはその薬を断った。

 

 

 このまま、ウタのもとに行かせてほしい。

 

 

 そんな最後の船長の願いに、誰一人として反対しようとはしなかった。

 

 そして、その命も……まもなく尽きかけようとしている。

 

 血が混じる咳を繰り返し、笑いながら話すルフィの身体がぐらりと揺れ、その場に倒れ込み……

 

「「「ルフィ!!」」」

 

 そんな姿を後ろから見守っていた、かつての一味が走りよろうとした瞬間

 

「おっと……軽くなったなぁ、ルフィ。ちゃんと飯食べてんのか」

「……シャンクス……にししっ……ありがと……」

 

 誰よりも早く近づいたシャンクスが、倒れかけたルフィの体を、割れ物を扱うかのように、そっと右腕で受け止めた。

 

 当然、病により衰えはしたがルフィは海賊王。【見聞色の覇気】と呼ばれる力により、シャンクスや他の仲間達が近くにいる事に気づいていた為、驚くような事はなかった。

 

『赤髪のシャンクス』

 

 子供時代のルフィの命の恩人にして、ルフィが『誰よりも偉大な海賊』と称し、海賊王を目指すきっかけを作った男。

 そして、血の繋がりはないが、ルフィが愛したウタの父親である。

 

 最後の島ラフテルにて、ひとつなぎの大秘宝を巡り海賊として最後の死闘を繰り広げた相手でもあった。

 闘いは七日間以上続き、ラフテル周辺にある無人島がいくつか海の上から消える程の激しさだったが、辛くもルフィはシャンクスに打ち勝ち、秘宝を手に入れた。

 

「シャンクス……おれ、立派な海賊に……海賊王になったよ……」

「……あぁ。しっかり見届けたぞ、ルフィ……よく、頑張ったな……」

 

 病のせいか……また別の理由のせいか、舌が上手く回らなくなってきたルフィの言葉にシャンクスはしっかりと返す。

 

 立派な海賊になったら預かっていた麦わら帽子を返す、という約束は、闘いの後、シャンクスがルフィに譲った事で今でもルフィのトレードマークとなっている。

 

「でも……でもよぉ…… ! 海賊王になったのに……! 一番近くで……喜んでほしいヤツが……一番遠くにいんだ……!!」

「ッ! ……ルフィ……」

「「「……ッ」」」

 

 もう、これが最後の会話になるからだろうか。

 それは、海賊王となってから初めて見せるルフィの本音……そして、弱音だった。

 

 シャンクスも、かつての仲間達もそんなルフィの抱えてた想いに気づいていたからか、零れ落ちる涙を止める事ができずにいた。

 

 どんなに気丈に振舞っても、見る人が見れば直ぐに気づくルフィの顔にかかる影……

 

 ルフィはウタを愛していた。

 

 その事に本人が一番気がついていなかった。

 

「ナミ達に言われてやっと気づいた……! おれが……どんだけ、ウタの事好きだったのか……でも……もう、そこに……ウタはいなくて……おれはまた……あの時、取りこぼしたんだ、って……やっと、気づいて……!」

 

 ポロポロと涙を流しながら、ルフィはウタの墓を見つめる。

 この崖の上で、幼い頃にウタと拳を合わせて誓い合った互いの夢。

 

「(作ろう! 新時代!!)」

「(おう!)」

 

 その誓いの十二年後、ラフテルへと辿り着き世界の謎、古代兵器とは、Dの一族とは、空白の百年とは、そしてロジャーの残したひとつなぎの大秘宝、その全てを手に入れ海賊王となったルフィは己の夢を叶えた。

 

「(友達が、腹いっぱい飯を食える世界!)」

 

 天竜人を無くし、天上金を無くし、奴隷を無くし、略奪を無くし、貧困を無くし、飢餓を無くし、海賊王でありながら世界を平和へと『新時代』へと導いたルフィはいつしか『英雄』とまで称された。

 本人は英雄と称されるのを嫌がっていたが。

 

 しかし、そこに……ルフィの隣に、最愛の少女ウタの姿は無かった……。

 

 

 

 

「あぁ……ウタ、久しぶりだなぁ……え、毎日会ってるっけ? にししっ……おれには見えてなかったからさぁ……」

 

 シャンクスに抱えられ、涙を流し続けるルフィは、突然、うわ言のように呟き出した。

 

 まるで彼にだけ、ウタの幻が見えているかのように。

 

「あとちょっとで、ウタんとこ行くからさ……また勝負しようぜ…………これでおれの連勝記録も更新だな……違うって……おれの18……5連……しょ……ぅ…………」

 

 それから、しばらくして……

 

 シャンクスと、かつての仲間達に思いを吐露し涙を流したルフィは静かに永い眠りについた。

 

 ウタと同じように、大好きで、憧れたシャンクスに抱えられ、かつての仲間達、そして世界中からルフィを慕った人々に看取られ、太陽のような笑みを浮かべながら、穏やかにその二十五年に渡る生涯に幕を閉じた。

 

 

 

 そして……

 

 

 

 

 

「……あれ!?」

 

 消えていったはずの意識が急に戻ってきた事でルフィは驚き、ガバッ、と身を起こした。

 

「あれ? みんなは? どこ行ったんだ?」

 

 そこには、先程までいたはずのシャンクスや仲間達の姿は無く、ルフィ一人だけだった。

 さらに……

 

「え、ウタの墓まで無ぇ!」

 

 そこにたっているはずのウタの墓まで消えており、ルフィの脳内は混乱を極めた。

 あれこれ考えていると

 

「……なんで俺、ちっちゃくなってんだ?」

 

 ルフィは自分の背が縮んでいることに気がついた。

 まるで五~六歳の時の自分に戻ったかのように……

 

「……!」

 

 まさか、と思ったルフィは急いで自分の住んでいたフーシャ村へと走って行った。

 

 

「……はぁ……ぜぇ……や、やっぱりだ……」

 

 崖の上からフーシャ村まではそれなりに距離もあり、全力で疾走してきたルフィは息も絶え絶えになりながら村を見渡し、そして確信した。

 マキノが最後に見た時よりも随分と若くなっており子供の姿も見えない。

 村長も白髪頭で最後はヨボヨボだったのに、そんな面影は一切なかった。

 

 そして……

 

「あら、ルフィ。五歳の誕生日おめでとう! 今日の夕方は村の皆でパーティーね」

 

 マキノがルフィの存在に気づき、花のような笑みを浮かべ、そう言った。

 

「五歳……? 誕生日? そうか!」

 

 五歳の誕生日……そして、その一言により亡くなった今日が自分の二十五歳の誕生日だった事に気づいたルフィ。

 何とそこから二十年もの時間を逆行していたのだ。

 海賊になる前……いや、シャンクスやウタに出会う前の自分まで戻ってきていた。

 

 突然の出来事に混乱しつつも、ルフィは落ち着きを取り戻していった。

 

 海賊として……海賊王になるまでの航海で予想だにしない出来事なんて数え切れない程あったのだ。

 この程度の出来事で慌てていては、海賊王なんて夢のまた夢であった。

 

 ……単純に少し頭が悪いだけかもしれないが。

 

「……これで……救える……ウタを……エースも……!!」

 

 だが、今、ルフィに細かい事を考える余地は無かった。

 

 戻ってきた……その事実に、ルフィは航海の中で救えなかった人を思い起こしていた。

 

 最愛の幼馴染であるウタ……そして十七の時に失った義兄であるエース。

 

 記憶が残っている今、今度こそ救うと、救ってみせると、両の拳を強く握りしめた。

 

 海賊王のやり直しが、今ここからスタートした。

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