海賊王となり二十五の若さで亡くなったルフィは、気が付けば五歳の頃へと戻っていた。
記憶が残っている中、未来で救えなかった者達を今度こそ救う為、修行の日々を送る。
それから一年が経ち、ある程度、身体も鍛え未来において培った覇気の扱いも慣れてきた頃、ついにルフィの住むフーシャ村へと憧れの海賊シャンクス率いる赤髪海賊団、そして、最愛の少女ウタがやって来た。
フーシャ村へ突如訪れた赤髪海賊団。
船長のシャンクスを含め、危害を加えそうにない船員達の雰囲気に一部の者を除いて村人達も特に警戒することもなく荷下ろしを手伝ったりしていた。一部の人たちも不安そうな表情をしているが何か口答えをするわけでもなく見守っていた。
シャンクスの話によると一年程、この村を拠点に滞在するらしい。
一通り荷下ろしを終えた船員達はさっそくとばかりにマキノの酒場【PARTYS BAR】へと集まり、宴を開いていた。
ラッキー・ルウとボンク・パンチが殴り合いを始めたりとドンチャン騒ぎだが、特に何かを壊すわけでもなく、その懐かしい光景にルフィもジュースを飲みながらシャンクスから冒険の話を聞いて楽しんでいた。
「へ~、そんなすげぇお宝なのか、それ!」
「あぁ、こいつの中身は、さすがにお前さんにも見せられねぇがな」
そんな中、シャンクスが船から降りた後も持ち歩いている小さな宝箱の話を聞いた。
だが、ルフィはその宝箱の中身が何なのかは想像がついていた。
「(ゴムゴムの実……)」
【海の悪魔の化身】といわれる悪魔の実だ。
人知を超えた体になる【
ちなみに、味は非常に不味い。
そして、今、シャンクスの手元にある宝箱に入っている悪魔の実こそ、未来においてルフィの力となった【ゴムゴムの実】だ。
その名の通り、食べると体がゴムのように弾力、伸縮性を持つ超人系の悪魔の実で、その能力を駆使してルフィは数々の強敵と渡り歩いた。
悪魔の実の能力者が心身共に、その能力へと追いつくことで【覚醒】という現象が起きるが、ゴムゴムの実はその中でも一際特殊な覚醒となる。それはまた追々話すとしよう。
それを見つめる中、ルフィは必死に考えた。
「(ウタがエレジアに行ったのは一年後のシャンクス達がフーシャ村を出る少し前だ……ウタを助ける為にも、今は少しでも力が欲しいし……何とかシャンクス達の目を盗んで食べるしかねぇ)」
それはもちろん、先ほどようやく再会を果たしたウタのことだ。今は一人で村人たちに挨拶しに行っている。
ここにきて一年……ルフィが七歳、ウタが九歳の時、シャンクス達は音楽の島といわれる【エレジア】へと向かった。
そこでその島に封印された歌の魔王【トットムジカ】にウタが利用されエレジアを滅ぼし、その罪をシャンクスが被りウタの身を隠すようにエレジアへと置いてきてしまった。
フーシャ村へと戻ってきたシャンクスは「ウタは歌手になる為に船を降りた」と説明され、それを信じ切れず、一時期シャンクスと仲違いしてしまったルフィ。
その十二年後……ようやくウタと再会を果たしたものの、彼女は亡くなった。ルフィに新時代を託して。
世界中の苦しんでいる人々を自分の歌で幸せにしようと考える優しさを持っていた。だからこそ、ルフィもそんなウタに惹かれ、そして好きになった。
カウンターに座るルフィは拳をギリギリと握りしめる。
「(悪いのはそのトットムジカとかいう魔王だ! ウタもシャンクスも何も悪くねぇ! 絶対に助けるんだ、今度こそ……!!)」
そう決意を固める中、悪魔の実を食べるチャンスは割と早くやってきた。
挨拶回りを終えたウタが酒場へと入ってきて、ずかずかとシャンクスの横に座るルフィに近づく。
「ちょっと、あんた。そんなダサい恰好でシャンクスに近寄らないで」
「むぅ、ダサくねぇよ!」
「うちの歌姫はオシャレだからなぁ」
ウタにダサいと言われ、若干、傷つきながらも反論するルフィ。
以前の自分であれば傷つくのが何なのか全く分からなかったが、未来で恋というものを知り、そしてウタに惚れていた事に気づいたルフィは、その好きな子にダサいと言われた事に若干傷ついていた。
だが、以前の自分では気づけなかった気持ちにも気づけ、少し嬉しくも感じていた。
未来から過去に戻ってこようと、自分の中でウタに対する気持ちは微塵も変わっていなかったからだ。
そんな子供同士の言い合いを揶揄うようにシャンクスが割って入る。
「ふふっ、私は歌姫! 赤髪海賊団の音楽家で、シャンクスの娘!」
「海賊には歌が付き物だからな」
ルフィがこれから十年後に海賊として出た後も真っ先に音楽家を欲しがった理由が、まさにこの瞬間、この一言だった。海賊は歌うのだ。
懐かしくて、嬉しい気持ちに浸ったルフィはジッとウタを見つめていた。
「いいわ。私の歌を聴かせてあげる!」
ウタはルフィ何か物欲しそうな表情をしているように見え、そう言って足でリズムを取り始めた。
瞬間、店内にいた赤髪海賊団の全員が一斉に行動を開始した。
ベックマンとルウはウタの隣へ、シャンクスと他の船員達は一つだけテーブルを残し、他のテーブルとイスを動かして即興のステージを作り上げた。
ウタがそのステージへと歩き出し、その両手をベックマンとルウが掴んでウタの体を持ち上げる。
ステージの上につくと、ヤソップが敷物を投げ入れ靴でステージとなったテーブルが汚れないようウタの足下に敷かれた。
手際がいい。さすが狙撃手にしてウソップの父親である。
ステージの上に立ったウタはさっそく歌い出す。
『風のゆくえ』
赤髪海賊団として航海する中で何度も歌っているウタの好きな曲だ。
ルフィもここフーシャ村で何度も聞いたことのある思い出の曲……その歌声を再び生で聞けた事に、ルフィは涙が零れそうになりグッと堪えた。
今は泣くことよりもすべきことがあるからだ。
幸いなことにシャンクスやマキノ、他の船員達はウタの方に意識を集中させており、ウタも目を閉じて歌っている。
サッとシャンクスが置いた宝箱を手元に引いたルフィはその箱を開く。
紫色の小さなメロンみたいな形をした唐草模様のついた果実……間違いない。ゴムゴムの実だ。
ルフィはそれを手に取り、躊躇なく齧り付いた。
相変わらず不味い。
やがてウタが歌い終わり、場が大きな歓声に包まれた。
「どうだルフィ。うちの歌姫の歌は!」
「んぐっ……すげぇ、上手かった!」
拍手喝采が響き渡る中、シャンクスは横にいるルフィに娘を自慢するようにそう問いかける。
ゴムゴムの実をガツガツと食いながらルフィもそう応える。
実際、何度聞いても、やはりウタの歌は素晴らしかった。
「そうだろそうだろ……って、お前、何食ってやがる!?」
余韻に浸っていたシャンクスだったが、ルフィが勢いよく食べている物に目が留まり、一瞬で顔が強張った。
シャンクスには申し訳ないが、ウタを助ける為にも必要な力……ルフィは心の中で謝罪しつつ最後の一口をごくりと飲み込んだ。
「さっきの宝箱。なんか果物みてぇなの入ってたから、デザートに、と思って……うわぁ!?」
「バカ! 吐き出せ、早く!!」
あえて知らぬふりをしてそう答えるルフィの足をガシッとつかみ、シャンクスはルフィを逆さにして上下に振る。
ウタやほかの周りの船員もまさか、と思い、その光景を眺めていると……
「「「!!??」」」
上下に振られていたルフィの足が突如として伸び、顔が床に着地した。
先程まで拍手喝采が響き渡っていた場が一瞬にして静寂へと包まれた。
「なに……今の?」
周りの人が目を飛び出させる程の驚愕に包まれる中、ルフィの身体に起きた現象にウタは疑問を投げかける。
やがてルフィの足が元に戻ると、グイッと顔がシャンクスの顔の前へと持ち上げられる。
「お前が今食べたのはゴムゴムの実だ! ゴムゴムの実は悪魔の実ともいわれる海の秘宝なんだ! 食えば全身ゴム人間! そして一生泳げない体になっちまうんだ!!」
シャンクスがそんな焦りと怒りを滲ませながら怒鳴るとウタとルフィは笑い出した。
「ぷっ……あははははっ、ルフィも泳げなくなったのね! 私と一緒だ!」
「にししししっ、おれ、もともと泳げねぇしな! 意味ねぇ!」
「「あはははははっ」」
「笑いごとじゃねぇんだよ、このバッカヤロォオオオ!!」
そんなこんなありながらも、ルフィは悪魔の実の力を手に入れることができたのだった。
食って能力まで発動しちまったもんは仕方ねぇ、とその場は収まった。
マキノも、まぁまぁ、と言いながらシャンクスにお酒を手渡した。
「そうだ、ルフィ。フーシャ村をウタに見せてやってくれ」
「おう! わかった!」
落ち着いたシャンクスにそう言われ、ルフィも嬉しそうにウタを連れて外へと向かった。
その後はフーシャ村の各地を歩き回りつつ、楽しみでもあったウタとの勝負事に挑むルフィ。
背比べ、かわいさ、腕力対決等々……今のルフィであれば勝てるような勝負もあったりするが、ルフィはあえて負けてその回数を重ねていった。
ウタ達がエレジアへと向かう前に行った勝負……それが183回。何よりの目印だ。
身体の鍛錬に覇気の修行、能力への慣れ、ウタとの勝負。一日でやることが山積みではあるが、ウタと一緒にいられる時間がルフィにとっては何よりも嬉しく、何の苦にもならなかった。
そんな楽しい日々も、あっという間に過ぎ約一年の時が過ぎた。
「ルフィ。あんた、どれくらい能力使えるようになったの?」
「ん? 試してみっか」
ウタ達がフーシャ村にきて約一年。悪魔の実の能力を宿したルフィの力に興味がわいたウタはそう問いかけると、ルフィは近くの岩の前へ向かった。
幸い、悪魔の実の能力の使用も身体が覚えていてくれた為、こっそり修行していたルフィは食べたその日の内には使いこなせているが。
「ゴムゴムの~
「!?」
右手を武装で真っ黒に硬化させた拳で技を放つルフィ。素の状態でも岩は壊せるが、ゴムと覇気の力によりその威力は桁違いに上がっていた。
とても七歳の子供が放つレベルではない威力にウタも驚きの表情を隠せないでいた。
「え、すごっ……やるじゃん、ルフィ!」
「にしししっ! 頑張った!」
バチンッ、と腕を戻しつつ、ニカッと笑うルフィ。
そんな中、ウタはある事が気になった。
「そういえば、今……腕、黒くなかった?」
「あぁ、
その問いかけに、再びその場で腕を硬化させて見せるルフィ。
その姿にウタは再び目を見開いた。
「船番で部屋の窓からシャンクス達が戦ってるのこっそり見たことあるから覚えてるけど、それ何なの?」
赤髪海賊団が他海賊や海軍と戦闘になる際、ウタは船番として倉庫や船室の中に入って待機している。
そんなある時、シャンクス達の戦闘に興味がわいたウタは部屋の窓からこっそり覗いた事があるのだ。
そして、その時、目に入ったのがシャンクスやベックマン達の腕や足が黒く染まり敵をなぎ倒す姿だった。
「これは、覇気って力だ」
「……はき?」
ウタは首をコテンと傾げる。可愛い。
じゃなくて。
「あぁ! こうやって腕とか足とか武器とかに纏わせる事で、防御力が上がったり攻撃力が上がったり……あと自然系の能力者を殴れたりできんだ!」
「なんで、そんなこと知ってんの?」
「…………じいちゃんから聞いた!!」
「ふ~ん……」
とりあえず、未来から来たと言っても訳分らんし、そういうことにしておくルフィだった。
まぁ、じいちゃん使えるからね。海軍の中将で英雄とまで言われてる人だし。
「わたしにもできるかな?」
「誰でもできっぞ! 人間みんな持ってる力らしいからな!」
「ほんとに!? じゃぁ、ルフィ、わたしにも教えてよ!」
「おう、いいぞ!」
こうして、ウタに覇気を教えることになったルフィ。さすがにたった数時間で習得とはいかなかったものの、夕方になるまで続いた。
「ルフィってさ、歳のわりに何だか落ち着いてるよね」
「ん? そうか?」
いつもの海が見える崖の上で、夕日がだんだん海に沈んでいく景色を眺めながらウタはそう呟く。
普段、遊んだり、勝負する時は子供っぽいところがあるのに、どこか大人びているような部分もあるルフィに気が付いたのだ。
ルフィとしては二十五年分の記憶もある上に、今はウタを救う事しか考えていない為なので気づいていない。
「うん。ルフィにはさ……なにか夢とかあるの?」
そんなルフィに、ウタはそう尋ねる。
「おう! あるぞ!」
その問いかけにルフィは勢いよく立ち上がり、崖の先に立つと両腕を上げ力強く言う。
「おれは海賊王になる!」
「海賊王~!? あんたが!?」
「おう!」
ルフィのあまりにも壮大で無謀ともいえる目標にウタは驚く。
「へぇ~……シャンクスならなれると思うけど、あんたがねぇ……で、海賊王になってルフィは何がしたいの?」
「にししっ! おれは海賊王になって……新時代を作る!!」
「っ……新時代?」
新時代を作る、その夢にウタも立ち上がってルフィの隣まで歩いて並び立った。
「あぁ! 誰もが自由に笑って、腹いっぱい飯を食える世界を、新時代を作るんだ!」
「そっか……ぷっ……あはははは! なんかあんたっぽいな」
一度は叶えたルフィの夢……しかし、その隣にウタの姿はなく……今度こそ二人で叶える為にルフィはもう一度宣言する。
「そうか? にしししし! そんなウタにも夢あんのか?」
「もちろん! あるわよ!」
ウタはその場で大きく両手を広げて夢を語る。ルフィがかつて見た景色……同じように聞いた夢だ。
「世界中を回って、たくさんの曲を作って、最っ高のステージとわたしの歌で世界を幸せにする!! わたしもあんたみたいに新しい時代を作るの!!」
「へぇ……にしししっ!! あぁ、ウタにならできるさ!!」
「ふふふっ、ありがと!」
この十二年後……精神は子供のまま身体だけが大人になり、そして間違ったやり方で己の夢を叶えようとしたウタ。
間違っている、と気づいていながらも己の罪と周りのファンからの期待から引き返す事もできずにウタはその計画を実行に移し、そして……
「(こんなのは自由じゃねぇ! こんなのは新時代じゃねぇ!! お前が一番、分かってんだろ!!)」
「(……ルフィ……!)」
ウタワールドで顕現したトットムジカという魔王に呑み込まれる直前に見せた感情を取り戻したウタの涙に濡れた最後の顔が、自分を呼ぶ悲痛な声が、ルフィの頭から離れないでいた。
「作ろう! 新時代!!」
「おう!!」
ウタと腕を組み、拳を合わせて誓い合う。
今度こそ、この夢をしっかりと叶えれるように、彼女を守る為に、今の自分がすべきこと。
ルフィは既に考えが固まっていた。
エレジアにシャンクスやウタと共に向かい、あの楽譜を歌わせない事。その為には……
「やあああああ!」
「うあああああ!」
幼い二人の雄叫びが村の中に響き、ルフィとウタはマキノの酒場まで戻ってきた。
いつもやっている競争だ。
気になる勝敗は……
「やったー! わたしの勝ちー!」
「ず、ずりぃぞウタ……肉なんてどこにもねぇじゃねぇか……」
ウタの勝利だった。
もちろんルフィが本気で走っていれば勝負にすらなっていないのだが、手加減している上に途中でウタが「あ! あそこに肉が!」と指さしたことでルフィは一瞬そっちへ気を取られた。
「ふふふ、これでわたしの183連勝目ね!」
「……っ! 183……」
そして、ついにその回数へと来た。
183……つまり、翌日、ウタ達はエレジアへと向かう。
長いようで短かったが、ついにこの時が来た、とルフィの表情は硬くなる。
「? どうしたのルフィ?」
「ん、なんでもねぇ! お、おれは負けてねぇ!!」
「ふふっ、出た、負け惜しみぃ!」
両手を顔の横でワキワキさせて、ルフィを揶揄う負け惜しみのポーズ。
未来では現実で見る最後の姿だった。
しかし、今度は違う。その為にも。
「シャンクス!」
酒場の、いつものカウンターに座って酒を飲んでいるシャンクスにルフィは声をかけた。
「ん? ……どうしたルフィ?」
「……話があるんだ!」
普段は年相応のガキにしか見えないルフィの、決意を固めた真剣な表情に何かを感じ取ったシャンクスは瞬時に真面目な顔になった。
「おれを、次の航海に連れて行ってくれ!!」
渋の方から、おかしな日本語になったりしてる部分を修正しながら上げてますが、もし他にお気づきの点があれば感想欄等でお知らせください!