エレジアの悲劇を防いだ翌日、大勢の人に見送られルフィとウタ、シャンクス達赤髪海賊団はフーシャ村へと出航した。
その途中、フーシャ村から始まった未来を知っているかのような行動にその正体を聞かれたルフィはシャンクス達を信頼し自分が過去に戻ってきた事の全てを話した。
結果として大切な家族であるウタを救う事ができたシャンクス達はそれを信じ、改めてルフィに感謝した。
その後、互いの再会を祝して宴を開き、異様な程に距離の近いルフィとウタを見てシャンクスは気絶した。
エレジアを出て数日。
航海も順調に進み、ルフィ達を乗せたレッド・フォース号はフーシャ村へと帰港した。
港に着くとルフィとウタが真っ先に降りて出迎えの人達に軽く挨拶をするとマキノの酒場へと向かい、その後、赤髪海賊団が降りてきた。
毎日のように船の上でイチャイチャするルフィとウタを見て、シャンクスだけは異様に疲れきった表情を浮かべ船を降りていた。
「ただいまー、マキノ!! 飯くれー!!」
「マキノさん、ただいまー!!」
「二人共、おかえりなさい。今、作るわね……あら?」
ルフィとウタは酒場に着くや否や中にいるマキノに大きな声で挨拶をするとテーブルに着く。
イスを隣に並べて座ってからもウタはルフィの腕に抱きつき相変わらずベッタリだ。
マキノも二人に気づくと笑みを浮かべて料理の方に取り掛かろうとし……フーシャ村を出る時とは明らかに違った異様な程に距離の近い二人を見て首を傾げた。
「……そういう事ね♪」
数秒の熟考の後、二人の熱い関係に気づいたマキノは特に何も言わず、『とってもいい』笑みを浮かべて料理に取り掛かった。
できる女は違うのだ。
その後、荷降ろしを終えた赤髪海賊団の面々も続々と酒場に入って来て腰を降ろす。
「みなさんも、おかえりなさ……船長さん、どうしました?」
マキノは手馴れた動作で一人一人にお酒を渡す中、なぜか一人だけ落ち込んでいるシャンクスを見て、その動きを止めた。
「あぁ、なんでもない……気にしないでくれマキノさん……」
とは言うものの、シャンクスの目は光を失ったままだ。
「あの二人が船の上でも常にアレだからな。お頭の親バカが葛藤してんのさ」
と苦労人にして副船長のベック。
「いい加減、認めろってお頭! ルフィなら大丈夫だろ!」
と数え切れない程気絶したシャンクスの対応をしてきたホンゴウ。
フーシャ村を出る際に何かルフィが真剣な表情を見せたものの、出航する時には何時もの子供同士の戯れを見せたルフィとウタ。
その二人が帰ってきたと思えば、何やらとても『お熱い』関係になっている様子を見て色々と察していたマキノは……
「船長さん、子供は親の知らない所でいつの間にか成長しているものですよ。今はあの二人を祝してあげましょ」
聖母のような笑みを浮かべてシャンクスの前にお酒を置いた。まさにフーシャ村の女神だ。
「ええい! こうなりゃやけだ!! 野郎ども! 二人を祝して宴だ!! こんちくしょう!!」
「「「おおーー!!」」」
シャンクスはそのお酒を受け取ると涙を浮かべながら立ち上がって、そう宣言し酒場は活気に満ち溢れた。
今日も赤髪海賊団とフーシャ村は平和である。
ちなみに、宴に紛れてマキノがウタに『何か』を教えていたのは二人だけの秘密である。
後日、ルフィとウタの姿は崖の上にあった。
お互い夢を誓い合った場所であり、未来においては二人だけの墓の場所、そして過去に戻ってきたルフィの修行場の一つでもある。
「今日は見聞色の覇気をウタに教えてくぞ!」
「わーい!」
終始イチャイチャするのもいいが、将来、海賊として冒険していく中でやはり強さは必須だ。
エレジアへ向かう前に少しだけ話したが、改めて未来でレイリーに教わった覇気の基礎をウタに説明していく。
「見聞色の覇気はすげぇぞ! 鍛えっと視界に入らねぇ敵の位置やその数……更には、次の瞬間相手が何しようとしてんのかを読み取れんだ!」
「え、凄い! じゃぁ、エレジアでトットムジカにルフィが気づいたのも?」
「おう! それも見聞色のおかげだ! あの時はパーティが始まってからずっと使ってた!」
「ふふ、ありがとね! ちなみにルフィはどのくらいできるの?」
「この島に住んでる奴ら全員感じ取れるし、五秒くらい先の未来が見えるぞ!」
七歳にして、かつて四皇ビッグ・マム海賊団の最強の幹部『シャーロット・カタクリ』との戦いを経て習得した未来予知の域まで既に到達しているというルフィ。
この化け物はどこまで目指すのだろうか。
「ほんとに!? えっと、じゃぁ……んっ!?」
その未来予知の域にまで到達しているというので、試しで何かを言おうとしたウタの唇を、ルフィは何かを言わせる前に自分の唇で塞いだ。
「……にししっ、キスして、て言おうとしただろ!」
「す、すごい、本当に分かるんだ……」
未来を読んでウタがお願いを言う前に実行したのだ。
口を離して笑みを浮かべ自慢するルフィにウタも顔を赤く染めながら驚く。
相変わらず修行の中でもイチャイチャする二人……自重という言葉は二人の脳内には存在しなかった。
いいぞ、もっとやれ。
そんなこんなでウタの修行開始。
「ルフィ、なにそれ?」
「マキノから借りてきた! ピコピコハンマー? とか言うらしい!」
修行が始まり、さっそくルフィが取りだしたのはピコピコハンマーだ。
初めて見るおもちゃのようなハンマーにウタが首を傾げる。
「ウタには目隠しをしてもらって、おれがこれでウタの頭を叩こうとするから何とか気配読んで避けてみろ!」
「へぇー……ちなみにルフィが未来でレイリー? て人に修行つけてもらった時はどうしてたの?」
「おれの時は武装色纏った木の棒で殴り飛ばされてたぞ!」
ルフィの修行のあまりの過酷さにウタは若干顔を青くして苦笑いを浮かべた。
「……や、優しくね、ルフィ……」
「おう!」
その後、百回程、崖の上にピコピコと可愛い音が鳴り響き、この日の修行は終わった。
ウタは痛みはないものの頭の上を手で抑え涙を浮かべた。
どうやら、一度も避けられなかった事が悔しいらしい。
「うぅ、百回全部避けられなかった……」
「しししっ、おれも一日じゃ覚えられなかったからな! 数こなすしかねぇ!」
「そっか……よーし、明日もよろしくね、ルフィ!」
「あぁ、任せろ!」
修行を終えた二人はまた恋人繋ぎで手を繋ぎ、仲良くフーシャ村へと帰って行った。
そんな覇気の修行を繰り返し、毎日のようにイチャイチャするルフィとウタは、その日、酒場にてジュースを飲みながらシャンクス達と話していた。
「どうだ、ウタ? その後の覇気の調子は?」
「そうだ、聞いてシャンクス! 昨日、最後の一回だけやっと避けられたの!!」
ウタが言うには、その時だけ何かぼんやりとした気配を感じたらしく、導かれるように首を動かした途端、ルフィの振るったピコピコハンマーが空を切ったらしい。
「おう、あん時はおれもビックリした! たぶん、あと数日で見聞色覚えられると思うぞ!」
「そうか! そりゃすげぇな! おめでとう、ウタ。今後も頑張れよ!」
「えへへ、うん!」
ルフィの見立てではあと二、三日でウタも見聞色を覚えられるらしい。
修行を開始して、まだ一ヶ月も経っていないのに恐ろしい早さだ。
おそらく未来の記憶を取り戻した事も関係しているのだろう。
そんな修行の話だったり、他愛のない話だったり、またベッタリとくっついてイチャイチャするルフィとウタを見てシャンクスがまた白く染まりかけて船員達が騒ぎ出したりする昼下がり……
「邪魔するぜぇ」
突如として酒場の扉が蹴破られた。
一瞬にして騒いでいた場が静かになり、破られた扉から如何にも柄の悪そうな賊が何人も入ってくる。
「ほう、これが海賊という輩か……間抜けた面してやがる……」
先頭に立つ恐らく頭領かと思わしき男はシャンクス達を見てそう呟きながらマキノのいるカウンターまで歩いていく。
ちなみにシャンクスは隣で何事も無いかのようにイチャつくルフィとウタを見てより一層白くなっている。
「俺たちは山賊だ……が、別に店を荒らしに来たわけじゃねぇ」
先程、扉を蹴破っておいて説得力ねぇ……。
「酒を売ってくれ。樽で十個ほど」
「ごめんなさい。今、お酒は丁度きらしてるんです」
どうやら酒を買いに来ただけらしい山賊はマキノに頼むが、ちょうどシャンクス達の飲んでるお酒で切らしている為、お断りする。
「ん? そりゃおかしな話だな。海賊共が何か飲んでるようだが、ありゃ水か?」
「ですから、今出てるお酒で全部なので」
その時、白くなったままのシャンクスが虚ろな目をしたまま栓を開けてない酒を一本差し出す。
「あぁ……悪いなぁ山賊さん……おれ達が全部飲んじまったみたいで……これならまだ栓を開けてないから……」
「お、おう……ところで何でお前さんはそんな真っ白に染まり果ててんだ……そして、横でさっきから甘ったるい空気出しまくってるガキ共はいったい何なんだ!?」
シャンクスのあまりにも生気の失った目を見て、さすがの山賊さんもうろたえた。当たり前だ。突いたら崩れ落ちそうな灰の塊のようにしか見えないシャンクスの姿は見てるこっちがおかしくなってしまう。
そして、そんなシャンクスの隣で先程からむせ返るような甘い空気をかもし出し続けるルフィとウタを問うが……
「何も……何も、聞かないでくれ……」
シャンクスは悲痛な声で涙交じりに苦笑しながら返答し、ついに山賊も折れた。
「……な、何か悪い事したな……邪魔したわ。おい、野郎ども帰るぞ」
「「「へ、へい……」」」
山賊さんも根はクズでも大人である。聞いてはいけない、見てはいけない事情をあることを察した。
そして、部下達を揃えて帰ろうとした、その時だった。
「良かったね、山賊さん。シャンクス達に喧嘩売らなくて! お礼にコレあげる!」
何もせず帰ろうとしたところをルフィとイチャイチャしてたウタが立ち上がり、山賊のもとへ近寄ると一枚の紙を手渡した。
「なんだ、ガキ? これが、いったい何だって……」
言うんだ、と言おうとし、その紙を見た山賊……ヒグマの声はそこで止まり……
「…………」
『海賊 赤髪のシャンクス
懸賞金 10億4000万ベリー』
その紙……シャンクスの手配書の顔と白く染まってるシャンクスの顔を二度、三度、四度と見比べる。
「~~~っ!?!!?」
そして、懸賞金800万ベリーをもつヒグマは、先ほど誰に対して生意気な態度を取ろうとしたのか気づき、その顔を驚愕と恐怖の入り混じった表情に豹変させ、冷や汗を全身からダラダラと流し始めた。
部下達もシャンクスの手配書を見てガタガタと震え始める。
「(空島で戦った耳たぶが、おれに能力効かなかった時もあんな顔してたなぁ)」
そのヒグマの表情を見たルフィは未来で戦った空島の一人を思い浮かべそんな場違いな感想をもらした。
「「「す、すいませんでしたぁああああ!!」」」
そして、ヒグマ以外の部下の山賊達はシャンクス達に全力で頭を下げると、頭領を置いて足早に去っていき……
「あ、店主、これ扉の修理代です!」
「え、あ、はい。ありがとうございます」
「とんでもありません!! シャンクスさんも、失礼しやしたぁ!」
「お、おう、気をつけてな」
「ありがとうございます! それでは! お、おい野郎ども待ちやがれ!!」
ヒグマはマキノ……シャンクス達と親しい雰囲気の店主に扉の修理代を手渡した後、シャンクスに向き直り全力で頭を下げると、部下達と同じように去って行った。
「(あの山賊はどうでも良かったけど、ウタのおかげでシャンクスの左腕も守れたから、まぁいっか!)」
何気にシャンクスの左腕とついでになぜかヒグマの命が助けられた瞬間である。
ウタとイチャついてるだけで守れたのだから結果オーライであった。
シャンクスの精神的ダメージは大きかったが……
そんな山賊の一件もあった、その日の夜。
相変わらず常に一緒にいるルフィとウタはお風呂に入る時も寝る時も一緒である。
中身は大人だというのに羞恥心というのは二人には存在しなかった。
二人で一緒にいられるというのが何よりも嬉しく心地よく幸せであり、お互い羞恥心だとかの余計な気持ちは邪魔なのだ。
ルフィの場合、もとから羞恥心なんてものは無さそうだが。
「ルフィ、そういえば未来でウタワールドの中で会った時、左目の下に傷跡あったよね」
「あぁ、あれかぁ! ありゃぁ、ウタと離れ離れになった後にシャンクス達に子供じゃない証拠を見せてやろうと自分でナイフぶっ刺したんだ!」
「ちょ! なにやってんの!?」
ベッドに一緒に寝転がりながらウタはルフィの左目の下……前世で見た時にあった傷跡の部分をそっと撫でながら問うと、自分と離れた後にとんでもないことをしでかしているルフィに驚愕する。
そんなルフィの頬を優しくペチペチ叩きながらウタは怒る。
「もう! もっと大事にしなさいよ、自分の顔なんだから」
「にっしし! わりぃわりぃ! でも、あれもおれのトレードマークの一部みたいなもんだしなぁ」
「そんなトレードマークいらない! ルフィがキズついてるとこなんて見たくないよ……」
頬の傷然り、胸元にも大きな傷があったな、と思い出したウタはポスッとルフィの胸元に頭を置き悲痛な声を上げる。
「ん、ウタが悲しむならやらねぇ! 絶対だ!」
「うん、よろしい! そんなにあのキズ欲しかったら将来わたしがメイクでもしてつけてあげるから」
「ししし! そん時は頼むわ!!」
仲間を守る為に傷ついたり、エースを助けようとした時には胸元に大きな傷を残したルフィであったが、ウタの為にも極力傷つかない戦い方をしようとウタの頭を撫でながら考えた。
「(ギア
過去に戻ってきてから色々と試した結果……ルフィの一番のネックはその戦い方だった。
手足をポンプのようにして血流を加速させ身体能力を上げる【ギア
ゴムの能力を活かして戦うルフィの戦法は、とにかくルフィ自身の体への負担が大きいものばかりだ。
では、覇気主体の戦法を取ろうと考えはしたものの、未来で海賊王となった時に比べれば衰えはしたもののその強大な覇気は健在である。
今も鍛えてはいるものの身体だけは完全に幼少の頃に戻っているルフィは、その強大な覇気に身体が追い付いていないことを自覚していた。
「(とにかく身体鍛えてくしかねっか)」
とりあえず、今考えても埒が明かない為、身体作りをメインにやっていこうと決めたルフィ。
そんな時、ウタが顔を上げた。
「ふふ、ありがとうルフィ……」
「ん、どうした?」
「わたしの為に、いろいろ考えてくれてるでしょ」
「ど、どうしてわかったんだ!? 見聞色か!?」
「ううん、まだそこまではいけてない……でも、なんとなく雰囲気でルフィの考えてることが分かったの」
愛の力ってやつかな、とそこまでつぶやいたウタはルフィの顔近くまで頭を動かして、その瞳をじっと見つめる。
「ねぇ、ルフィ……でぃーぷ? キスって知ってる?」
「知らねぇ! なんだ? いつもやってる普通のキスとは違うんか?」
初めて聞いた単語に首を傾げるルフィに、ウタは微笑みながらそっと顔を近づけて教える。
「マキノさんから聞いたの……普通のキスとは違った、とっても特別なキス……したい?」
「おう! マキノからか! よく分かんねぇけど、ウタとならしたいぞ、おれ!」
マキノさん、まじでグッジョブ。あなたが神か。
「ふふ、じゃぁ、教えてあげるねルフィ……こうして……」
その後、お互い”舌を入れて絡ませあう”という普段しているキスとはまた違う、深く、甘いキスを長い時間たっぷりと行ったルフィとウタ。
そのあまりの気持ち良さにお互いハマってしまうのは、また別のお話である。
「(やばい、コレ……マキノさんがシャンクスの前ではしない方がいい、って言ってたけどハマっちゃう……)」
「(分かんねぇけど普段のやってるやつと全然ちげぇ! 身体がすげぇ熱くなるし、何よりウタとすんのが気持ちいい!)」
二人とも……シャンクスの前では絶対にソレはするな。死人が出るぞ。
ヒグマにエネル顔させてみたかった(遺言