じゅう
代々木フェスの結果として、優勝はSunny Passionに持っていかれた。
クーカーは特別賞を貰い、理事長判断の特例によって同好会としての活動が認められたらしい。
らしいというのはフェス以降に結女の方へ行けておらず、かのんから聞いたのである。
物事が順当に進んでいる様で何よりだが、俺は満席の店内を見回してため息を一つ。
無名のグループがあれだけのパフォーマンスをし、特別賞を持っていったのだ。
どこから情報が漏れているのかは知らないが、片割れの家が喫茶店を経営しているとなればこうなるだろう。
かのんも手伝うと言っていたが、余計な面倒が増えるだけなのでサボらず練習していろと言ってある。
母親からは一ヶ月もすれば落ち着くだろうと言われているし、ちょっとしたお小遣いもくれるというので頑張るのだが。
ようやく本日最後の客も捌け、店先の看板を片付けようとしたところ。
「あ! もう終わってる……」
「ごめん、メイ。私の用事に付き合ってもらったから……」
「いや、気にすんな。また明日こよう」
そんな声が聞こえ、顔を上げれば。
何時ぞやの赤髪と青髪の子が。
「ねえ」
「あ? なんかよう……ですか」
思わず声をかけてしまったが、さてどうしよう。
ってか、誰が声をかけても最初はヤンキームーブなのね。
声をかけてきたのが店の店員だと分かると、ヤバイって顔しながら敬語に軌道修正していたけど。
「私たちに何か用?」
「あ、ごめんごめん。ちょっとだけ、待っていてもらってもいい?」
声をかけて何も言わない俺に訝しんだ目を向けているが、首を縦に振ってくれたので待っていてくれる様だ。
看板を一度その場に置き、店のドアを開けて母親へと声をかける。
「もう二人ほど、案内してもいい?」
「いいけど……お母さん、奥に引きこもった方がいいかしら?」
「どっちでもいいよ」
変な勘ぐりをしてニヤニヤとした笑みを浮かべ始めた母親を流し、外に待たせている二人の元へ。
「食べ物は殆どなくて、飲み物しか出せないけどそれでもいいならどうぞ」
「あ、ありがとう」
「……てんきゅ」
「カウンターでもテーブルでも、お好きなとこに」
二人を店内へと招き、腰掛けている間に看板をしまって定位置へと置いておく。
母親はどうやら数秒に満たない時間で奥へ引きこもった様で、俺がコーヒーを淹れなければならなくなった。
こんなことなら居て欲しいと言っておけば、淹れる手間はかからなかったのに。
「頼むもの決まったら、声かけて」
二人はテーブル席へ対面で腰掛け、仲良くメニューを見ていた。
お冷やを出して一言かけ、残っている材料を確認していく。
ある程度片付けられてしまったが、二人分ならなんとかなんとかなる。
「な、なあ。ファミレスと違ってこういうとこってどうやって呼べばいいんだ?」
「私も初めてきたから分からない。でも、普通に呼べばいいと思う」
「うんうん、すみませんでもお願いしますでも、声掛けてくれたらいいよ」
「ゔぇっ!?」
「これは迂闊。私たちしかいないから、話が筒抜け」
「聞いちゃってごめんね。それで、何にする?」
「私は、これ。四季は……これ」
「了解。ちょっとだけ待っててね」
受けた注文はラテアートとコーヒー。
絵柄について何も言われていないが、ネコでいいか。
「質問、いい?」
「ん? どうかした?」
「もう店は終わりなのに、私たちを入れてくれた理由を教えて欲しい」
あれ、あまり多く語らないってのは記憶違いだったかな……。
ここまで深く来るとは思っていなかった。
「そんな大した事じゃないよ? 君たちの通う中学に俺も去年まで居てね。可愛い後輩の為だよ」
「か、かわいい!?」
「メイ、メイは確かに可愛いけれど、今のはそういう意味じゃない」
「私なんか可愛くねぇよ」
「ううん。可愛い」
二人のやり取りにほっこりしつつ、頼まれたものが出来上がったので残り物のケーキと一緒に運んでいく。
「はい、ラテアートにコーヒー。それと残り物で悪いけどおまけ」
「あ、ありがとうございます」
「てんきゅ。……あと、さっきの質問の続き。私とメイにはあなたと会った覚えがない。そもそも、本当に同じ中学の先輩なのかさえ怪しい」
「ちょっ、四季!」
「いや、その子の警戒は割とマトモだよ。時と場所をもっと選ぶべきだろうけど」
無害である事をアピールするため、両手を挙げてヒラヒラとさせる。
「一応、自己紹介しておこうか。澁谷優、高校一年生。ここの家の子で、代々木フェスに出ていたクーカーの片割れである澁谷かのんの弟。あの時、ペンライト渡したの俺だけど、暗かったからよく見えてなかったかな?」
簡潔にした自己紹介であるが、メイちゃんは俺が『澁谷かのんの弟』である部分しか聞いていないな、というのが表情から分かった。
四季ちゃんはただ一言『知ってた』と。
……だからほぼ初対面なのに無警戒なフリして深く聞いてきたのね。