中庭らしき場所のベンチへと移動し、少し離れて腰掛けたはいいものの、なかなか話し始めようとしない。
この様子じゃ千砂都に会うのは無理そうだなと思いながら、ボーッと目の前にある景色を眺める。
「……葉月恋と言います。今回はお時間をいただき、ありがとうございます」
「いえいえ。あ、自分は澁谷優です。澁谷かのんの弟やってます」
「……双子、なのですか?」
「いえ、違いますよ。かのんが五月、自分が三月生まれなだけで、後少しずれてたら普通に一つ下です」
「そうなのですか」
ちょっとした会話だが、少しだけ肩の力が抜けたように見える。
敵意を持ってるのは変わらずだが。
「澁谷さんの方から、スクールアイドル活動を辞めていただくよう言っていただけないでしょうか」
「何故?」
「それは……この学校の品位にそぐわないからです」
「んー……でも、何かの大会で結果を残せば認める、残せなければ解散って条件で、彼女たちは結果を残したわけだけど」
「……そう、なのですけれど」
「あまり他所様の学校にとやかく言うのは申し訳ないんだけど、結女は廃校した学校を再利用した新設校。そんなものより、存続出来るかどうかじゃない?」
「で、出来ます!」
睨みつけながらそう口にする葉月さんだが、『不安です』といった感情が隠しきれていない。
「一年生だけで入賞も難しい中、結果を残したスクールアイドルは良い話題になると思うけど?」
「ですが、スクールアイドルは……」
「葉月さんがそこまで意識しているのは、個人的な理由からに見えるけど。それと何か焦って視野が狭まってない? 適度に肩の力を抜いていく事が大事だとアドバイスしておくよ」
「……ふふっ。私たち、同い年ではありませんか」
最後には少し笑ってくれたし、バッドコミュニケーションじゃなかったようで良かった。
これで多少はスクールアイドルに対する当たりも弱まってくれたらな、と思う。
「それじゃ、また」
少なくとも俺に抱く印象は良いものなのではないだろうか。
去り際に手を振れば小さく振り替えしてくれる関係性は出来上がったし、かのんたちと葉月さんの潤滑油になれると信じよう。
夜、ここ最近のことでは珍しく部屋にかのんがやってこなかったので、朝までぐっすりであったのだが。
放課後、いつものように授業を終えて結女へと向かえば、練習場所である屋上にてかのんと可可に詰め寄られていた。
側には腕を組んで昨日よりも好感度の下がった目で見てくる平安名さんと、苦笑いをしている千砂都の姿が。
「それで、どういうこと?」
「どういうことなのデス!」
「な、何が……?」
「これ!」
そう言ってかのんが差し出したスマホの画面には、昨日中庭にて俺と葉月さんが話をしていた写真が映し出されていた。
しかも葉月さんが笑みを浮かべたところ、手を振りかえしてくれているところと二枚ある。
「いつのまに葉月さんと仲良くなってるの? もしかして始めからスパイとして……」
「チサトに会いにいくと言って、本当はカノジョに会いに行っていたデスか!」
「説明だるぅ…………」
その後、時間がもったいないからと基礎トレをしている四人に向かって写真の説明をし、納得してくれたはいいが……精神的な疲れがツラい。
余計な手間をかけさせてくれたお礼として千砂都の目の前で紙風船を潰し、少しスッキリできたのは良かった。