「それで、俺の指導に説得力はあったかな?」
「……ま、認めてあげるわ」
「何を上から目線で言ってるデス」
「あんたは私以上にヘロヘロじゃない」
日も傾き、最後にまたランニングをして終了となった。
部活をしていた頃と比べ、随分と落ちた体力の中でよく最後までいけたなと、自分でも思いながら平安名に声をかければ。
顔を逸らし、精一杯の強がりが返ってきた。
その側で地面に横たわっている可可が突っかかっているが、誰が見ても体力的には平安名が上である。
元々、俺が皆にしていた練習は中学の時に部活の顧問がやっていたものであったり、雑談で聞いた流行りのトレーニングだったりを試しながらやっていた。
後は動画だったり、本屋で立ち読みしたのだったりと、効果について怪しかったりするが……これはナイショの話だ。
前の知識的には正しいから、きっと大丈夫なはず。
「それじゃ、今後も頑張っていこうね」
「…………程々でいいわよ?」
「…………それに関しては可可も同意デス」
「いやー、楽しみだなぁ。何しよっか」
今日は無駄に疲れたのだ。
これくらいの仕返しは良いだろう。
そういえばかのんはと周りを見回せば、サニパさんたちと何やら話していた。
かと思えばこちらを向き、やってくる。
「優、今からピアノ弾ける?」
「え……シャワー浴びてご飯食べてゴロゴロしたいんだけど」
「よし、今から弾いて──」
「いや無理。こんな汚い状態で座れないよ」
「あ、それもそっか……。なら、シャワー浴びた後でよろしく!」
「えぇ……」
何の説明もないまま突き進んでいくのは昔から変わらずだが、毎度置いてきぼりをくらうこちらの身にもなって欲しい。
なんてことを思っていたら、近くに来ていたサニパさんが苦笑いをしながら説明してくれた。
先程の雑談で俺が中学の時にやっていた部活や、小さい頃にやっていた習い事、バイオリンやピアノについて話したらしく。
ピアノならあると柊さんが零したところ、かのんが是非聞いてください、といった具合だと。
それで俺の話も聞かず、ピアノを弾いてと言ってきたのか。
色々とあるが、取り敢えずかのんは俺の事について話しすぎでは?
過去のことだしあまり問題ない内容だが、秘密を話せば数日後には周りに広がっているとかあり得そうで怖い。
「ごめんね。無理にとは言わないから」
「いえ、お二人は悪くないです。全部あの考えなしな姉のせいですから」
結果的に見ればの話だが、かのんの行動は俺を動かすのに成功している。
ある意味で信頼している、と言っていいかもしれない。
「さっきかのんにも言いましたけど、シャワー浴びてからでもいいのなら」
「それなら大丈夫よ。女子も全員汗を流したいだろうから、ね」
そんなこんなでシャワーを浴びた後にもまた、外へ出なくてはいけなくなってしまった。
と思っていたが、泊まっている場所に置いてあるらしく、わざわざ移動しなくても済むそうで。
それならと露天風呂にて景色を堪能しつつ、ノンビリと上がれば。
女性陣は全員揃っており、風呂上がりのケアも殆ど終えていた。
「みんな早いね」
「いや、優が長いだけだと思うけど」
「せっかくの露天風呂なんだし、ノンビリしなきゃ勿体無いって」
早くしろとの視線を感じるが、風呂上がりの柔軟をしっかりと行っていく。
今日、久しぶりに身体を動かしたから明日が怖い。
「ユウさん、可可より身体柔らかいデスね」
「継続は力なり」
「運動も出来ましたデス」
「随分と衰えたけどね」
「ピアノも弾けるデス」
「あ、うん。小さい頃に習ってたから」
「……可可よりスクールアイドル向いてマス? 化粧すればもしかしたら」
「いや、無理でしょ。ピアノ弾けるの関係ないし、歌はあまり得意じゃないからね」
「へえ、そうなの。ちょっと歌ってみなさいよ」
俺の弱みを見つけたとばかりに、ずっと話を聞いていた平安名が会話へ入ってきた。
いつもならすぐに平安名へと突っかかる可可だが、運動できない同盟を裏切られたからか歌が得意でないという事に興味津々らしい。
いや、そもそも同盟を組んだ覚えはないのだが……。
「今日の予約はピアノで埋まっているので。次のご予約は来年になります」
「それなら来年予約するデス!」
「え……まあいいけど、可可で覚えておいてね」
「任せてくだサイ!」
何か流れで変な約束しちゃった気がするけど、まあ来年には覚えていないよな。
柔軟を終え、移動した部屋の先には見事なグランドピアノが。
……いや、なんでこんな立派なものが。
「高いやつ触るの怖いんだけど……」
「意外と小心者なのね」
「いやこれ、中古でも八十万越すし、新品なら二百万三百万よ?」
「…………へ、へぇ、そうなの」
「値段聞いてビビってるデス」
「そりゃビビるったらビビるわよ」
サニパのお二人に気にするなと言われたが、気にするわ……。
ここまできてやっぱヤダと言うのもなんなので恐る恐るイスに腰掛け、高さを調整する。
鍵盤に指をのせ、感覚を馴染ませるため軽く音を出していく。
うーん……やっぱり高いだけあっていいなぁ。
今使っているのも悪くは無いが……。
金銭的、防音的にも厳しいので無理なんだけど、やっぱり少し憧れてしまう。
そんな大層な場での披露ってわけでも無いし、そこそこ感覚は掴めたとこで指を止める。
「…………ぁ」
さて、何を弾けばいいものか。
誰もが知るクラシックとかでもいいが、それじゃ何だかつまらない。
かといって他にみんなが知っていて面白くなるような曲……ああ、一つだけあるじゃん。