夜、自室でネットしながらノンビリしていれば、控えめなノックの音が聞こえてきた。
残念なことに俺の返事を待たずしてドアを開けて入ってきたため、ノックの意味は無いのだが。
「優、ちょっといい?」
「……いいよ。どうした?」
どうしたものかと思ったが、悩んでいる様子のかのんを見て、取り敢えず話を聞くことに。
お仕置きなど後でいくらでもできる。
「…………」
「…………」
「…………」
だがいくら待っても話そうとせず、持ってきていたギターを弄っている。
急かしたところで話さないだろうし、かのんを放ってネットサーフィンを始めようと背を向けたところで。
「……私の歌、どう?」
「どう、ってまた曖昧な。……普通に上手いと思うけど」
「でも人前で歌えなきゃ意味ないよね……」
話し始めたかと思えば、勝手に落ち込み始めたかのんはどうしたのだろう。
いや、落ち込む原因とかは分かるけども。
「実はさ、スクールアイドル? ってのに誘われて」
「へー」
「へーって、それだけ?」
「逆に聞くけど俺に何を求めてる?」
「そこは凄いねとか、やるの? って聞くところじゃなくて?」
「んじゃ聞くけど、やるの?」
「それを迷ってて、優に話聞いてもらおうと思って」
面倒くさい奴め……。
もしいま、目の前にちゃぶ台があったのなら思いっきりひっくり返しているところだ。
「やるか悩んでるのって結局、人前で歌えるか不安なんでしょ?」
「…………うっ」
「それにどんな事をやるのかも分かってない様子だし、やるやらないは置いといてマネージャーみたいにお手伝いとして近くで見てみれば?」
「お手伝い……そっか、やるやらないの二択ってわけでもないもんね」
一応、悩み事は解決できたのか、部屋に入ってきた時よりも明るい表情をしている。
もう用はないはずだし部屋に戻るだろうと思っていたが何故かノートをテーブルに広げギターを弄り始めた。
「かのん、自分の部屋でやってよ」
「別にいいじゃん。あ、昔みたいに優も一緒にどう?」
「暫く弾いてないから無理」
「そう言う割にはホコリ被っていないようだけど?」
いたずらっ子が浮かべるような笑みを浮かべながら、バイオリンの入ったケースと簡易ピアノを指差す。
一時期レッスンに通っていたが、コンクールに出る出ないの話が出始めたところで辞めた名残のようなもの。
今でも半ば癖で手入れはしているし、たまに弾いたりもするが。
「かのんの部屋と違って綺麗にしてるからね」
「わ、私の部屋も綺麗だもん!」
今でこそ自分の部屋を綺麗に出来ているかのんであるが、少し前までは掃除をする時に俺が手を貸していた。
少し顔を赤くしながら反論するかのんだが、それは本人がキチンと分かっている証拠である。
「少しだけな」
「うん! 少しだけ!」
少しだけという話だったが。
気がつけば明け方で、高校生活二日目にして俺は授業で爆睡するのであった。