一等星の煌めきを   作:不思議ちゃん

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Wish Song
にじゅう


 神津島から帰って二日ほど休みを挟んだ後、再び練習漬けの日々が始まった。

 目指す目標は高く、運動部といって差し支えないほどの熱量である。

 

 だが年々暑くなる夏の季節。

 昼過ぎに運動するのは拷問に近く、熱中症にもなりやすいため限界まで頑張るのは効率が悪い。

 

 午前の暑くないうちにランニングやステップ、午後の気温が高い時は室内や日陰で筋トレ、休憩。

 日差しが弱くなってきたらまたランニングやステップといったメニューを千砂都と考えている。

 

 学生は皆、夏休みという長期休暇に入ったわけだが。

 世間はそういったわけにもいかず、なんなら店によっては普段とは違う客層が来る。

 

 家の喫茶店もその例に漏れず、普段より若い客層で賑わっており、再び俺が駆り出されているわけだ。

 

 何もしないけど外の暑い外気に晒されるか。

 働くけれど冷房の効いた室内にいるか。

 ……冷房の効いた部屋でゴロゴロするのが本当は一番だなぁ。

 

 とはいえ中学、なんなら小学生の頃から簡単な手伝いはしてきたのだ。

 働くといってもそれほど難しい事じゃない。

 

「お、いらっしゃい」

 

 日も傾き、店内もまばらになってきた頃。

 メイと四季がやってきた。

 

 テーブル席に通して注文を聞き、それらの準備をして運ぶ。

 他の客と変わらぬ、いたって普通の対応だが。

 違う点があるとすればエプロンを脱ぎ、自分の分の飲み物も一緒に運んで席に座る事ぐらいだろうか。

 当然、母親からは許可を貰っている。

 

「それじゃ、今回はお待ちかねである神津島の時の」

「ありがとうございます!」

「てんきゅ」

 

 ただ単にフォルダ分けしただけの出来であるが、二人が求めているのは日常の様子であるため、凝って作らなくていい分とても楽。

 スライドさせては目を輝かせて喜んでくれる姿にこちらも嬉しく思う。

 

 今回は平安名に千砂都と新たな面子に加え、サニパという有名グループまであるため、メイはキャパオーバーなのか女の子がしてはいけない表情をし始めている。

 四季も写真を楽しみつつ、そんなメイの様子を隠し撮りしていた。

 

「後で頂戴」

「オーケー」

「ん? 二人して何の話だ?」

「おかわりが欲しかったら言って頂戴って話。もちろんメイも」

「いや、流石にそこまでは悪いって。いつも受け取らねーし」

「先輩なんだから後輩にいい顔させてよ」

「そのうち、何かでお返しする」

「その時を楽しみにしてるよ」

 

 厚意を当たり前と思われたら終わりだけれど、二人とも良い子だし。

 来年、結女に来てスクールアイドルやってくれればお返しとしては十分である。

 

 

 

 メイから連絡が来て知った事だが、神津島での村起こしイベントはネットでの配信もしていたようで。

 ライブが終わった直後にも誤字だらけの感想が送られてきた。

 

 すぐに送信取り消しされたが、そうなる前にスクショを撮ることが出来たので四季に送ってある。

 

 ライブの映像データは頂いているし、自分でもステージ全体が映ったパフォーマンスを撮ってある。

 それらも見せてあげれば、一人一人の良さや好きな振り付けをオタク特有の早口で語ってゆく。

 

 少しして落ち着き、先ほど語っていた自身を思い返して恥ずかしがっている。

 

「その、ごめん」

「謝る事なんてないよ。時と場所、相手は選ぶかもしれないけれど、少なくとも今この場にいる二人に対して遠慮は無用だよ」

「うん。好きなものを語っている時のメイはとても可愛い」

「バッ……!」

 

 恥ずかしさが限界を越えたのか、顔を手で覆ってしまった。

 けれど隠しきれていない耳は髪と同じく真っ赤となっている。

 

「そういえば先輩」

「ん?」

 

 そんなメイを優しい笑みを浮かべながら見ていた四季だが、徐にこちらへと向く。

 

「先輩はピアノ、弾ける?」

「自分が楽しむ程度には弾けるけど……急にどうした」

「これ」

 

 あまりに脈絡のない質問であったが、どうしたのだろう。

 はい、と手渡されたスマホを受け取り見てみれば、誰かがピアノを弾いている動画が流れて──いや、これ俺やん。

 

「あ、やっぱり先輩だったんだ。でもその様子だと知らなかった?」

「知らなかったけど、心当たりならありすぎる。ってか四季はよく俺だって分かったね」

「画面の端に映ってるタオル。可可さんのだと思って、そこから」

「ああ……なるほど」

 

 思わずストーカーかよと口にしてしまいそうだったが、練習風景の写真によく映ってるしそれほど不思議でもないか。

 

「もうピアノは辞めちゃったのか?」

「元々プロになろうとは思ってなくて、自分が好きに弾けるようなれたら十分だったし」

「そうなのか」

 

 照れから落ち着いたらしいメイだが、今度は少しだけ寂しそうに見える。

 メイもピアノをやっていたはずだし、何か勘違いとかしてないといいけど。

 

「教えてくれてありがとね」

 

 店の外まで見送った際、最後にメイから『あまり皆さんを虐めないであげて』と言われたが、俺はそんな悪い顔をしていたのだろうか。

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