夏休みが明けて数日。
九月に入ったというのに夏の暑さは衰えることなどなく、蝉の鳴き声もまだ聞こえてくる。
今日も今日とて慣れ親しんだ道を歩き、練習場所へと迎えば。
「……どしたの?」
そこには難しい顔をしながらストレッチをしているかのんの姿が。
俺が来たことにも気付かないくらい、何かを考えているようだが……。
「実はデスね」
可可の説明によると近々生徒会選挙が行われるらしく、普通科の子たちから立候補しないかと言われたらしい。
平安名がどこからか取り出したタスキをかけ、なにか言っているが可可に一蹴されている。
「かのん」
「あ、優」
「そんなボーッとしてたら怪我するよ」
「うん、そうだよね……」
人に甘いというか、困ってる人を見逃せない性格。
そういったところは良くもあるが、もう少し自分本位になってもいいと思う。
ワガママが俺に向くのだけはやめて欲しいが。
「今の自分の優先順位、もう一度しっかり考えてみな」
どちらが生徒会長になるにせよ、俺がなすべきことに変わりはないのだから。
生徒会選挙が終わるとすぐに文化祭が控えている。
今年度創設されたばかりの学校であるため、スケジュールが過密なのだ。
「だからってまた俺の部屋……」
「いいじゃん。自分の部屋よりもいいアイデアが浮かぶ気がするんだよね」
なので文化祭で披露する曲作りのため、かのんが俺の部屋へとやってくる。
「ねえ、優」
「なに?」
「葉月さんの事なんだけど」
かのんが話し始めたのは学校での彼女の様子であった。
クーカー結成当初はお小言のようなものを会うたびに言われていたらしいが、ある日を境にそれは無くなったこと。
だからといって認めてもらったというわけではなく、睨むとまではいかなくとも快く思っていない目で見られること。
「どうしてスクールアイドルに対してここまで否定的なのか、それは分からないんだけど……でも、学校のことを思っている気持ちはなんとなく伝わるんだ」
噂だと、来年の入学希望者が足りてないとか。
そう口にしたかのんはよく分からない表情をしていた。
「だから生徒会長は葉月さんになってもらった方がいいのかなって」
「かのんがそう思うのならそれでいいと思うよ」
「む、人が真剣に悩んでるのに軽い返事」
「なら俺がそれらしい理由を並べて、かのんが生徒会長になった方がいいと言えば、なるの?」
「うーん……もしかしたらなるかも?」
「ならそれは俺の意のままに操られる人形で、そこにかのんの意志は無くなっちゃう。それじゃ意味無いんだよ」
「んん?」
「そんな難しく考えなくていいよ。本当に必要だと思ったら相談に乗るし、アドバイスもするから」
面倒じゃなければね、と最後に付け加えれば。
クスッと肩の力が抜けた笑みが返ってきた。
「優は葉月さんがスクールアイドルに否定的な理由、分かる?」
「まだ推測でしか無いけど」
「なら後のことは優に任せておけばいっか」
「いや、なんで?」
「何とかしてくれそうだから」
「姉弟ならではの謎の信頼感」
クーカーの時。
平安名のスカウトの時。
千砂都を迎えに行った時。
全部、かのんの行動によって出来た事である。
多少なり俺のアドバイスがあるのかもしれないが、神津島の時に至っては聖澤さんの功績がデカい。
「まあ、やれる事があればやってみるよ」
無駄に学生間で軋轢を作る必要は無いものね。