「こんにちは」
「はわっ!? な、なんですの?」
「いや、体調でも悪いのかなと」
「別にそんなんじゃないですの」
「それなら一先ずは安心だ。何か悩み事?」
「ぐ、ぐいぐい来ますわね……」
イスの端っこに腰掛ければ、なんだコイツみたいな顔して見られた。
そりゃそうなるか。
「一応、スタッフとしてここにいるからね。悩み事なら知らない人の方が案外話せたりするかもよ?」
「……いや、話さないですの」
「別に無理にとは言わないよ。……あ、さっきのステージ観てくれたりした?」
「諦めて帰ったりしないんですのね。……まあ、観ましたの」
「そしたらそれが原因だと。自分が何をしたいのか、どうありたいのか……みたいな悩みかな?」
「エスパーですの?」
「ただの勘。でも答えは教えてくれたね」
俺の雑な推理に素直なあたり、ピュアだな。
なんだかんだで話に乗ってくれるのは彼女の優しさか、それとも吐き出し口が欲しかったのか。
しばらく互いに黙っている時間が続き。
その間にかのんから今どこにいるのかと連絡が来ていたが、電源を落として見なかったことにした。
「…… 将来なりたい夢を見つけて、でもその才能が無かったらどうしますの?」
「うーん……まず、才能ってのが気に入らないかな」
「どういう事ですの?」
「例えば、運動音痴の男の子がプロのサッカー選手になりたいと口にした。その夢は叶うと思う?」
「それは無理ですの」
「そう、誰もが君と同じ言葉を口にする。でも、プロのサッカー選手になれないのは才能がないからじゃないんだよ」
少しだけ、身体がこちらを向いた。
俺の話すことに興味を示してくれたようで、続きを話すよう目で訴えかけてくる。
「確かに才能は必要だけれど、それは努力する才能、続ける才能。これらが一番大事だと思う。例えどれだけ上手かったとしても、練習しなければ衰えるだけ」
「でもそれじゃどれだけ時間が掛かるか分かりませんの。それに本当にその夢が叶うのかどうかも」
「自分がなりたいものを疑ったら、そこで終わり。馬鹿みたいに目指すべき場所しか見えてない人だけが勝つんだと、俺は思ってる」
そこまでしたとしても、叶えられるのは一握り。
とは口にしなかった。
「…………酷い根性論ですの」
「夢を叶えるってそういうもんさ」
「それなら私は、ただ自分に甘かっただけですのね」
そうポツリと漏らす少女の目はどこか寂しそうで、空虚であった。
それは鏡に映る自身の目にそっくりだ。
少しだけ違う点があるとすれば。
彼女の目の中にはとても小さな瞬きだが、星が煌めかんとしている事だろうか。
「やりたい事って身近に落ちているというか、些細な事から見つかったりするものよ。たとえば知り合い程度の仲である人からの言葉であったりとか」
「それがあなたとでも言うんですの?」
「あはは。それを決めるのは自分自身だよ。そうかもしれないし、違うかもしれない。……これ、君が将来する事に役立つと思うから気が向いたらやってみて」
渡された紙を見て、顔を顰めながら俺を見てくる。
ただ、自身ではまだ気付いていないだろうけど、キッカケをくれたと感謝の念が見えた。
もしかしたら俺の思い込みによる勘違いかもしれないが、来年になれば分かるだろう。
「それじゃ、俺は予定があるからここらへんで。また機会があればよろしく」
去り際、とても小さな声で『ありがとうですの』と聞こえたような。
振り返り見れば顔をそっぽに向けた姿しか見えなかったが、髪から覗く耳が真っ赤であった。
素直な子と、そうじゃない子と。
反応が面白くて可愛いなぁと思いながら部室へと向かえば。
「一体どこで道草食ってたのかなぁ?」
何故か少し怒っている五人が出迎えてくれた。
自分で言うのもあれですが、割と独特な改行をしているのかなと思います。
間違えているわけではないです。