あの日以降、平安名は練習へと参加しなくなり一週間が経った。
練習中の雰囲気もどことなく濁っているようで、集中も出来ていない。
加えてラブライブの地方予選も一ヶ月後と意識し始め、ストレスやらなんやらも溜まっていそうである。
「すみれちゃん、今日も練習に来ないのかな」
「学校には来ているんだけどね……」
「本人にやる気が無かったら、居ても意味ないけどね」
「優! 言い方!」
この間、自分だけ早上がりした時に自主練をしている姿を見ているため、技量的に落ちていることはないだろう。
まあ披露する時は個人ではなく団体なので、来なくていいというわけではないが。
「小さい頃からずっと一番になれなかったという劣等感が深く根付いているから、それをどうにかしないとだね」
「すみれさんのレベルは全てにおいて非常に高いものなのですが……」
「歌ならかのん、ダンスは千砂都。優雅さで恋。想いだと可可。どれも二番手になる。……だからといっていなくていい存在じゃ無いけどね」
「それはそうだよ! すみれちゃんの実力はすごいんだから! クゥクゥちゃんもそう思うよね!」
「……エッ、あ、ハイデス! その通りだと思いマス! あっ、スミマセン! 少し電話してきマス!」
最近、一人考え込んでいる姿が目立つようになった可可。
当然のことだけどかのんたちにも悩み事があるのはバレているが、タイミング的に平安名のことだと勘違いしてくれている。
電話をするため席を外す可可を見送り、みんなの視線は俺へと集まる。
いや、そんな目で見られても……。
「……すぐにどうにかなる問題でも無いから。タイミングが合うのなら今日にでも解決するよ」
「優君を疑っているわけじゃ無いんだけどね」
「ちゃんと逆算してギリギリまで見るつもりだよ。あまり荒療治な事はしたくないから」
上手くいくか、余計拗れるかの賭けなんてそうそう出来ない。
下手な事して拗れたら寝込んでしまう。
色々と細かな部分の変化が見えてきているが、大まかな流れはそのままであるため、たぶんそろそろだと思うんだけど。
「スミマセン! 練習を始めまショウ!」
電話を終えた可可が戻ってきた事で話も終わり、取り敢えず練習を始めることに。
とはいったものの。
一通りこなして見た感じ、このまま練習というよりは一度、気分転換に何かさせた方が良いような気もする。
悪くならないようにはやっているが、伸びているかと聞かれたらそうでもない。
今のまま続けていたらそのうち変な癖がついたり、ケガをしそうだ。
休憩が終わり、再び練習を始めようとするみんなに声をかけようとしたところで。
屋上のドアが開き、平安名が入ってきた。
今日も来ないと思っていたみんなは反応できずにいるため、何時もと変わらぬよう手を振りながら声をかける。
「や、練習始まっているよ」
「…………ええ、遅くなったわね」
これまでを謝る事はなく、すました返事だが申し訳なさそうな表情が透けて見えるため、正座で許してやろう。
かのんたちは来てくれた喜びが勝るのか、特に気にしていないようで。
「まったく、センターなのですからもっとしっかりとしてくだサイ」
「センター……?」
「何を寝ぼけたコトを。アナタのことに決まっていマス」
「そうだよ! センターはすみれちゃんなんだから!」
センターという言葉に、俯いた平安名の顔が曇った。
その事に気づいていないかのんたちは近づこうと一歩踏み出そうとし、顔を上げた平安名の表情を見て動きを止める。
「なんで?」
「……え?」
「どれだけ頑張っても一番になれないから? 私が可哀想だから?」
「そ、そんなんじゃ」
「じゃあ何だって言うのよっ!」
屋上に響く、感情をあらわにした声。
これまで本心で話をしてこなかった、と言うわけではない。
殻のない、剥き出しのままである言葉は今回が初めてであり、かのんたちは一歩踏みとどまってしまう。
「同情なんかではありまセン!」
そんな中、負けじと言い返すのが一人。
これまで本気でラブライブと向き合ってきたからこそ、譲れないという想いを込めて。
「可可は同情でセンターを認めたりなんかしまセン! 衣装だって! アナタが相応しいと思ったから作ったのデス!」
「…………あの衣装、返すわ。それでも私をセンターに立たせるっていうなら、スクールアイドル辞める」
「な、ナニを言っているデスか!」
「そうです!」
「辞めるなんてなんで!」
人の機微に聡い千砂都は何か違和感でも覚えたのか、俺の方を見てくる。
この間の『無理』という発言と、今の『辞める』が結び付かなかったのだろう。
真っ直ぐに見返し、任せておいてという意味を込めて頷けば、上手く伝わったようで静観してくれるようだ。
「アナタのスクールアイドルへの想い! そんなものでは無いはずデス! ラブライブで輝きを! 光を手に入れるのではないのデスか!」
「あんたは勝たなきゃいけないんでしょっ!?」
「ッ!?」
「……絶対に、負けられないんじゃないの?」
いつも負けん気が強く、すました平安名が大粒の涙をこぼしながら泣いている。
それを見た可可は思わずたじろぐが、すぐに平安名のセリフの意図する事に気がつき目を見開く。
「まさか、さっきの……」
「あっ、すみれちゃん!」
可可が電話を盗み聞きしていたのか、それを尋ねようとする前に平安名は屋上から走り去ってしまった。
liella3rd千葉、両日参加してきました。
とても良かったです。