「私、スクールアイドルやってみる事にした」
「へー」
「反応薄くない?」
「やるもんだと思ってたし」
あれから一週間と経たず、そう口にした。
高校は帰宅部でいいかと決め、部屋でゴロゴロしながらマンガを読んでいたら、ノックもなしに部屋へと入ってきたかのん。
吹っ切れたような、すっきりとした表情をしているかと思えばこれだ。
一応、千砂都に文を送れば、『練習メニューと振り付け担当になりました! ブイッ!』といった返事とマルスタンプが。
文からだけでも楽しそうにしているのが伝わってくる。
「千砂都が見てくれるのか。まあ楽しんで」
「うん。……それでなんだけど、優も手伝ってくれないかなって」
「俺?」
「うん」
「何も出来ることないと思うけど」
出来ることといえば歌関連だが、それはもうかのんで埋まっている。
「取り敢えず! 明日は学校終わったら結女に来てね!」
何の目的があるんだろうと考えていたら、言いたいことだけ口にして部屋を出て行ってしまった。
相変わらず本能の赴くままに動いているような気がするが、かのんは分かっているのだろうか。
俺は男であり、かのんの通う結女は女子校であるということを。
☆☆☆
「何してるんだろうなぁ……」
行かなかったら行かなかったで後が面倒なので学校付近に来たまではいいが、やはり怖気付くというかなんというか。
加えて周りの女子比率が高くなった事による、女性特有の空間みたいなとこに入った異物として居心地が悪い。
やっぱり行かない、そう文をかのんに送ろうとしたところで手首を誰かに掴まれた。
「あ、すみません姉のお使いでここにいるだけで決して不審者では──」
「何変なこと言ってるの?」
「……………………」
「あいたっ!」
聞き慣れた声がしたので落ち着いて横を見れば、練習着に着替えたかのんの姿がそこにあった。
勘違いさせたというのに暢気なかのんの頭を軽く叩く。
警備員か警察かと思ったじゃないか。
「んで、どーするの?」
「どーするって?」
「ここ、女子校。俺、男」
「そんなの簡単だよ。優が女装すれば──」
「帰る」
「待って待って! 冗談だってば!」
着替えた自身の制服をわざわざここまで持ってきていて冗談、ねえ。
体格は似通っているかもしれないが、背丈的には俺の方がデカいの知ってるはずなのに。
いや、背丈関係なく着ないが。
「はい、これ」
「何これ」
「昼間に理事長から許可もらってあるから。校内にいても大丈夫な許可証」
「一応、そこらの準備はしてるんだ」
受け取った許可証を首から下げ、かのんに続いて校内へと入っていく。
やっぱり目立つため女子生徒からの視線を集めてしまう。
許可証と、ちかくにかのんが居なければ逃げ出してただろうな。
「クゥクゥちゃん、ちぃちゃん。お待たせ」
「そちらの方がカノンの言っていた、助っ人デスか?」
「いえ、違います」
「そうなのデスか」
「いやいやいやいや、違わないよ!」
「あはは、優くんはどこに行っても変わらずだね」
つい反射的に答えてしまったが、この人なかなかに面白いな。
「俺、来てって言われたから来ただけで、まだ何もやるなんて言ってないし、聞かされてもないもん」
「そ、それはそうだけど」
「カノン、無理強いはいけまセンよ。こういう時はキチンとお願いしないとデス!」
「俺、澁谷優。一応、かのんの弟って事になってます」
「あ、これはご丁寧に。唐可可デス!」
「自己紹介も済んだところで俺の用は終わったと」
「はーい、これ以上は優くんの好きにさせないよ!」
マルが絡むとポンコツになるが、意外と優秀な千砂都のせいで離脱叶わず。
とでも思ったか。
俺が逃げるのを阻止してドヤってるその表情、崩して見せよう。
「千砂都、これなーんだ」
「なに、それ?」
「これをこうして、ふっと息を入れると」
「マルだー!」
なんて事はない、膨らませる前はポケットにだって入るただの紙風船。
息を入れて膨らませ、丸を作って千砂都の目の前に持っていき。
「あぎゃっー!?」
ぺっしゃんこに潰せばご覧の通り、千砂都の打ちひしがれた姿を簡単にみることができます。
「マルが……綺麗なマルがぺっしゃんこ……あれ、これはこれで綺麗なマルだ」
こいつ、球でも円でもお構いなしか……。
「ちょっと優! 何してるの!」
「そうだよ優くん! 綺麗な丸だったのに!」
「……ごめん、ちぃちゃん。話が進まないからそれはまた後で、ね?」
「これは大事なことなんだよ、かのんちゃん!」
「え、えぇ……」
かのんが千砂都を宥めるのに十分ほど待つ事になり、ようやく俺を呼んだ説明が始まるのであった。