本日の練習を終え、かのんに寄るところがあるからと先に帰ってもらい。
千砂都に指定された場所──このあいだかのんと話をしたはがりの公園へと来ていた。
「ここ、小さい頃はよく一緒に遊んだよね」
「もうはしゃぐ歳でもないからね」
とか言いつつ、俺はまた同じようにブランコへと腰掛けて揺らし始める。
ふとした時に乗りたくなるのはブランコの魅力か、はたまた俺が幼いだけか。
千砂都はブランコを囲う柵に腰掛け、俺を見てクスッと笑っている。
「相談なんだけれど、かのんちゃんのことについてなんだ」
「ステージで歌えているのはみんながいるから、でしょ?」
「うん」
「小学校での発表会の時に人前で歌えなくなったトラウマ。それを克服させようと一人で歌わせたい?」
「優くんには何でもお見通しだね」
「俺はそんなに万能な存在じゃないよ」
ちょっとしたズルのようなもの。
だけどそれは俺しか知らないこと。
これは決して謙遜なんかではないが、何も知らないみんなはそう思うしかない。
「ううん。優くんが居てくれたから今の私が、かのんちゃんが。そして『Liella!』があると思うんだ」
「……そう思ってくれていたなら嬉しいよ」
「えへへ。話が少し逸れちゃったね。それでどうかな?」
「良いと思うよ。まだかのんには話さないでおいて、他のみんなと理事長に伝えておけば大丈夫じゃない?」
理事長へ話しておけば相手方へ伝えてくれるはず。
こういった連絡は早めにしておくほうが後々面倒ごとにならなくて済む。
かのんへ伝えるのは三日前とかでもいいだろう。
慌てふためくかのんを想像するだけで笑みが浮かんできた。
「りょーかい! 連絡は私がしておくよ!」
「任せた。それじゃ家まで送るよ」
「あ、まだ話があるんだ」
はて、他に何かあっただろうか。
ブランコを止めて千砂都を見るが、その表情から何かを読み取る事は出来なかった。
「千砂都?」
「……ごめん。やっぱり何でもない」
「そっか」
こちらをジッと見て動かなくなったので呼びかけたら、かぶりを振り何でもないと。
それに対し俺は何でもなかったように答えるしかない。
これまでは何に対して悩んでいるのか分かっていたため、突っ込んだり揺さぶりかけて聞き出したが。
ここ最近は俺が関わったことで出来た悩みも増えたため、分からないことも多々ある。
五人で話し合いもたまにしているようだし。
これまでの経験値から分かる事もあるけれど、それも限界があるわけで。
「千砂都。俺はいつでも相談に乗るから。だから自分がダメになる前にはまた声かけて」
ずっと側に居る、とは言えない。
けど本当に辛くなった時はいつでも頼って欲しい。
他の何を差し置いてでも助けたいと思っている事だけ、伝わってくれたらそれで充分である。
「それじゃ、帰ろっか」
「…………そういうところ、ずるいなぁ」
「ん?」
「なんでもないよっ! 優くんのバーカ!」
「えっ、何で急にバカって言われたの?」
答えなんて教えてくれるはずもなく、千砂都はただ笑うのみ。
……なんとなく、精神的優位を取られたような気がしたので。
久しぶりに紙風船を膨らまし、目の前で潰すことにした。
「あぎゃー!?」
全く。もう日も沈んだというのに大きな声を出すだなんて、高校生とは思えないな。
騒がしくなった千砂都を家まで送り届けて俺も帰ったはいいが、かのんが俺の部屋でヨガをしており。
不覚にも少し、懐かしさを覚えてしまった。
「自分の部屋でやりなよ」
「いいじゃん。こっちの方が良いの浮かぶ気がするんだよね」
言うだけ無駄なのは分かっているが、言わなくなるとさらに侵食される気がする。
自身を姉だと言うのなら、もう少ししっかりして欲しいものだが。
「一応、俺も男なんだけどね」
「あはは。私たち姉弟じゃん」
俺のふとした呟きにかのんは笑うのみ。
確かに、男女の前に姉弟ってなるよな。
「……例え話だけど、もし本当の姉弟じゃなかったらどうする?」
「え、急にどうしたの?」
「何となく思っただけ」
「変なの。んー……別に優が本当の弟じゃなくても、何も変わらないんじゃない? だって優は優でしょ?」
「……ばかのんなのに意外といいこと言うね」
「ばかのんって何さ。優が聞いてきたから答えたのに」
唐突な俺の変な質問であったが、少し戸惑いながらもかのんなりに考えて答えを出してくれたようで。
思わず軽口を叩いてしまったが許して欲しい。
その後、不貞腐れたかのんの機嫌を取るために明け方まで曲作りに付き合わされた。