「何もしないでただ見ているだけでいい、ねぇ」
「そう! 学校が終わったらこっちに来て、見てるだけでいいから!」
「それなら別に俺、いらなくない?」
「とっても必要だよ!」
「そうデス! どうしてなのか可可には分かりまセンが、カノンが必要と言うなら必要なのデス!」
そんなよく分からないままでいる唐さんもすごいな……。
いまだに渋る俺を見かねてなのか、ただ単にかのんに甘いだけなのか。
千砂都が少し離れ、ちょっと来いと手招きをしてきた。
「どうした?」
「本当はね、ちゃんとした理由があるんだけど……今はただ、何も聞かずに付き合って貰えないかな?」
「…………仕方ないなぁ」
千砂都から受け取ったたこ焼きのクーポン券をサイフに仕舞い、かのんたちへ振り返り向く。
「かのん、千砂都に感謝する様に」
「……クーポン受け取ったの見えてたけど」
「まあまあ、かのんちゃん。暫く付き合ってくれるんだから良しとしようよ」
「ごめんね、ちぃちゃん。迷惑かけて」
「ううん。私も頼られて嬉しいから」
なんか俺が悪いみたいな空気作るの、やめて貰っても。
「それじゃ取り敢えず二人がどれだけ動けるのか見てみたいから、走ろっか」
「あ、千砂都」
「ん?」
「唐さん、割と論外な体力だと思うから頑張って」
「へっ?」
困惑してる千砂都をよそに、良さげな場所へと腰掛ける。
これ、見てるだけってのも中々に暇だな。
俺のよく分からないセリフは、すぐに理解できた事だろう。
地面に寝転がり、芋虫のようになっている唐さんを千砂都は苦笑いしながら見ている。
「無理デス……もう、一歩も動けまセン……」
「あはは……まさかここまでとは」
ランニング──すぐにダウン。
筋トレ──片手があれば事足りる回数も出来ずにダウン。
柔軟──まともに出来ず。
「スクールアイドルに対する想いだけは人一倍だね」
「はいデス! この気持ちは誰にも負けません!」
「まあ、気持ちだけじゃどうにもならないことってあるけど」
「うっ……」
「優、あまりクゥクゥちゃんをいじめないの」
割と純粋な気持ちで体力作りをしてこなかった理由を知りたかっただけなのだが……。
「その、可可はあまり運動は得意でないのデス……」
「それは言い訳にならないよ。夢を叶える為にはやらなくちゃいけないことだから」
「はい……そのとおりなのデス……」
「いや、別に責めてるわけじゃないよ?」
何故かさらに落ち込んでしまった。
かのんと千砂都の視線が少し痛いので、どうにかしなければ。
「これまではやってこなかったかもしれないけど、いまは夢を叶える為に一歩踏み出したわけじゃん? 続けていけばそれはちゃんと糧になる。でも、その一歩を踏み出さなければずっと変わらないままなんだよ。…………それに、苦手なことだって分かっているのに夢を叶えるため頑張るのはすごく素敵なことだと思う」
「澁谷さん……いえ、ユウさん! ありがとうございます! 可可、頑張ります!」
「あ、うん。頑張れ」
急にテンションを上げてこられても反応に困ってしまう。
何が唐さんの琴線に触れたのか分からないが、真っ直ぐキラキラした瞳でジッと見られるのは中々に居心地が悪い。
そっと視線を逸らした先にかのんと千砂都がいたけど、二人とも少し寂しそうな目で俺をみているのは何故なのだろう。
「可可、いま物凄くやる気に満ち溢れてマス! 今なら何でも出来そうデス!」
二人に声をかけようとしたが、その前に唐さんが行動を起こすのが早く。
急に立ち上がったかと思えばいきなり走り出し──コケた。
そりゃ、体力無いのだから身体はついていかない。
やる気だけはスクールアイドルに対する思いと同じであるのだから、千砂都にしっかりと鍛えてもらうといい。
今後、練習メニューの場面など出てくると思いますが、実際に効果があるかは分かりませんことを先に伝えておきます。、