「ねえ、優くん」
「んー?」
「んー? じゃなくてさ。ちょっとは目を開けたりしてよ」
そう声をかけるも優くんは布団から出てこようとはせず、ノンビリとあくびをしている。
目はちょっとだけ開けてまた閉じた。
「何でも権を使って、話を聞いて貰う予定なんだけど」
「聞いてる聞いてる」
「せめて布団からは出て欲しいかな」
「冬の時期、猫はコタツで丸くなるんだ。つまり猫派の俺は布団でぬくぬくすると決まっている。諦めてくれ」
こんな事になるなら私もどこか喫茶店なり連れてってもらうよう頼むべきだった。
いや、まだ確定していないなら変更できるのでは。
「やっぱりお願い変更して、喫茶店にでも連れてってもらおうかなー?」
「下、降りる──ふべっ」
「もう! 流石の私もオコだよ!」
思わず枕を抜き取って叩きつけてしまった。
確かにそうだけど!
そうだけど違うじゃん!
「でも、今日はお店お休みじゃなかった?」
「なら俺が…………いや、どっか行くかぁ」
「え!? 優くんが作ってくれるならそれがいい!」
「…………何があるか分からないし、大したもの出せないよ」
「それでもいいから!」
お母さんからの許可も取れたらしく。
優くんがエプロンをつけ、私のために黙々と淹れてくれるのを見て頬がニヤける。
すでに十分な腕があると言われているのに、お店が混んでて手が回らない時ぐらいしかキッチンに立たない。
かと思えば、こうして気紛れで淹れてくれるのだから不思議だ。
今回に関しては『何でも権』もあるからだけど、それでもどっかの喫茶店に連れて行かれた可能性がある。
「……何?」
「んふふ。優くんも素直じゃないなーって」
「……お客様のためにこのケーキ、綺麗に整えさせて頂きます」
「あっ!?」
そんな……綺麗な丸が正方形に……。
「酷いよ優くん!」
「こちら、ミルクと砂糖はお好みでどうぞ」
「あ、どうも」
うーん、いつものペースに持って行かれている。
話したいことがあったけれど、そんな雰囲気でも無くなったような。
「で、話ってのはあの時の公園の続き?」
「ほんと、ずっこいなぁ……合ってるけど」
悲しみに暮れながらケーキの切れ端をつついていき、どう切り出そうか悩んでいたのだけれど。
自分の分を淹れ終わるやストレートに聞いてきた。
「優くんはさ、一番最初はただ見ているだけでいいって誘ったの、覚えてる?」
「……そういえば、そうだね。見てるだけでいいって話だったのに、気付けばこんな働いてる」
「私は嬉しいよ?」
「人が苦しんでる様をみて喜んでるだなんて……」
「誘った理由があるけど、今は話せないってのも覚えてる?」
「あれ、スルー…………覚えてるけど」
優くんのボケに付き合ってたら話が進まないので仕方がないことなんだよ。
話題を逸らそうとしているの、みんな気付いてるよ。
「私やかのんちゃんが夢中になれる事を見つけてくれたからさ。優くんにも私たちを通じて何かを見つけて欲しかったんだ」
「だからあんなにもピアノを勧めてきたのね」
「それは私たちが優くんのピアノを聴きたいから、かな。楽しんで弾いてくれるなら、本当はプロじゃなくてもいいと思ってるんだ。……かのんちゃんや他のみんなはどうか分からないけど」
返事はないけど話したいことは話せたし、満足してケーキを食べ勧めていたら。
何を思ったのか、優くんは私の側までやってきて頭を撫で始める。
小さかった頃の私は泣き虫で、よく優くんにこうしてもらっていたなと懐かしさが。
「今日の優くんは珍しいデレデレデイ?」
「お客様、お帰りはあちらです」
「あーっ!?」
ふふふと口元が緩み、つい漏れてしまった。
いくら照れ隠しとはいえ、フォークを奪って最後の一口を食べなくてもいいじゃん……。
でも。
叶わぬ願いと分かっていても。
こんな関係性がずっと続けばいいなと、君が向けてくれる笑みを見てそう思うよ。