「ピアノ、弾いて」
「…………気分じゃない」
「気分になるまで、いつまでも待つわよ」
「…………」
そんな顔するなら他のお願いに……いや、それはおかしい。
『何でも権』を使っているのに私が折れる必要は無いのだから。
そもそもこのお願いは前々から伝えていて、今日この日を指定したのも優だというのに。
なんでまだ、寝巻き姿でベッドに横たわっているのかしら。
「また今度じゃダメ? 練習後とかにでも音楽室借りて」
「そしたら私以外も聴きにくるじゃない」
「独り占めしたいだなんて」
「恋と千砂都は一対一だったんでしょ? ならその後も一緒じゃなきゃ不平等よ」
「…………確かに」
納得してくれたようでのそのそと起き上がり、ピアノへと向かっていく。
格好に対して言いたいことはあるけれど、弾いてくれるだけマシだろう。
まだ出会ってから一年も経っていないけれど、なんとなく分かる。
「一曲でいい?」
「良いわけないでしょ」
「ですよねー」
昼間だし、多少音漏れしても大丈夫でしょ。
そう呟いた優は鍵盤へと指を乗せる。
一番最初の曲は『Tiny Stars』。
まだ『Liella』のリの字もない、続けられるかどうか危ういころ。
かのんと可可、二人の曲。
あのステージを見て、私の中の価値観が変わったような気がした。
それは気のせいでは無く、確かに変わっていたのだと今ではハッキリと言える。
「泣くほど良かった? 少し照れるね」
いつの間にか曲は終わっており、言われて初めて自身が泣いていることに気付いた。
照れるねと口にしつつ、少し困ったような表情をしているのは何故なのか。
化粧が崩れないよう気をつけながらタオルを押し当てて涙を拭う。
泣き顔を見られたことによる恥ずかしさが込み上げ身体ごとそっぽへ向けたが、優は特に気にすることもなく次の曲を弾き始めた。
軌跡をなぞるように、これまで披露してきた曲を弾いていく。
そして最後の、曲。
私たち『Liella』と学校のみんなで作り上げたもの。
それでも届かなかった、少しだけ苦しい思い出のある曲。
「……ねえ、優」
「ん?」
「あと少ししか、無いのよね」
「何が?」
「何がって……可可よ。ラブライブで優勝できなかったじゃない」
分かっていながら全部言わせるのだからタチが悪い。
抗議の意を込めて睨むように優を見るが、思わず目を背けてしまった。
笑っているのに、何か怖い。
少し間を置き、改めて伺うように見れば先ほどの怖さは無く、勘違いだったのではと思ってしまう。
でも、確かに……。
「可可は帰さないよ」
「帰さないと何も、そういう約束なんでしょ」
「そこは何とかしてもう一年、猶予をもぎ取るしか無いね」
「何とかなるわけ?」
「まあ、そこんとこは任せてよ。だから気にしないでこのまま来年のラブライブに向けて練習していこうね」
また何か、色々と隠し事をしているのだろう。
それに甘えてしまっている自分がいるのも確かなこと。
けどこのまま、この先もずっと甘えるなんて思わないことね。
いずれ出す尻尾、逃さず捕まえて全部吐かせるから。