一等星の煌めきを   作:不思議ちゃん

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なな

 夜、風呂上がりのストレッチをしていると、ノックも無しに誰かがドアを開けて入ってきた。

 まあ誰か確認などしなくても、そんな事をする愚か者はかのんしかいないと分かるのだが。

 

「今日はどうした?」

「ちょっと、煮詰まって」

 

 練習を始めてすぐの頃、唐さんから歌詞ノートなるものを受け取っていたかのんは所々中国語であるそれを翻訳し、曲を作っていた。

 大半は出来上がっているのだが、サビ部分で悩んでいると言うのは少し前に聞いている。

 

「取り敢えず、今できている部分なんだけど」

 

 俺の返事も待たず、そう口にするなり持ってきたギターを弾き始める。

 それはまだサビに入る手前までしか出来ていないものであるが、高校生、それもついこの間まで中学生であったとは思えないほどの完成度であった。

 

「こんな感じなんだけど」

「ほとんど出来てるじゃん」

「でも、一番重要な部分がまだ」

「歌詞はもう完成?」

「それもまだ悩んでいて……」

 

 まだ途中であったがストレッチを止め、かのんからノートを受け取って中を見る。

 こちらも殆ど出来ている感じだが、悩んでいる部分は教えてもらわずとも分かるほどに、他との違和感が浮き彫りとなっていた。

 

 もう一つ、唐さんから借りていたノートを受け取り、ペラペラとめくっていく。

 

「……かのんは唐さんの書いたものをあまり壊さないようにって、気を使いながら書いてない?」

「え、あ、うん。そうだけど」

「だからだと思う。もっと唐さんの、そしてかのんの想いを込めれば自然に出てくるんじゃない?」

「想い……」

「確かに歌詞は大事だけれど、そこに何を込めるのか、何を伝えたいのか」

「でもこれはクゥクゥちゃんの歌だし、私の気持ちを入れたらダメなんじゃ……」

「この歌を歌うの、唐さんだけじゃないでしょ? そんなに不安なら唐さんの意見も取り入れれば良いだけだし、それならそもそも相談するなら俺じゃなくて唐さんでは?」

「あ、そっか」

 

 俺の考えがかのんの役に立ったのかは分からないが、何か気付きを得られたようだしこれでお役御免だろう。

 

 ストレッチが中途半端に終わったままだが、今日はもういいや。

 寝ようと思っているのでかのんには早く部屋へ戻っていって欲しいのだが、何やら集中している様で邪魔するのも悪い。

 

 曲を作っている時のかのんは静かであるし、電気が付いているだけで眠れないわけでもない。

 一応、おやすみと声をかけるが反応は返ってこず。

 

 微かに聞こえてくるかのんの鼻歌を聴いているうちに、気付けば意識は沈んでいき──。

 

 

 

 誰かに身体を揺さぶられているような。

 でもアラームは鳴ってないし、まだ寝ていられる時間のはず。

 揺すってくる何かを払い寝返りをうつが、再び身体を揺すられる。

 

「起きて、優」

「……………………なに?」

 

 このままだとずっと邪魔されそうな気がするため、仕方なく身体の向きを変えて薄く目を開く。

 すると目の前にはテンション高めなかのんの姿があり、嬉しいことでもあったのか物凄く良い笑顔である。

 

「曲、出来た!」

「そう。それは良かった」

「今日、クゥクゥちゃんとちぃちゃんにも聴かせたいからピアノの音入れて!」

「…………は?」

 

 外を見れば確かに明るくなっているが、時刻はまだ六時半。

 あと一時間は眠れるというのに、起きて音を入れろと。

 

「は?」

 

 思わずもう一度、声が出てしまった。

 そこでようやくかのんも俺の不機嫌に気がついたのか、申し訳なさそうな顔をしているが引き下がるつもりは無いらしい。

 

「こんな朝っぱらからピアノを弾けと?」

「ヘッドセットとか繋げば音漏れないじゃん」

「音の問題じゃなくて、俺の問題なんだけど?」

「そ、それはその、悪いと思ってるけど……」

 

 ギターの音は既に入っているらしいが、せっかくならピアノの音も欲しいと。

 だが話を聞いていれば、かのんが個人的にピアノを聴きたいだけの様にも感じる。

 

「…………曲」

「ありがとう! はいこれ!」

 

 俺が折れる前提で既に用意していたらしく、布団から手を出してモノを受け取り、イヤホンを耳に挿して曲を再生する。

 

「……この貸し、高くつくからね」

「うん!」

 

 三度ほど繰り返し聞き、布団からノソノソと起き出してピアノの準備に取り掛かる。

 

 十分とかからずセッティングなどを終え、鍵盤へと指を乗せれば。

 未だ眠気は残るものの、ピアノへと変換された楽譜が頭の中に浮かんでくる。

 

 それにそって動き出した指に迷いはなく、音が奏でられることによって胸が高鳴っていき。

 曲が終わる頃にはうっすらと汗をかいていた。

 

「……はい、これ」

「ありがとう! それじゃまた、放課後ね!」

 

 出来上がったモノを受け取るやそう言い残し、部屋を後にするかのん。

 まるで台風が去っていった後の静けさを感じるが。

 

「朝っぱらからこんな事させて、さらに放課後来いと……?」

 

 呆然とする俺を笑うかの様に、七時を告げるアラームが部屋に鳴り響いた。




あらすじ、決まりました。
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