普段であれば七時半まで二度寝を決め込むところであるが、朝から汗をかいてしまったのでシャワーを浴びたためにそんな時間など無く。
また授業中、机に突っ伏して熟睡をかましてしまった。
入学当初とは違い、今ではこんな事をしても避けられたりしない程度の交友関係は築いているので問題はないが、教師からの印象はどうにもならない。
そのうち親に連絡がいって怒られたら全部かのんのせいにしよう。
うん、事実なのだから仕方のない事だ。
「スバラシイ音を奏でる人……!」
「んで、どーしてこうなった」
「あはは……優が弾いてくれたやつを聴いてもらってからこうなんだよね」
「うんうん。久しぶりに聴いたけど、優くんのピアノはとても素敵だよ」
一ヶ月以上も続けばそれは半ば習慣と化しており、結局またこうして来たわけだが。
これまで以上にキラキラした、真っ直ぐな瞳で俺のことを見てくる。
「どうして今までナイショにしてたデスか! こんなにもスバラシイ音を奏でるのに!」
「見てるだけでいいって言ったじゃん」
「ソレとコレとは別デス!」
「ええ……」
この子、無敵か……?
「それより千砂都、振り付けの方は大丈夫そう?」
「あ、うん。かのんちゃんと優くんので物凄くイメージ湧いてくるから。振り付けの練習期間を考えたらあまり時間ないけど、頑張るよ」
「大変そうなら何時でも相談乗るから」
「うん、ありがと」
話が通じなかなった時はスルーに限る。
唐さんを視界から外し、千砂都に話を振れば苦笑いをしながらも答えてくれた。
「うう、カノン……ユウさんが私をイジメるデス」
「ごめんね、クゥクゥちゃん。今の私には何も出来ないんだ……」
何やら側で小芝居を始めたが、果たしてこの二人は分かっているのだろうか。
歌ができて、これから振り付けができて。
それを仕上げたら人前での披露である。
そのことに気付いているのか、ただ先送りにしているのか。
千砂都からは今それを伝えて動揺させると練習にならないからと、黙っている様に言われているが。
あまり余計な事はしないようにと思っていたけども、やはり少し不安である。
☆☆☆
時が経つのは早いもので。
代々木フェスはいよいよ三日後のところまで来ていた。
物凄くイメージが湧いてきたと言うだけあり、想像していたよりも早く振り付けが出来上がったため。
基礎練は続けつつ、大半を振り付けと歌に時間を割いただけあって完成度は中々のものである。
千砂都と何時伝えるか連絡を取り合ってきて今まできたが、もう伝えなきゃといった段階で二人はようやく気付いたらしく。
「う、歌えない……」
今現在、地面へ四つん這いになり項垂れているかのんの姿が目の前に。
「しっかりデス、カノン! いざという時は可可が歌いマス!」
「クゥクゥちゃん……!」
「パート分けとかあるけど、一人で全部歌えるの?」
「なんとかやりきりマス! カノンにはここまで付き合って貰ったのデスから!」
グッと握り拳を作りながらそう口にする唐さんだが、その身体は小さく震えている。
まあ、確かにこうなるよな。
どれだけ人が集まるか分からないが、代々木フェスはそこそこの規模。
大勢の人の前で初披露だなんて俺は正直、御免である。
「取り敢えず、今日は練習にならないだろうし解散で」
「本番に支障が出ない程度に筋トレ、ランニングはしておいてね」
今の二人のメンタルで練習したところで実になることはなく、逆に変な癖がついてダメになる。
勝手に言ってしまったが千砂都としても同じ判断らしく、片付けを始めていた。
「優くんはどう思う?」
「まあ本番までに何とかなる、ってのは無理だろうなぁ」
「だよねぇ」
二人を着替えに向かわせ、千砂都と先ほどのことについて話し合う。
といっても大した案が出るわけでも無く、どうしようもないのだが。
「本番に奇跡が起こることでも祈る?」
「あはは。それが一番の方法かもね」
「発破をかけるのは逆効果になるよな」
「どんな言葉かけるつもりなのかにもよると思うけど」
「歌えなかったらここに来るのも終わり、とか」
「うーん……気負いすぎて歌えなくなるかもしれない、かな」
「結局、向こうから相談に来ない限りは見守るだけか」
俺と千砂都がステージに立つわけでもないので、この件に関しては二人でどうにかしてもらうしかない。
といった事実だけが改めてはっきりと分かった。