トレセン学園の料理長   作:砂糖と蜂蜜の牛乳割り

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 pixivでも投稿しているシリーズです。
 プロットもまとまってきたので、今回は満を辞してハーメルンの方にも投稿する流れとなりました。
 全身全霊で頑張りますので、よろしくお願いします!


トレセン学園に料理長現る 〜改良型ニンジンハンバーグ〜

 

 

 

 

 ここは、日本ウマ娘トレーニングセンター学園。略して、トレセン学園。

 ウマ娘達がレースに向けてライバル達と共に己を鍛える場所である。

 夕暮れにほど近い時刻。そのトレセン学園内の芝コースで、いまだ互いに競い合っているウマ娘が二人ほどいた。

 

 

 

 一人は黒鹿毛のボブに、流星を想わせる白い前髪の一房、耳の付け根に紫色のリボン、三つ編みにも見えるハチマキを身につけているウマ娘。

 もう一人は栗毛のスーパーロングの髪に、緑色と黄色、橙色の順に色付けされた玉がついたカチューシャを身に付けているウマ娘。

 

 今、後ろで脚をためていた黒鹿毛のウマ娘が逃げる栗毛のウマ娘を追い抜こうとしていた。

 

 

「……ハァ……はぁ……っ! 負けませんよスズカさん!」

 

 黒鹿毛のウマ娘は地面を抉るように強く踏み込み、加速をかけた。あまりにも驚異的な差し。栗毛のウマ娘は越されてしまうのか。

 

「……ハァ……はぁ……っ!……負けない……先頭の景色は譲らない!」

 後ろから迫る圧に栗毛のウマ娘もラストスパートをかけ、追い抜かれないようにする。

 

 お互いにハナの先ほども前を譲る気などなく、むしろ、もう片方を追い越す気持ちで駆けた。

 

 

「「はあああああああ゛っ!」」

 ゴール直前、二人の声が重なる。

 どちらが先頭に立ったのか。

 否、果たして二人は横一線でゴールに着いた。

 

 ゴールした二人は徐々に速さを落とし、息を整えて、話し始める。

 

「スズカさん! 今日は私と模擬レースをしてくれて、ありがとうございます!」

 

 黒鹿毛のウマ娘が栗毛のウマ娘に感謝の気持ちを込めて、頭を下げる。

 栗毛のウマ娘はそんな黒鹿毛のウマ娘の感謝の言葉に対して、軽く手を横に振り、

 

「いいのスペちゃん、ちょうど私も走りたかったから」

 

 と、黒鹿毛のウマ娘が気にしないように言葉を返す。

 

 

 黒鹿毛のウマ娘の名は、スペシャルウィーク。

 栗毛のウマ娘の名は、サイレンススズカ。

 

 どちらもチームスピカに所属しており、レースで大活躍中のウマ娘だ。

 二人はスペシャルウィークのレースが近いことから、チームスピカのトレーニング後に模擬レースをする約束をしていたのだ。

 

 

 サイレンススズカは優しく目を細め、僅かに緩めた口を開く。

 

「スペちゃん、次のレースも頑張って」

 

 それは心からの応援であった。

 レースに勝利していつか二人で真剣勝負できるように、と。

 ライバル同士いがみ合うウマ娘も多い中、二人はお互いのことを想いやっていたのだ。

 いや、これこそが純粋なライバルとしての姿なのかもしれない。

 

 そして、その想いはスペに確と伝わっていた。

 

「はい、スズカさん! よぉーし、けっぱるべー!!」

 

 期待に応えたい、と決心する彼女は左手でグーの手を作りそれを高く掲げ、次のレースへ向けてやる気を漲らせた。

 

 

 

 紛れもなく、彼女たちは親友(ライバル)であった。

 

 

 

 

 ♦︎

 

 

 

 

 そうして二人とも楽しく会話をしていると、段々日が沈み周囲が暗くなってきていることに気づく。

 

 

「暗くなってきましたね……」

 

 スペは辺りを見回しながら言う。

 

 

「……そうね……寮の門限には十分間に合うはずだけれど……」

 

 スズカは後に続く言葉をためらう。その視線はスペに向けられていた。

 そして次の瞬間、ぐぅ〜〜っ、とお腹の鳴る音が辺りによく響く。

 

 

「……うぅ〜〜……!」

 

 見れば案の定、スペが頬を赤らめ、腹を押さえているではないか。

 これは仕方のないこと。ただでさえ食べるウマ娘の中でも、彼女は特に食が太いウマ娘なのだ。

 

 

「‥‥‥カフェテリアはまだやっているかしら‥‥‥」

 

 

 トレセン学園では寮内の食堂の営業時間はあまり長くなく、もうここまで暗くなっている時間だと既に閉まっているだろう。

 トレーナーが行うトレーニング後も夜遅くまで自主トレーニングをしているウマ娘だと今回のように寮内の食堂で食べそびれてしまうことがある。そんなウマ娘の唯一の救いがカフェテリアである。

 比較的に、寮内の食堂の営業時間よりもカフェテリアの営業時間の方が長いからだ。

 

 

 

 二人はその一縷の希望にかけてカフェテリアに向かうが、そこには食事をしているウマ娘はおらず、closedとカフェテリアの入り口に書かれていただけであった。

 

 

「うぅっ……!」

 

 スペは希望を失い、空腹の腹を抱え涙目になる。

 大食いである彼女に夕飯抜きはさぞかし辛かろう。

 

「‥‥‥スペちゃん」

 

 スズカは絶望に打ちひしがれるスペを心配そうに呼ぶ。

 このまま夕飯を食べそびれてしまえば、スペの空きっ腹が就寝中に鳴り響くことになるだろう。それは彼女としても困る。

 スズカはこの現状を打開するため必死に思考を回すが、いつまでも良い案は浮かばなかった。

 

 

 そうして、カフェテリア前で二人が困り果てていると、カフェテリアの奥から声が掛けられる。

 

 

「もしかして、二人とも夕食を食べそびれたのかい?」

 

 

 姿はよく見えないが、その声の高さは低くどうやらその人物は男性であるようだった。

 

 

「うぅっ‥‥‥はい」

 

「はい‥‥‥さっきまで自主トレーニングをしていて‥‥気づいたらこんなに夜遅くまで‥‥‥」

 

 

 二人とも掛けられた質問に肯定する。彼女たちは耳を前に倒しており、実に申し訳なさそうな様子だ。

 

 

「そっか‥‥‥それなら、まだ食材も残っているし、何か作ろうか?」

 

 

 するとそんな二人に気前の良い言葉が掛けられる。何か作るという言葉から察するに、おそらく男はカフェテリアで働く料理人なのだろう。

 

 

「‥‥っ! 良いんですか!?」

 

 

 スペにとってその言葉は三女神像の導きのように嬉しいものであった。元気なく前に倒れていた耳は元通りに、ピンと持ち上がり、その顔に笑みを咲かせた。

 

「まあ、ちょうど賄いを作るところだったからね。賄いと作り置きのものでも構わないなら、二人ともどこか適当な席に座っておいて。料理ができたら持っていくよ」

 

「はい! ありがとうございます!」

 

「よかった……ありがとうございます、本当に助かりました」

 

 

 と、感謝の言葉を述べてから——スズカは今日も自身の安眠は守られたと内心ホッと息を吐いていた——二人は厨房前の席につく。

 

 

 

 二人は話をしながら暫く待っていると、食欲を刺激する良い匂いが次第と、カフェテリアに漂ってくる。

 

「はあ〜、良い匂い〜……お料理が待ち遠しいです」

 

 

 その匂いを嗅いだスペシャルウィークは今か今かと耳をピコピコ、尻尾をユラユラと忙しなく揺らして待った。

 

「そうね……きっとすごく美味しいわ」

 

 スズカもスペほどではないが美味しそうな匂いがすることから、これからやってくる料理に期待を膨らませた。

 

 

 やがて厨房の奥から料理をキッチンワゴンにまとめて載せた男が出てきた。

 

 

 その男は頭に白い帽子を被り、やけに背が高く一見すると威圧感があるのだが、優しい柔和な表情をしていることで中和しているようだった。

 

 

「はい、お待ちどうさま」

 

 

 コトッと小気味の良い音と共に二人の前に料理が差し出されたことで、先程から感じていた美味しそうな匂いが更に強くなる。

 スペの耳がより一層、動きのキレを増した。

 

 

「手前から順に人参ハンバーグ、生サラダ、ロールパン、野菜たっぷりのミネストローネ、デザートに人参とオレンジのゼリーだよ」

 

 と、男は出した品々な料理の名を説明した。

 

 

 そのたまらなく美味しそうな匂いと見た目に二人は目が離せない。特にスペシャルウィークは尻尾が扇風機のようになっている。

 そろそろ限界だろうと、彼は長い説明は控えることにした。

 

 

「じゃあ、召し上がれ」

 

 男は二人に食事を促してから、自分も食事をとるために厨房に戻る。

 それと同時にスペは手を合わせて、

 

「いただきます!」

 

 と、ナイフとフォークを持って目の前の料理を食べ始める。

 

 

 スペシャルウィークが食べ始めたのを見て、我に返ったサイレンススズカは自身も食事をとるために手を合わせて、「いただきます」と呟いてから食べ始めた。

 

 そしてまず最初に反応を示したのはスペシャルウィークだった。

 

 

「このにんじんハンバーグ美味しい!」

 

 スペシャルウィークは瞳を輝かせながら舌鼓を打つ。

 

 

「前に食べたものと味が違うけれど、美味しい‥‥‥」

 

 サイレンススズカもその人参ハンバーグを食べ、普段のニンジンハンバーグとはまた違った味の良さに驚く。

 

 

「人参ハンバーグの中に人参のペーストが入っているわ‥‥‥」

 

 味わっていくと滑らかな舌触りの人参ペーストの風味と甘さが少しして、それにマッチするように調味料が使われているのがわかった。

 

 

「前までは人参がハンバーグに刺さっていて、ちょっと食べ辛かったですけど、今はたべやすいですね!」

 

「ええ、食べやすいわ」

 

 二人共ほっぺを押さえながら、満足そうに食を進める。

 いや、止められなかった。

 

 

「あっ! この……ええっと、みねすとろーね、でしたっけ? これはお野菜の栄養がしっかりと赤いスープに溶け込んでて、体に優しい味です!」

 

「トマトとニンジンの深い味わいが癖になりそうね……」

 

 

「ふわぁ〜、ゼリーはプルプルで美味しいです!」

 

「人参とオレンジがこんなにも味が合うなんて知らなかったわ‥‥‥美味しい」

 

 二人とも料理の美味しさから自然と笑みが溢れ、楽しく食事が進むのだった。

 

 

 そして二人とも「「ごちそうさま」」と言い、食事を終え、ふと二人は厨房に戻っていった男の事を思い出す。

 

 

「あの男の人……前までカフェテリアにいましたっけ?」

 

 スペは首を傾げる。彼女の記憶の中には男の姿はなかったのだ。

 

「‥‥‥‥そういえば、いなかったような‥‥」

 

 もちろん、普段からスペと行動を共にしているスズカにも覚えがなかった。

 

 

「もしかして……学園に侵入してきた不審者? それとも、フクキタルから聞いたことがある、学園内をさまよう亡霊?」

 

「や、やめてくださいよ、スズカさん! そんな、ゆ、幽霊さんなんて……」

 

 

 スペは先ほどの男が幽霊なのかもしれないと聞き、顔を青くする。

 楽しい雰囲気が一変し、一気に心霊ミステリーになってしまった。

 

 

「おっ、食べ終わったみたいだね」

 

 そこでタイミングを見計らったように、男が二人にいきなり声を掛ける。その声にスペは肩をビクゥッ! と跳ね上げた。

 

 

「ど、どぅええええ!? ご、ご、ごめんなしゃい! お願いですから、早く成仏してくださぁ〜いっ!」

 

 スペは拝むように手を擦り合わせる。彼女はもう完全に男が幽霊だと決めつけてしまっているようだ。

 

 

「えっ? 成仏? 何を言っているんだい?」

 

 男はいきなり自分が幽霊扱いされていることに、なにがなんだかわからず困惑した。

 

 

 スズカは男に事情を説明をすべく、口を開く。

 

「その、実は、あなたをこのカフェテリアで見たことがなかったので、幽霊か何かなんじゃないかと二人で話していたんですよ」

 

 彼女にとって幽霊うんぬんは冗談であったのだろう。その顔には苦笑が浮かんでいた。

 

 

 この説明に男は納得したようにウンウンと頷き、

 

「ああ……これは申し遅れたね。俺は今日から定年退職した料理長に代わってここのトレセン学園の料理長をすることになった、藤坂 蒼斗だよ。宜しくね。ちなみに、幽霊じゃないから安心して欲しいな」

 

 と、料理長は自己紹介。

 

 スペとスズカはその返答にようやく目の前の男が決して不審な人物でなく、学園の関係者なのだと理解した。

 同時に二人はこれからお世話になるかもしれない人物を疑ってしまったことに罪悪感を覚え、両の耳をシュンと下に垂れさせる。

 

 

「……そうだったんですね。そういえば、昨日の全校朝会で理事長さんが料理長が代わると言ってたんでした‥‥‥すみません、幽霊さんなのかと疑ってしまいました」

 

「私も、すみません」

 

 

 二人の最初にカフェテリア前にいた時のような申し訳なさそうにしている様子に対し、料理長は手を軽く横に振り気にしないで、と言う。

 

 

「いいよ、いいよ。こっちも名乗るのが遅れてごめんね」

 

 

 彼自身、名乗らなかった自分にも非があると思っていたのと、食事を終えた後はこのウマ娘二人にションボリとした気持ちでいて欲しくないという料理長としての矜持があったからに他ならない。

 

「‥‥‥それはそうと、俺の料理はどうだった? 美味しかった?」

 

 料理長はこの悪い空気を入れ替えるために今食べた料理の話に変えた。空気が悪くなった時の彼お決まりの話題転換である。

 

 

「はい、美味しかったです」

 

「とっても美味しかったです!こんなに美味しいにんじんハンバーグ初めてです!」

 

 

 二人とも素直に感想を口にした。そのお陰で場の空気は良いものとなった。

 

 

「それは良かった。実は、今出した料理は明日以降出す料理の試作品だったんだ。気に入ってもらえたようで安心だよ」

 

 料理長は自身の胸を撫で下ろす。

 その心底安堵した様子の彼に、スズカはふと頭に浮かんだ疑問を口にした。

 

 

「もしかして、その試作品を作っていて、こんなに夜遅い時間まで厨房に残っていたんですか?」

 

 その問いに対し、料理長は少し恥ずかしそうに後頭部を掻こうとしてやめる。

 手を汚すわけにもいかないので、頷くことにした。

 

 

「うん、そうだよ。いやぁ、中々試作品にウマ娘のみんなが食べてくれるか自信がつかなくてね〜。何回も試作を繰り返してたんだ」

 

 それが事実ならば、この料理長は相当な頑張り屋である。 他調理スタッフの気配もないことからも分かるとおりカフェテリアの業務時間はとっくに過ぎており、さっさと帰っていて良いにも拘らずこうして料理の研究をしているのだから、それは相当なものだ。

 

 

 話を聞いて納得すると共に驚きの表情を浮かべる二人に、料理長はニコリと笑顔を深め、続けた。

 

 

「そんな時に、二人がカフェテリア前に見えたから、これ幸いにと思ってね。あまり自信が無かったけど、二人が美味しいと言ってくれて、自信がついたよ。食べてくれて、ありがとうね」

 

 彼は二人が試作品を食べてくれたことを感謝する。

 この男、柔和な雰囲気を放ちながらも二人にしっかり試作品を味見させる、ちゃっかり者である。

 

 

 真面目で優しそうな料理長だが、こんなちょっとお茶目な点があることに二人はより気を緩める。

 既に伏せられていた耳も尻尾も食事をしていた時のようにユラユラと元気に動き回っていた。

 

 

「お役に立てたのなら嬉しいです!」

 

「こちらこそ、お食事ありがとうございました」

 

 

 スペとスズカは実に嬉しそうに顔を綻ばせた。

 

 すると突然、料理長は何かを思い出したようにすぐさま自身の腕に付けた腕時計を確認して「あっ」と声を出してから、

 

 

「寮の門限は大丈夫なのかい?」

 

「「えっ?」」

 

 

 スペとスズカもすぐにカフェテリア内の時計を確認し、そこでようやく寮の門限ギリギリであることに気づく。

 二人の顔からみるみる赤みが抜け、どこぞの猫型ロボットにも負けないほど真っ青になった。

 迅速果断。

 スズカはスペの手を握り、慌てふためく彼女を引っ張る。

 

「スペちゃん! いそがないと!」

 

「あわわ! いそがないと、また寮長さんに叱られる〜!」

 

 

 二人は大慌てでカフェテリアから栗東寮へとダッシュで向かうのであった。

 

 

 ♦︎

 

 

 

 何とか栗東寮の門限に間に合った二人だが、寮の中で寮長のフジキセキが待ち構えていた。

 その柳眉はやや八の字に固められており、ご立腹であることがわかる。

 

 

「ポニーちゃん達、いくらレースが近くても門限破りをするギリギリなのは見過ごせないよ」

 

 そう言いフジキセキは腕を組み、門限破り常習犯の二人を注意する。

 

 

「はあっはあっ‥‥‥すみません」

「はあっ‥はあっ‥‥ごめんなさい」

 

 

 急いで寮まで走ってきたスズカとスペは息を整えてから、謝罪を口にした。

 二人ともトレーニングを夜までしていてよく門限を破るため、寮長のフジキセキには度々お世話になっている。

 

 

「でも、今回は門限に間に合ってくれて良かったよ。お腹が空いているだろう? スポーツドリンクと塩おむすびを作っておいたから、食べるといいよ」

 

「いえ‥‥‥実は、私達はもうカフェテリアで夕食を食べてきたんです」

 

 と、スズカが応える。

 その横でスペはしきりに頷いた。

 

 

「あれ‥‥そうだったのかい? 寮内の食堂で二人の姿を見なかったと聞いて、カフェテリアももう閉まっているだろうし、夕食をとっていないものだと思っていたけど‥‥‥」

 

 フジキセキは自分の想定と異なることに少し驚きながら、口元に手をやり、考える。

 記憶の中から関係しそうなものを探し出す作業。

 通常は何分もかかる作業であるが、大して時間もかからずに彼女は得心のいく答えを導き出した。

 

 

「ああ‥‥‥もしかして、料理長さんに夕食を作ってもらったのかい?」

 

「はい! 凄く美味しかったです!」

 

 元気よく返事をするスペは料理の味を思い出し、目を輝かせた。

 

 

「そうだったんだね……あの人は今日試作品を作るためにまだ厨房にいると言っていたから、その試作品を食べたのかな?」

 

「はい……どれも美味しくて食べやすかったです」

 

 スズカの感想に、フジキセキも思い当たる節があったようでウンウンと頷く。

 

「私も試作品を食べさせてもらったけど、あれはウマ娘が食べやすくて、美味しく栄養が取れるように、という工夫を感じたね」

 

 以前、フジキセキは寮長として料理長の料理を試食した際、彼の料理に高い評価をつけ、その腕前を認めていたのだ。

 

 

「となると‥‥‥この塩おむすびはどうしようかな‥‥‥」

 

 二人が既に食事を済ませたのならば、自分の今ある食事は無駄となってしまう。

 トレイに載せた塩おむすびをどのように処理するか視線をトレイに向けながら、そう悩むフジキセキ。

 そして——

 

 

「……じゅるり」

 

 その舌なめずりする音に、フジキセキが視線を上げる。すると、スペが塩おむすびを食べたそうに見つめているのに気づいた。

 

 

「‥‥‥食べるかい?」

 

 彼女は苦笑いを浮かべながら、塩おむすびが載ったトレイをスペに差し出す。

 

 

「はい! いただきます!」

 

 スペは、美味しそうに塩おむすびを頬張った。

 先程、夕飯を食べてきたばかりであるにも拘らず、その食べる手は止まりそうにない。

 

 

「……まあ、食べ物を捨てなくて済んで良かったよ……ハハ」

 

「……そうですね」

 

 

 そんなスペの底なしの食欲にフジキセキとスズカは、これからのウマ娘の食事を用意する料理長の苦労を思いながら、スペが美味しそうに食べる様子を見守った。

 

 

 

 

 

 

 

 とある熟練トレーナーはこう言い残した。

 

 

 

 『ウマ娘にとって、担当トレーナーが常に自分を支えてくれる杖であるならば、トレセン学園の料理人は自分の大切な足を守ってくれる靴であると』

 

 

 この物語は、トレーナーのようにウマ娘を大きく支えるわけではなく、陰ながらウマ娘の健やかな成長を守る為に、そのお腹を満たすトレセン学園料理長のお話。

 

 

 

 

 

 

 

 

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