モチベが下がりまくって1年も投稿遅れました、申し訳ないですわ…。
これに懲りずにまた投稿を続ける所存ですので、読んでくださると感涙に咽びますわ。
今回はメジロマックイーンの一人称でお送り致しますわ。パクパクですわ。
それこそが使命なのだと、幼い時分より教えられてきたのですから。
「本当に、ここはいつ見ても綺麗ですわね」
テーブルの上に広げられた甘い菓子や紅茶を嗜みつつ、見晴らしの良いガゼボから眺める庭園の景色に私はホッと感嘆の息をつきました。
ああ、妬いてしまいそうです。
そっとそよ風が吹きました。
すると背の高い木の葉が心地の良い楽曲を織りなし。
咲き誇る色とりどりの花が花弁を揺らし蝶が舞う。
きっと、さわやかに差す陽光がきらきらと蝶や植物達に活力を与えているのでしょう。
まだ学び舎にも通うことのなかった頃、私は屋敷の庭園が好きでした。
そこは何よりも自由で、しかし整然と力強い意志のようなものを感じる……自身もこうでありたいと思わせる場所なのです。
「マックイーンお嬢様、僭越ながら申し上げます」
向かい側に立つ、執事服を着こなした初老の男性——メジロ家専属のトレーナーが諭すような口ぶりで言いました。
「マックイーンお嬢様のお婆様が取った天皇賞春の盾、お母様が取った天皇賞春の盾。さらにここにマックイーンお嬢様の盾が加わればメジロ家は3代天皇賞春を制したことになります。
それこそはメジロ家の——」
「——悲願、なのでしょう」
「その通りでございます。
とはいえお嬢様のご年齢を鑑みれば、酷なこと。
私めどもの配慮に欠けておりました。
本日は軽く調整用のトレーニングに致しましょう。
どうか、お戻りを」
胸の前に手を置き礼をする姿は、堂に入ったものでした。
彼はトレーナーでありながら執事も兼任しているのです。
だからでしょうか、ふと見上げたその表情はわずかに眉が下げられています。
私が生まれた頃から側仕えをし、面倒を見てきた幼子に過酷なトレーニングを積ませるのは彼自身快くは思っていない。
彼の立場を考えるなら、意地悪をしているのは私の方ですね。
「わかりました、爺や。
私も少し意地を張ってしまいましたもの。謝りますわ。
さ、コースに向かいましょう」
そう言って椅子から立ち上がり、何度も足を踏み入れた芝コースへと向かいます。
たまに抜け出したいとは思っても、あまり辛いとは思いませんでした。
悲願を達成して当たり前。それが私に求められてことですもの。
期待に応えて当然。
成すべきことを成せ。
根本にそういった考えがあったからでしょう。
肉体の本格化が始まりトレセン学園に入学してから無理な減量とハードなトレーニングを己に課して、そして倒れてしまったのは。
急激に四肢に力が入らなくなり、視界は暗転。
気づけば、私が先程まで走っていた芝コースの青空ではなく、眼前には真っ白い天井が広がっていました。
「ここは……?」
「お、目を覚ましたか」
「トレーナーさん……」
ベッドの横に居たのは沖野トレーナー。
その眼差しはひどく優しく、私を思いやる心情が滲んでいました。
「マックイーン、お前芝コースでトレーニング中に倒れたんだよ。
それで、急いで保健室に連れてきて診てもらったら……。
マックイーン、普段しっかり食べてるか?」
食べています、と言えればどんなに良いでしょうか。
私は自身では栄養をとっているつもりでした。
カロリー計算に狂いはなかったと自負していました。
ですが、結果としてみれば足りなかったのでしょう。
「すみません、私のせいでご迷惑をおかけしました……。
私はまだまだ未熟ですね。自身の体調管理もできないなんて」
「いいんだ、元は俺の管理不足でもある。
悩むお前に気づいてやれなかった。栄養の面でも何でも困っているなら、相談してくれ。俺はお前たちのトレーナーなんだから」
「ありがとうございます、トレーナーさん」
感謝すると共に、ふと横の窓に映った月が見えました。
ああ、こんな夜になるまで看病なさっていたのですね。
朧げな月はひどく輪郭が曖昧で、けれど何よりも綺麗に輝いて。
静かに、頬を暖かい滴が伝い落ちる感触は幾分か軽くなったような気がしました。
それからトレーナーさんはたくさんの栄養や料理に関する本を読み漁りました。
朝、私達が外のコースを走りに行ってる間も、昼に食事をしている間も、放課後のトレーニング後から寝るまでずっと熱心に試作品を作り続けました。
どうやら、作ろうとしているのはスイーツらしいのです。
まるで私がスイーツ大好きみたいに思われているのは心外ですが、楽しみではないと言ったら嘘になってしまいますね。
ま、まあ試食ならばスイーツを食べてしまっても仕方ありませんわ。ええ、仕方ありませんとも。
そうして試作品が完成すると、トレーナーさんに頼まれて私もそれを味見をすることになりました。
……その、作って頂き失礼ではあるのですが、どれもあまり手放しに舌鼓をうてるようなものではありませんでした。
カロリーを抑えた分、砂糖などの甘みも果物特有の酸味や乳製品の風味もどこか物足りなく、どこか味が尖っているのです。それを補おうとする度にさらにエグ味を増していき……。
もちろん、作ってもらった立場でそのようなことを口にした訳ではないですが、わずかでも態度に出ていたのでしょう。その度にトレーナーさんの試作は続きました。
そしてついに限界が来ました。
目は落ち窪み、頬のやつれたトレーナーさんは提案してきます。
「料理のことは、専門家に任せよう」と。
既に依頼は出した様子でした。
かくして、料理長のいるカフェテリアへと連れてこられた私は、彼の調理したスイーツを堪能することになりました。
見た目は完全にメロンパフェでした。
綺麗なグラスに収められた真っ白なババロアと上層の翡翠色のメロンゼリーの二層に分かれ、さらにその二層の上で美しい乳白色のアイスクリームとその上のクリームにミントが。さらにはアイスクリームの側に飾られた3つの小さいボール状にくり抜いたメロン、くし形に切られたメロンが豪勢な雰囲気を放っているのです。
ダイエット用のニセモノパフェではなく、本物の重厚感のあるパフェ。
加えて、低カロリーで食べても太らないと聞かされればもう、私の持っていた匙は止まることを知りません。
ああ、何という甘みと濃厚なコク、果実の爽やかさでしょうか。
まず上の黄色のアイスクリームと白いクリームを匙で掬い、口の中に入れてみると、その瞬間スッと淡雪のように消えてなくなってしまうのです。
このアイスクリームはキンキンに冷やしているというよりは、溶けるか溶けないかの絶妙な温度で管理しているのでしょう。
クリームと同様に舌の上で優しく溶け、瞬く間に濃厚な卵と甘いクリームの味わいが広がり——ああ、至福とはこのことを言うのですね。
ふわふわと覚束ない匙が次に向かったのは、白いババロアや翡翠色のメロンゼリーでした。
匙で少しばかりババロアの側面を押してみると、ぷるぷると震えゼリーにも似ているのですが、口に入れた食感は確かな重さがあるのにむしろ甘さが控えめなのです。
私は少し残念に思いました。もっと甘い方がいいのに。
ですが、更に上に乗ったメロンゼリーでそれが愚かしい感想であったと自覚したのです。
メロンゼリーの甘さとジューシーさは群を抜いていました。
メロン独特の甘みを濃縮したような、高い密度で作り上げられたゼリーなのです。それなのに食感はつるりと喉を流れていって……。
この甘いメロンゼリーと甘さ控えめのババロアを交互に食べてみると、再び私は匙を動かす作業に没頭することになりました。
あくまでメロンが主役とばかりにメロンゼリーが濃厚な甘さとジャージさを、引き立て役とはいえ欠かせないババロアが控えめな甘さとコクで舌を休ませてくれる。さらに口内を甘くメロン汁で満たしたいのなら、側の小さいボール型のメロンを頬張れば、より一層このメロンパフェを楽しむことができました。
料理長が仰るには、これらは乳製品の代わりに豆乳を使っており、温度管理や層状に甘さの強弱をつけることで糖分も抑えることができているそうなのです。さらに、豆乳には美白効果もあるのだとかで、ダイエットも美容にも気を遣う女性にとってとても嬉しいもの。
このスイーツを減量に困っている他の方々にも提供して欲しいと願ったところ、料理長は快く引き受けてくださいました。
彼はそれからも私のダイエットメニューを新たに考案し、さらにはトレーナーさんとお話をしてトレーニングメニューまで改善したのです。
専門性の高いウマ娘のトレーニングまで知っているなんて……彼は何者なのでしょうか。
ちなみに体重計に乗った時、いつもよりも左に振れた目盛りに歓喜の雄叫びをあげたのは内緒ですわ。
こほん、何はともあれ無理なく私は減量をすることが叶ったのです。
——そして、私は天皇賞春を迎えました。
次回、天皇賞春。投稿頑張ります。