トレセン学園の料理長   作:砂糖と蜂蜜の牛乳割り

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 はちみーはちみー、はっちっみー、
 はちみーを……無礼(なめ)るなよ(豹変)

 コメントして頂けると、大変励みなります。
 具体的には投稿頻度が増します。


料理長の1日 前編

 

 

 

 トレセン学園内にある調理スタッフ専用寮内。

 

 料理長である藤坂の朝は早い。

 

「………ハッ!」

 

 いまだ薄暗い部屋で藤坂は目を覚まし、バッとベッドから起き上がる。

 

「時刻は!」

 

 急いで時刻を確認すると、時計が示す時刻は午前4時。

 太陽が薄らと顔を覗かせる時間帯である。

 

「いそげ、急げ! うげっ!」

 

 藤坂は慌てて身支度を整えようと急ぐが、そのせいで足の小指をタンスにぶつけてしまう。

 

「いっっったあー! くぅー!」

 

 じんじんと痛む小指の痛みに耐えながら、

 寝癖と服装を直し、身支度を済ませる。

 

 

「よし、今日も頑張るぞ! 美味い料理を食べてもらうんだ! ……っと」

 

 玄関にある鏡の前で気合いを入れて、

 ふと忘れ物気づく。

 

「……これだけは着けなくちゃね」

 

 『蒼い彗星のネックレス』に首を通し、藤坂は今度こそカフェテリアにある厨房に向かう。

 

 

 なぜ、こんなに朝が早いのか。

 

 料理長と調理スタッフ達の仕事は何も昼間のカフェテリア業務だけではない。

 朝夕の寮内でとる食事も準備しなければならないのだ。

 ウマ娘によってはトレーニングの都合上、朝早いうちに食事をとる。

 よって、料理長や調理スタッフ達はウマ娘の誰よりも早く起きて、朝食を作る必要があるからだ。

 

 

 

 

 午前4時半

 

 

 

 料理長である藤坂が厨房に着くと、既に出勤していた部下である調理スタッフ達が挨拶をする。

 

「「「料理長おはようございます!」」」

 

「みんなおはよう」

 

 皆一様にその表情は引き締まり、眠そうな様子がない。

 彼らはもう慣れっこなのだ。

 

 

 

 それから少しして他の調理スタッフも出勤してくる。

 藤坂はパンと手を叩き、

 

 

「さて、全員揃ったところで、朝食を作ろうか」

 

「「「はい、料理長!!!」」」

 

 

 

 

 今日の朝食は、

 

 

『サラダ 生サラダ又は温野菜サラダ又は春菊としめじの煮浸し(野菜が苦手な方は温野菜サラダがオススメ)

 

 主食 ご飯 パン うどん 芋(お好きにどうぞ)

 

 スープ ニンジンポタージュ又はワカメ豆腐味噌汁

 

 肉料理 豆腐ハンバーグ又は竜田揚げ

 

 魚料理 鮭のムニエル又は鯖の塩焼き

 

 甘味 プディング又は白玉ぜんざい

 

 ドリンク 緑茶 麦茶 紅茶 コーヒー 特製ニンジンジュース 牛乳』

 

 

 と、多岐に渡る。

 これを80名程の調理スタッフでウマ娘2000人弱分作るのだから、相当な労力を要することが窺えよう。

 

 

「じゃあ、昨日と同じくそれぞれの班の得意分野で調理を進めていってね」

 

「「「了解です、料理長!!!」」」

 

 

 料理長の指示で調理スタッフ達が班毎にそれぞれの持ち場につく。

 

 

 A班は肉料理と魚料理が大得意。

 B班はパン、うどん、スイーツが大得意。

 C班はスープとサラダが大得意。

 D班は全部得意。

 

 

 班分けで役割が決まっているため、藤坂の指示がなくとも各班調理を進められて、とても効率が良い。

 ある程度の禁則事項は設け、あとは各々の裁量で判断可能の方が能力をよく引き出せるのだ。

 

 

「さてと、俺は一番忙しいA班を手伝おうっと。D班も手伝ってることだし」

 

 料理長もA班に混ざって竜田揚げを作り始める。

 彼とD班の半数は一番負担のかかる班の手伝いをする、補助の役割。

 D班のもう半数は他の所の手伝いに向かう。

 

 

 

「料理長、竜田揚げが出来ました!味見をどうぞ!」

 

 

 さっそく竜田揚げができたA班のスタッフの一人が料理長にそれを差し出す。

 油を切ってカラッと、きつね色に揚がった竜田揚げは綺麗に片栗粉の白と醤油の赤が混ざってとても美味しそうだ。

 

「見た目は良し。味は………」

 

 

 受け取り、料理長は一口齧る。

 パリッ!モニュ、モグモグモグモグ、ごっくん!

 

 

「うん!塩分や油分も控えめで美味しいよ。引き続き調理よろしくね」

 

「はい!」

 

 

 料理長は料理の味を確認する義務がある。

 体が資本であるウマ娘に下手な料理は出せない。

 レースで全力を尽くしてもらうため、味にも健康にも気を遣うのだ。

 

 

 そうして料理長は次々と出来上がる料理の味を確認し、ゴーサインを出す。

 

 だが、スイーツの番が回ってきたところで、続いていたゴーサインがピタリと止まる。

 

 

「プディングが甘過ぎる」

 

 料理長はスイーツ担当であるB班のプディングに不合格をだした。

 

 

「え?通常、プディングはこれぐらいの甘さで作った方が美味しいのでは?」

 

 B班は料理長がプディングを甘過ぎると言う理由が分からなかった。

 B班の彼としては、最適な糖度に仕上げたつもりである。

 が、料理長は横に首を振り、

 

「ヒトはそうでも、ウマ娘にとってこれは甘過ぎるんだ」

 

「ハッ!」

 

 B班の彼は、ウマ娘の味覚がヒトよりも鋭いことを失念していたのに気づく。

 自身の料理を食べるのが誰なのか、忘れてしまっていたのだ。

 

 

「それに、甘過ぎると糖分の摂りすぎで体重の増加やパフォーマンスの低下に繋がる。それはトレーナーもウマ娘も苦しむ結果になるかもしれないんだ」

 

「………申し訳ありません、料理長。私の配慮不足でした」

 

「いや、丁寧にプディングが作られていて美味しかったし、心を込めて作ってるのがわかったよ。ただ、俺達はウマ娘のために料理をしてるんだってことを忘れないでくれればいい」

 

「……っ! ………はい!」

 

 

 料理長の言葉を受けたB班の彼はすぐさま持ち場に戻り、再びプディングを作り始める。

 その顔はやる気で満ち満ちている。

 

 こうして、全員でウマ娘の朝食をひたすらに作り続けた。

 

 

 

 

 午前6時

 

 

 

「料理長!全部の料理が完成しました!」

 

「オッケー!時間も無いし、早くトラックに詰め込もう!」

 

 出来上がった料理をカフェテリア近くにある2つのトラックに詰め込む。

 中央トレセン学園は広大な敷地であるため、トラックを使わなければ、とてもじゃないがウマ娘二千人弱分の食事を寮まで運搬できないのだ。

 

 

「粟東寮へは俺が運転しとくよ、美浦寮へは君に頼んだよ」

 

 料理長は粟東寮へ向かうトラックに乗り込み、もう一方の美浦寮へ向かうトラックは運転のできるスタッフに任せる。

 指示を受けたスタッフは親指を立ててサムズアップしてみせた。

 

「任せてください!ぶっちぎりで早く届けて見せます!」

 

「………速く運転すると、料理が台無しになるからやめてね」

 

 

 朝食を載せたトラックはウマ娘の暮らす美浦寮と栗東寮のそれぞれに届けるために発進した。

 

 

 

 

 栗東寮の前で待っていたのはフジキセキと今日の当番の子達だった。

 

 

「朝食届けに来ましたー!」

 

 料理長はトラックを寮の前で止めて、窓を開けてそう言い放つ。

 

「うん、待ちかねていたよ」

 

 フジキセキと今日の当番の子達に料理を渡し、寮内の食堂まで運んでもらう。

 料理長達調理スタッフは寮内に入れないので、ウマ娘達に料理を運んでもらうしかないのだ。

 料理長は運び終わったのを確認し、寮長に一言。

 

 

「じゃあ、運び終わったみたいなので、自分はこれで」

 

「藤坂さん、いつも美味しい朝食ありがとう」

 

「いえ、これが自分の仕事ですから」

 

 

 そう言い残して、トラックに乗り込みカフェテリア近くまで帰った。

 まだまだ仕事はある。

 

 

 

 

 午前6時半

 

 

 

 

 料理長がカフェテリアにある厨房に戻ると、

 

「料理長!調理器具は全て洗い終えました!」

 

 戻ってきた料理長に気づいた調理スタッフの一人がそう報告してくる。

 実に手際が良い。

 

「わかった。今は昼食の仕込みをしている最中だよね?」

 

「そうです!」

 

 ここまで聞いた料理長は大きく息を吸い込み、

 

「昼食の仕込みが終わったら、各自4時間休憩をとるように!」

 

 と全員に指示を出した。その声は厨房の奥まで響く。

 

「「「了解です!料理長!!!」」」

 

 負けじと調理スタッフは一斉に返事をしつつも、昼食の仕込みを作る手を止めない。

 流石、頑固な前料理長に鍛えられてるだけはある。

 

 

 

 

 

 

 

 同時刻、美浦寮では………。

 

「フフッ、やっぱり和食が落ち着きますね♪」

 

 ご機嫌な笑顔を浮かべたウマ娘が自ら配膳した朝食を食べ、耳と尻尾を僅かに揺らしていた。

 そのウマ娘は栗毛の滑らかな長髪であり、前髪の一箇所に仄かに明るい小星が特徴的である。

 

 彼女の名は、『グラスワンダー』。

 

 チームリギルに所属し、これからG Iでの活躍が期待されているウマ娘。

 グラスワンダーはアメリカ生まれであるが、両親二人が和の文化に憧れをもっており、その影響を受けて育った彼女は生粋の大和撫子である。

 

 そんな彼女は、ここ最近の食事に和食が少ないことを少々不満に思っていたのだが、そこにきてサラダからデザートまで和食であると言える朝食を食べて、気分を良くしていた。

 

 彼女の配膳を見てみると、

 春菊としめじの煮浸し、ご飯、ワカメ豆腐味噌汁、竜田揚げ、鯖の塩焼き、白玉ぜんざい、緑茶がトレーの上に載せられいる。

 

 

 

「グラス〜、その配膳を見ると、しょっぱく見えるデェス…………」

 

 

 グラスワンダーの対面に座るのは、黒鹿毛の長い髪を一つにまとめた覆面ウマ娘。

 その名を、『エルコンドルパサー』。

 自身が世界最強であることを証明するために、日々努力するウマ娘だ。

 グラスワンダーとエルコンドルパサーは二人ともアメリカからの帰国子女、同室、同じチームリギルに所属しているという共通点があり、仲が良い。

 

 

 エルは同じ食卓で食べるグラスの食事がしょっぱそうに見えたことから、それを指摘する。

 

 

「一見、塩分が多いように見えますが、実はそんなにしょっぱくないんですよ。塩の加減が絶妙で美味しいです♪」

 

 料理に含まれる塩は素材の味を引き出す為だけに使われている分のみ。

 素材の味を活かし、深い味わいを作る。

 それこそが和食の繊細さであると、彼女は語る。

 

 グラスはこの料理に和食の繊細さを感じ、よりご機嫌そうなにっこり笑顔を浮かべた。

 

 

「へぇ〜、そうなんデスか? あっ、それじゃあ、もっと美味しくなるように、エルの家に伝わる秘伝ソースをかけてあげますデェェェス!!!」

 

 

 エルが懐から取り出したのは、瓶詰めされた真っ赤に燃える液体。

 見るからに辛そうなその液体は、辛さに耐性のある人間も跳ね上がる程の辛さを有している。

 

 

 エルコンドルパサーは大の辛党である。

 エルコンドルパサーの家族も辛党であり、家庭での料理は辛いものが多かった。その影響か、エルコンドルパサーは辛さこそが旨さであると本気で信じている。

 そのため百パーセント善意で、その秘伝のソースをグラスワンダーの朝食に躊躇なく振りかけようと手を伸ばす。

 

 

 が、次の瞬間、エルコンドルパサーの秘伝のソースをかけようとした手首がガシッと強く掴まれる。

 

 

 冷や汗をかくエルは掴まれた手の方をゆっくり見ると、そこには案の定ニッコリ笑顔を貼り付けたグラスがいた。

 ただし、さっきまでのご機嫌な雰囲気ではなく、纏っていたのは怒の感情。

 

 

「エ〜ル〜〜? あまりおいたがすぎると〜、タダでは済みませんよ〜」

 

 

 顔は笑っているのに、その目は一切笑っていなかった。

 

 

「ケッ! グ、グラス! 手首を握る力が徐々に強くなってます! いたたたたっ!」

 

 エルは手首の痛みに身悶えた。

 

「わ、わかりました! もう秘伝のソースは、かけませんデェェェス!!!」

 

 エルがそう言うと、グラスはあっさりと手を放す。

 

「エル、人の食事に断りなくソースを振りかけてはいけませんよ。自分にとっての美味しいは、他人にとっても美味しく感じるとは限りませんから」

 

「はい、ごめんなさいデス、グラス………」

 

 グラスが人差し指を上げて諭すと、エルは耳をシュンと垂れ下げて尻尾の元気をなくした。

 しなしなとしたその様は塩揉みされたキュウリのよう。

 

「今回はエルも反省しているようですし、許します。さ、冷めない内に食べましょう?」

 

 グラスにまたご機嫌な笑顔が戻った。

 

「グ、グラス………!」

 

 エルは許されるとは思っていなかった為、許してくれたことを嬉しく感じた。

 そして、懐から別の瓶を取り出し、グラスの前に掲げる。

 

 

「グラスが秘伝のソースをそんなに嫌がるのでしたら、辛さマシマシ!! エルの家に伝わる秘伝の粉をかけてあげますデェェス!!!」

 

「エ〜〜〜〜ル〜〜〜〜〜?」

 

「ヒィーーー!?」

 

 仏の顔は三度までと言うが、ウマ娘であるグラスは果たして何度までなのだろうか…………。

 

 エルの悲鳴がカフェテリア内に木霊した。

 

 

 

 

 午前7時半

 

 

 昼食の仕込みを終えて休憩時間に入る。

 休憩時間中は食事をしたり、散歩をしたり、運動をしたり、友達と電話やメールでやりとりしたり、趣味をしたりと、自由に過ごす。

 トレセン学園の料理人は激務であり、ストレスを抱え込みやすい。その分、休憩時間を多くとらなければ、人の体と心がもたないのだ。

 そうして、暫しの休憩をとった。

 

 

 

 

 

 午前10時

 

 

 

 

 休憩をとった後、厨房に集まり、昼の調理を始めた。

 ウマ娘はトレーニングが放課後にあるため、より高い栄養が必要だ。

 したがって、昼の時間のカフェテリアでは、ウマ娘が好きなものを食べられるように無料ビュッフェ形式を採用している。

 これが調理業務の中で最も重労働なのだ。

 

 

 

 

「サラダ用にトマト、ニンジン、キュウリ、レタスがそれぞれ150キログラムずつ。肉料理用に牛肉、豚肉がそれぞれ500キログラムずつ。デザート用に卵600個、牛乳と生クリームがそれぞれ100Lずつ…………うん、全部の食材が問題なく届いたね!」

 

 

 料理長は厨房に仕入れた食材が届いているのを確認する。

 トレセン学園では、消費期限が短い食材は昼に仕入れる。

 これだけ多くの食材を用いて、多くの料理を作り続けなければならない。

 これが、トレセン学園の料理人は激務であると言われる理由の一つである。

 

 

 

 

 午後0時半

 

 

 

 ウマ娘達は午前の授業が終わり、お腹を空かせてカフェテリアに向かう。

 腹を空かせてやつれたその様は、まるでゾンビのよう。

 そして遂に、芦毛のウマ娘と黒鹿毛のウマ娘がカフェテリアに足を踏み入れた。

 

「料理長、緊急事態です! 対象OとSが現れました!!!」

 

「わかった、みんな『フォーメーションA』をとるんだ!!! 絶対に料理を絶やすなっ!」

 

「「「はい、料理長!!!」」」

 

 

 『フォーメーションA』とは、

 人よりもよく食べるウマ娘の中でも特に大食いなウマ娘がカフェテリアに現れた時に発動する特殊な役割分担のこと。

 

 普段は全調理スタッフが得意分野毎に班分けされているが、この『フォーメーションA』では、大食いウマ娘に料理長を含む調理スピードの早い調理スタッフの大半がかかりきりになる。

 それだけ、大食いウマ娘は食べるということの証左なのである。

 

 

「すまない、ニンジンハンバーグを百五十人前貰えないか」

 

「すみませーん!ニンジンハンバーグ六十人前ください!」

 

 

 すぐに厨房のカウンターまで来た大食いウマ娘二人は近くにいた調理スタッフに注文をした。

 ビュッフェ形式とは言え、冷めると美味しくない料理は厨房にオーダーを入れることになっている。

 

 

「ニンジンハンバーグの人参が刺さった方と、刺さってない方のどっち——」

 

「人参が刺さった方を頼む」

 

「人参が刺さってない方をお願いします!」

 

 

 二人は解答は食い気味だった。

 その目は捕食者の如き眼光を湛えており、注文を受けた調理スタッフはブルリと体を震わしてしまう。

 

「お、オーダー入りました! ニンジンハンバーグ百五十人前と改良型ニンジンハンバーグ六十人前です!」

 

 改良型ニンジンハンバーグとは、ニンジンをミキサーで撹拌した後、よく濾して滑らかにしたものをハンバーグのタネに加えたもの。

 料理長考案の食べやすく美味しいニンジンハンバーグだ。

 

「「「了解!!!」」」

 

 

 料理長と肉料理担当のスタッフは先ほど作っておいた二週類のハンバーグのタネを成形し、焼く。

 しっかり中まで焼けたら、ニンジンハンバーグを皿に移す。

 その繰り返し。

 

 それから少しして………。

 

 

「どうぞ、六十人前改良型ニンジンハンバーグです」

 

 ドンッ! とカウンターに置かれたのは、人が両手で抱えるぐらい大きい皿に載せられたソースたっぷり改良型メガニンジンハンバーグであった。

 その絶景に対象Sは目を輝かせた。

 

「わあぁー! なまら美味しそうだべ! ありがとうございます!」

 

 彼女は満足げにヒョイっと軽そうに受け取り、彼女の友人達の座る席についた。

 

 

「………」

 

 対して、対象Oは静かに待った。

 沈黙。仁王立ち。

 最近になって自分の食べる量が他のウマ娘とは格段に違うことを自覚し、すぐには頼んだ料理が来ない事を理解しているからだ。

 

 

 

 料理長達はその圧巻の様にビビりつつ、百五十人前のハンバーグを焼いたら、

 最後に、茹でて柔らかくなったニンジンをそのハンバーグの頂点に突き刺さして完成させた。

 

「お待たせしました。150人前のニンジンハンバーグです」

 

 

 厨房のカウンターに注文された料理をドンッ!!! と置く。

 もはや地響きの音。

 そのニンジンハンバーグは料理を注文したウマ娘よりも高く、厨房のカウンターギリギリの横幅を有していた。

 

「おー、凄く美味しそうだ。これならば、私も足りるだろう」

 

 ジュルっと口から出そうになった涎を抑えて、対象Oも満足げに空いてる席に向かった。

 

 その二人が去り、厨房内に安堵感が充満した。

 

「フゥー、今日も何とか修羅場を潜り抜けられたよ………」

 

 料理長はホッと息を吐く。

 

「ここがいつも一番忙しいですからね………」

 

 近くにいた調理スタッフも同じ気持ちであった。

 

 安心した所で、皆フォーメーションAを解き、平常運転で他のウマ娘達の昼食を作り続けた。

 

 

 

 

 昼食を作る中で、料理長はビュッフェのデザートコーナーでパフェを迷わしげに見つめるやや紫がかった芦毛のウマ娘が目に入る。

 彼女はしばらくデザートコーナーにいたが、やがてかぶりを振って、名残惜しそうに度々振り返りながらその場を去っていった。

 

 

(減量、なのかな……ああいう子でも食べられるスイーツかぁ……)

 

 

 料理長はその芦毛のウマ娘がやけに印象に残ったまま、調理を続けるのであった。

 

 

 

 

 午後1時半

 

 

 

 

 昼食の時間が終わり、休憩時間に入ると料理長の背中に声が掛かる。

 

 

「アンタが新しい料理長か?」

 

 

 料理長は自身を呼んだ人物の方に振り返る。

 するとそこには、身長180センチはある背の高い男がいた。

 

 その男は、癖毛を後ろでまとめて一つにし、左側頭部を刈り上げた髪型に、顎に無精ヒゲを生やしている。オマケにキャンディーを口に咥え、フランクそうな印象だ。

 

「ええ、そうですよ。あなたは?」

 

「俺は沖野って言うんだ。ここでチームスピカのトレーナーをやっている」

 

 男は自身を指差してそう言った。

 

 

(確か、沖野トレーナーはここ最近急成長を迎えたチームスピカのトレーナーで、ウマ娘の自主性を重んじる考えの持ち主だったかな)

 

 

「アンタにはスペとスズカが世話になったな」

 

 沖野トレーナーはチームスピカのメンバーであるスペシャルウィークとサイレンススズカが料理長に夕食をご馳走させてもらっていたことを知り、お礼をしに来たのであった。

 

「いえいえ、あの子達には試作品を食べてもらったので、むしろこちらが感謝したいくらいですよ」

 

 料理長は謙遜したように見えるが、この言葉は本心からの言葉であった。

 

「アンタは良い奴だな」

 

 沖野トレーナーはその料理長の言葉が本心である事を見抜いた。

 人の本質を見抜く力が飛び抜けている、流石トレーナーである。

 

 

「料理長、そんなアンタを信頼して、折り入って頼みがある」

 

 先ほどのフランクな雰囲気から、沖野トレーナーは真剣な表情で話を切り出した。

 

「はい、なんでしょうか?」

 

 料理長もその沖野トレーナーの様子から、余程重要な話であるのだろうと思い、背筋を伸ばした。

 

 

 すると突然、沖野トレーナーは手を顔の前で合わせて、

 

 

「マックイーンに太らないスイーツを作ってやって欲しいんだ!」

 

 

 と、そうお願いしてきた。

 

 

 

 後編に続く………。

 

 

 

 

 

 

 

 






 カロリーは熱に弱いので、火を通せば0カロリーですわ!
 パクパクですわ!

 *そんなことはありません。

 料理の知識とかコメントしてくれたら、助かるのでごじゃる。
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