トレセン学園の料理長   作:砂糖と蜂蜜の牛乳割り

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 皆さんお待ちかねのパクパクです。
 それとストックが切れそうなので、投稿頻度が少し落ちますわ。
 まあ、執筆スピードが以前とは段違いなので、大丈夫でしょう。
 書くよりも、調べる時間の方がかかるんですよね。
 そんなわけで、ここ「トレセン学園の料理長」に書かれてある料理の知識はマジです。

 小説も読めて、料理も学べて一石二鳥だね! ラッキー!




料理長の一日 後編 ~低カロリーメロンパフェ~

 

 

 〜前回のあらすじ〜

 

 昼のカフェテリアで、ビュッフェの仕事を終えた料理長。そこに突然、チームスピカの沖野トレーナーが現れ、料理長にメジロマックイーンの為に太らないスイーツを作ることを頼んできたのであった。

 

 

 ♦︎

 

 

 

 沖野トレーナーは手を顔の前で合わせ、不安げな表情を浮かべたまま、料理長の返答を待った。

 一方で料理長は、担当ウマ娘の為なら自身の頭を下げることも厭わないその真摯な姿勢に尊敬の念を覚えていた。

 

 

(担当ウマ娘のことをこんなにも想っている人を無下にはできないな……。それに、俺としても困っているウマ娘を放っておけないし)

 

 

 料理長の気持ちは決まっていた。

 彼はウンと一つ頷き、

 

「わかりました。メジロマックイーンさんに太らなくて、美味しいスイーツを作らせてください!」

 

 沖野トレーナーの両手を取ってそのお願いを快く引き受けた。

 料理長の目には火がつき、やる気は満々。

 それを聞いた沖野トレーナーの顔は先程の不安そうな表情と打って変わって、なんともまぁ嬉しそうである。

 

「ホントか!? うわ、マジ助かるわ! ありがとな!」

 

 沖野トレーナーはここ最近の悩みが晴れそうであることから、嬉しさとホッする気持ちの両方を感じていた。

 これで、マックイーンに甘いものを我慢させず美味しいスイーツを食べさせてやることができる、と。

 担当ウマ娘のことを何よりも大事に想っている沖野トレーナーにとっては、担当ウマ娘にスイーツを我慢させてストレスをかける今の状況は好ましいものではなかったからだ。

 

 

「それにしても、太らないスイーツ……ですか。うーん、まあアレが良いでしょう」

 

 

 料理長にはアテがあった。

 以前いた地方トレセンでも大好評で頻繁に作っていたとっておきが。

 

 

「もう決まったのか? 早いな。で、何を作るんだ?」

 

「それは—————

 

 料理長と沖野トレーナーはごにょごにょと話して、

 

「————-というのを作ろうとしてるんです」

 

「なるほどなぁ。それならマックイーンも満足してくれるな!」

 

「それじゃあ、今からその太らないスイーツを作ります。4時には出来上がっていると思うので、その時にはメジロマックイーンさんと一緒にカフェテリアに来てくださいね」

 

「わかった。放課後にすぐ連れて来るよ。マジでサンキューな!」

 

 沖野トレーナーは料理長に感謝し、カフェテリアから走り去っていった。

 

「さてと、調理を始めるとしますか」

 

 

 それを見届けた料理長はそう一言呟き、冷蔵庫から食材を取り出して太らないスイーツ作りを始めた。

 

 

 

 

 午後4時。

 やや紫がかった芦毛のウマ娘が沖野トレーナーに連れられてカフェテリアに姿を現した。

 

「トレーナーさん、ここに私を連れて来てどうなさるおつもりで? 今の私はレースの為にも食事制限をしているのですが………」

 

 その芦毛のウマ娘の名は、メジロマックイーン。

 無尽蔵のスタミナを持ち、GI の長距離路線を駆け抜ける『史上最強のステイヤー』と呼び声高いウマ娘だ。

 そんな彼女も今は少し困惑した様子で、やや眉を落としている。

 

 

「まあ、いいからいいから」

 

 先程から沖野トレーナーはこうして訝しむマックイーンを宥め、どうやら何の説明もなくカフェテリアまで連れて来たようである。

 彼はこれからマックイーンが喜ぶ姿を目に浮かべているのだろう。その顔はご機嫌そうにニコニコしていた。

 

 二人は厨房前まで来ると、そこには料理長が待ち構えており二人を迎え入れる。

 

「沖野トレーナー、お待ちしていましたよ。それで、そちらの方がメジロマックイーンさんですね」

 

「そうだ、コイツがマックイーンだ」

 

「トレーナーさん? こちらの方は?」

 

 マックイーンはカフェテリアで待ち構えていた人物が誰であるかを、知り合いであろう沖野トレーナーに尋ねる。

 一瞬、尋ねられた彼は不思議そうな顔をしたが、すぐに彼女が知らないのだということに気づいた。

 

「……ああ、そういえば、まだ就任したばっかで知らない奴の方が多いか。こちらはだな、料理長だ」

 

 紹介され、料理長は軽く会釈をする。

 

「ここのトレセン学園で料理長を務めさせてもらってる藤坂だよ。よろしくね」

 

「私はメジロマックイーンと申します。

 改めましてよろしくお願い致します、料理長さん」

 

 困惑していたメジロマックイーンは、それでも礼儀正しく挨拶をする。メジロ家たる者どんな状況であろうとも、礼節を欠くことなどないのだとその仕草が物語っているようだ。

 

 

「料理長、例のものを頼む」

 

 自己紹介を終えたタイミングを見計らい、沖野トレーナーは早速料理長が準備していたものを出すようにお願いする。

 

 

「わかりました。席に着いてお待ちを」

 

 料理長はその沖野トレーナーの言葉に頷き、料理を持ってくるべく、厨房に向かった。

 

「トレーナーさん、例のもの……とは?」

 

「まあ、これから持ってきてくれるんだ。それまで待ってくれ」

 

「もうっ、さっきからそればっかりではありませんか! 折角作って頂いたお料理を残せば、藤坂さんにご無礼を働くことになるんですのよ!」

 

「いや、マックイーン。今のお前に食べられる料理なんだ」

 

「それは一体どういう——」

 

 

「仕上げが終わりました! すぐにそちらに持っていきますね」

 

 マックイーンが沖野トレーナーに問いただそうした時、ちょうど良く、料理長はすぐに戻ってきた。

 その両手には銀色に光る大きいフードカバーを載せた皿が。きっと、そのフードカバーの中に料理が入っているのだろう。

 その二つの皿をマックイーンと沖野トレーナーの前に料理長はそれぞれ一つずつ置いてゆく。

 

 

「ん? 俺もか?」

 

 沖野トレーナーとしては、マックイーンだけの為に用意してもらった料理であるので、自分の前にその料理が置かれたことを意外に思う。

 

「はい、是非。実際に味わってみて、トレーナー視点でこの料理があなたの担当ウマ娘に相応しいか判断してください」

 

「まあ、そういうことなら、いただくか」

 

 沖野トレーナーは料理長の言い分に納得し、その料理を食べることに。

 

「はあ………」

 

 一方で、マックイーンはため息を吐く。

 その表情は、何が面白くて美味しそうな料理を食べずにただ眺めるだけのことをしたいのか、と語っているように見える。

 あまり期待はしていなかった。

 

 

「では、フードカバー外しますね」

 

 料理長は二人の皿の上に載せられたフードカバーを外す。

 そして現れたスイーツに二人の目は釘付けとなる。

 それには引力があった。人をどうしようもなく魅了し、惹きつける引力が。

 

 そのスイーツは曇り一つない綺麗なグラスに収められており、下層の穢れを知らない真っ白なババロアと上層のやや透明感のある翡翠色のメロンゼリーの二層に分かれ、美しい乳白色のアイスクリームとその上のクリームにミントがその二層の上でデカデカとした存在感を示し、更に、アイスクリームの側に飾られた3つの小さいボール状にくり抜いたメロン、くし形に切られたメロンが豪勢な雰囲気を放つ、実に美味しそうなメロンパフェであった。

 

 その輝かんばかりのメロンパフェに魅入られつつあるのか、マックイーンは思わずゴクっと喉を鳴らした。

 

 

(ああ! なんて美味しそうなメロンパフェ! ……少しだけなら、頂いても……いえ! いけませんわ! 私はメジロ家の令嬢としてレースの場で恥を晒してはなりませんもの!)

 

「申し訳ありませんが、このメロンパフェを頂くことはできませんわ……私、今は糖質や脂質を制限しておりまして……」

 

 

 マックイーンは料理長が作ったメロンパフェの高カロリーそうな見た目に否定の構えをとった。

 我慢しているのだろう。目をぎゅっとつぶり、その手は強く握りしめられている。

 通常、メロンパフェに使われているのはアイスクリームや生クリームといった糖質と脂肪の塊である。レースに向けて体を作っているメジロマックイーンには食べられたものじゃない。

 だがそれは〈通常〉のメロンパフェであればの話。

 

 申し訳なさそうにウマ耳を垂れ下げるマックイーンに、料理長はニコリと微笑んで銀色の匙を差し出した。

 

「いや、これは糖質や脂質が少なくて、低カロリーメロンパフェとなってるから、安心して食べられるよ」

 

 

 クリーミーな見た目のメロンパフェであるはずなのに、彼はそのメロンパフェをあくまでも低カロリーであると言う。

 その言葉に、マックイーンの鋼の意志は遂に揺らいだ。

 

 

「………そ、そこまでおっしゃるのでしたら、いただきますわ。食べなくては勿体ないですもの。そう、これは致し方なく……」

 

 

 彼女は震える手でもって匙に手を伸ばす。

 目の前には瑞々しく、美味しそうなメロンパフェ。

 低カロリーという免罪符つきのメロンパフェ。

 人間、誘惑には弱いものだ。

 

 

「よし、俺も食べるとするか!」

 

 

 沖野トレーナーもそう決心し、匙を手に持つ。

 

 

「ああ! 綺麗に球体にくり抜かれたメロンと二層のグラデーションが美しいですわ!」

 

「食べるのが勿体ないくらいだな……」

 

 二人は匙を持ったのは良いものの、その芸術的なメロンパフェを匙で傷つけるのを勿体なく感じていた。

 十秒ほどそうしていたので、料理長は

 

「食べてもらえないと、これは廃棄処分になるなー」

 

 棒読みで、わざとらしく惚けてみせる料理長。明らかに二人の食事を促すためのもの。

 しかも言っていることは本当であるため、なおタチが悪い。

 二人は捨てるぐらいならと、覚悟を決めた。

 

「それはいけません! 私が食べてあげなくては!」

 

「食べない方が勿体ねぇか……」

 

 二人は先ず、匙でアイスクリームを削り取って、口の中に運んだ。

 その瞬間、ふわり。

 口の中でアイスクリームが瞬く間に溶け、後にはスッキリとした味わいのみが残る。

 そうした初めての感覚に、二人は目を大きく開けて驚く。

 

 

「あら、さっぱりしていて、美味しい……いつものアイスクリームとは何か違いますわ」

 

「ああ、くどいクリーミーさを感じないな。それとやっぱり、牛乳の風味とは違う感じだ。このアイスクリームにはアレを使ってるからなぁ……」

 

 沖野トレーナーが訳知り顔をしている一方で、マックイーンはアイスクリームの味に違和感を覚えた。

 

 あまりにもアッサリとし過ぎているのだ。

 通常のアイスクリームであれば、クリームの濃厚な風味がしばらく舌に残り続けるが、これは一切そういうことがない。

 まるで魔法をかけられたような不思議な体験である。

 

「各部位を一通り食べてみてくださいね、それでこのメロンパフェが普通のメロンパフェと、どう異なるのかわかりますので」

 

 料理長にそう言われ、では他の部分も確かめるようと次のアイスクリームの上に載った、ふわりとした白いクリームを掬い取って食べてみる。

 すると、これもまた不思議だった。

 

「このクリームは牛乳の味がハッキリありますわね、先程よりもコクを感じる味わいですわ」

 

「それと、普通のクリームよりも食感がつるんとしてるな……なるほど、こうなるのか」

 

 そのメロンパフェはあらゆる部位が摩訶不思議。

 冒険心をくすぐる味わいに、二人は次は次はと匙の動きが少しずつ速くなっていく。

 

「クリーミーな味からのジューシーで爽やかな甘味のメロンゼリーがたまりませんわ!」

 

「メロンゼリーも美味いが、下のババロアも美味いぞ! 滑らかな食感に牛乳の濃厚な味を感じるな!」

 

 

 と、二人がメロンパフェを一通り味わった所で、料理長は再度口を開く。

 

「そろそろ、ネタばらしの時間かな?」

 

 メロンパフェに何が使われているのかを、教える時がきた。

 

「ああ、そろそろマックイーンに教えてやってくれ」

 

 沖野トレーナーはワクワクした様子。

 よほどマックイーンの驚く顔が見たいらしい。

 

「そ、そうですわ! この美味しいメロンパフェがどうして低カロリーなんですの? そこが気になります!」

 

 メロンパフェに魅了されていたマックイーンは目を覚まして、その免罪符がどうして免罪符足りうるかについて問う。若干、真実を知るのが怖くもあったが。

 

 

 とりわけ秘密という訳でもないので、呆気なく料理長はそれに答える。

 

 

「そのアイスクリームには牛乳の代わりに豆乳を、クリームとババロアには生クリームの代わりに水切りヨーグルトを使ってるんだ」

 

「そ、そうだったんですの!?」

 

 それを聞いたメジロマックイーンは耳と尻尾を真上に上げ、驚いた。

 

 先ほどのアイスクリームを食べてみれば、通常のアイスクリームと味が異なっていると分かるが、それでも美味しさは全然劣っていない。むしろ、そのスッキリとした味わいの方が好ましいと言う人もいるだろう。

 

「このアイスクリームには豆乳が使われていたのですか!?」

 

「うん、豆乳は牛乳よりも脂肪分が少なくて、何よりもタンパク質が豊富なんだ」

 

「タンパク質を多く摂ることで筋肉を育て、代謝を上げるんだよな?」

 

 事前に教えられていた沖野トレーナーはそう確認し、料理長は頷く。

 

「そうです。メジロマックイーンさんはステイヤーとはいえ、筋量が少々足りていないように見えましたので、タンパク質の摂取が足りていないのではと考えてアイスクリームに豆乳を使いました」

 

「そうなのですか? 私は常日頃から自身の栄養管理をしっかり行なって、レースに向けての身体作りをしているのですが……」

 

 筋肉が足りないと言われ、日頃頑張っているメジロマックイーンは少し不服そうな様子。

 

「その栄養管理ってどんな?」

 

「一般的なウマ娘のアスリートの食事を基準に作っておりまして、糖質と脂質をあまり摂らない食事ですわ」

 

「やっぱり、そっか……マックイーンちゃん?」

 

「はい」

 

「その栄養管理では〈逆効果〉だよ」

 

「そ、そんな筈ありませんわ! アスリートの———プロの実践している食事ですのよ! しっかりと私の成長に繋がっているはずですわ!」

 

「いや、逆効果なんだ。その食事では、糖質と脂質、何よりタンパク質が成長期であり、筋肉を増やす必要があるマックイーンちゃんには少ないんだ」

 

「料理長の言う通りだ、マックイーン。お前の食事には必要な栄養が足りていない。お前の言うレースに向けての身体作りに必要な栄養が」

 

「そ、そんな……」

 

 マックイーンはショックを受け、項垂れた。

 耳と尻尾の起伏が激しく、忙しない。

 料理長だけでなく、沖野トレーナーにも自分の献立表にダメ出しされてはどうしようもなかった。彼らはその道のプロなのだから。

 

「これを機に献立表の見直しをしよう。俺と沖野トレーナーが全力でサポートするから。ね、そうでしょう? 沖野トレーナー」

 

 落ち込んだ様子のマックイーンに、料理長がすかさずフォローを入れ、沖野トレーナーにも同意を求める。

 

「おう! マックイーンがもっと速く走れるようにトレーニングに合わせる形の献立表を作るぜ!」

 

 沖野トレーナーは任せろとばかりに、自身の胸を叩く。

 その二人の様は実に頼もしくマックイーンには映った。

 

「料理長さん、トレーナーさん……! はい……! よろしくお願いいたしますわ!」

 

 フォローのおかげでマックイーンは俯いていた顔をあげ、その表情を晴れやかな笑顔にさせた。

 料理長はその様子に安堵し、メロンパフェを勧める。

 

「食事の最中に邪魔してごめんね。さ、アイスクリームが溶けない内にメロンパフェを早く召し上がれ」

 

「わかりました! 私の為に調理なされたメロンパフェ、ありがたく頂きますわ!」

 

 マックイーンはパクパクといった擬音が似合う食いっぷりを見せる。

 それを微笑ましく思うと同時に、はたと料理長は人差し指を一本立てて、

 

「ああ、それと、分かってはいると思いますが一応言っておきますね。いくら低カロリーなメロンパフェでも、食べ過ぎれば体重の増加に繋がるので、くれぐれも食べ過ぎてはいけませんよ」

 

 その注意に、ギクゥッ! とマックイーンの肩が跳ねた。

 慌ててマックイーンは口の中のクリームを飲み込み、ウンウンと思いっきり首を縦に振る。

 

「も、勿論です! メジロ家のウマ娘たる者、一時の誘惑に負けることはありません! そう! 決してありませんわ!」

 

 図星だったのか、その顔は赤く、声は少しだけ吃っていた。

 どうやら、太りにくいメロンパフェであることを良いことに、沢山食べるつもりでいたらしい……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 久方ぶりのメロンパフェを堪能しきり、

 普段の落ち着きを取り戻したマックイーンは料理長に頼み事をしてきた。

 

 

「あの、このメロンパフェを夕食にお出しできませんか?」

 

「ん? どうしてだい?」

 

「私の他にスイーツを我慢している皆さんにもこのメロンパフェを食べて頂きたいのです」

 

 マックイーンだけでなく、太ることを理由にスイーツを食べられずにいるウマ娘は少なくない。彼女はこの低カロリーメロンパフェを食べ終え、そんなウマ娘を自分と同様に救えたら、という願いが芽生えていた。

 

「どうかお願いします……」

 

 必死な様子で顔の前で手をあわせ、頼み込むマックイーン。

 そのお願いをする様は何処かで……。

 

(ああ! 沖野トレーナーの時と同じだ! トレーナーと担当ウマ娘は似ると言うけど、アレ本当だったんだ……。こうしてお願いをするポーズなんか一緒だもんなぁ)

 

 そのことがおかしく思えたのか、クスッと笑ってしまう料理長。

 

「な、何かおかしい所でも!?」

 

 一生懸命にお願いをして笑われたのだ、少し恥ずかしいのか顔をほんのり赤くし、料理長に自分に変な所があったのかと訴えかけるマックイーン。

 そういった反応がより料理長のツボだった。

 

 

「いや〜、ごめんごめん。何もおかしくないよ。で、そのお願いの答えなんだけど、快くその申し出を引き受けることにしたよ」

 

 

「えっ! 引き受けてくださるのですか! ありがとうございます……!」

 

 まさか本当に願いを聞いてくれるとは思わなかったのか、マックイーンはホッとした様子で胸を撫で下ろした。お願いを聞いて貰った時のホットした様子もよく似ている。

 

 

「オイオイ、今から作って間にあうのか?」

 

「ええ、間に合いますよ。自分一人で作るわけではありませんから」

 

 

 料理長は自身ありげに頷くと、厨房の方に目を向けた。

 すると、そこには休憩時間を終えて夕食の準備をし始めている調理スタッフ達が。

 料理長含む三人の一部始終を見ていた調理スタッフ達は、料理長とアイコンタクトし、すぐに意思疎通をする。数々の修羅場を共に乗り越え、料理長と調理スタッフ達は確かな絆を育んでいたのだ。

 

 

「料理長! 私達A班にお任せ下さい!」

 

「料理長! A班でなく、このB班を!」

 

「料理長! C班はスイーツが大得意です! いつでも準備は出来ております!」

 

「じゃ、じゃあ……D班もお手伝いしますよ、料理長?」

 

「「「どうぞどうぞ」」」

 

「ハメやがったなぁ!?」

 

 見事に他の班にハメられたD班。A、B、C班はいずれもニチャアとした悪そうな笑みを浮かべていた。いつもの悪ノリである。

 

「漫才してないで早く作るよ、D班」

 

「料理長まで!?」

 

「冗談だよ、C班とD班の半分ずつが俺の手伝いね、手伝いが終わったら、元の班に戻って調理をお願い。A班とB班は通常通りに」

 

「「「「はい! 料理長!!!」」」」

 

 料理長の呼びかけで、おふざけも終わり、料理長達は調理にかかるのであった。

 

 

 

 

 

 

 午後7時

 

 各寮内の食堂にて。

 お腹を空かせたウマ娘二人組——スペとスズカは自分自身の夕食の配膳を行なっていた。

 

「スズカさん! これを見てください!」

 

 スペが指差すのは[低カロリーメロンパフェ! 旬の九州産メロンを使ってジューシー!]と書かれた用紙が貼られているデザートコーナー。

 

 そのデザートコーナーで例のメロンパフェが一際存在感を放っていた。

 

「低カロリーメロンパフェだそうですよ! 私もカロリーを気にせず食べられます!」

 

 そう言って、スペは低カロリーメロンパフェを手に取ろうとしたところで、「スペちゃん……」と、彼女のお目付役であるスズカの待ったが入る。

 

「な、なんですか、スズカさん……メロンパフェに何か問題が……?」

 

「いえ、食べても良いのだけど……一応、低カロリーでもカロリーはあるのよ。くれぐれも食べすぎないようにね」

 

 スペの物言いに不安を覚えたスズカの注意を受け、スペは挙動不審の権化と化した。

 

「も、ももも、もちろん、知ってましたよ! 知らないなんてことある訳ないじゃないですか! 私、日本一のウマ娘になる為に食事にも気をつかってますから!」

 

 スペは苦しい言い訳をし出したが、目が左右に泳いでいるし、声まで吃っている。間違いなく低カロリーであれば太らないと考えていたのだろう。サイレンススズカが注意しなければ、多くのメロンパフェが犠牲になっていたに違いない。

 

 

 

 

 低カロリー高タンパク質なメロンパフェは他のウマ娘にも———

 

「うわ! このメロンパフェ! 高タンパク質な上に美味しい! これは筋肉が喜びそうだよ! ね、アイネス!」

 

 筋肉トレーニングが大好きなメジロライアンにとって、低カロリーかつ高タンパク質なそのメロンパフェは好物になりつつあった。

 

「うん、美味しいの! これで次のレースにも頑張れるの!」

 

 対するアイネスフウジンはメロンパフェを食べながら、ほっぺたが落ちないように頬を手でおさえている。

 

 親友である二人は夕食を共にし、最後にデザートとしてこのメロンパフェを頂いているのだ。彼女達の空間には満足感で満たされていた。

 

 

 多かれ少なかれ、沖野トレーナーのお願い事で始まったこの低カロリースイーツはウマ娘達に喜ばれることになった。

 

 

 

 

 

 午後8時

 

「営業時間は過ぎたし……終わりにしよっか」

 

 料理長は調理スタッフ達に営業終了の合図を送る。

 

「「「り、了解……です〜」」」

 

 調理スタッフの普段キレのある返事はもうない。

 全ての業務を終えた料理長と調理スタッフ達は自身の家——と言っても寮だが——へと帰る。

 

 その足取りはゾンビのように遅く、今日一日の疲労を感じさせた。

 お疲れ様である。

 この時ばかりは広場にある三女神像も彼らのことを労わるように慈しみのこもった瞳で見つめているかのようだ。といっても、明日も慈悲などなく業務が続くのだが……。

 

 

 

 

 午後9時

 

 

 家に帰った料理長こと藤坂 蒼斗は一通りの家事や寝る準備を終え、一息つく。

 

「ふぅ〜、今日も一日頑張ったぞ! うん、まんぞく、満足!」

 

 藤坂は一日の仕事を終え、寝る前に必ずこの言葉を放つ。

 人は単純なことに、言葉にすることで思い込むもの。言葉にする事で彼は自分自身を労っているのだ。

 多忙精神の崩壊を未然に防ぐ役割もあったりするらしいが……。

 

 

 

 ブ、ブーッ! ブーッ!

 

 藤坂がそうしていると、俄かに彼の携帯電話が鳴る。

 

「ん? 誰——げっ」

 

 携帯電話の画面を見れば、電話発信者は、ハヤトと表示されていた。

 藤坂と、腐りきったマダラ模様の目立つ青カビチーズのような縁を持つ友人だ。

 

「もしもし?」

 

「おう、生きてたかっ。オレオレ!」

 

「オレオレ詐欺の方ですか? 可哀想に、時代に取り残されてしまったホルマリン臭いシーラカンスのようですね。今はワシワシ詐欺の時代ですよ」

 

「ほう……日本じゃそんな詐欺なんて流行ってんのか。アメリカも派手だが、そっちもそっちで楽しそうだな。俺も混ぜろ」

 

「……君って本当に嫌味も皮肉も通じない、凄い人だよね」

 

「俺は宇宙一だからな。何者も俺には敵わん」

 

「はぁ……ところで、何の用だい? 君から電話かけてくるなんて珍しいね」

 

「藤坂、お前が中央トレセン学園に料理長として配属されたと聞いて、言っておかねばならんことができた」

 

「まさか、また君の為に料理を作れとか?」

 

「いや、そうじゃない。俺、トレーナーになるわ」

 

 呆気なく告げられた事実に、藤坂は電話越しで目を剥く。

 

「え? ええええぇぇぇ!? 陸上競技で大活躍してたのに何でまた!?」

 

「まあ、向こうじゃ張り合える相手も居なくなったし、なら次は育てたウマ娘と競えば退屈しねーだろ? ちょうどスカウトもあったしな」

 

 彼の目的は、とにかく速くなること。

 どこまでも速く走るのがワクワクしてたまらないのだ。

 

「ねえ、知ってる? トレーナーってウマ娘と競い合う職業じゃないんだよ?」

 

「それは、わかっている。わかっているとも。トレーナーっつうのはアレだろ? ウマ娘を鍛え上げて、自分とどっちが速いか白黒ハッキリ決める職業だろ?」

 

「全ッ然わかってないじゃないか! そもそも、ヒトとウマ娘の足の速さを比べるべきじゃないの! そっちも相変わらず、速く走ることしか考えてないようだね!」

 

「んじゃ、そんな訳でそっちのトレセン学園でトレーナーする事になったから宜しくな〜」

 

「ちょっ!? 待って!」

 

 料理長の静止の声も虚しく、プツッと電話が切れてしまった。

 

「まったく相変わらず人の話を聞かないで………はあ、まあいいか。明日も早いし、もう寝よ……」

 

 妙に疲れた藤坂はそのままベッドに入り、一日を終えた。

 

 

 翌日には、噂を担当ウマ娘から聞きつけた女性トレーナー達にそのメロンパフェを強く所望され、カフェテリアで一悶着あるのだが、またそれは別のお話。

 

 

 

 






 最後のハヤトの会話はpixiv版とは、大きく異なります。
 料理長の友人ハヤトは、料理長と同じく主人公として扱います。
 そして、この小説は主人公が三人いる。
 この意味がわかるな?
 つまり料理長とハヤト、さらにもう一人主人公を残しているのだよワトソン君。
 ちな、犯人はヤス。

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