強くなりたければオラリオに行けば良い   作:はんふんふ

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第10話

 聖女(アミッド)を連れ立った行軍は、問題無く進んでいた。

 

 「そっち二体パープル・モス行ったぞ!」

 

 声を張り上げたのは、このパーティ唯一のレベル3の冒険者。

 彼は中衛にて一時的にリーダーを務め、的確に指示を飛ばす。

 

 「魔法準備出来ました」

 

 後衛の魔導士がそう言えば、すぐにGOサインを出し、パープル・モスを消し炭に変えた。

 

 「ウォーシャドウ3体、ニードルラビット5体、挟撃されます!」

 

 誰かがそう言えば、デモポンが飛び出す。

 

 「ウォーシャドウは任せて下さい!」

 

 駆け出したデモポンは、一体のウォーシャドウの側面に回り、勢いを殺すことなく飛び上がると、メタルブーツで首を蹴り飛ばし、着地と同時に後方に忍び寄っていたウォーシャドウを逆手に持った双頭剣で突き刺す。

 さらに双頭剣を引き抜くと、逆手のまま、眼前のウォーシャドウを切り裂いた。

 その動きは上層域のモンスター相手とは言え、見事なモノであった。

 デモポンがパーティに合流すると、アミッド以外の冒険者達が声をかける。

 

 「いやぁ、噂には聞いていたけれど、君強いな」

 「また強くなったのかよお前、もう先輩風吹かせられないじゃねぇか」

 「君、本当にヒューマンの子供なのか?小人族の大人がふりをしているってわけではないんだよな?」

 

 口々にそう言われ、デモポンは適当に会話をしながら隊列に加わるとアミッドはすかさずデモポンの体を触り始めた。

 これには周囲にいた冒険者も驚き、デモポンだけは少しだけ面倒くさそうにしていた。

 

 「アミッド……、大丈夫だって……」

 「……」

 

 ただアミッドは黙って黙々と触診を行うのみだった。

 一通り終わるとアミッドはスッと元の隊列の位置に戻っていく。

 周囲の冒険者達からは口笛などが鳴らされ、デモポンは弄られていた。

 デモポンはそれに嫌そうな顔をしつつも、どこか楽しそうである。

 アミッドはそんなデモポンを見て、思い出す。

 

 彼と初めて出会った時のことを―――。

 

 「包帯とハイポーション急いでッ!」

 「大丈夫、この程度なら切り落とさないで済みますから!」

 

 純白の神殿、そう形容されることもある広い部屋、神殿と言われているのは、そこが清い場所であることの証明、だが現実は戦場のような血と涙と悲鳴に満ちていた。

 

 「た、助けてくれ……」

 

 アミッドの目の前に冒険者と思わしき男が寝かされている。

 その寝かされた男が、少女に助けを求める。

 

 ベッドに寝かされる男の隣に並ぶ自身の腕と足を見ながら―――。

 

 男の容態は明らかな重体、意識があることが奇跡、この場合は気を失っていた方が双方にとっては救いだった。

 だが神の恩恵(ファルナ)を授かった人間は、強化される。

 それこそ進化したと言われるほどに、手足が吹っ飛んだくらいでは意識は途切れない。

 むしろ、死に掛けているなら足掻いて見せろと、それは神の愛なのかそれとも試練なのか。

 残酷なことには変わりない。

 アミッドは蒼白を通り越して血の気が失せ白くなった顔の表情が悲壮な物に変わることがないよう願いながら、震える手を翳そうと伸ばす。

 

 「い、癒し……の……」

 

 アミッドは喉が震えて声が出ない。

 汗は噴き出しているのに、声だけが出てこない。

 魔法の詠唱をすることが出来ない。

 アミッドの能面の様な表情に悲壮が浮かび、それを見た男が絶望の表情を浮かべようとしたとき、先輩の治療師(ヒーラー)がアミッドを強引に押しのけた。

 

 「変わって下さい!」

 

 先輩の治療師(ヒーラー)は、男の傷口の包帯を取り除き、強引に取れていた足と腕を合わせると回復薬を傷口に塗りながら詠唱を始めた。

 男が痛みに絶叫を上げる。

 アミッドはその叫びに耳を塞ぎ、せめて邪魔にならないようにと逃げることしか出来なかった。

 自室で小さくなるアミッド、ディアンケヒトファミリアの団長として期待されている想いが小さな肩に伸し掛かり、今にも潰されそうになっていた。

 その時、扉がノックされた。

 アミッドが返事を返す前に、扉は開かれる。

 

 「ここにいたのかアミッド」

 

 現れたのはファミリア主神のディアンケヒト、男神である彼は蓄えられた髭を撫でながら、不思議そうな顔をしていた。

 

 「どうしたアミッド、まだまだ患者はたくさんいるのだぞ?これらを全て癒し、我がファミリアがミアハのところより優れていると、都市内外に喧伝しなければならんだろう?」

 

 ディアンケヒトと言う神は、弱り果てた少女に向け平然とそのようなことを口にする。

 それはディアンケヒトがアミッドに団長と言う席を渡したことから分かる通り、彼女に期待しているからに他ならない。

 彼女はその願いから、治療師(ヒーラー)として優れた才能に恵まれていた。

 その才能とはアミッドに発現した魔法である。

 これを見たディアンケヒトは小躍りしてしまうほどだった。

 だが、アミッドの心は怯えていた。

 自身の手に人の生死が伸し掛かることに。

 だがアミッドは弱音を吐くことはしない。

 逃げたとしても、弱音だけは吐けなかった。

 

 「……は……い……」

 

 アミッドは吐き気を覚えながらも、震える足腰に力を入れて立ち上がる。

 そしてディアンケヒトの顔を見て礼をしてから、自室を後にしようとして呼び止められた。

 

 「ふむ、アミッド。今日は治療院の仕事は良い。他の者達で回すことが出来るからな」

 

 アミッドはこの時、安堵からか絶望からか、溜息が漏れ出そうになった。

 

 「お前には別の仕事を言い渡そう。デメテルのところから実入りの良い仕事の依頼があってな。お前にはそちらを任せることにする」

 

 アミッドは何のことかディアンケヒトの顔を見るが、彼はいつも通りの成金スマイルを浮かべていた。

 

 「相手はデメテルファミリアだ。金は腐る程持っているに違いない。搾り取れるだけ搾り取ってこい。わっははははは!」

 

 ディアンケヒトはそう笑いながら、アミッドよりも先に部屋を退室していった。

 アミッドは仕事の内容を聞くことを思い出したが、ディアンケヒトはもういない。

 出来るだけの準備はしようと、治療用の鞄を準備し、裏口に向かう。

 そこにはアミッドよりも少し年上の少女がいた。

 

 「わぁ、本当に可愛いね」

 「アナタは……?」

 

 アミッドがその少女に問うと、問われた少女はキョトンとしながら優しい水色をした髪を揺らして自己紹介をした。

 

 「私の名前はアーディ・ヴァルマ、品行方正でガネーシャファミリア団長のシャクティお姉ちゃんの妹でレベル3の冒険者だよ。じゃじゃ~ん!」

 

 そう言いながら万歳したアーディに、アミッドは冷静に返す。

 

 「ディアンケヒトファミリア団長のアミッド・テアサナーレです。よろしくお願いします」

 

 アミッドが行儀良くお辞儀すると、アーディはうんうんと頷いた。

 

 「噂には聞いていたけど、アミッドちゃんは本当に綺麗だね!」

 

 ハイテンションで言葉を紡ぐアーディに若干気押されながらも、アミッドは仕事内容のことを聞いた。

 

 「あぁそうだった。詳しい話は道中で良いかな?一先ずはデメテルファミリアのホームまでね」

 「はい」

 

 一体何をさせられるのだろうか。

 アミッドは少し不安になりながらも、相手が街の憲兵をしているガネーシャファミリアの眷属なので、信じて大丈夫だろうと、後に続くことにした。

 道中で語られた依頼内容は、至ってシンプルな物で、訓練に明け暮れている若手冒険者の治療だった。

 それなら治療院に訪れるか、薬舗にまで顔を出せば済む話なのだが、その若手冒険者はダンジョンと訓練の往復を繰り返しており、傷を負うが負傷していないというまるでナゾナゾみたいな冒険者なのだという。

 その若手冒険者は特別なスキルを有していてそれが関係しているらしく、信用できる治療師に一度見てもらいたいと言う内容だった。

 

 「我がファミリアまでお越しにならないと言う事は、周知されると困る程のスキルということですか?」

 

 アミッドがそう問うと、アーディは心配気に笑った。

 

 「もうビックリするスキルなんだよ。そこらの神々に知られてしまったら間違いなく面倒ごとに巻き込まれるレベルの超レアスキル」

 

 ガネーシャファミリアの団員にそこまで言われるスキルとはどう言ったものなのか、アミッドは不思議に思いながらもデメテルファミリアに向かう足を止めはしなかった。

 そしてどこかホッとしていた。

 話の内容からして、そこまで悲惨な状況の患者ではないと考えたからだ。

 そしてデメテルファミリアのホームに辿り着く。

 門の前に待っていたのは、デメテルであった。

 アミッドはデメテルに向け一礼する。

 

 「お待たせ致しました。ディアンケヒトファミリアから派遣されてきました。アミッド・テアサナーレです。よろしくお願いします」

 「えぇ、わざわざありがとう。さっそくで悪いのだけれど案内させてもらうわね」

 

 神自ら治療師を待っていた。

 それだけ、その冒険者は愛されているのだろう。

 アミッドはそう考えた。

 

 ―――また一つ心労が取り除かれた気がした。

 

 デメテルが向かう先、それはデメテルファミリアのホームの裏に広がる広大な畑のさらに先、市壁のすぐ近くであった。

 そこに近づくたびに、金属と金属が打ち鳴らす甲高い音と、何かを破壊する音、時折呻き声のようなモノまで聞こえてくる。

 そうしてアミッドの前に現れたのは、悲惨な光景であった。

 一人の大人の女性が一人の子供を徹底的に虐めている。

 時には拳で、時には蹴りで、時には槍で、子供を吹き飛ばしている。

 咄嗟に止めに入ろうとするアミッドをデメテルが手で制した。

 それでも向かおうとしたアミッドの瞳に信じられないものが映り込んだ。

 その苛め抜かれている子供は、傷などなく、あるのは汗とこびりついた砂のみで苦し気な声を発したかと思えば、すぐに起き上がり立ち向かっている。

 それは余りにも異常な光景だった。

 アミッドがそう感じた瞬間、その子供はアミッドの目の前まで吹き飛ばされてきた。

 子供をよく見れば、自身と同い年くらいの男の子だった。

 その男の子は汗でへばり付いたブラウンの髪を掻き上げると、立ち上がり再び向かおうとした。

 アミッドはその姿に咄嗟に声をかけてしまった。

 

 「ま、待ってッ!!」

 

 男の子は、その声に立ち止まり振り返る。

 そこで初めて目が合った。

 そしてアミッドは思った。

 

 まるで獣の様だと―――。

 

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