強くなりたければオラリオに行けば良い   作:はんふんふ

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第12話

「ディア・フラーテル!」

 

 治療院に並べられたベッドの数々、清潔さを見せる白いシーツは赤く汚れ、涙が色を洗い流していく。

 それは突然のことであった。

 闇派閥による無差別襲撃、彼らは遂にその標的を冒険者から民間人へと変え始めた。

 運び込まれる人だった者達の数々、万能薬は在庫が切れ、ポーションは底をつき、唯一治療師達の精神力を回復させるマジック・ポーションのみが積み上げられていた。

 今までの中で一番の修羅場、泣き言を許さない圧倒的なまでの絶望。

 アミッドが放つ癒しの魔法も死人までは生き返らせることが出来ず、聖女と呼ばれた彼女の目の前で選別が行われている状況が生まれていた。

 精神疲弊(マインドダウン)を起こす前にマジック・ポーションを飲み干し、空き瓶を放り投げると再び詠唱を始める。

 誰が生きていて誰が死んでいるのか。

 それすらわからない人の形をした何か達。

 片方では命が助かったことによる喜びの声が上がり。

 片方では死を嘆く声が上がる。

 アミッドはファミリアの者達に止められようと、魔法を放ち続けた。

 弱音は元来吐けなかった。

 逃げようとはもう思わなかった。

 今自分に出来る最善を命の限り行う。

 アミッドは文字通り寿命を削りながら、膨大な数の命を救い続けていた。

 そんな地獄をどれだけ過ごしたのか、覚えているのは救えなかった人達を愛していた人々の恨みの籠った瞳。

 

 選んだな、と―――。

 救える命とそうでない命の選別を、どうしてこの人を救ってくれなかったの、と―――。

 

 気が付けばアミッドは自室のベッドに眠らされていた。

 酷い悪夢を見たような頭痛に襲われたアミッドは、上半身を起き上がらせると自分の机に座り参考書を読んでいる人物に気が付いた。

 

 「……ここでなにをしているのですか、デモポン」

 

 デモポンはアミッドが目覚めたのを確認すると、コップに水を注ぎアミッドに手渡す。

 

 「アミッドさ、最近元気なかったろ?どうしたらいいかアーディに相談したら、顔を見に行ってやれって言われてさ。だから来た。そしたらディアンケヒト様にここにいるように言われた」

 

 デモポンの言葉にアミッドは溜息を深く吐いた。

 

 「……なんか悩みでもあんの?」

 「あなたには関係の無いことです……」

 

 デモポンの言葉をアミッドは拒絶する。

 それはこれ以上踏み込んでほしくなかったからだ。

 物語に出てくる英雄などであれば、ここで強引にでも話を聞きだして答えを探そうとするのだろうが、デモポンはそんな人物ではない。

 

 「そっか」

 

 デモポンはそれだけ言って再び参考書に視線を落とした。

 見ているのは、薬草や毒に関しての物である。

 アミッドはそんなホームにまで押しかけておいて無関心な態度のデモポンに頬を少しだけ膨らませた。

 そんなアミッドの様子を見もせずに分かっているかのような態度のデモポンは参考書をパタリと閉じると、身体ごとアミッドに向けた。

 

 「アミッドの悩みって仕事関連だろ?そんなの俺に相談されても答えられないよ。気休めの言葉も思い浮かばない。だから、そういうのは同業者の神や人にするべきだと俺は思うな。相手が他派閥でも構わない。今よりもより良くなるためなら行動するべきだ」

 「随分と好き勝手に言ってくれますね……」

 

 アミッドの不機嫌な言葉、それを受けてもデモポンは表情を変えない。

 デモポンは冒険者と治療師を明確に線引きしているだけだからだ。

 

 「好き勝手言うさ。アミッドは俺の専属の治療師だ。不調になられると俺が困る。いつもみたいに俺に得体の知れない毒物ぶち込んで血を抜き取ってニマニマしたり、俺の傷を触ってニマニマしている気持ち悪い聖女様がいなきゃ俺の調子が崩れてしまう。それは冒険者として致命的だ」

 「うぐッ」

 

 デモポンに気持ち悪いと言われてアミッドはダメージを受ける。

 

 「だから、俺にはどうすることも出来ないけれど、アミッドのことは何かあったら俺が守ってやるからさ。今より凄い治療師になってくれ」

 

 デモポンはそう言って笑った。

 その顔が間抜けに見えて、彼がそう言うのならやって見せられると思わせられた。

 

 「ふぅ……、冒険者がダンジョン以外で治療師の心配などしないで下さい」

 

 ブスッとした顔でアミッドはそう言いながら、次には口元に笑みを作った。

 

 「でも、ありがとう……」

 

 その感謝の言葉を聞いたデモポンも笑顔になる。

 

 「おう!」

 

 

 

 ダンジョン17階層に向かう中で、アミッドはそんな昔のことを思い出していた。

 デモポンのあの言葉がきっかけで、他派閥、しかも当時主神がライバル視していた神と交流をもつことが出来るようになった。

 また様々な治療師達の言葉を聞くことで、自身の傷をトラウマとする前に癒すことにも成功している。

 デモポンはただ雑談をしただけと考えているだろうが、アミッドは少なくとも感謝していることは確かであった。

 

 モンスターからの返り血を拭いながら、先に進む冒険者パーティ、怪物の宴(モンスターパーティー)をなんとか退けた彼らは、回復薬をそれぞれ飲みながら17階層に続く階段を覗き込んでいた。

 

 「迷宮の孤王(モンスターレックス)……、ゴライアスは討伐されてからまだ一週間経ってなかったよな?」

 「たしかガネーシャファミリアが前回は討伐したと聞いてるわ。……六日前だったかしら」

 「なら帰りのことを考えても十分に余裕があるな。いくぞ!」

 

 リーダーの冒険者の号令の下、17階層に足を踏み入れる。

 もうここまで来ることが出来れば、クエストは折り返し地点に到達したと言っても過言ではなかった。

 ただ、デモポンは何かを考え込むように虚空を見つめたままである。

 その様子が気になったアミッドが、デモポンに問いかける。

 

 「どうしたのですか?」

 「少し嫌な予感がしてさ……」

 「嫌な予感?」

 「あぁ、別に大したことじゃないと思うけど……、俺の思い違いかもしれないし……」

 「普段と違い煮え切りませんね。一体どうしたのですか?」

 

 17階層を進むデモポン達の足音は広い空間と嘆きの大壁と呼ばれる一面白く輝く壁に反響し鼓膜に良く響く。

 デモポンが口を開こうとしたとき、リーダーの冒険者が少し大きな声で言った。

 

 「よし、ここを抜ければ18階層だ!」

 

 

 

 冒険者ギルドでは、少し混乱が起きていた。

 

 「えっ!?クエストを受注した冒険者達がもうダンジョンに向かったのですか?」

 

 ソフィが聞き返すと、手が空いているファミリアにクエストを要請しに行っていたギルド職員がもうすでにダンジョンに向かう冒険者の一団と戦場の聖女(デア・セイント)の姿を見ているからとクエストを断られたと答えた。

 

 「もしその話が本当なら、ギルドに助けを求めにやってきた依頼者よりも早く冒険者達に救援を求めた誰かがいたと言う事になります。そんな事が可能なのは助けを求めにやってきた冒険者の彼だけですが、あれだけの火傷を負いながらそんな悠長な事が出来るとは思えません」

 

 そしてソフィはふと疑問を口にした。

 

 「……そう言えば、助けを求めにやってきた依頼者の彼は、どこのファミリア所属でどんな顔をしていましたっけ?」

 

 ソフィは気が付いた。

 件の冒険者の顔が思い出せない。

 そればかりか声色すら霞が掛かったように出てこない。

 ソフィはすぐさまその冒険者がどこに行ったのかクエストを担当していた職員に確認をしに行く。

 

 「確か、ギルド内の療養所に依頼者を連れて向かったはず……」

 

 そしてソフィは見つけてしまった。

 

 首を鋭利な刃物で斬られた職員の無惨な姿を―――。

 

 ソフィの判断は早かった。

 職員がすでに事切れていることを確認すると、行動を始めるために走り出した。

 

 

 

 18階層に続く階段、大口を開けた先には闇が広がっているように思えた。

 

 「迷宮の楽園(アンダーリゾート)、ダンジョンのセーフティーゾーンですね。緑溢れる美しい場所だと聞きました」

 

 アミッドがデモポンに話しかける。

 それはある種ゴール地点が目の前にあるからに他ならない。

 ダンジョン内で不測の事態はつきものであるが、18階層はそういった未知とは遭遇しにくい、人が安心して寝泊まり出来る場所などデモポンも18階層くらいしか経験がない。

 アミッドが気を緩めるのも納得であった。

 

 「まぁ、マナーさえ守っていれば問題無い場所であることは間違いないな」

 

 デモポンは流すように言った。

 まるで何かを警戒しているようで、それは冒険者アドバイザーが言う通りの出来た冒険者だ。

 ただしそれは、経験値が少ないからとも言えた。

 それはアミッド達の周囲の先輩冒険者達がすでに臨戦態勢を解いていることからもわかる。

 人間常に集中など出来ない。

 どこかで切り替えることが必要であり、出来れば早い方が良い。

 談笑を始める先輩達もいる。

 そういう空気の中で先陣を切った冒険者が一人。

 彼が足を一歩、下層に向かう階段に足を付けたタイミングでそれは起こった。

 

 「グアッ!」

 

 一瞬の煌めき、闇を切り裂いたのは矢であった。

 それが先陣を切った冒険者の肩に深々と突き刺さっている。

 リーダーの反応は早かった。

 

 「下がれ!」

 

 矢を受けた冒険者を引きずりながら、一団は飛び退くようにして18階層に続く階段から距離をとる。

 続けて、20に及ぶ矢が闇を含んだ大口から飛び出してきた。

 

 「アイトーン!」

 

 デモポンが前衛に踊り出ると、熱波の盾を展開して矢を防ぐ。

 その間にアミッドが矢が刺さった冒険者の矢を引き抜き回復魔法を唱えた。

 そして暗闇の中からその者達は姿を現した。

 

 「闇派閥(イヴィルス)っ……」

 

 誰かが言った言葉を合図に、白濁色の目元以外見えないローブを纏った集団が姿を現す。

 

 「まさか戦場の聖女(デア・セイント)が釣れるとは、実に幸先が良い」

 

 リーダーの冒険者が叫んだ。

 

 「お前は、白髪鬼(ヴェンデッタ)。オリヴァス・アクト!」

 

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